哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

文字の大きさ
47 / 52
痛い

痛い-2-

しおりを挟む
零れる泥に対処できなくなってセンタープールに戻る。美歩の姿を探した。
流れるプールに彼女はいたが一人ではなかった。隣に知らない男性がいて談笑している。
日焼けがくっきりと目立つ褐色の肌の男性。美歩は嬉しそうに話していて、何となく悟ってしまった。
どうやら美歩はお目当ての人物を見つけたらしい。
安心と少し寂しさを感じて、胡桃はプールサイドに座った。足だけ水に浸かる。


周りは水と戯れる人で賑わっている。
確かに気持ち良いけど、胡桃は浮かれた気分になれなかった。
剛史と紗良はどこまで密接しているのだろうか。


抱き合う写真を撮っていたら。
唇がどこかに触れていたら。
彼のどこかが紗良に近づいていたら。


頭を必死に横に振る。考えたくない。嫌なのに頭は悪い方ばかり想像してしまう。
体をぎゅっと抱き締めて、しばらく流れるプールを見ていた。


「君、可愛いね」


声がした。ぼうっとプールを眺めていてそれが自分に対する声だと気づくのに時間が掛かった。


「おーい、そこの黄色い子」
「……え」


振り向くと、三人の男が胡桃に近づいてきた。知らない人。
体つきの大きい人と平均的な肉体で眼鏡の人、痩せ型でそばかすが顔に目立つ人。
自分より恐らく年上の男がニヤニヤしながら見つめている。
ぞわりと背筋に気持ち悪い何かが走って思わず立ち上がる。


「君一人?俺達と一緒に遊ばない」
「は……はい?」


体つきの大きい男が一歩近づく。下がりたかったけど後ろは水の中だった。


「水着すごく似合ってますね、美味しいかき氷奢りますよ」


眼鏡の男。文章がよく分からないと胡桃は思った。


「一人じゃつまらないでしょ、俺達ここの常連だから案内するよ」


痩せ型の男。一人はつまらないって勝手に決めないでほしいと胡桃は思った。


「あの、私、一人じゃなくて」
「え、一人でしょ。さっきからずっとここでボーッとしててさ、誘ってくださいって言ってるようなものじゃん」


この男は何を言ってるのだろう。ただ、美歩が戻るのを待っていただけなのに。


「君、俺の好みなんだよね、こんな所で出会えて嬉しいな、一緒に遊ぼうぜ」
「あ、あの……」


体つきの大きい男が手を近づけてくる。
以前、朋香から「軽そうな男には要注意だからね!」と言われたことを思い出す。
案の定、三人に囲まれて動けない。
男の手が胡桃の胸元に来た。


さわられる――数センチ手前で、別の手が男の手首をがっちり掴んでそのまま捻った。


「え」
「いってえっ」


唸り声。二人の男は驚いて手から視線を追った。


胡桃の隣に別の男が立っていた。茶色のサングラスを掛けていた。グレーのサーフパンツに黒いロゴが描かれた水着で、いつ着替えたのだろうと胡桃は思った。
さらに手首を90度近く捻りながら男は吐き捨てた。


「俺の連れに何か」


サングラスで隠れていたが、目は据わっていた。まるで害虫を見るような目つきだった。


低い声に怯えた三人は後ずさりする。体つきの大きい男が舌打ちして「先客付きかよ」と捨て台詞を吐いて立ち去った。二人も逃げるように走っていく。
その三人よりも胡桃は自分の隣に立つ男が信じられなかった。ほんの少し前までジャグジープールにいたはずなのに。


彼の名前を呼ぶ前に腕を掴まれた。
引っ張られるようにプールから離れていく。美歩は対角線上で話しているので気づいていなさそうだった。
流れに身を任せて、剛史を見た。
背中からは何も伝わってこない。
向かっている先が更衣室の死角なのは分かった。建物の間にある小さな空間。


沸々と、黒い泥が出てくる。胡桃の中にはまだ“不安”が燻っていた。




三人の男の情けない声がする。
「んだよ、絶対一人かと思ってたのに」
「……なあ、さっきの男、TAKESHIに似てなかった?」
「は?今向こうで撮影してるんだろ。ないない。こんな所に来るわけないだろ」
「他人のそら似じゃね、あの子の彼氏っぽかったし」
「んー、やっぱ他人かあ」
眼鏡を掛けた男が納得する。二人はもう別の女の子がいないか物色し始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...