無表情美形が好きだと言ってきたけど、毒で死にかけてます! ~謎に溺愛してくる美形と死にかけの王子、命懸けの逃避行~

あさ田ぱん

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二章

17.竜の門

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「あの『竜の門』とは、なぜそう呼ばれているのですか…?」

 『地獄の門』を『竜の門』と呼ぶ理由をセルジュに尋ねると、北の山を指差して答えた。

「山の手前に大きな門が見えるでしょう?あの北側が竜の巣です。竜王様は普段、北の山に御座します。その入り口が竜の門です」

 ジークが墓だと言っていた場所を、セルジュは竜の巣と呼ぶ。つまり竜は瀕死ながらまだ生きており、そこを冥界の入り口、『地獄の門』とは呼ばないようだ。

「外敵を防ぐ為、竜の門は竜王様と番様のお二人以外、開けられないよう特殊な結界が張られています。その後、安全な巣の中で子育てをされるのです」

 なるほど、そのための結界なのか…。

   
 
 その『竜の門』へは、早朝、俺とジーク、セルジュとクリスティーナ、アージュの五人で向かうことになったのだが…。

「歩き?!馬はどうなの?!身体強化をかければいけるでしょ!」
「…馬への負担が大きすぎます。歩いても数時間ですよ」

  セルジュに『馬はだめだ』と言われた途端にクリスティーナは不機嫌になった。


 俺は歩くと言ったのだが、ジークはそれを許さなかった。

「エリオ…辛くないか?」

 ジークは山道で俺を背負いながら、何度も声をかけてくる。それを見たクリスティーナは地団駄を踏んだ。

「ね、私もか弱い女なんだけど!私を心配する者はいないの?!」
「『女』だからなんだ?」

  ジークに冷たく返されて、クリスティーナはより一層頬を膨らませた…。

 クリスティーナは今日、虫のいどころが悪い。

 竜の門までは人が歩ける程度の道はあるものの、やはり山道、快適には歩けない。細身の女にはしんどいのだろう。

「ジーク、俺は大丈夫だけど、クリスティーナが…」
「…分かっている。しかし、ここで竜の姿になるのは良くないだろう…」

 確かに、この時代の竜王が今、どのような状態か分からないのだ、こんなに近くで挑発するような真似はできない。
 
 ジークに背負われながら、一時間ほど山道を進んだ。

「あと一時間ほどです。少し休憩しましょう」

 セルジュが声をかける頃には、クリスティーナは悪態をつく元気も無くなっていた。山道の脇の切り株に腰を下ろすと、項垂れてうずくまってしまう。水と、簡単な軽食を勧めたが口にしない。

 休憩を終えて、出発しようとしたが、クリスティーナは立ち上がらなかった。

「もう歩けない!セルジュ、何とかして!」
「子供のような事を言わないでください……」

  セルジュは冷たくクリスティーナを一瞥すると、さっさと歩き出してしまう。

「もう、本当に一歩もあるけないの!」

  セルジュの態度に、ついにクリスティーナは顔を真っ赤にして癇癪を起こした。俺とアージュはどうしたものかと、ハラハラしながらセルジュに視線を送る。

 セルジュは俺たちの視線に気がついたのか、クリスティーナの所まで戻って、背を向けてしゃがんだ。どうやら背中におぶっていくつもりらしい。

 クリスティーナは黙ってセルジュの背中に乗ったのだが、途端に背中に顔を埋めて泣き出してしまった。

「ねえアージュ、クリスティーナ様、今日は具合が悪そうだね…?」
「天真爛漫で気分屋なので、いつものことです…」

 アージュは呆れたように、小さな声で答えた。
 本当に、そうだろうか?気分で済ませるには、顔色が悪い気がするが…。まあ、この後はセルジュが背負うのだから、大丈夫だろう。

 休憩後一時間ほど歩き、遂に竜の門に到着した。汗だくのセルジュの背中から降りたクリスティーナは、やはり顔色が悪かった。

「クリスティーナ様!本当に体調が…?!」

  アージュが駆け寄ると、クリスティーナは力無く笑う。

「エリオは死にそうになりながら、私たちを助けてくれたわ…。このくらいやらなくちゃ…。でも、それが『出来る』って意味じゃないわよ?」

  クリスティーナは、門の前まて歩いていき、その手でそっと竜の巣の門に触れた。

 暫くじっと手を当てていたが、竜の巣の門は、ぴくりとも動かない。

「ぶち破ろうもう、それしかない…!」
「ジーク!」

 俺がジークを必死に宥めていると、クリスティーナは嗚咽を漏らし、泣き出してしまった。

「クリスティーナ!」

 セルジュが駆け寄って、背中をさする。

「ごめんなさい…。やっぱりダメだった…!」
「仕方ないだろう…。力を失ってしまったのだから…」
「違うの…ッ!力を失ってしまったのは……」

 クリスティーナは声を詰まらせ口元を抑えると、荒い息を吐き出した。

「ううっ!」

  彼女は遂に嘔吐してしまった。

 具合が悪いのだろうとは思っていたが…まさか吐くほどとは…。
  セルジュはクリスティーナの隣で黙って背中をさする。

  アージュもクリスティーナに近寄って、額に手を当てた。

「熱がありますね。クリスティーナ様、戻りましょう」
「もう一度やるわ。ここまで来たんだから!次は血を捧げてみましょう」
「クリスティーナ様!無理はいけません!そのお身体ではもし開いたとして、その先に進めない」
「そうだぞ、クリスティーナ!」

  アージュとセルジュに反対されると、クリスティーナは真っ赤な顔で怒鳴った。

「これは病気じゃないの!だからやるわ!」
「病気じゃない…?」

 病気じゃないけど、熱が出て、吐き気がして、不機嫌になって…?…それが病気じゃないって、どう言うこと…?

 俺の頭には疑問符がたくさん浮かんだ。たぶん、アージュもだ。しかし、セルジュだけは、何か察したらしい。目を見開いて、固まっている。

「まさか…、…」
「……」
「腹に子が…?」

  クリスティーナの顔がみるみる曇り、俯いてしまった。
 竜の番のクリスティーナが妊娠?それは、竜王様の子…?いや、それなら竜王は瘴気を溜めたりしなかったはずだ。ということは、つまり…。


 全員が沈黙すると、背後からガサ、と藪を掻き分ける音がした。

 振り返ると、ジュリアスが唇を戦慄かせて立っていた。
 

「竜の番という使命がありながら、不貞を働いたのか…!?しかもそれで、浄化の力を失ったとは!」
「きゃあ!」

  ジュリアスは怒りに任せて、クリスティーナの腕を掴み無理やり立たせた。そのままクリスティーナを引き寄せ、睨みつける。

「ジュリアス、よせ!」

  セルジュはクリスティーナを庇うように二人を引き離した。しかし、庇ったはずのセルジュの手を振り払ったのはクリスティーナだった。

「なぜ私ばかりが責められるの?私は鳥籠の中で大人しく、ずっと竜王様を待っていたわ!それなのに…番しか背に乗せないはずの竜王様はジュリアスを背に乗せて空を飛んでいた!二人でいつも仲睦まじく出かけて、名前を呼び合い見つめ合って口付けて…!知っているのよ!竜の巣にも、こっそり貴方が入ったこと…!」

   クリスティーナは、ボロボロと涙を溢しながら訴えた。

 クリスティーナが番いの剣の存在を知ったのも、竜王がジュリアスを助けるために、頼み込んだからだと言っていた。つまり竜王は、クリスティーナではなく、ジュリアスを愛していた…。

 彼女はずっと、その事実に耐えていたんだ。

 クリスティーナの言葉を聞いたジュリアスは、驚き目を見開いた。

「なぜ、私だけ痣を持って生まれたと言うだけで、全てを諦めなければならないの?私を愛していない者に、この身を捧げなければならないの?!」
「そんな子供じみた理由で、純潔を失い、この世に生きるものの恵みを…竜王様の命を奪ったというのか!?」
「それは知らなかったのッ!」

  クリスティーナは悲鳴のような、金切り声を上げた。

「ただ……私も願ったのよ。一生で一度だけ、好きな人と結ばれたいって。男である貴方が、竜王様へお願いしたように。私は竜王様の番よ?貴方のした事は、全て知っているわ。…男のくせに、穢らわしい!」

 クリスティーナはジュリアスを睨んで、フン、と嘲笑った。途端にジュリアスはまたクリスティーナに掴み掛かろう手を伸ばす。
 
 今度、それを止めたのは、セルジュだった。

「ジュリアス、よせ!悪いのは私だ!」
「兄上……?」
「やめて!セルジュは断れなかっただけで…悪くないの。悪いのは私よ!」

 セルジュが断れなかった…?

 つまり、クリスティーナの腹の子の父親はセルジュ?

 そう言えばセルジュは、番を失わない為に、純潔を守れと言っていたな…?セルジュは、薄々、クリスティーナが力を失った理由に、勘付いていたのだろうか…?

「分かった。二人まとめて、罰してやる…!」

 ジュリアスは怒りに震えながら、腰の剣を抜いた。まずい…!

 だってセルジュは初代フェリクスの国王だ。そして、そのセルジュの子が、クリスティーナの腹の中にいる、ということは……。

「お待ちください!」

 俺は渾身の力で、ジークの背中から飛び降り、クリスティーナを庇った。

 ジークを含めた四人全員、驚いて一瞬動きを止めたが、その後ジュリアスに簡単に蹴飛ばされてしまった。


 ジュリアスに蹴飛ばされた俺が倒れ込んだ先には、竜の門があった。倒れ込んだ拍子に扉に手をついた……気がした。

 気がした、というのは、気がついた時には扉が無かったからだ。

 竜の門がふわりと開いたため支えを失い、俺は門の内側に倒れてしまった。

  意図せず、俺は竜の巣に入ってしまったのだ。ジークはすぐに駆け寄ってきて、俺を抱き起こす。

 剣を振り上げていたジュリアスは呆然と、その剣を下ろした。

「エリオ!!」
「大丈夫だよ。軽く当たっただけ……!」

 ジークが俺を抱き起こした時、地の底から火が上がるような振動と共に大きな咆哮が上がった。

 ジークが竜体で上げる咆哮とも、別の声だ…。これは、まさか…。

「りゅ、竜王様……!生きておられた…!」

 ジュリアスは震える声で言うと、剣を鞘へ収め門の手前まで走って来た。薄ら涙を浮かべた瞳で、俺を見つめる。

「お前がひょっとして…、新たに生まれた竜王様の番なのか…?」
「そんな、まさか……!」

  ジュリアスの発言を口では否定したが、俺の胸の中には一つの仮説が浮かんでいた。
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