Your Best idol〜夏休みに、高校生やめてアイドルになる。失敗続きの俺があなたの最高になるまで〜

あさ田ぱん

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二章

18.チェキ会

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 危うく、警察沙汰になりかけたのだ。きっとしばらくは犯人もおとなしいはずだから、大丈夫だと思う。信じたくは無いが、YBIに犯人がいるなら、そのうち尻尾を掴めるだろうし。そう、自分を安心させて寮に戻った。

 それから数日たち、明日はいよいよチェキ会と、ランキングの発表日だ。


「Stormixのファンって神じゃね?マコトがトイレに忘れた袋、駅事務所に届けられてたんだよ」
「あー、それで、マコトくん不機嫌なんだ。まさかあんなに揉めた駅事務所にまた行かされるとか…。そりゃ無理ない…」
「行ったのは響だよ。マコトは行けるか~、って怒っちゃってさ…!俺はマコトがあんな小さい奴だとは思わなかったよ」
「うんうん、ソウマさんは小さくないしフツーじゃない。病院も行かずに寝てるだけであの高熱が治るんだから…」
「病院なんかいくかよ~!」

   褒められたと勘違いしたソウマは無邪気に笑っている。まさか、健康保険料払ってなくて病院行かないとかじゃないよな………?

 それはそうと、マコトが機転を効かせたおかげでStormixの綺麗なツアーTシャツが着られているのだから、文句を言うべきじゃない気がする。そう思ったのはマコトも同じだったようだ。

「おい、うるせーよ、ソウマ、カナタ!」

 マコトはソウマとカナタに向かってついに怒鳴った。
結構、我慢していたらしい。

「チェキ会の練習始めるぞ!」
「「「「はーい!」」」」

   マコトは研修生の俺とカナタに、練習しようと声をかけたはずなのだが、なぜかソウマとシオンもやって来た。
 チェキとは、インスタントカメラの事だ。インスタントカメラでファンの子と写真を撮るイベントを『チェキ会』と呼ぶらしい。

「チェキ会はちょっと短め二十分ほどのステージの後、チェキ券を購入してもらった人と写真を撮る会のこと。チェキ券は一枚千円だけど、サイン入りは一枚1,500円、サイン+コメント入りは2,000円だから、サインとコメントをささっと書く練習もして」
「コメント…」

   チェキのフィルムは余白が多くあり、サインやコメントが書き込めるのも、アイドルのイベントで使われる理由だ。
 それにしても…。女子と殆どまともに話したこともない俺が、気の利いたコメントなんか思いつくはずがない。コメントが思い浮かばず固まっていると、ソウマが俺の前で胸を張った。

「俺は大体、三パターン用意してるよ。パワー!と、どっちなんだい!と、ヤー!」
「全部、どっかのお笑い芸人の真似じゃん!だから最下位なんだよ!」
「ああん!?」
「はいはい、ソウマ、カナタ!黙って!」

   マコトはパンパン、と手を叩いた。そしてカメラを構える。

「とりあえず、ポーズの練習しよっか。YBIメンバーはみんな未成年だからお触り禁止!ポーズは基本、ギャルピースかルダハートか、エア頭ポンの三つから選んでもらうスタイル。じゃ、ソウマくん、シオンやって見せて」
 ソウマとシオンがそれぞれのポーズをやって見せてくれた。ポーズはそんなに、難しく無さそうだが…。
 実際に写真を撮ってみると、その難しさが分かった。

「響、表情固い…!もうちょっとニコッとしようか?」
「俺、今、ニコッとしてない?」
「……マジか…。ちょっとカナタ、シオンと代わって」

  マコトは俺の隣にシオンを座らせた。そして、具体的に指示を出す。

「女子はだいたいシオンくらいの背だから、頭、少し傾けて?目線はカメラで口の端を持ち上げる。そう、そのくらい…!うん。いい!」

   何枚か写真を撮って、写真を見返す。口の端上げるだけだけど、表情筋が痛い…!

「マコト~、響は微笑な感じでいいわけ?」
「いいだろ、慣れてない感じが、かわいいだろ」
「ええ?かわいい?そうかぁ?!」

 ソウマがもっとニコッと爽やかに笑った方がいいんじゃないか?と写真を見ながらマコトに言ったのだが、マコトは満足気だ。
 一方で写真を覗き込んだシオンは不満気な表情をしている。

「なんかマコトくん、響推しだよね…」
「うん。だって響は見込みあるから」
「うわ…」

  シオンの不満を肯定したマコトを見て、カナタは認めちゃったよ、とつぶやいた。マコトが俺推し…?それは、素直に嬉しい。しかし隣からは、鋭い視線が飛んできた。シオンだ…。

「シオン、悔しかったら、チェキ会の売り上げで挽回しろよ」

   マコトはシオンが俺を睨んでいることに気が付いたようだ。でも、俺を庇ったというより、シオンをやる気にさせる目的だったのかもしれない。

「分かった。本気出す…」

   ほんの数日前社長に「もう過激なことはしないで」と言われたばかりなのに…。マコトも、変に煽らないでほしい。シオンの本気が、過激な内容でないことを祈るばかりだ。


「あと、響、これ見て」

   マコトに呼ばれて、俺はマコトの隣に移動した。マコトが開いたパソコンの画面には、ベビーピンク色のペンライトに、クリアファイル、うちわなどが表示されている。これって…。

「響のグッズ!デザイン合わせて最短で二週間くらいで納品できるって。どう?」
「どう…って…」

   意見を求められても、何と返せばいいのかわからなかった。自分の顔写真が入ったグッズに照れてしまったのもあり、思考が停止する。

「よく分からないかも」
「そう?売れそうだと思うけど…。もし何か気になることあったら言って。まだ少し時間あるし」
「う、うん…」

 マコトはパソコンを閉じると、カナタの特訓を開始した。ソウマも一緒になって凄く楽しそうだ。
 三人のやり取りを見ていたらいつのまにか、シオンが俺の隣に来ていた。

「よく分からなーい、って、マコトの言いなりでさ。自分の意見ないの?表情まで決められて、操り人形すぎるでしょ」
「え……?」

 シオンに一方的に言われて、俺は何も言い返せなかった。

 今までは母さんの言いなりに勉強してきて、でも、そこをようやく抜け出せたと思った。でも、俺はまた、マコトの…、誰かの言いなりになってる?

 まだ始めたばかりで右も左も分からないから仕方ないと思っていたけど、そんなことだから、コントロールされてしまうんだろうか…?

 何だか胸が、ざわざわする。

「響、もう一回やろうか」

   カナタの練習のあと、もう一度、笑顔の練習をした。マコトを意識しすぎたのか、二回目は『いい』とは言われなかった。




 チェキ会本番…。
 まず二十分のミニライブで三曲披露する。俺は時間が許す限り、マコトとダンスと歌の練習をして挑んだけど、思うようには行かなかった。三曲も踊ってヘトヘトのまま、チェキの撮影会が行われる。想像したより沢山券を買ってくれた人が俺の列に並んでくれていた。ぎこちないやり取りだったけど、お客さんも優しく接してくれて、何とか乗り切れた。撮影の後の『告発タイム』も波乱はなく、無事終了。

 一回目は…。

「さあ二回目の最終回、元気にいくぞ~!」
「さすが、ソウマさん。券があんまり売れなかった人は二回目も元気だなぁ~」
「カナタはわかってねえな。こっからが俺の出番だよ。初回は本命にいって、二回目は二番手に行くんだ。これ常識…!」
 
 そう、ソウマが言った通り、何とチェキ会は一日二回も公演がある…。地下アイドルの中には一日三公演以上のグループもあるらしいから、ここで疲れたとか弱音を吐いている場合ではない。
 けど、並んだ列を見てギョッとした。一回目より増えてる…!!

 撮影場所はランキング順になっている。舞台左からマコト、シオン、キョウ、俺、ソウマ。
 他のメンバーは流石に慣れていた。サインやコメントもあるのに、どんどん捌いて、俺より人数が多かったはずがマコトやシオンはもう終わりかけている。

 俺はかなり規定時間をオーバーしていた。とにかくイレギュラーなやり取りが苦手なのだ…。

「ね、響くん、腕組んで?」
「え…?!あ、でもYBIは接触禁止だから…」
「じゃあ、他のポーズにして!みんなと違うのがいい!」
「それは、三つから選ぶ決まりで……」
「そんなのみんな、決まりなんか破ってるよ?ほらっ、いいでしょ!」

  他にも何人か決められたポーズ以外を要求する子がいたけど、断り方が下手な事を見抜かれてしまったのだろう。その子は強引に、自分の手を俺の腕に絡ませてピースした。
 すると、それを見ていたその後の子も、身体に触れるポーズを要求して来た。

「ご、ごめん。まだ未成年だし、触らないってルールだから…」
「でもさっきの子はやってたじゃない!」
「そうだよ、さっきの子だけずるい…!」

   更に順番を待つ子達からも、ずるい、と言われてしまい、どうしていいか分からなくなった。さっきもっと強引に断るべきだったと後悔してももう遅い。一旦撮影が終わった子達からも、非難の声が上がってしまった。

「じゃあ、手、繋ご!」

 女の子が俺の腕を掴もうとした。
 その時、後ろから腕が伸びて来て、反対向きにくるんと回転し、引っ張られた腕の中にすぽっと収まった。

 つまり腕を引かれて、マコトの胸の中に抱きしめられた格好になったのだ。

   たちまち、黄色い歓声が上がる。

「~~~~っ!」
「お触りは禁止でーす!ルールは守ってね!」


   マコトは俺を抱きしめるように女の子から引き離した後、恥ずかしげもなく「大丈夫?」と言って顔を覗き込んだ。

 会場の女の子たちは「マコトはお触り禁止じゃないんだ!」と、盛り上がっている。

 二回目のチェキ会は撮影の後、告発タイムのイベントを行い、最後にランキングの発表をする。
 この時俺はすでに、マコトが一位であると確信した。
 
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