Your Best idol〜夏休みに、高校生やめてアイドルになる。失敗続きの俺があなたの最高になるまで〜

あさ田ぱん

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二章

28.一緒にいこ…♡

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 俺たちは東証プライム上場企業、プロテイン代理店である「三和ニュートリション」が入居する高層ビルを、振り返って仰ぎ見た。十分くらい前までいた、応接室での商談を回想しながら…。




「十万人?!」
「ええ、それが条件です」

   企画は面白いんですけどねえ~、と目の前に座った、三和のプロテイン担当者はマコトの作った企画書を指差した。

「会議でも面白いってなって。でも、やっぱりアンバサダー就任には動画チャンネルのお気に入り登録者数、十万人は必要だという結論に至りました」

   申し訳りません、と担当者は丁寧に頭を下げた。

 この人は上質なスーツに身を包み名刺には『マーケティングディレクター』と役職名が書いてある。たぶん、こんな、海のものとも山のものとも知れないメンズ地下アイドルに頭を下げなくても良い人だと思う。

「でも、逆に言うと、十万人行けば会議で企画が通るって事ですか?!」
「え、ええ、まあ…」
「分かりました!」

   マコトは席を立った。そしてその後の返事も聞かず、宣言してしまった。

「十万人突破して、出直します!」
「おいいいいっ、マコト!」

   


 今もあの担当さんの、困った笑顔を鮮明に思い出すことができる………。しかし、マコトは全く意に介さず、お気に入り登録者数十万人達成させるつもりらしい。

「メンズ地下アイドル界隈じゃ、チャンネルお気に入り登録者数十万人はトップ中のトップ、もうメジャーな奴らだぜ?!『今年ブレイクする』っていうビミョーなポジションのやつらじゃないんだぜ?!」
「当然、俺たちはブレイク『する』。もう『かも』じゃねーよ」
「だから~~~!」
「ランキングニュースとタレントプレスに取材してくれってDMしたら、オッケー来たし、今年は地下から地上に出るんだ!」
「ちょっと待って、どっちのサイトも知ってるけど『取材申し込まれた』じゃなくて『取材してくれ』って頼んだってこと?!」
「企画書も送ったよ」
「じゃなくてーー!」


 しかも、取材は急だった。翌日、サイト運営会社のオフィスに呼び出され簡単に写真を撮影し、いくつか質問に答えた。
 シオン経由でメディアの取材と聞きつけた社長もニコニコ顔でやって来て、愛想を振り撒いている。数日前は憲司に振られてめちゃくちゃな状態だったのに、今日は別人のような復活ぶりだ。一体、何があった?
 一方シオンは取材に参加しなかった。具合が悪くて来られないらしい。母親である社長もマスクをしているから、風邪だろうか…?

 取材終わり、オフィスを出てすぐ社長はマコトに詰め寄った。

「マコト、次の配信では、分かってるわね?」
「順位のこと…?できないって言ったじゃん。取材でも、やらせなしって言ってるし…。バレるリスクの方が高いよ」
「あなたね、CDの違約金もまだ払えてないのに、一体どういうつもりなの?!シオンがソロデビューすれば、全部、解決するのよ?!いいわね、必ずシオンを一位にして頂戴!」

   社長は言うだけ言うと、さっさと帰って行った。


「マコト~、本当にいいのか?確かにシオンがソロデビュー出来れば、デビューの契約金で二百万くらい返してくれるかも…」
「二百万くらい、なんてことねーよ」
「まじかよ…。何でお前そんな自信満々なんだよ?!」
   
 ソウマが恐る恐るマコトに尋ねると、こともなげに言う。

「案件の契約金、二百万だから」
「おいいいいい!早く言えよ!」
「無料のWEBチャンネルお気に入り登録者数十万人なんか通過点だ。東京ドームやるなら有料ファンクラブ会員だけで百万人いるんだぞ」
「マコト~!」



 帰ってから、もう一社の取材にオンライン会議アプリを使って答えた。その日の夜、将来の東京ドームに備えて、夕食はまた『粉もん』になった。やはり、十万人達成は急務だ。

 夜、マコトはいつものように、リビングで勉強していた。俺は反対側の席に座る。

「響くん、貸借対照表って、左右対称って知ってた?」
「貸借対照表?バランスシート、っていうけど、そういう意味なんだ…?」
「そう…。あと、会社って誰のもの…?うちの、株主総会ってやってると思う?」
「ご、ごめん、わからない…」
「そうだよなー。でもそこがわかんなくて、丸め込まれてる気がする」
 
  マコトは頬杖をついて、ため息をついた。つまり、YBIの会社のことを知りたいってこと?確かに、状況が良くないからそう思う気持ちは、分かる。きっとあの社長が、計画性もなく好き勝手やってるんだろう。

「例えばさ、シオンくんがソロデビューしたら、YBIごと大きな事務所に移籍とかできないの…?」
「………俺、YBIが大好きなんだよ。大きい事務所に行ったら、YBIが好きじゃないやつもYBIを名乗るかも知れない。スタッフだって…。それは嫌なんだ」

 そうか、確かに大手事務所のグループってビジネスパートナーなイメージある。YBIはもっと…。

「響も、YBI好き?」
「………」

    俺はずっと続いている嫌がらせが頭をよぎって、即答できなかった。ついでにもし、マコトが犯人だったらと思うと胸が張り裂けそうになる。

「この間…、響が逆に疑われるみたいなことになってごめん。でも絶対、犯人は俺が捕まえる。それで、響にYBIを好きになってもらうよ。……そしたらさ、YBI好きな人たち全員で、行こうぜ」

 マコトは頬杖をついたまま、笑顔で「東京ドーム」と言った。



****

「おいいいいい!何だよ、この記事~!」
「ひっで~!チェックなしでそのまま載せるか、ふつー!」

 ソウマとカナタはパソコン画面の前で憤った。

 画面には、先日取材を受けた記事が表示されているのだが…。

「『必死すぎて引く人続出?!メンズ地下アイドルの現状深掘りしてみた!』だって…。タイトルに『YBI』の『わ』の文字さえねーじゃん!」
「深掘りって、俺達から話聞いただけだし…。このライター仕事してねぇ~~!記事シェアしようと思ってたけど…無理!」

 ソウマとカナタは頭に来たから、ランニングに行くと言って立ち上がった。確かに…。ムカムカして走りたい気分だ!

 マコトが必死で、営業して取った取材だから悪く言いたくないけど、あれはない。しかも取材は終始和やかムードだったのに。芸能界って、本当怖いところだ。人間不信になりそう。

 マコトは、早速記事を見たらしい社長からの電話に対応している。


 電話が長くなりそうだったので、俺もソウマ達とランニングに行くことにした。

 以前よりも大分、ソウマの走りについていけるようになった…とは言え、いつの間にか一メートルくらい離されている。

 しばらく走ったところで、ソウマが急に立ち止まった。

 腕につけたスマートウォッチはSNSの通知が見えるらしく、ソウマは投稿が少し見えたようだ。スマートフォンを取り出して、内容をチェックしている。

 追いついたカナタと俺も、ソウマのスマートフォンを覗き込む。それはマコトの投稿の通知だった。取材内容を引用して、投稿している。


『確かに俺たちは必死。みんなが引くくらいすっごい頑張ってる。でもさ、もしすっごい必死で、めちゃくちゃ頑張ってYBIが東京ドーム行けたら、すっごい最高だ。だから、みんな、一緒に行こ…♡』

   昨日、マコトが言ってた『YBI好きな人全員』とは、ファンの人も入っているようだ。俺も急いで、マコトの投稿を引用して返信する。

『一緒に行こう!YBI好きな人、全員で東京ドームへ!』



 昨日は、答えられなかった。でも、もう迷いは無い。

 行くんだ、みんなで東京ドームに!
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