無表情美形が好きだと言ってきたけど、毒で死にかけてます! ~謎に溺愛してくる美形と死にかけの王子、命懸けの逃避行~

あさ田ぱん

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三章

24.フェリクス王国の建国

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 翌日、昼過ぎまで寝てしまい、起きて王城へ出向くと既にセルジュは動き回っていた。機嫌も良さそうな笑顔で俺たちを迎える。

「セルジュ殿下、何か良いことがあったのですか?随分嬉しそうだ」
「……分かりますか?実はアルバスとアートルムの統一について、急速に協議が進んだのです」
「え…?!」
「これで二国間で無駄な戦争をしなくて済みます…!本当に、喜ばしい事です!」

  二つの国の争いで、ジュリアスとの仲も険悪だった。疲弊していたらしいセルジュは、よほど嬉しかったのか、うっすら涙を浮かべている。

「この交渉をまとめたら、私は罰を受けます…」
「ば、罰なんて…。竜王様のことは、昨日私が言った通りです。この難局を、まだ少年のアージュや、冷静さを欠くジュリアス殿下に務まるとは思えません…!」

 三人のうち、やはり王としての適任はセルジュだと思う…。それに、セルジュが即位しなければ、俺は生まれない可能性がある…!

 セルジュの直系の子孫である俺は、慌てて進言した。

「いえ…。私は、相応しく有りません。今回の事も、父に全て話しました。異論はないと…」
「そ、そんな…!では、クリスティーナ様はどうなるのです…?お腹の御子も…!」
「……クリスティーナは修道院に送られることになりそうです。それは本人も覚悟しています」

 クリスティーナの事を語るセルジュの顔には一瞬影が刺したが、直ぐに平静さを取り戻した。もう、覚悟を決めているようだ。
 

「セルジュ殿下…!」

   俺たちが話をしている所に、クリスティーナがやって来た。何だか、慌てている…。

「普通の風邪や怪我なのに瘴気だと誤解して、患者が殺到しているの!手に負えないわ!」
「瘴気なら痣が出るはずだ。瘴気に冒された者と普通の病の者を入り口で分ければいい。それで大分、混乱は防げる」

 窮状を捲し立てるクリスティーナに、セルジュは冷静に答えた。すると、クリスティーナも少し落ち着いたようだ。

「じゃあ、風邪や怪我の患者は私が引き受けます。浄化魔法は使えなくなったけど、普通の治癒魔法は使えるから!」
「そうだな…!」

 セルジュとクリスティーナは、顔を見合わせて微笑んだ。

 その様子を見ていたジークは自ら、瘴気を取り除く役をかって出た。

「人間は瘴気に弱い。直接触れる可能性があるから、エリオにはさせられない」

 ジークの言う通り、二次被害を防ぐため、浄化はジークに任せることになった。

  
 セルジュが患者を振り分け、クリスティーナは普通の風邪や怪我と診断された患者達を光魔法で治療する。
 
 魔力なしの俺は、クリスティーナの治療室で雑用をこなしていた。
 すると、城の入り口で患者の選別を担当していたセルジュが、身重のクリスティーナを気にかけ、度々、治療室を覗いているところに遭遇した。

「セルジュ殿下、話しかければ良いのに…」
「わたしもそう思います」

  俺の独り言に相槌を打ったのはアージュだった。アージュはすっかり回復したらしい。顔色が、良くなっている…!

「アージュ!体はもういいの?」
「ええ…。本当に申し訳ありませんでした…」

   俺は首を振った。アージュが謝ることはない。

「それより、セルジュ殿下はクリスティーナ様を修道院に送るつもりのようです。ご自身もまた、罰を受けると。セルジュ殿下もクリスティーナも、この国に必要だと思うけど…」
「セルジュ兄上は言い出したら聞きません…。それに、クリスティーナ様には別に良縁があると思います」
「え?そうなの…?」

  身重なのに、縁談があるというのか…?アージュはこくりと頷いた。

「お腹の子共々、貴方を愛して生きて行く、と言う方がいらっしゃいます」
「お腹の子も一緒に…?!一体どこの、誰が…?」

  アージュは顔を綻ばせて、可笑しそうに笑った。

「私です!」
「え?!」

 アージュがクリスティーナを好きなことは知っていたが、まさかそれほどとは…。

「ででで、でもさ…」
「それくらい、恋敵がいるって兄上も知るべきです…。あ、ほら…」
 
 アージュが指差した先を見ると、身体の大きい患者が「俺の怪我は瘴気だ!」と暴れていた。クリスティーナを守るため、近くにいた兵士が男を摘み上げると、クリスティーナは「ありがとう」とその兵士に笑いかけた。兵士は頬を染め、何だかいい雰囲気になっている。

「おいアージュ、何している!回復したのなら手伝え!」
「…ふふ!」

 セルジュはアージュに、クリスティーナの様子を見ていろ!と言いたいのだろう。心配なのに直接いわないセルジュを見て、アージュは楽しそうに笑った。



「ねぇ、兄弟っていいわね…?私には妹しかいないから羨ましいわ…。エリオ、兄弟はいる?」

   いつの間にかクリスティーナが隣に来ていた。クリスティーナはクリスティーナで、セルジュのことが気になっていたようだ。

「私には兄が…」
「どんな人?」
「兄は、そうですね…。 責任感が強く、困難に立ち向かう男でした」

 嫌味を言ったりしていたけど、エヴァルトは俺の仇を打つためにアルバスへ向かって行った。

 ……元の時代に戻って、エヴァルトを助けなければ。

  しかし、セルジュが即位せずクリスティーナと結婚しなければ、元の時代に戻った時、エヴァルトは存在しているのか…?


「エリオ…!」

   クリスティーナと話しているとジークがやって来た。クリスティーナから引き離すように俺を抱き締めると、持っていた花を俺の手に渡す。

「ジーク。治療は終わったの?この花は…?」
「もう終わった。これはさっき、お礼だと言って貰った」
「ジークが貰ったのに、俺がもらっていいの?」
「いいんだ…。エリオに見せたかった」

 ジークは獲物をとって来た、と、母親に見せに来る小動物みたいにかわいらしく笑う。お礼を貰ったことがよほど嬉しかったようだ。

   俺でなくても、人間と、普通に仲良くなれるんだな…?少し、心に影がさした気がして、慌てて頭を振る。

「エリオ…?」
「何でもないよ。大丈夫…!」
「今日は食事をとって早めに休もう。エリオはずっと、瘴気で体も弱っていたし…」

   ジークは俺の手を握って、金の指輪に触れた。確かに瘴気で倒れたり、それ以降も忙しくしていて少し痩せてしまったのだ。
 緩んだ指輪を見て、ジークは俺を心配している。

「大丈夫だよ…。でも、そろそろ何か食べようか?」
「そうね。何か用意させるわ…!」

   クリスティーナがジークの代わりに返事をする。近くにいたセルジュ達にも声をかけて、食事をとることにした。
 

 


「きゃあーー!」

 食堂へ移動しようとすると、不意に、背後で悲鳴が上がった。

「何だ…!?」

 声は、王城でも離宮でもない、ここから少し南の方角から聞こえているようだ。そこは林になっており、建物は見えない。

「あの林の向こうには何があるのですか…?」
「以前、王太后が使っていた宮殿があります。しばらく使われていなかったのですが、現在はジュリアスを隔離しております」
「…ま、まさか…、何かあったのでしょうか?」



    俺たちは、ジュリアスを隔離しているという宮殿へ急いだ。

 宮殿に近づくと、建物から人が、続々と避難してくる。

「こ、これは…!」

 建物全体が、黒い瘴気にじわじわと侵食されていた。
それはただの煙や霧ではない。まるで小さな黒い虫の群れのようなものが、壁や屋根を覆い、ざわざわと蠢いている。

「瘴気だ!口を塞げ…!直接吸ってはならん!」

   セルジュが叫ぶと、俺たちや、周囲の人たちも慌てて口を覆った。セルジュは建物から出て来た兵士を捕まえて状況を聞く。

「中にまだ人はいるか!?」 
「使用人は全て逃げて、私が最後です!」
「ジュリアスはどうしたのだ?!」
「も、申し訳ありません…!ジュリアス殿下の部屋が、この建物のような状態になり…。手に負えないと、全員避難しました」
「謝らなくてよい。聡明な判断だ。ここを離れて、王城へ伝来を頼む!」
 

 セルジュの言葉に頷いた兵士は走って、王城へと向かっていった。

  入れ違いで、アートルムとアルバスの騎士服を着た一団がやって来た。国王達も一緒だ。

「ジュリアスが、瘴気に取り憑かれたと言うのは本当か?!」

 アートルムの王で、ジュリアスの父でもあるジョナはセルジュに詰め寄った。セルジュが頷くと、青ざめる。

「クリスティーナの力の喪失といい、アルバスは呪われているのではないか?セルジュ、もうここはダメだ。全軍撤退し、国境は閉鎖しろ!」

 ようやく統一への協議が進んだのに、それを白紙に戻すつもりか…?!

 無責任な、ジョナの発言にアルバスの王が噛み付いた。

「ニ国で難局を乗り越えようと話し合ったばかりではありませんか!」
「こうなっては無理だ!そもそも、アートルムにアルバスの血を入れるなど、間違いだったのだ…!」
「な…っ!ジュリアスは貴方達が望んだ結果ではありませんか…!それをなんという言い草だ!」
「だからそれが間違いだったのだ!王女のクリスティーナに至ってはセルジュをたぶらかし、アルバスというのは厄災でしかない…!しかし今、全てを捨てれば、アートルムだけでやり直せる…!」

 たぶらかした、と言われたクリスティーナの瞳には涙が盛り上がった。聞くに、耐えない話だ…。

 周囲は二人の言い争いにざわざわと騒ぎ始める。アルバスの兵士からは、不満の声が上がった。

「お止めください!」

 セルジュは二人に向かって叫んだ。騒がしかった兵士達も一斉に口をつぐむ。


「フェリクス川の流れと同じ、私達はひとつだ…」

 セルジュは、クリスティーナの前に跪き、手を握った。

「…私は二つの国を統一する。困難を共にしてくれるか?」
「セルジュ…!」
 
   クリスティーナは、大粒の涙を溢し、頷いた。

 

「…フェリクス王国が、誕生した…!」

  セルジュとクリスティーナが王と王妃となる、フェリクス建国に、立ち会ってしまった…!興奮した俺の声は少し大きかったようで、周囲の兵士たちも、『フェリクス』の名を口にする。

「フェリクス王、フェリクス王国、万歳……!」

  兵士たちからは歓声が上がった。

 ーーフェリクス王国……。セルジュは二つの国を統一する、と言っただけで、国名は言っていない。

 すると俺が『フェリクス』と、名前をつけてしまったのではないか…!?


 セルジュは歓声に応えるように立ち上がった。

「フェリクス軍、市民を避難させよ!」

  セルジュは兵士達に命令すると、ジークに向き直る。

「竜王様…、私に浄化の剣を…!あの瘴気をここから引き離します。その後、瘴気を祓ってください!」

 ジークは無言で浄化の剣を手渡し、肯定も否定もしなかった。ただ、瘴気の蠢く、建物を見つめる。


 クリスティーナは、目に溜まった涙を拭った。

「私も求婚には金の指輪がほしい。待っているから…!」

 戻って来て、と最後の言葉を聞かずに、セルジュは馬に跨った。
 
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