絶対抱かれない花嫁と呪われた後宮

あさ田ぱん

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三章

27.後宮を追われた花嫁

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 俺と王女達は教会のバザーに参加するという名目で、また孤児院隣の宿泊施設に寝泊まりしている。制服は着ていないが、大勢の騎士団員を連れて。

 あの後、デュポン公爵夫人は後宮で呪われて血を吐いたと大騒ぎになり、そしてそれは俺がデュポン公爵家に色々と協力を求めたせいだ、という結論に至ったらしい。

 だから俺は後宮を追われて、騎士団に見張られながら幽閉されている、というわけ。
 
 あの日、浴室で身体を清めた後すぐに俺の部屋にやって来た陛下は、目を潤ませて何も言わずに俺を抱きしめると「よかった。」と呟いた。その時の陛下は以前、鏡の間で俺の痣が消えたのを確認した時と同じだった。違ったのはキスをされなかったということと、教会に行け、と言われたことだけ…。

 あまりの急展開にあのハンカチのことはまだ、話せていない。

「大丈夫です、アルノー!お父様を信じて差し上げて。きっとアルノーを迎えにきますから!」
「そうです、大丈夫よ!ほら見て?ハンカチに二人のイニシャルも縫っておいたから!ちゃんと元に戻れるように、おまじないよ!」
 リリアーノとリディアは俺に“A”と“I”のイニシャルが縫われているハンカチを二枚差し出した。一枚は俺から陛下に渡せ、ということらしい。二人は俺に、なかなか高度な要求をした…。

 それはほぼ、実現不可能…。

 陛下は俺を後宮から追い出して、今度こそナタを後添えにするために動いている、と、教会内でもっぱらの噂なのだ。教会に向かう前、メアリーは俺に散々怒っていたっけ…。「あれほど私が言ったのに、自業自得ですよ?!」と。ファイエット国教会の女子修道院に戻りたくないメアリーは、あのまま後宮に滞在しているテレーズ様の召使にちゃっかりと収まり、こちらには来なかった。あいつ、上手いこと逃げやがった!

 メアリーのことはともかく…、デュポン公爵夫人には申し訳ない事をした。俺が色々、面倒事を頼まなければ、後宮の事件に巻き込まれることはなかっただろう。
 デュポン公爵夫人は一命を取り留めたものの、伏せってしまい、話などは出来ない状況だと言う。デュポン公爵夫人に、あの毒のようなものを誰に渡されたのか聞けば、事件は解決に向かうと思うのだが…今は回復を神に祈り待つしかない。

 教会にいると、朝、昼、晩と祈りの時間がある。俺はその度にデュポン公爵夫人の無事を祈った。

 その日は何だか胸騒ぎがして、王女達が眠った深夜、俺は手水へ行くふりをして部屋を出ると裏口から教会の礼拝堂へ向かった。

 祭壇手前の外陣で目を閉じて祈っていると、隣に誰かが座る気配がする。

「アルノー、こんな時間に抜け出したりしてどうしたの?叱られるよ?」
「マルセル…。」

  隣に座ったのは孤児院出身で、今は神父見習いのマルセルだ。

「ねむれなくなってしまったんだ。すまない、見逃してくれ。」
「俺がアルノーを告げ口するはずがないよ。しかもこんなに、弱ってる。」
 マルセルは俺の手を握ると、手の甲に口付けた。
「この間言ったこと、本気だよ…。みんな言ってた。アルノーが陛下に捨てられて教会に戻されるって。それいつなの?待ちきれない。」
「き、決まったわけじゃ…ないよ、たぶん。」
「アルノー…。アルノーが毎日、どんな顔してるか自分で分かってる?俺なら、そんな顔させない。ずっとアルノーの側にいる。」
「え…?」
 俺、毎日どんな顔してたんだろうか?マルセルに気を使われるような、悲壮感漂わせてた?
 俺が俯くと、マルセルは俺を抱きしめた。

「アルノー、好きだ。孤児院にいた頃から…アルノーが結婚した今も諦められない…。」
 マルセルは俺を抱きしめたまま、顔を傾けて口付けしようとした。大人になったマルセルは力が強くなっていて、腕の中から抜け出せない。
 必死に抵抗していると、教会の扉が軋んで開く音がした。扉から一筋、月光が差し込む。光の後から入って来た人によって影が伸びると、その影は足早に近づいてきた。

「アルノー!何してる…?」

 影の主は俺にそう呼び掛け、腕を掴んで引き寄せた。

「陛下!」

 俺を掴んだのは陛下だった。陛下はそのまま腕を強く引き俺を強引に立ち上がらせる。なぜ陛下がここに?

「待ってくれ…!」
「持ち場に戻れ。罰せられたくないのなら…。」

 マルセルに答えるつもりのない陛下は、俺を連れて礼拝堂を出た。

 陛下は宿泊施設までの道を一言も発さずに歩いて行く。…どうして今日、突然こちらへ?俺から聞きたいことは沢山あったが、何も言えそうにない。そのまま暫く歩いていると、陛下は立ち止まって振り向いた。

「今日、デュポン公爵家から夫人が意識を取り戻したと連絡があった。ヒューゴからは、アルノーの応急処置のお陰だと聞いたから、その事を話そうと思って来たんだが…。」

 陛下は言いかけて辞めると、再び俺の手を引いて教会の方へと踵を返した。
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