無表情美形が好きだと言ってきたけど、毒で死にかけてます! ~謎に溺愛してくる美形と死にかけの王子、命懸けの逃避行~

あさ田ぱん

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三章

18.浄化の剣

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「体の瘴気を浄化できないエリオが、竜王様の新しい番ですって…?」

 クリスティーナの表情が、驚きと困惑に染まった。

「確かに、番かどうかは分からないが…、実際に竜の門を開けたエリオ殿なら、番の作った『浄化の剣』を抜けるかも知れない。そうすれば、エリオ殿も、竜王様の瘴気も浄化できる可能性がある…!」

 セルジュが少し興奮して竜王様を助けられるかも知れない、と口にすると、ジュリアスは目を輝かせた。

 そんな二人にジークは冷たい視線を向ける。

「エリオが剣を抜くのは、自分の身体の毒を取り除くためだ。それ以上の事はしない。やるならお前達で勝手にやれ」

 ジークの返答は、ひどく冷たかった。

 それを聞いたジュリアスは、先ほどとは打って変わって、低姿勢で懇願する。

「エリオ殿の体を浄化した後でいい。その剣を私に預けて貰えないだろうか?」
「…いいだろう」

 俺たちがすることは、剣を渡すだけ…。それでもジュリアスはほっとしたのか眉間の皺が緩んで、薄く微笑んだ。
 微笑んだジュリアスとは対照的に、ジークは俺をキツく抱き寄せる。


「……エリオ殿」

 セルジュは神妙な顔で、ジークの腕の中の俺を呼んだ。

「竜王様は以前、瘴気に塗れ自身を制御できなくなり地底にお隠れになった。だから、竜の巣内部は更に瘴気が濃くなるはず。…申し訳ないが、クリスティーナはこの通りだ、私達は先に戻らせてもらう」
「謝らないでください。ここまで来ていただいただけで、十分です」

 セルジュはジュリアスにも、帰ろう、と声をかけたが、彼は「帰りません」と答えて、俺を見た。

「竜の巣の内部まで行けば、あなた方の足手纏いになる可能性がある。私は、この門の前で待ちます」
「そうですか…」

   ジュリアスは門の前から、動きそうに無い。竜の門は結界が張ってある。閉じておけば近くにいてもそこまで問題はないだろうが…。


 セルジュはすぐに諦めたようで、黙ってクリスティーナを背負った。

「エリオ、浄化の剣の場所は、ここから更に北へ登った、山の最奥、泉があるところよ」
「分かりました」
「…案内できなくてごめんなさい」
「大丈夫です。それより、クリスティーナ、気をつけて」

 セルジュは初代フェリクスの国王になる人物だ。その伴侶である王妃の名前までは記憶していないが、アルバスの王女だったはず。だから、その腹の中にいる子は、俺の先祖にあたる。
 腹の子にもしものことがあれば、俺の存在が危うい。元気でいてもらわなければ…。

 クリスティーナとセルジュは頭をさげると、アージュと共に山を降りて行った。
 




 セルジュ達を見送った後、ジュリアスを門の外に残して、竜王の番が残したと言う浄化の剣を探しに更に北へ、山を登った。

「見えた、もう少しだ!」

  余りにも濃い瘴気に晒されてジークの背中で意識が飛んでいたのか、あっという間に時間が経ち、目的地に近付いていたようだ。風の音に混じって微かに水の音が聞こえる。

 泉はどうやら小さな洞窟の中にあるらしい。この濃い瘴気のなか、その周辺は清涼な空気に満ちていた。
 

「ここからは、竜王様の番が作った神聖な場所だし、竜の巣の内部だから、俺一人でいくよ」
「そんなことはさせられない」

 俺はジークという別の竜が、内部まで入るのは良くない、一人で行くべきだと主張したのだが、ジークは一切引かなかった。 

 もし剣が抜けなかったら、もう一度一人で行く事を条件に、俺とジークは一緒に洞窟の中へ入った。ジークに支えられながら、中を歩いていく。

 少し行くと、奥に小さな、石造りの祠が見えた。祠の手前には、泉があり、水が湧き出ている。

「あの祠に収められているんだと思う」

  泉に入らなければ、祠には辿り着けない。中を覗くと水は澄んでいて底が見えた。それほど、深くはないようだ。

   俺が様子を見ているうちに、ジークは先に泉へ入ってしまった。水位は太腿辺りまでで、それほど深くないこと、水を飲み、体に影響がない事を確認している。

「エリオ」

   ジークは手を差し出して、慎重に俺を泉に入れた。体を支えられたまま、祠の手前まで進む。

 祠は壁に嵌るように設置されており、扉を開けると、中心の底が抜けて水面に浸っていた。

 番が聖神力をこめたという剣は、祠の底が抜けた部分、泉の水面に刺さるように浮いている。

 その剣は、柄以外黄金で出来ていた。金は瘴気を浄化する神の恵みだ…。さらに番が聖神力を込めたとなれば、竜も薙ぎ払えるというのも頷ける。

 ーーこれが浄化の剣だ。間違いない。

 ジークは手を伸ばして、水面にある剣を抜こうとした。

「…っ」

   浮いているだけに見えるが、力を入れても抜けないようで顔を顰めた。やはり、番でなければ抜けないらしい。

 俺は水の中に手を入れ、柄を握った。ジークを見上げると、不安げな瞳と視線が合う。

「大丈夫だよ…」

  何が、大丈夫なんだか俺にも分からないけれど、ジークを不安にさせたくなかった。ジークが頷いたのを確認してから、俺はもう一度力を込めて水面に刺さっている剣を引っ張った。

 剣は思ったよりも、するりと抜けてしまった。

 立派な長剣だが、不思議と重くはない。思いの外、剣が軽かったのと力を入れすぎていたのか、勢いで後ろによろけた俺をジークは抱きしめるように支える。

「…抜けた…!」
「エリオ!」

 ジークは泉に入ったまま、俺をきつく抱きしめた。その悲痛な声に、ジークが何を不安に思っているのか、俺はなんとなく分かった。

 ジークは水に浸かったまま、向きをかえると、もう一度俺を抱き締めた。

「…ジーク…。俺は竜王様の番ではないよ?だから、竜王様と番になったりしない」
「…なぜ、言い切れる?」

   やっぱり、それを不安に思っていたらしい。俺はジークを安心させるようにその頬を撫でた。

「俺は竜王様の元番、クリスティーナの子孫なんだよ。ここは百五十年ほど前の世界で、この世界の番だったクリスティーナが力を失ったから、それが子孫の俺に引き継がれてるんだと思う。今、クリスティーナの子はまだ腹の中で生まれていないから、この時代に彼女の子孫は俺しかいない」

 クリスティーナが番としての力を失ったことで、その血を引くものに役目が引き継がれたとしたら、俺が竜の門を開けられることにも、番はいつもアルバスの王族に生まれるということにも、合点がいく。

 それが俺が立てた仮説だ。

 けれど、その説が正しいとしたら、俺自身に浄化の力があっても良いはずだが、なぜ、門を開けられるだけなのだろうか…?

 竜王の番は前世で竜王を助けた聖痕を持つと聞いたが、俺は痕なしで生まれている。きっと前世で竜王を助けていないのだろう。番になるには血すじだけでは、不完全なのかもしれない。


「それで?」
「番じゃないから、浄化できていない。それが証拠。けど…」
「けど…?」

  ジークは眉を寄せて、瞳を潤ませている。俺も、涙が溢れそうだった。けれど…。

「ジーク、俺に、ジークの体液を注いでくれよ。本当にジークの毒を浄化できないのか、ちゃんと確認したい…。万が一…」

  薄々、できない事はわかっている。だって、さっき自分で言った通り、瘴気はこの胸にひろがったままなのだ。

「もし…できなかったとしても、今ならこの、浄化の剣があるから…」

 体の毒を取り除き、本当に瘴気以外に痣がないかも確認したい。

  俺が言い終わるより前に、ジークは俺に、噛み付くように口付けた。

「エリオ、好きだ……」
「ジーク、俺も好きだよ。ジークがほしい…。それで先に、この剣で体の毒を消せる?麻痺を治して、ちゃんと、ジークを感じたいんだ…」
「エリオ…!」

 ジークは俺の手から剣をとり上げると、濡れた服のボタンを慎重に外し、胸をはだけさせた。

「エリオ…胸に、剣を刺すよ。瘴気と俺の毒を抜く。痛かったら言って…」

  俺が頷くと、ジークは剣先を胸に当てた。浄化の剣が胸に刺さると、剣の柄に竜の紋章が浮かび上がる。抜いたときはただの柄だったのに…。浄化の力が反応すると紋章が浮かび上がる仕組みのようだ。そして刺されても瘴気だけに反応するようで不思議と痛くない。

 胸に刺した傷口からは、ドロドロとしたものが溢れて滝の水に落ちた。瘴気だ…。流れ落ちた瘴気はやがて流されて跡形もなく消えてしまった。剣を抜くと、傷口も消滅している。

 毒が身体から取り除かれると、胸の痣はどんどん薄くなっていく。

「毒は出たと思う…。ジークの体温が分かる…」
「エリオ…。もっと、知ってほしい。俺を……」

 ジークは頬を染めると、浄化の剣を腰のベルトに引っ掛け、俺を抱きしめた。

「ジーク、ここで…?」
「うん…」

  自分で言い出しておいて、不安になった。

 流石に、場所は変えないと、まずい気がするが、ジークは止めるつもりが無いようだ。俺を抱きしめる腕の力が強く、外せそうに無い。

「で、でも…。ここは…。やっぱり屋敷に帰ってから…」
「大丈夫…。ここは、他に気配がない」

 番が込めたという聖神力により、この中は安全だと言うこと…?

 疑問は、ジークの口付けで塞がれてしまった。ジークは俺を水の中に立たせて、貪るように口付ける。今まで体液を気にして、触れるだけだったのが嘘のような、濃厚な口付けだった。ぬるりと、暖かい舌が入って来て口内を舐め回される。

「ん……はぁ…っ…」
「エリオ…。ずっと、こうしたかった…!」

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