無表情美形が好きだと言ってきたけど、毒で死にかけてます! ~謎に溺愛してくる美形と死にかけの王子、命懸けの逃避行~

あさ田ぱん

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四章

33.約二百年前

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 記憶が戻った直後、俺は気を失ってしまったらしい。目が覚めた時…。何処にいるのかわからず、混乱した。

 石造の古い家の、古くて固い寝台に寝かされていた。窓からは日が差さず、真っ暗だ。今は、夜なのだろうか?

 立ち上がり、目を凝らして辺りを見回して驚いた。窓が暗かったのは、夜だからではなく先日森であった黒い毛玉が大量に、こちらを伺っていたからだった。

 小さな目が、星みたいに光っている。

 これ、レオと同じ『怨念』だよな?何故こんなに沢山?

 百五十年前、『怨念』だったのはファーヴと、レオを取り込んだジュリアスだが、ジュリアスはその後神官となり歴史を編纂していたと聞いた。
 きっとあの時、ジークの癒しによってレオと共に解放されたのだろう。

 ファーヴはジュリアスを愛する怨念だ。だから、ジュリアスの無事だったとすると、この世に未練はなく、消えたはずだ。

 ーーそもそも、先日の卒業試験の時、ありったけの浄化魔法を放ち、この一帯は全て浄化したはずなのに、なぜこんなに怨念が残っているのだ…?まさか、新たに生まれた、とか…?


「エリオ」
「エリオ…」

 怨念たちは、俺の名前を呼んでいる。そういえば森でも、俺の名前を呼んでいたっけ。

 俺の名前を呼んでいた怨念にちょん、と触れてみると、泡が弾けるみたいに消えてしまった。

「何なんだ、一体…。ジークは何処だろう…」

 ジークがここまで運んでくれたはずなのに、姿が見当たらない。俺はジークを探すため小屋を出た。

「あ…!ここ!」

 小屋を出ると、外に大きな門があった。かなり古くなっているが、これは…!

「竜の門…。ジークが作った門だ!」

 じゃあここは、竜の巣の中ってことだな…?ジークは何処へ行ったんだろう。まさか地底に潜ったりしていないだろうが…。

 俺はジークを探して歩いた。

 小屋の中も、そとにもいない。

 あとは…。

 俺は記憶を頼りに、山を登った。竜の巣の最奥、浄化の剣があった祠に向かった。

 山の頂上付近、祠の辺りから、黒いもこもこの毛玉が吹き出しているのが見えた。

「何だこれ…!?」

 よく見ると一つ一つ目があり、みな、涙をこぼしながら、小さく何かを言っている。

  一番手前の物言いだそうな『怨念』を手に取ってみた。すると怨念は俺の手のひらに毛をすりすりと擦り付けてくる。

 …かわいらしい。


 かわいい、と言おうとしたら、その怨念は俺をキッと睨んだ。

「エリオのバカ!大嫌い!」

 き、嫌い…!?

 こんなに、毛を擦り付けてくる癖に?しかも嫌いに『大』をつけたよ…。ちょっと、傷付いた…!

 俺が首を傾げると、もう一匹、自ら俺の手のひらに登って来た。

「どうして俺をおいていったんだ…!」

 二匹目が乗ると、三匹、四匹と次々と体に登って来て、何やら必死に訴えてくる。

「勝手に死ぬな!」
「許せない!」
「寂しかった!」
「ほぼ二百年、一人だった!」

 勝手に死ぬな、二百年も一人だった…?

 これって、俺があの時、ジュリアスに殺された後の、ジークの気持ちなのか…?

「俺の番になるのを嫌がってる!」
「贈り物も身につけないし!」
「わざと魔法をつかえないふりした!」
「それなのに俺を助けて」
「また死にかけた!」
「もう嫌だ!」
「大嫌い!」

 番になるのを嫌がっていたのは記憶がなかったからなのだが…。その後も、俺への文句が止めどなく溢れ出てくる…。

 これは、ジークの愚痴なのか?

「ねえ、お前達、みんな『ジークの怨念』だったりする?」

   怨念達は俺の問いかけに、猫が毛を逆立てるみたいに膨らんだ。

 どうやらとても、怒っているらしい…!

「ごめん……。ずっと、記憶が無かったんだ。でも海の中で思い出した。ジークひょっとして、百五十年前に取り残されたまま、ずっと一人で俺を待っててくれたの?」

 手のひらに乗った怨念を撫でると、こくりと頷いた。

 どうやら正解したようだ。その怨念はちょっと涙ぐんだ後、また弾けて消えてしまった。

 ――つまり、不満を聞いて、撫でてやると消えるってこと?

 そうか、なるほど…!

 俺は徹底的に、怨念の山となったジークの不満と向き合うことにした。それでもって沢山『なでなで』する!

「何でいつも俺の言うことを聞かないんだ!」
「俺を信じてない!」
「俺を好きじゃないんだろ!」
「俺がどんなに……」
「もうエリオなんて知らない!」
「大嫌いだ!」
「大嫌い…」

   うんうん、と不満を聞いていると、ジークの怨念の一人がぐす、としゃくりあげた。後の言葉が涙のせいで、上手く出てこないようだ。

 俺は優しく撫でながら、自分の気持ちを伝える。

「ごめん…。ジークの言い付けを破って、勝手に行動してそれでジークをずっと一人にした。浅はかな行動だった。嫌われても、仕方ないよな…。でも、ジークが俺を嫌いでも、俺はジークが大好きだよ、愛してる。昔も、生まれ変わってからも、記憶がなくてもジークが好きだった。ずっと…」

  俺が話し終えると、怨念達は次々に消えて行った。

 それでも消えない怨念は、大きな塊になって祠から飛び出し、俺の胸に一斉に飛び込んで来る…!

「エリオ、会いたかった」
「一日も忘れた日はなかった」
「何度も夢見た」
「何度も名前を呼んだ」
「でも返事はなくて」
「悲しかった」
「消えてしまったお前をずっと待っていた」
「また会えて嬉しい」
「生まれてきてくれてありがとう」
「もう離れないで」
「好きだ」

  初めは大きな塊だったそれは、黒い毛玉の怨念が少しずつ消えて行くたび、徐々に人型になって行く。

 俺は懸命に呼びかけた。

「ジーク、俺、もういなくならないよ。だから今度こそ、俺を番にしてくれよ。一緒に、生きて行きたいんだ」

 真っ黒だった塊は、砂漠の砂が舞い上がるようにサラサラと崩れていき、最後は霧が晴れるように音も立てずに消えていった。そして…元の姿をゆっくりと現す。


 現れたのは、褐色の肌に漆黒の髪、二重で少しつり気味の、夜空に煌めく星のような金色の瞳を持つ、美しい男だった。

 

「エリオ…!愛してる」
「ジーク!」


 ジークは俺を抱きしめて口付けた。

 長い口付けの後、いつの間にか流れていた、頬の涙をそっと拭う。

「エリオ、俺の番になってくれ」
「うん……。俺、そのためにまた、生まれて来た…」

 ジークは胸のポケットから、指輪を取り出した。百五十年以上前に作った、あの指輪。

 ジークは俺の指に、その指輪をはめる。それは嘘みたいに、ぴったりだった。

  ジークは指輪が嵌った、俺の薬指に口付ける。そして俺を見つめて、微笑んだ。

「誕生日おめでとう。嫌がられていると思っていたから…、勇気がなかった。遅くなってごめん…」
「遅かったのは俺だよ。百五十年以上、待っていてくれてありがとう」

 俺たちはもう一度、抱き合って口付けた。

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