無表情美形が好きだと言ってきたけど、毒で死にかけてます! ~謎に溺愛してくる美形と死にかけの王子、命懸けの逃避行~

あさ田ぱん

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三章

23.兄弟

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 ファーヴが完全に消滅したことで、結界も力を失ったようだ。門の外でも、濃い瘴気を感じる。

 俺は慌てて、アージュを抱き上げ、この辺りで一番安全そうな場所に寝かせた。
 
「アージュ!」

   息をしているようだが、声かけに反応がない。
 アージュの体には瘴気特有の痣が広がっている。浄化の剣で、瘴気を取り除くより他ない…!ジュリアスから、剣を取り戻さなければ。

 俺は炎の音が消えるのを待たずに、竜の巣の中へ入った。


 ジークが壊した壁の方へ向かっていくと、燃え盛る壁の前で、レオが呆然と立ち尽くしているのが見えた。

「レオ…!」

 俺が呼びかけると、レオはブルブルと震え出した。門の外でも感じた瘴気はレオだったのか…。

 瘴気は一段と濃くなり、周囲の空気がじわりと重くなる。俺は咄嗟に袖口で口元を覆った。

 そして、真っ黒な瘴気をまとった毛がふわりと風に舞ったかと思うと、突然、破裂するように砕け散った。

「レ、レオ!」

   砕けた瘴気は空気に溶けて、あっという間に見えなくなる。レオが、消えてしまった…!

 …レオはファーヴを想う怨念だった。

 アージュに取り付いてまでファーヴを助けようとしていたが、希望が無くなったと同時に体が保てなくなったのかもしれない。

 ジークの母親の最期は、煙のように、静かに消えて行ったから、その違いに驚いた。

 出来れば同じように、心残りを解消して送ってやりたかったけど…。



「エリオ…!」

「ジーク…!」

 ジークは竜体を解いて、俺のところへ降りて来た。

  ジークは涙を流していた。

 多分、俺が危ない目にあったのと、ジュリアスを庇い父親を消滅させたことで、感情がぐちゃぐちゃになっているんだと思う。

「ファーヴ様の肉体は既に滅んでいた。だから、ジークが殺した訳じゃない…。それに、あの時、ジュリアス殿下を守るために、瘴気は、ああするしか無かった。ジークは立派だった…!」
「エリオ…」

 ジークは俺を抱きしめた。俺もジークを落ち着かせようと、そっと背中をさする。



 二人でじっとしていると、風を切る鋭い音がした。目を開けると、剣がジークに振り下ろされようとしていた。

「死ね…っ!」

「ジュリアス殿下…!」

 鬼気迫る表情で剣を振り下ろしたのは、ジュリアスだった。ジークはそれを気配で分かっているはずなのに、一歩も動かない。

 その時、誰かの影が俺たちに覆いかぶさった。直後、顔に生暖かい液体が飛び散る。

「セ、セルジュ殿下!」
 
 ジュリアスの剣は、俺たちを庇ったセルジュの肩を突き刺していた。

「りゅ、竜王様、ご無事ですか…?」
「セルジュ…!そこをどけ!その大罪人を成敗してくれる!」

   ジュリアスはセルジュの肩に刺した剣を抜くと、蹴飛ばして転がした。今度は、ジークに向かって剣を振り上げる。

「やめろ…!」

   ジークが立ち上がり、鋭い声でジュリアスを怒鳴った。ジュリアスは一瞬ビク、と震え、動きを止める。

「アイツはすでに実体を失い、瘴気でしか無かった。現実を見ろ。お前の思いだけで、周りのものを傷つけるな!」
「何だと……?!」

 ジュリアスもジークを睨み返し、剣を下ろす気は無いようだ。大粒の涙を流しながら、ジュリアスはジークに切り掛かる。

「ファーヴ様は生きておられた!竜王様が、私たちを残して逝くはずがない。それを…お前が…っ!」
「いい加減にしろ…!」

 ジークはまた、ジュリアスを怒鳴った。心臓がビリビリ、と震えるような声…!

 ジュリアスの顔からは血の気が引き、手から剣が滑り落ちる。そして、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
 
 竜に本気で威嚇されたら、人間は立っていることさえ出来ない…。圧倒的な力の差に、俺も少し震えた。

 
 でも、怯んでいる暇はない…!

「ジーク、みんなをアルバスの城まで運べる…?」
「エリオ…。こいつも…?」
「うん…。失神したまま、放ってはおけないよ!セルジュとアージュの傷の手当てもしないと…」
「……」

   ジークはかなり嫌そうだったが、事態は一刻を争う。アージュの瘴気を浄化の剣で取り除いたあと、ジークの背に乗せて、三人をアルバスの城まで運んだ。





 クリスティーナはアルバスの城の入り口で、俺たちを出迎えた。

「エリオ、これは一体…!」
「話している暇はありません…!怪我人の手当てを分担したい!」

   クリスティーナは青ざめながらも頷いた。周りにも大勢人が集まってくる。

「セルジュ殿下は刺し傷なので、クリスティーナ様にお任せします。ジュリアス殿下は、気を失っているだけですが、起きた時に暴れる可能性が…。対策ができる部屋に寝かせてください!アージュは一番重症です。私が様子を見ますから、瘴気を隔離できる部屋へ!」
「わかりました…!」

   クリスティーナが部下へ指示を出し、三人をそれぞれの部屋に運んだ。

 治療用の寝台に寝かせて、もう一度、浄化の剣を使い、アージュの瘴気を取り除いた。すると少しずつ、呼吸が落ち着いていく。そのまま様子を見ていると、あっという間に夜が更けた。


 その後、アージュの体は順調に回復しているように見えていたが、酷くうなされ、夜中に目を覚ました。

「アージュ、気が付いたのか…?!」
「番様、竜王様、申し訳ありません…!俺…!」
「いいんだ…。気にすることはない。いま、セルジュを呼ぶから」

    アージュが余りにも泣くので、セルジュを呼ぶ前にアージュの手を握り、背中をさすった。アージュは瘴気に乗っ取られて、体だけではない。心も傷ついているのだろう。

「……ジュリアス兄上をアートルムへ送る途中、逃げようとした兄上に切りつけられました…。怪我をして気を失っていたのですが…いつの間にか動いて、番様に危害を加えるなどという、恐ろしい真似を…」
「レオ…、魔物に操られていたんだ。仕方ないよ」
「いえ…。全て私の責任です。魔物と、私は確かにあの時、同じ気持ちだったのです…。醜くも、兄の恋人に焦がれ、兄上を羨み、恨み…」

 やはりアージュは俺が以前感じた通り、クリスティーナのことを好きだったんだな。それなら、クリスティーナの妊娠を知り、セルジュを妬むのは仕方のないこと…。

「それは…。誰にでもあることだよ…。俺にもあった。だから俺も兄が嫌いだった」
「番様も…?」
「うん。でも今は…、やり直したいと思ってる。アージュは、もう、二人の兄上が嫌になった…?」

   俺の問いかけに、アージュは首を振った。それなら、大丈夫だ…。きっとやり直せる…。

 頭を撫でてやると少し落ち着いたのか、アージュはまた眠った。穏やかな寝息が聞こえる。


 
「エリオ、あとは俺が見ている。先に休め」
「ジーク…、でも…」
「俺は寝なくても平気だ」

   ジークの言う通り、アージュの容態も安定したので少し休ませてもらおうかと思い、部屋を出ようとすると、クリスティーナが尋ねて来た。

「エリオ…!ごめんなさい…。セルジュの容態が急変したの。傷は治したんだけど、瘴気を吸ったのかもしれないわ…」
「痣は出ていますか?」
「ええ…」

   あの時、レオが破裂して、瘴気が大量に飛び散ったのだ。口元を塞いでいなかったセルジュは瘴気を吸い込んでしまったのかもしれない…!

 すると、ジュリアスも…?

 俺は浄化の剣を握った。

「クリスティーナ様、セルジュ殿下のところへ行きましょう」
「ありがとう…!」

   アージュを預けて俺たちはセルジュの元へ向かった。

 セルジュは苦しそうに、顔を顰めている。傷を治したことで、より体内の瘴気が活性化してしまったのか…?

   体の痣を確認するため服を脱がせると、セルジュはうっすら目を開けた。

「セルジュ…!」
「クリスティーナ…?」
「動かないで…!今、浄化の剣で、エリオが瘴気を取り除いてくれますから!」
「……いや、私より先に…、他の者を治療してくれ。瘴気で、倒れた者が他にも大勢いるのだろう…。その剣は、限りがある。大切に使ってくれ…!」
「セルジュ…!」

   セルジュは先日と同じ事を言った。まさか浄化の剣を温存するために、自らも治療を受けないつもりなのか…?

「セルジュ殿下が治療を受けなければ、この国はどうなるのですか?!」

 初代フェリクスの王はセルジュだ。それが即位しないとなると、フェリクスは一体、どうなってしまうのだ…?!思わず疑問が口をついて出ていた。

「…私は王位継承権を放棄することに致します。クリスティーナが番としての力を失ったのも、竜王様がああなったのも、私が原因です…」
「そんな…!」

 確かに、セルジュとクリスティーナにも原因はあるかもしれないが…。それだけではない。いや、むしろ…。

「クリスティーナ様は以前、私は竜の番だから、竜王様が何をしたか知っているとおっしゃっていましたね?」

   俺がクリスティーナに尋ねると、クリスティーナは頷いた。

「番の時は、お互いの事が分かったわ…。番は『半身』だもの」
「では、クリスティーナ様のことも。竜王様はご存知だったはずですね?」
「ええ…」
「竜王様は、貴方達のことを知っていたんだ。本気になればいつだって止められたのに、それをしなかった。それは竜王様も、同じだったからではないですか?愛する人と、結ばれたかった…」
「そうね…。二人は頭に来るくらい、恋していたから」

   クリスティーナは、少しだけ悲しげに微笑んだ。

「ですから、今回の事は、竜王様が決めた事…。誰にも、止められなかった」

   俺は、セルジュの揺れる瞳を見つめて、手を握る。

「それでも竜王様は、この地を守るため、ここにジークを呼んだ。私は、そう思います」

 竜王様はジークを見ただけでは消滅しなかった。

 ジークが圧倒的な力で瘴気を祓い、この地の神となることが、ファーヴの目的だったのだと思う。

「しかし…」
「貴方も守ってください、この地を…。セルジュ殿下には、その責任がある」

  本当は、セルジュはジュリアスに殺されるつもりだったのかもしれない。セルジュは迷っているのか、なかなか返事をしなかった。
  俺は握る手に、力を込めた。

「私はまず、貴方を治します。他の者は、治った貴方が治療してください!」

   俺はもう、返事を聞かなかった。セルジュの痣に浄化の剣を刺し、瘴気を取り除く。

「セルジュ殿下。早く傷を治しましょう。それから、他の怪我人や、この国の未来を考えましょう…」

   
 瘴気を取り除くと、浄化の剣をセルジュに握らせた。
 セルジュはフェリクスの王なのだ。二国間の争いを無くし、これからもっと、多くの人を救わなければ…!


 無言で涙を流すセルジュをクリスティーナに任せて、俺たちは部屋を出た。

 
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