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三章
20.二人の子
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「はぁ…、ぁ…。ジークの、あつい…」
「エリオ…。気持ち良かった…すごく…」
ジークはうっとりとした顔で、俺に口付ける。
幸せだ…。ジークの唇に酔っていると、腹の中が、燃えるように熱くなってきた。
「う……っ!」
途端に、下腹部に強烈な痛みが走る。これは…、もしかして。
痛みの元、下腹部を見ると赤黒い痣が広がっていた。やっぱり、俺は毒を消化できないらしい。ジークの顔色が、みるみるうちに青ざめていく。
「エリオ、大丈夫だから…」
ジークは腰に刺していた、浄化の剣を抜いて俺の下腹部に剣先を押し当てた。
精液として見た時は白濁だったのに、毒の成分だけが体に沈澱するのか、刺された傷口からは赤黒い液体が流れ落ちる。
ジークを見上げると金色の瞳からは涙が溢れていた。
俺より先に泣くやつがあるか…。泣けなくなるじゃないか。
毒が全て出たのを確認すると、俺はジークの胸に縋りついた。
「…エリオ、泣かないで…」
泣けないと思っていたのにいつの間にか泣いていたらしい。
だって、俺…ジークの番じゃなかった。番でなければ、例え今毒を取り除いたとしても、体液を薬に変えられず、ジークよりずっと先に老いて死ぬ。
ジークは年老いた俺を、変わらず好きでいてくれるのだろうか?
それに、自分が年老いていく中で、ジークの本物の番がこの世に生まれたとしたら、俺は耐えられるのか?
その、本物の番はきっと女だ。二人の間には子どもも産まれるのだろう……。
俺が胸の中で泣くと、ジークは触れるだけの口付けをした。
****
泉から上がると濡れた服や髪をジークは魔法で乾かしてくれた。俺を見つめる瞳がこれまで以上に甘いのは気のせいじゃない、と思う。
衣服を整えて、ジュリアスの待つ竜の門へ向かったのだが、山を半分くらい降りたところでジークが突然立ち止まった。
そしてジークから、炎とも違う、煙のようなものが立ち上がる。これは…、竜体になろうとしている…!
「エリオ、この剣を持って、離さないで。あと、動かないこと…。絶対に大丈夫だから」
ジークは俺に浄化の剣を手渡すと、その身を竜へ変え、風を巻き上げながら空へと舞い上がっていった。
それとほぼ同時に、地響きと、恐ろしい咆哮が聞こえた。
ジークとは全く違う気配がする…。
俺は剣を両手でかかえ、飛ばされないように姿勢を低くした。
強風と共に真っ黒で巨大な何かが浮かび上がるのが見えた。その何かに、俺は見覚えがあった。身体がドロドロとして原型がはっきりしないそれは、大きさは何倍もあるが、初めて会った時のレオに似ている。
しかし、レオとは比較にならないほどの恐ろしい瘴気だ…。その体からはとめどなく黒い靄が溢れ出ている。
これは一体…?
その恐ろしく巨大で黒い瘴気の塊は、激しい雄叫びを上げ、ジークに襲いかかる。ジークは翼で風を起こし、身体を回転させると長い尻尾だけで瘴気を薙ぎ払った。
「ギャァアァァ!!」
一際激しい雄叫びを上げ、瘴気の塊は炎のようにジークに向かって、身体の中の瘴気を噴き出した。
危ない…!
ジークは炎を噴いて応戦する。灼熱の炎は吐き出した瘴気と、身体の一部分まで風穴を開けた。
「ギャァーーッッ!!」
痛みを感じているのか?その瘴気の塊は悲痛な叫び声を上げた。
吹き飛ばされた身体の一部は燃え消失したが、一部は雨のように地面に降り注いだ。俺の頭上に降った瘴気は浄化の剣の効能で、ぶつかる前に消えていく。
浄化の剣があって良かった。もし、なかったら…と考えると恐ろしい…。
竜の門にいるジュリアスは無事だろうか?竜の門には結界がはってあり、門の外にいれば、ある程度被害は防げるだろうが、この量ではどうなるかわからない…!
…ジークはここにいろと言ったが、ジュリアスが心配だ。浄化の剣があれば、多少移動しても問題ないだろう。
俺は竜の門まで戻ることにした。
竜の門へ向かうと、その逆方向へ、地面に落ちた瘴気の塊が動いていることに気が付いた。その瘴気は、ジークと対峙している本体へ吸い込まれているようだったが、一つ一つがそれぞれ、『ジークフリート…』と呟いている。
何故、ジークの名を知っている?
ジークフリートの名を知るのは、俺、ジークの母親、レオ。それに、名付け親である父、竜王。この時代にやって来た時、既に竜王は地底に隠れ瀕死の状態になっていたはずだが、まさか…。
「竜王様が…!やめてくれっ…!」
竜の門に近付くと、ジュリアスの悲痛な声が聞こえた。
「ジュリアス殿下!竜の門を離れて屋敷にお戻りください!結界があるとはいえ、あまりにも瘴気の量が多く…!」
しかし、ジュリアスは戻ることを拒否した。竜の門を、外から乱暴に叩いている。
「ここを開けてくれ!竜王様をお助けする…!」
「竜王様…?あの、瘴気の塊が…?!」
あれが竜王だとすると、あの状態は既に、ジークの母親と同じ『怨念』になっているのではないか…?!
「開けてくれ、頼む…!」
「ジュリアス殿下…。私から離れないと約束できますか?」
「約束する…!だから早くここを…!」
泣きながら叫ぶジュリアスに耐えきれなくなり、俺は思わず扉を開けてしまった。すると直ぐに、俺をすり抜けてジュリアスは瘴気の塊、竜王の方へ走って行ってしまう。
上空で争っていたジークは、圧倒的な力の差を見せていた。ジークの鋭い咆哮と炎で体勢を崩した竜王は吹き飛ばされ、同時に大量の瘴気がまた地上に降って来る。
「ジュリアス殿下!!」
浄化の術を持たない、ジュリアスの上に瘴気の雨が…!必死に走ったが、間に合わない…。
最悪の事態を覚悟したが…ジュリアスの悲鳴は聞こえなかった。
ジュリアスをジークが助けたのだ。ジュリアスの上空まで下降するとその身体で瘴気を受け止め、更に降り注いでくる瘴気ごと上空にいる竜王に炎を噴き上げた。
「ギャァッ!!」
竜王は悲痛な叫び声を上げた。炎によって右半身が焼け、不気味な黒煙が上がる。
「ファーヴ様!!」
ジュリアスは、竜王をファーヴと呼んだ。それは、竜王の名だろうか…?そう言えば、竜は番にしか名を呼ばせないはずが、二人は名を呼び合っていたとクリスティーナが苦々しく語っていた。
ジュリアスがその名を呼んだ時、反応するように竜王はより大きな叫び声を上げた。しかし、半分を燃やされ力はもう無いのか、飛んでいられず落ちて行く。
ジークは地面に落ちた竜王を追撃しようとしたのだが…。
「やめてくれっ!ファーヴ様を殺すなッ!!」
ジュリアスの悲鳴を聞いたジークは攻撃をやめ、ふわりと人型に戻って着地した。竜王は、ドロドロの瘴気となって、地面へ沈んでいく。
ジュリアスは沈んだ地面に縋るように泣き崩れた。俺はジュリアスのもとに駆け寄って背中をさすったが、かける言葉が見つからない。
ジークは静かに、ジュリアスの傍らに立った。
「もうあれは竜ではなかった。ただの『怨念』だ」
やはり…。
だからジークは洞窟の中で、気配を感じないと言っていたのだ。それは即ち、竜王…ファーヴは既に実体を失っており、瘴気だけしか残っていなかったということ。俺に浄化の剣をもたせ『絶対大丈夫』といったのも、相手が瘴気でしかないからだ。
「水神のファーヴ様ともあろうお方が私達を残して怨念になるなんて…。そんなはずはない…!ファーヴ様は約束してくださったのだ…!何としても、私たちの子を守ると…」
「私たちの子…?それって……?」
思わず俺が聞き返すと、ジュリアスは嗚咽を漏らした。
「私の中には、確かに、私たちの子がいたのだ…。ファーヴ様がお隠れになるのと同時に消えてしまったけど、それは、ファーヴ様が…。それなのに……」
いなくなるはずがない、とジュリアスは小さく呟いた。
…『私たちの子』が腹の中にいた…?
ジュリアスは男で、番でもない。確かに身体を重ねたと言っていたが……まさか。
ジークの父親は竜王で間違いない。ファーヴの『怨念』もその証拠に、ジークの名を呼んでいた。
その竜王との子が、ジュリアスの腹の中にいたとすると、ジークの母親は、ジュリアス…?
ジークは百年以上、生きていると言っていた。ここは百五十年前の世界だから、おおよそ、ジュリアスの妊娠と年齢が合致するが…。
ジークはここに確かに存在しているのに、ジュリアスは腹の子が消えてしまったと言っている。
なぜだ…?
「エリオ、歩けるか?」
「うん…」
蹲って動けないジュリアスを、ジークは背負った。たぶん、瘴気の影響を受けてしまったのだろう。
俺は二人の背中を見ながら、先ほどのことをまた、考えていた。
ーーもし、ジュリアスの腹の子がジークだったとしたら…。
同じ世界に同じ人間が存在できず、片方は消えてしまったのではないだろうか?
そう考えれば、ジークがこの世界に現れたその時、ジュリアスの腹の子が消えてしまったことも、辻褄が合う。
そして、腹から竜の毒ごとジークが消えたことで、ジュリアスは動けるようになったのではないだろうか。
すると、やはりジークの母親は、ジュリアスだ…!
ジークはさっき、ジュリアスを庇った。ひょっとして母親に気付いているのだろうか?
ジークは何も言わず、ただ黙って歩いていく。俺も何も言い出せずに、そのまま後に続いた。
竜門を閉じて神殿に戻ると、セルジュとアージュが疲れ切った顔で待っていた。
「ジュリアスを助けていただいたのですね……ありがとうございます」
「……」
ジークはセルジュには答えず、無言で気を失っているジュリアスをアージュに預けた。
「先ほどから、一段と瘴気が濃くなり、屋敷でも具合が悪くなるものが出始めました。一旦、ここは閉鎖し、兵士たちはアルバスの城へ下がらせております。竜王様もそちらへお越しいただけますか?」
セルジュはジークが竜王ではないと分かっているはずだが…。彼は意図的に、ジークを「竜王様」と呼んだ。
「エリオ…。気持ち良かった…すごく…」
ジークはうっとりとした顔で、俺に口付ける。
幸せだ…。ジークの唇に酔っていると、腹の中が、燃えるように熱くなってきた。
「う……っ!」
途端に、下腹部に強烈な痛みが走る。これは…、もしかして。
痛みの元、下腹部を見ると赤黒い痣が広がっていた。やっぱり、俺は毒を消化できないらしい。ジークの顔色が、みるみるうちに青ざめていく。
「エリオ、大丈夫だから…」
ジークは腰に刺していた、浄化の剣を抜いて俺の下腹部に剣先を押し当てた。
精液として見た時は白濁だったのに、毒の成分だけが体に沈澱するのか、刺された傷口からは赤黒い液体が流れ落ちる。
ジークを見上げると金色の瞳からは涙が溢れていた。
俺より先に泣くやつがあるか…。泣けなくなるじゃないか。
毒が全て出たのを確認すると、俺はジークの胸に縋りついた。
「…エリオ、泣かないで…」
泣けないと思っていたのにいつの間にか泣いていたらしい。
だって、俺…ジークの番じゃなかった。番でなければ、例え今毒を取り除いたとしても、体液を薬に変えられず、ジークよりずっと先に老いて死ぬ。
ジークは年老いた俺を、変わらず好きでいてくれるのだろうか?
それに、自分が年老いていく中で、ジークの本物の番がこの世に生まれたとしたら、俺は耐えられるのか?
その、本物の番はきっと女だ。二人の間には子どもも産まれるのだろう……。
俺が胸の中で泣くと、ジークは触れるだけの口付けをした。
****
泉から上がると濡れた服や髪をジークは魔法で乾かしてくれた。俺を見つめる瞳がこれまで以上に甘いのは気のせいじゃない、と思う。
衣服を整えて、ジュリアスの待つ竜の門へ向かったのだが、山を半分くらい降りたところでジークが突然立ち止まった。
そしてジークから、炎とも違う、煙のようなものが立ち上がる。これは…、竜体になろうとしている…!
「エリオ、この剣を持って、離さないで。あと、動かないこと…。絶対に大丈夫だから」
ジークは俺に浄化の剣を手渡すと、その身を竜へ変え、風を巻き上げながら空へと舞い上がっていった。
それとほぼ同時に、地響きと、恐ろしい咆哮が聞こえた。
ジークとは全く違う気配がする…。
俺は剣を両手でかかえ、飛ばされないように姿勢を低くした。
強風と共に真っ黒で巨大な何かが浮かび上がるのが見えた。その何かに、俺は見覚えがあった。身体がドロドロとして原型がはっきりしないそれは、大きさは何倍もあるが、初めて会った時のレオに似ている。
しかし、レオとは比較にならないほどの恐ろしい瘴気だ…。その体からはとめどなく黒い靄が溢れ出ている。
これは一体…?
その恐ろしく巨大で黒い瘴気の塊は、激しい雄叫びを上げ、ジークに襲いかかる。ジークは翼で風を起こし、身体を回転させると長い尻尾だけで瘴気を薙ぎ払った。
「ギャァアァァ!!」
一際激しい雄叫びを上げ、瘴気の塊は炎のようにジークに向かって、身体の中の瘴気を噴き出した。
危ない…!
ジークは炎を噴いて応戦する。灼熱の炎は吐き出した瘴気と、身体の一部分まで風穴を開けた。
「ギャァーーッッ!!」
痛みを感じているのか?その瘴気の塊は悲痛な叫び声を上げた。
吹き飛ばされた身体の一部は燃え消失したが、一部は雨のように地面に降り注いだ。俺の頭上に降った瘴気は浄化の剣の効能で、ぶつかる前に消えていく。
浄化の剣があって良かった。もし、なかったら…と考えると恐ろしい…。
竜の門にいるジュリアスは無事だろうか?竜の門には結界がはってあり、門の外にいれば、ある程度被害は防げるだろうが、この量ではどうなるかわからない…!
…ジークはここにいろと言ったが、ジュリアスが心配だ。浄化の剣があれば、多少移動しても問題ないだろう。
俺は竜の門まで戻ることにした。
竜の門へ向かうと、その逆方向へ、地面に落ちた瘴気の塊が動いていることに気が付いた。その瘴気は、ジークと対峙している本体へ吸い込まれているようだったが、一つ一つがそれぞれ、『ジークフリート…』と呟いている。
何故、ジークの名を知っている?
ジークフリートの名を知るのは、俺、ジークの母親、レオ。それに、名付け親である父、竜王。この時代にやって来た時、既に竜王は地底に隠れ瀕死の状態になっていたはずだが、まさか…。
「竜王様が…!やめてくれっ…!」
竜の門に近付くと、ジュリアスの悲痛な声が聞こえた。
「ジュリアス殿下!竜の門を離れて屋敷にお戻りください!結界があるとはいえ、あまりにも瘴気の量が多く…!」
しかし、ジュリアスは戻ることを拒否した。竜の門を、外から乱暴に叩いている。
「ここを開けてくれ!竜王様をお助けする…!」
「竜王様…?あの、瘴気の塊が…?!」
あれが竜王だとすると、あの状態は既に、ジークの母親と同じ『怨念』になっているのではないか…?!
「開けてくれ、頼む…!」
「ジュリアス殿下…。私から離れないと約束できますか?」
「約束する…!だから早くここを…!」
泣きながら叫ぶジュリアスに耐えきれなくなり、俺は思わず扉を開けてしまった。すると直ぐに、俺をすり抜けてジュリアスは瘴気の塊、竜王の方へ走って行ってしまう。
上空で争っていたジークは、圧倒的な力の差を見せていた。ジークの鋭い咆哮と炎で体勢を崩した竜王は吹き飛ばされ、同時に大量の瘴気がまた地上に降って来る。
「ジュリアス殿下!!」
浄化の術を持たない、ジュリアスの上に瘴気の雨が…!必死に走ったが、間に合わない…。
最悪の事態を覚悟したが…ジュリアスの悲鳴は聞こえなかった。
ジュリアスをジークが助けたのだ。ジュリアスの上空まで下降するとその身体で瘴気を受け止め、更に降り注いでくる瘴気ごと上空にいる竜王に炎を噴き上げた。
「ギャァッ!!」
竜王は悲痛な叫び声を上げた。炎によって右半身が焼け、不気味な黒煙が上がる。
「ファーヴ様!!」
ジュリアスは、竜王をファーヴと呼んだ。それは、竜王の名だろうか…?そう言えば、竜は番にしか名を呼ばせないはずが、二人は名を呼び合っていたとクリスティーナが苦々しく語っていた。
ジュリアスがその名を呼んだ時、反応するように竜王はより大きな叫び声を上げた。しかし、半分を燃やされ力はもう無いのか、飛んでいられず落ちて行く。
ジークは地面に落ちた竜王を追撃しようとしたのだが…。
「やめてくれっ!ファーヴ様を殺すなッ!!」
ジュリアスの悲鳴を聞いたジークは攻撃をやめ、ふわりと人型に戻って着地した。竜王は、ドロドロの瘴気となって、地面へ沈んでいく。
ジュリアスは沈んだ地面に縋るように泣き崩れた。俺はジュリアスのもとに駆け寄って背中をさすったが、かける言葉が見つからない。
ジークは静かに、ジュリアスの傍らに立った。
「もうあれは竜ではなかった。ただの『怨念』だ」
やはり…。
だからジークは洞窟の中で、気配を感じないと言っていたのだ。それは即ち、竜王…ファーヴは既に実体を失っており、瘴気だけしか残っていなかったということ。俺に浄化の剣をもたせ『絶対大丈夫』といったのも、相手が瘴気でしかないからだ。
「水神のファーヴ様ともあろうお方が私達を残して怨念になるなんて…。そんなはずはない…!ファーヴ様は約束してくださったのだ…!何としても、私たちの子を守ると…」
「私たちの子…?それって……?」
思わず俺が聞き返すと、ジュリアスは嗚咽を漏らした。
「私の中には、確かに、私たちの子がいたのだ…。ファーヴ様がお隠れになるのと同時に消えてしまったけど、それは、ファーヴ様が…。それなのに……」
いなくなるはずがない、とジュリアスは小さく呟いた。
…『私たちの子』が腹の中にいた…?
ジュリアスは男で、番でもない。確かに身体を重ねたと言っていたが……まさか。
ジークの父親は竜王で間違いない。ファーヴの『怨念』もその証拠に、ジークの名を呼んでいた。
その竜王との子が、ジュリアスの腹の中にいたとすると、ジークの母親は、ジュリアス…?
ジークは百年以上、生きていると言っていた。ここは百五十年前の世界だから、おおよそ、ジュリアスの妊娠と年齢が合致するが…。
ジークはここに確かに存在しているのに、ジュリアスは腹の子が消えてしまったと言っている。
なぜだ…?
「エリオ、歩けるか?」
「うん…」
蹲って動けないジュリアスを、ジークは背負った。たぶん、瘴気の影響を受けてしまったのだろう。
俺は二人の背中を見ながら、先ほどのことをまた、考えていた。
ーーもし、ジュリアスの腹の子がジークだったとしたら…。
同じ世界に同じ人間が存在できず、片方は消えてしまったのではないだろうか?
そう考えれば、ジークがこの世界に現れたその時、ジュリアスの腹の子が消えてしまったことも、辻褄が合う。
そして、腹から竜の毒ごとジークが消えたことで、ジュリアスは動けるようになったのではないだろうか。
すると、やはりジークの母親は、ジュリアスだ…!
ジークはさっき、ジュリアスを庇った。ひょっとして母親に気付いているのだろうか?
ジークは何も言わず、ただ黙って歩いていく。俺も何も言い出せずに、そのまま後に続いた。
竜門を閉じて神殿に戻ると、セルジュとアージュが疲れ切った顔で待っていた。
「ジュリアスを助けていただいたのですね……ありがとうございます」
「……」
ジークはセルジュには答えず、無言で気を失っているジュリアスをアージュに預けた。
「先ほどから、一段と瘴気が濃くなり、屋敷でも具合が悪くなるものが出始めました。一旦、ここは閉鎖し、兵士たちはアルバスの城へ下がらせております。竜王様もそちらへお越しいただけますか?」
セルジュはジークが竜王ではないと分かっているはずだが…。彼は意図的に、ジークを「竜王様」と呼んだ。
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