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四章
54.約束
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包丁を取り上げると、マコトは社長と、社長の腕に絡みついているシオンごと転がした。
「響、ケーサツ呼んで…!」
シオンが俺に向かって叫んだ。俺は頷いて、スマートフォンを取り出したのだが、マコトに止められる。
「悪いけど、俺たち忙しいから、あとは自首なり弁護士呼ぶなり自分達でやってもらえる?あ、証拠は後でこっちから警察に送るから、逃げても無駄だよ」
「マ、マコト…!」
「行こう、響…!」
マコトはめちゃくちゃ、冷たい顔をしている。殺されかけたんだ、当然の反応だ。
シオンもマコトに言っても無駄だと思ったのか、俺の方を見た。
「響、俺……、藤崎詩央里に戻るから。…YBIを頼むよ」
「…わかった!」
マコトは無言で、俺を引っ張った。シオンの顔を見ずに、そのまま、マンションを後にする。
マコトは寮ではなく、いつもの公園に向かっていた。
公園に着くと、さっき別れたカナタ達はいなくなっていた。何となくホッとして、前を歩くマコトを見つめる。
マコトの手は、さっきから小刻みに震えていた。殺されるくらい怒りを向けられるのって、相当な恐怖だ。
しかも一応、親代わりの、所属事務所の社長に、殺されかけるなんて。
でも…、どうしても素直に慰める気持ちにはなれなかった。
「マコトが悪いんだからな。一緒に行くって言ったのに…。俺を置いていくから…」
「…、反省してる…」
ちょっと肩が震えているし、反省しているという、その言葉に嘘はないように思えた。でも、思わず責めてしまう。
「そもそも、記者会見からだよ。『社長を信じてます!』って嘘泣きして、社長を呼び出して自白させるつもりだったんだろ…?危ないことし過ぎだよ!『俺のこと信じて』っていって言われても、信じられないよ、そんなんじゃ…!」
「だから、反省してる…」
「でも…!」
「だから、親代わりのおばさんに、まさか襲われるとは思わねーだろ?!」
そう言って振り向いたマコトの、顔色が余りにも無かったので、俺も血の気が引いた。
「そ、そうだよね…。ごめん」
「いや、俺こそごめん…。油断してた。響の言う通り、一人で行くべきじゃなかった」
「もう良いよ。もう、一人でいなくならないでくれれば、それでいいから」
項垂れたマコトに、俺は慌てて慰めの言葉をかける。けれどマコトは下を向いたままだ。
「……俺を見張っててよ、響…」
「いいよ」
「ずっとだよ?」
「うん。いいよ…」
マコトはいつのまにか、涙を流していた。ステージ上の涙とは違う。暖かくて、悲しい涙だった。
マコトは決して認めないだろうけど、きっと、親代わりのおばさんが、自分を襲わないと『信じていた』んだ…。
手のひらから悲しみが伝わって、自然と涙が頬を伝う。俺の涙が、マコトの手に落ちて、マコトは顔を上げた。
「響、泣くなよ…」
「だってさ、酷いよ。親って思って信じてたのに。そのマコトをさ…」
「…いや、確かにYBIを大きくしようっていう仲間だとは思ってたけど、親代わりって名前だけで、親だと思ったことはないよ?誰でも、性的に誘ってくる奴を親とは思えないでしょ?」
「は…?」
「なんか前々から、好きだとか言ってくる奴だったんだよ。だからすっかり、舐めてたっていうか…」
涙が一気に止まった。あまりに衝撃的な告白で、思考が追いつかない。
「子持ちのおばさんが、、じゅーななの男のこに?!」
「初めて言われたのは、二年くらい前だけど」
「ええ…?!」
俄かに信じ難いが…。俺ははた、と、あることが脳裏をよぎった。
「ひょっとして、ゲイって言ってたの、そのせい…?」
「………うん」
バレたか、とマコトは舌を出した。
……なんて事だ。よく考えれば、本当にゲイだったら、男所帯の中にいるのは不味いもんな…。
「でも、社長にそういう感じで誘われて、女に反応しなくなってるのも本当」
「それは、トラウマとかPTSDって奴じゃない?」
「どうなんだろ?分かんないけど……」
マコトは俺の手を離して、涙を拭う。
「いつか、誰かを好きになったら、分かるよ。自分がどういう趣向なのか、トラウマだったのか…」
「それが分かんないって、初恋がまだってこと?」
俺が聞くと、マコトは少し赤くなった。どうやら図星らしい。
「良いんだよ。YBIが東京ドームに行くまでは、恋愛なんかどうだって。じゃないと、タクミみたいなことになる…」
「そっかあ…」
「響も約束して…。東京ドームに行くまではYBIを一番にするって…」
「うん」
「なんか軽…っ!いいか…、運命の相手が現れても、無視しなきゃいけないんだぞ?」
「運命かぁ…。想像つかないけど、多分、秋葉原でマコトに会った以上のことは、もう起こらないと思う」
「…あれ、運命だと思う…?」
「うん。…って、あれ、マコトは違った…?」
「いや…」
そうか。マコトは俺の前にもシオンやカナタ、ソウマにも出逢ってるから…。違うか。
でも俺にはあれが、自分の人生で最大の運命だ。
ーートップアイドルにしてあげる。
そんなめちゃくちゃなこと言う人、きっともう、二度と現れない。
マコトは、何か言いたげに、少しだけ目を細める…。すると、少し遠くで、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
俺たちは、顔を見合わせる。
「また、事件に巻き込まれたりして…?」
「そうかも!あ~、早く帰って配信しよう!それで、響のパパにご挨拶に行かないと!そっちのが重要!」
ご挨拶って、なんか、言い方…!それって、娘さんをくださいみたいな時に使うんじゃないか?どっちかって言うと『説得』だと思うけど…。
「それよりマコト、俺、配信の時にやりたい事あって…。やってみてもいい?」
「いいけど、何?」
ーー聞く前から『いいけど』って、何だよ。でも、そんなところ、好きだなと思った。……人間として!
俺たちは、配信の企画を話し合いながら、ようやく帰路に着いた。
「響、ケーサツ呼んで…!」
シオンが俺に向かって叫んだ。俺は頷いて、スマートフォンを取り出したのだが、マコトに止められる。
「悪いけど、俺たち忙しいから、あとは自首なり弁護士呼ぶなり自分達でやってもらえる?あ、証拠は後でこっちから警察に送るから、逃げても無駄だよ」
「マ、マコト…!」
「行こう、響…!」
マコトはめちゃくちゃ、冷たい顔をしている。殺されかけたんだ、当然の反応だ。
シオンもマコトに言っても無駄だと思ったのか、俺の方を見た。
「響、俺……、藤崎詩央里に戻るから。…YBIを頼むよ」
「…わかった!」
マコトは無言で、俺を引っ張った。シオンの顔を見ずに、そのまま、マンションを後にする。
マコトは寮ではなく、いつもの公園に向かっていた。
公園に着くと、さっき別れたカナタ達はいなくなっていた。何となくホッとして、前を歩くマコトを見つめる。
マコトの手は、さっきから小刻みに震えていた。殺されるくらい怒りを向けられるのって、相当な恐怖だ。
しかも一応、親代わりの、所属事務所の社長に、殺されかけるなんて。
でも…、どうしても素直に慰める気持ちにはなれなかった。
「マコトが悪いんだからな。一緒に行くって言ったのに…。俺を置いていくから…」
「…、反省してる…」
ちょっと肩が震えているし、反省しているという、その言葉に嘘はないように思えた。でも、思わず責めてしまう。
「そもそも、記者会見からだよ。『社長を信じてます!』って嘘泣きして、社長を呼び出して自白させるつもりだったんだろ…?危ないことし過ぎだよ!『俺のこと信じて』っていって言われても、信じられないよ、そんなんじゃ…!」
「だから、反省してる…」
「でも…!」
「だから、親代わりのおばさんに、まさか襲われるとは思わねーだろ?!」
そう言って振り向いたマコトの、顔色が余りにも無かったので、俺も血の気が引いた。
「そ、そうだよね…。ごめん」
「いや、俺こそごめん…。油断してた。響の言う通り、一人で行くべきじゃなかった」
「もう良いよ。もう、一人でいなくならないでくれれば、それでいいから」
項垂れたマコトに、俺は慌てて慰めの言葉をかける。けれどマコトは下を向いたままだ。
「……俺を見張っててよ、響…」
「いいよ」
「ずっとだよ?」
「うん。いいよ…」
マコトはいつのまにか、涙を流していた。ステージ上の涙とは違う。暖かくて、悲しい涙だった。
マコトは決して認めないだろうけど、きっと、親代わりのおばさんが、自分を襲わないと『信じていた』んだ…。
手のひらから悲しみが伝わって、自然と涙が頬を伝う。俺の涙が、マコトの手に落ちて、マコトは顔を上げた。
「響、泣くなよ…」
「だってさ、酷いよ。親って思って信じてたのに。そのマコトをさ…」
「…いや、確かにYBIを大きくしようっていう仲間だとは思ってたけど、親代わりって名前だけで、親だと思ったことはないよ?誰でも、性的に誘ってくる奴を親とは思えないでしょ?」
「は…?」
「なんか前々から、好きだとか言ってくる奴だったんだよ。だからすっかり、舐めてたっていうか…」
涙が一気に止まった。あまりに衝撃的な告白で、思考が追いつかない。
「子持ちのおばさんが、、じゅーななの男のこに?!」
「初めて言われたのは、二年くらい前だけど」
「ええ…?!」
俄かに信じ難いが…。俺ははた、と、あることが脳裏をよぎった。
「ひょっとして、ゲイって言ってたの、そのせい…?」
「………うん」
バレたか、とマコトは舌を出した。
……なんて事だ。よく考えれば、本当にゲイだったら、男所帯の中にいるのは不味いもんな…。
「でも、社長にそういう感じで誘われて、女に反応しなくなってるのも本当」
「それは、トラウマとかPTSDって奴じゃない?」
「どうなんだろ?分かんないけど……」
マコトは俺の手を離して、涙を拭う。
「いつか、誰かを好きになったら、分かるよ。自分がどういう趣向なのか、トラウマだったのか…」
「それが分かんないって、初恋がまだってこと?」
俺が聞くと、マコトは少し赤くなった。どうやら図星らしい。
「良いんだよ。YBIが東京ドームに行くまでは、恋愛なんかどうだって。じゃないと、タクミみたいなことになる…」
「そっかあ…」
「響も約束して…。東京ドームに行くまではYBIを一番にするって…」
「うん」
「なんか軽…っ!いいか…、運命の相手が現れても、無視しなきゃいけないんだぞ?」
「運命かぁ…。想像つかないけど、多分、秋葉原でマコトに会った以上のことは、もう起こらないと思う」
「…あれ、運命だと思う…?」
「うん。…って、あれ、マコトは違った…?」
「いや…」
そうか。マコトは俺の前にもシオンやカナタ、ソウマにも出逢ってるから…。違うか。
でも俺にはあれが、自分の人生で最大の運命だ。
ーートップアイドルにしてあげる。
そんなめちゃくちゃなこと言う人、きっともう、二度と現れない。
マコトは、何か言いたげに、少しだけ目を細める…。すると、少し遠くで、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
俺たちは、顔を見合わせる。
「また、事件に巻き込まれたりして…?」
「そうかも!あ~、早く帰って配信しよう!それで、響のパパにご挨拶に行かないと!そっちのが重要!」
ご挨拶って、なんか、言い方…!それって、娘さんをくださいみたいな時に使うんじゃないか?どっちかって言うと『説得』だと思うけど…。
「それよりマコト、俺、配信の時にやりたい事あって…。やってみてもいい?」
「いいけど、何?」
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俺たちは、配信の企画を話し合いながら、ようやく帰路に着いた。
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