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1.絶滅危惧種の獣人、旅に出る
――じいちゃんの今際の言葉は「セレン、嫁を捕まえろ!」だった。
俺は神の加護により恵み豊かで草食動物の天敵がいない『奇跡の山』に住む、クアッカワラビー、正式名称『クオッカ』の獣人だ。クオッカの獣人は俺とじいちゃんの二人だけだったのだが、ついにそのじいちゃんが亡くなり、俺一人になってしまった。俺がお嫁さんを見つけないと、クオッカの獣人は絶滅してしまう!
絶滅もそうだが生涯一人なんて寂しすぎて、俺には耐えられない…!俺はもう二十歳。十八から旅立つ準備をしていたのだが、俺を育てたじいちゃんがなかなかそれを許さなかった。じいちゃん曰く、ばあちゃん始め、俺の母ちゃんも、クオッカの獣人というのはみんな人懐こくて寂しがりやで賑やかなのが大好きで…加えてクオッカの獣人はつぶらない瞳に食べたくなっちゃうようなふっくらした頬、小柄な身体をしており、みんなとっても可愛らしいのだ。ふっくらした頬には幸せが詰まっていると言われており、俺たちは『世界一幸せな獣人』と呼ばれている。
それ故に悪い奴等に次々に捕獲され、絶滅寸前まで追い込まれた。あくまで『かわいいから』だぞ?!別にチビで鈍臭いとか頭が悪いからとかじゃないからな?!クオッカ獣人はとっても、かわいいから追い込まれたんだ!
だから爺ちゃんは、俺が外の世界に行くことを許可しなかった。しかし遂に先日…その爺ちゃんも……。
今日俺はここ…、『奇跡の山』を出て、お嫁さんを探す旅に出る…!俺を一人で育ててくれたじいちゃんを手厚く葬ると、塒を整理し旅に出る準備を終えた。
俺は意気揚揚と、奇跡の山を飛び出した!待っててね、俺のお嫁さん!絶対、大切にする…!一緒にかわいい赤ちゃん作ろ!
俺は絶滅回避に向けて、大きな一歩を踏み出したーー!
のだが…。
「ひいい!」
「何で人間が…?」
俺はその男の問いかけに、悲鳴をあげた。じいちゃんの教え通り、俺の自慢のちっちゃい耳だけは何とか隠したのだが、やはり俺の可愛らしさは隠しきれなかった。小さめの体に、ぷっくりした頬、黒曜石のようなつぶらな瞳をうるうるさせて俺はその男を見つめた。
「おい、お前…人間の癖に、なんで獣の罠にかかったんだ?」
その男は不思議そうに首を傾げた。何でって…すごく美味しそうな、黄色いつぶつぶの実が落ちていたから…つい。それを拾ったら、仕掛けてあった板を踏んでしまいあっという間に半円盤の鉄の器具に足を挟まれてしまったのだ。痛い上に、恐れていた『男』の人間に思いがけず出会して俺は瞳を潤ませた。
「…ば………。いや、かわいそうに…。……外してやるからちょっと待ってろ。」
……ん?ば…?まさか『ばかだなぁ』って言おうとしてないよね?馬鹿じゃないもんな、俺。
訝しげな俺の視線を気にも留めず、男は腰にさしたナイフで器用に罠を外した。胸から出した布で俺の傷ついた足を縛ると男は、俺に向かって背中を向け、屈む。
「乗れ。歩けないだろう?」
「…。」
じいちゃんには人間の男には気をつけろ、クオッカの獣人だと分かると酷い目に遭うと言われていたんだけど…。耳も尻尾も隠したから獣人とは分かっていないはず。大丈夫かな?俺は恐る恐る、その男の背中に乗った。
「俺はルーク。お前は?」
「…セレン…。」
ルークは銀色の長い髪を後ろで一つに束ねている。キリッとした目は緑色。すっきりした輪郭に、薄く形のいい唇が美しい。多分人間の中でも『美形』と呼ばれるのだろう。背中に乗ると、ルークの横顔だけが見える。美しい男の横顔に、俺はどきりとした。
ま、まあ、クオッカの俺の可愛さには敵わないだろうけど…!
ルークの背中は大きくて固かった。それに体温が高くて汗をかいているのか少し湿っている。背中に乗って揺られる振動とルークの体温が心地良くて、眠くなってしまいそうだ…。
ルークは黙って森を歩いて行く。随分と慣れている様子だから、この辺りに住んでいる人間なのだろうか…こんな近くに人間が住んでいるなんて、知らなかった。森を出てすぐ、前方に大きな建物が見えた。多分、人間の住処だろう。
ルークは大きな邸の中に黙って入ると『医務室』と言うところへ行き、お湯で俺の足を洗ってくれた。どうやら怪我の治療をしてくれるつもりらしい。その間、邸の者たちは恭しくルークに接していたから、ルークはこの邸の主なのだろう。
「ありがとうございます。あの、ルークはここのお医者様なのですか?」
「医者ではないけど、私は薬師で、ここで植物の研究と『奇跡の山』を監視している。」
「監視?」
「奇跡の山に入って神の領域を荒らそうとする輩がいるからな……。ここはエバートン王国の出張機関だ。」
そうなんだ。外から守られているから、奇跡の山には天敵がいなかったのだろうか?俺は途端にルークに親しみがわいた。俺はもう一度「ありがとう」とお礼を言うと、ルークに笑いかけた。
ルークは話しながらも手早く処置をすると、俺をじっと見つめる。
「湿潤療法だから…五日ほどこのまま包帯をとらないこと。」
「取れてしまったら?」
俺は気を抜くとうっかり種族体に戻ってしまうのだ。そうすると、体長は四十センチほどしかない。包帯は取れてしまうだろう。
「街の治療院に行けばいい。」
「街の?何処にありますか?」
「さあ…。」
「さあ?」
「この先にある街の者ではないのか?…仕方ないな。その時はもう一度診てやってもいい。」
「その時は?じゃ、それ以外の時は?」
「家に帰ればいいだろう。」
「家がなかったら?」
「………ば…、……。」
ば…?まさか、ばかやろう、四の五の言わずに家に帰れ!とか言おうとしてないよね?俺、馬鹿じゃないし、足を怪我して心細いから、追い出さないで欲しい…。俺がルークを潤んだ瞳で見つめると、ルークは頭を掻きながらため息を吐いた。先ほどの召使、シャーリーを呼び「部屋を用意しろ」と命じる。
「怪我が治るまでだぞ。」
俺には呆れたように、言い放った。
俺は神の加護により恵み豊かで草食動物の天敵がいない『奇跡の山』に住む、クアッカワラビー、正式名称『クオッカ』の獣人だ。クオッカの獣人は俺とじいちゃんの二人だけだったのだが、ついにそのじいちゃんが亡くなり、俺一人になってしまった。俺がお嫁さんを見つけないと、クオッカの獣人は絶滅してしまう!
絶滅もそうだが生涯一人なんて寂しすぎて、俺には耐えられない…!俺はもう二十歳。十八から旅立つ準備をしていたのだが、俺を育てたじいちゃんがなかなかそれを許さなかった。じいちゃん曰く、ばあちゃん始め、俺の母ちゃんも、クオッカの獣人というのはみんな人懐こくて寂しがりやで賑やかなのが大好きで…加えてクオッカの獣人はつぶらない瞳に食べたくなっちゃうようなふっくらした頬、小柄な身体をしており、みんなとっても可愛らしいのだ。ふっくらした頬には幸せが詰まっていると言われており、俺たちは『世界一幸せな獣人』と呼ばれている。
それ故に悪い奴等に次々に捕獲され、絶滅寸前まで追い込まれた。あくまで『かわいいから』だぞ?!別にチビで鈍臭いとか頭が悪いからとかじゃないからな?!クオッカ獣人はとっても、かわいいから追い込まれたんだ!
だから爺ちゃんは、俺が外の世界に行くことを許可しなかった。しかし遂に先日…その爺ちゃんも……。
今日俺はここ…、『奇跡の山』を出て、お嫁さんを探す旅に出る…!俺を一人で育ててくれたじいちゃんを手厚く葬ると、塒を整理し旅に出る準備を終えた。
俺は意気揚揚と、奇跡の山を飛び出した!待っててね、俺のお嫁さん!絶対、大切にする…!一緒にかわいい赤ちゃん作ろ!
俺は絶滅回避に向けて、大きな一歩を踏み出したーー!
のだが…。
「ひいい!」
「何で人間が…?」
俺はその男の問いかけに、悲鳴をあげた。じいちゃんの教え通り、俺の自慢のちっちゃい耳だけは何とか隠したのだが、やはり俺の可愛らしさは隠しきれなかった。小さめの体に、ぷっくりした頬、黒曜石のようなつぶらな瞳をうるうるさせて俺はその男を見つめた。
「おい、お前…人間の癖に、なんで獣の罠にかかったんだ?」
その男は不思議そうに首を傾げた。何でって…すごく美味しそうな、黄色いつぶつぶの実が落ちていたから…つい。それを拾ったら、仕掛けてあった板を踏んでしまいあっという間に半円盤の鉄の器具に足を挟まれてしまったのだ。痛い上に、恐れていた『男』の人間に思いがけず出会して俺は瞳を潤ませた。
「…ば………。いや、かわいそうに…。……外してやるからちょっと待ってろ。」
……ん?ば…?まさか『ばかだなぁ』って言おうとしてないよね?馬鹿じゃないもんな、俺。
訝しげな俺の視線を気にも留めず、男は腰にさしたナイフで器用に罠を外した。胸から出した布で俺の傷ついた足を縛ると男は、俺に向かって背中を向け、屈む。
「乗れ。歩けないだろう?」
「…。」
じいちゃんには人間の男には気をつけろ、クオッカの獣人だと分かると酷い目に遭うと言われていたんだけど…。耳も尻尾も隠したから獣人とは分かっていないはず。大丈夫かな?俺は恐る恐る、その男の背中に乗った。
「俺はルーク。お前は?」
「…セレン…。」
ルークは銀色の長い髪を後ろで一つに束ねている。キリッとした目は緑色。すっきりした輪郭に、薄く形のいい唇が美しい。多分人間の中でも『美形』と呼ばれるのだろう。背中に乗ると、ルークの横顔だけが見える。美しい男の横顔に、俺はどきりとした。
ま、まあ、クオッカの俺の可愛さには敵わないだろうけど…!
ルークの背中は大きくて固かった。それに体温が高くて汗をかいているのか少し湿っている。背中に乗って揺られる振動とルークの体温が心地良くて、眠くなってしまいそうだ…。
ルークは黙って森を歩いて行く。随分と慣れている様子だから、この辺りに住んでいる人間なのだろうか…こんな近くに人間が住んでいるなんて、知らなかった。森を出てすぐ、前方に大きな建物が見えた。多分、人間の住処だろう。
ルークは大きな邸の中に黙って入ると『医務室』と言うところへ行き、お湯で俺の足を洗ってくれた。どうやら怪我の治療をしてくれるつもりらしい。その間、邸の者たちは恭しくルークに接していたから、ルークはこの邸の主なのだろう。
「ありがとうございます。あの、ルークはここのお医者様なのですか?」
「医者ではないけど、私は薬師で、ここで植物の研究と『奇跡の山』を監視している。」
「監視?」
「奇跡の山に入って神の領域を荒らそうとする輩がいるからな……。ここはエバートン王国の出張機関だ。」
そうなんだ。外から守られているから、奇跡の山には天敵がいなかったのだろうか?俺は途端にルークに親しみがわいた。俺はもう一度「ありがとう」とお礼を言うと、ルークに笑いかけた。
ルークは話しながらも手早く処置をすると、俺をじっと見つめる。
「湿潤療法だから…五日ほどこのまま包帯をとらないこと。」
「取れてしまったら?」
俺は気を抜くとうっかり種族体に戻ってしまうのだ。そうすると、体長は四十センチほどしかない。包帯は取れてしまうだろう。
「街の治療院に行けばいい。」
「街の?何処にありますか?」
「さあ…。」
「さあ?」
「この先にある街の者ではないのか?…仕方ないな。その時はもう一度診てやってもいい。」
「その時は?じゃ、それ以外の時は?」
「家に帰ればいいだろう。」
「家がなかったら?」
「………ば…、……。」
ば…?まさか、ばかやろう、四の五の言わずに家に帰れ!とか言おうとしてないよね?俺、馬鹿じゃないし、足を怪我して心細いから、追い出さないで欲しい…。俺がルークを潤んだ瞳で見つめると、ルークは頭を掻きながらため息を吐いた。先ほどの召使、シャーリーを呼び「部屋を用意しろ」と命じる。
「怪我が治るまでだぞ。」
俺には呆れたように、言い放った。
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