Your Best idol〜夏休みに、高校生やめてアイドルになる。失敗続きの俺があなたの最高になるまで〜

あさ田ぱん

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三章

38.公式アンバサダー

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 プロテインの商社である三和ニュートリション社と、オンライン会議を実施した。そこでアンバサダー就任と、契約書について説明を受けた。

「それと、YBIのランキングバトルがやらせなしってことは重々承知の上でのお願いなんですが…」
「どう言った、内容でしょうか?ランキングをいじるっていうのはちょっと難しくて……」
「ですよね…。ですが、うちの部署内で、『マコトくん響くん』と『ソウマくんカナタくん』のカップルにはいてもらった方がいいって、話になったんですよ」

 俺とマコト、ソウマとカナタがメンバーになるなら、残りの正式メンバー枠は一人。キョウとシオンのどちらかになるが、今の状況からいけば間違いなくキョウだ。あれから何のリアクションもしていなかったから、シオンのバッド課金は増加し続けているし、グッズのキャンセルも相次いでいた。

「それって、シオンを下ろして…っていう意味ですか?」

   社長の藤崎由香里は三和ニュートリション社のマーケティングディレクターに噛み付いた。シオンをソロデビューさせようとしている社長にしたら当然の反応だ。

「あ、いえ、そういことでは…。ただ、すごく今、カップル売りが話題になってるみたいだから、その勢いにのりたいってことです。それに…」

 ディレクターである男性は、本人もいるし気まずかったのだろう、少し口籠った。

「シオンくんは、先日ネットで色々あったみたいなので…」

 つまり先日の、シオンの『部屋に生理用品があり中学生なのに彼女がいる』問題を遠巻きに懸念している、ってことだろう。だから早く、謝罪動画を流した方がいいと、マコトは言ったのに…。
 
「あの動画の件は誤解なんです!この後ちょうど定期の配信があるから、そこで説明する予定です!何の問題もありません!」
「そうですか…。ただ、もし未成年で男女問題ってなると、社内で許可どころか、契約も見直しになりそうでして。今回のアンバサダーについては、ランキングとは関係なく『マコトくん響くん』と『ソウマくんカナタくん』にキョウくんの五人でお願いします」
「そ、そんな…!」

 三和の担当にキッパリと言われてしまい、社長は言葉を失ってしまった。『契約見直し』と言われれば、要求を飲まざるを得ない。


 オンライン会議終了後、社長は立ち上がって、配信を見ずに帰ろうとした。

「か、母さん…!」
「シオン、帰るわよ」
「でも、配信で、謝罪するって…」
「マコト。この間の動画を流しておいて」

   社長はそれだけ言うと、出て行ってしまった。シオンは、帰り際、チラリとマコトを見たが、マコトが目を合わせなかったので、社長と一緒に帰って行った。

「マコト、どうすんだよ…。ランキングいじる?」
「そんなことしないけど、このままだとどっちにしろ、今週シオンは最下位。たぶん、来週も同じだろ?そうしたら来週、十万人突破記念ライブでの発表で、響がメンバーに復帰する」
「そうだけど、そんな事になったらあのババア、YBI解散とか言い出すんじゃね?」
「そんな事させない。絶対に…!」


 その日の配信開始直前に、シオンの謝罪動画を配信した。しかし、リアルタイムの配信に現れなかったシオンには、逆投げ銭である…『バッド課金』が殺到。その日のランキングは予想通りではあるが、シオンが最下位となってしまった。




 その日の夜…、眠れなかった。

 しかもまた、母さんから留守電が入っていた。頼んでもいないのに自動でスマートフォンに文字起こしされてしまい、母さんの言葉がイヤでも目に入って、イライラする……。
 何度も寝返りを打ち、それでも眠れず起き出した。エアコンが切れて高温のリビングの、窓を開ける。午前0時過ぎだというのに都会の空は明るくて星は見えない。

 蒸し暑い風にあたっていると、寝室のドアがガチャ、と開く音がした。

「暑いだろ、エアコンかけろよ」
「マコト…」

 マコトは入ってくるなり、エアコンのスイッチを押した。エアコンの風が吹いてきたので、俺は窓を閉める。

「眠れなかった?」
「…うん」
「大丈夫だよ。来週、八月最後にメンバー入りするから。そうすれば、お父さんを説得できる」
「…でも、不安なんだ。メンバー入りしても、しなくても」

 メンバー入りしなければ、家に帰る約束だ。逆に、メンバー入りすれば、社長の機嫌を損ねてYBIが解散、ってこともあり得る…。社長から首だと言われれば、未成年の俺たちはなす術もない…。

「不安な時は、なんかやろうぜ。気が紛れるし、さらに実入りになればラッキーだろ」
「なんか、って何…?絶対コメント返信チャレンジ?」
「アレはやり過ぎた。もっと別なこと。ほら、響が前、提案したろ?夏といえば…」
「水着…?」

    でも、それは未成年が肌見せちゃダメだってルールだからと却下されたはず。

「夏、繋がりだよ!えーと、この辺…」

   マコトは衣装が掛けてあるハンガーラックをゴソゴソと漁っている。待つこと、数分…。

「あった!これー!」

   マコトが取り出したのは浴衣だった。夏つながりで水着じゃなく、浴衣ってことか。

「夏限定、チェキを売りだそう。響、これ着てそこに立って」

 マコトは俺に浴衣を放り投げた。そしてチェキを出してフィルムをセットしている。チェキはマコトに任せて俺は浴室に行き、浴衣に着替えて戻った。

「響、いーじゃん。そこ、窓のところに立って」

   マコトはチェキを構えてシャッターを押す。しかしたった三枚でフィルムが切れてしまった。

「この間のチェキ会のあと、フィルム補充してなかった。ごめん…。でもさ、思ったより浴衣いいな。チェキの写り方も、雰囲気ある」

   マコトは出来上がった写真を見て笑った。どうやら気に入ったらしい。写真から顔を上げたマコトの目はキラキラしている。

「そうだ!ドレスコード浴衣にして、チェキ会するのどう?!」
「楽しそうだね。でも、来週で八月も終わりだよ?」
「来年やろう。来年…。多分、すぐだよ」
「うん」
    
 キラキラした目のマコトに見つめられて「いやでも」とはいえなかった。浴衣を着て写真を撮り、気が紛れたというのもある。

「写真、コメント書いてよ。明日、さっそく売ろうぜ」

 マコトは撮った写真を俺の前に並べた。


「今年はここだけどさ、来年はタワマンで、隅田川の花火をバックに写真とろうぜ」
「本当に…?」
「本当に」

   マコトはそのまま、寝室に戻って行った。俺はチェキのフィルムの、白い部分にコメントを書いていく。

『また来年浴衣企画やります』
『この浴衣、来年も着ます』
『東京でやるから来てね♡』
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