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はじまり

12話 杖との契約と消えた元辺境伯

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 教会から先生の家まで戻ってきた。
 やっと俺の杖が使えるようになったんだ!早く杖を使いたい!

「ナート、まずはその杖をお主だけが使えるようにせんとな。」
「そんな事が出来るんですか?!」
「出来るぞ。まず杖に魔力を通し光ったのを確認したら、目を閉じ杖に自分と契約するようにと語りかけるんじゃ。すると自分の中に杖の分身が現れるからの、そやつに契約するように命じて<コントラート>と唱えるんじゃ。
 契約が出来たら杖が名前を教えてくれるからの、さぁやってみるのじゃ。」

 杖に魔力を通す。そして言われた通り目を閉じ杖に語りかけた。

 『俺と契約してくれ。』

 黒い角の一角ウサギが自分の中に現れた。おれはこちらを見ている一角ウサギに尋ねる。

『覚悟なくお前を殺してしまってごめんな。俺と契約してくれるか?』

 すると一角ウサギはクゥ!と一声鳴いて応えた。
 
「<コントラート>!」

『俺の名前はクロ。お前と共に歩もう。』
『ありがとう、クロ。よろしくな。』

 いつの間にかクロは自分の中から消えていた。しかし、声に出さずクロ?と呼びかけると杖が温かくなった様に感じた。

「契約できた様じゃの。
 ではお主に貸した杖を返してくれるかの?」
「あ!そうでした。ありがとうございました。
 そういえば、この杖はどうして僕も使えたんですか?契約をしてないんですか??」
「いや、契約はしておる。
 ただ人に使わせる時は<リベルタ>という解放の呪文を使うんじゃ。
 だが、杖自体が拒めば使えんがの。」
「杖ってまるで生きてるかの様ですね。」
「元々素材となった生き物が杖に宿っておる。
 それを悪霊にならぬ様に女神様に祝福を貰って契約できる様にするんじゃ。
 ただ女神様の祝福をもっても悪霊になってしまった場合は契約できぬ。」
「そうなんですね…じゃあ僕の杖にはあの一角ウサギがいるのか…」
「大事にしてやるのじゃぞ。」
「はい!」

ーしっぽ亭ー

「ジアさん、ノイテさん、お帰りなさいませ。」
「なんだよ、それ。」
「ほぼ毎日いらしてくれてるから特別なご挨拶をと思って。」
「なんだよ、まるで俺が毎日暇で此処しか来るところが無いみたいじゃないか!」
「え?でも毎日来てるじゃないですか?」
「そ、そうだけど…」
「ナート、ジアをいじめていいのは僕だけなんだけど。」
「はっ!反応が良くてつい、ごめんなさい!」
「分かってくれればいいんだ。」
「俺はわかんねぇよ!その会話納得できねぇよ!」
「なに漫才やってんだよ?早く中入れよ!」
「あれ?今日はお二人じゃないんですね?」
「残念ながらね。ナートは彼に会うの初めてだったね。彼はドルチ。
 我々パンテラ・ネグラス傭兵団の一員だが、よく色んな地域で調査をしてるから、あまりリベルダージにはいないんだよ。
 ドルチ、こちらはナート。4ヶ月くらい前にここの浜辺に倒れてた所をデアドさんが見つけて、デアドさんの養子になったんだ。因みにここに来る前の記憶がない。」
「デアドさんの養子?!ちょっといない間に色々変わっちまうんだな。
 俺はドルチ、あんまりここいらには居ないが帰ってきたら必ずデアドさんの所で食うって決めてっからよろしくな!」
「僕はナートです。遅い時間でなければいつもしっぽ亭に居ますので、よろしくお願いします!」
「ナート!料理持っててくれ!
 おっ!ドルチ帰ってきたんだな、今忙しいから後で話そう。」
「はい!」
「じゃあ、お好きな席にどうぞ。」

「ちょっと皿の数が多いんだが、持てるか?」
「フッフッフッ…今日の僕は新しい杖を手に入れて最強ですよ!」
「お前そんないきなり大丈夫なのか?!」
「練習は今までもしてましたし、この杖を手に入れてから開店前にラウラさんに教えてもらいましたからお茶の子さいさいです!<ヴェント>!…うわぁ!」
「<ヴェント>!」

 落ちそうになった料理をラウラさんが抑えてくれた。

「ナート!まだその杖に慣れてないだろ?今日は普通に手で運びな!」
「はい。すみませんでした…」
「まったく最近調子に乗るところが、うちの旦那に似てきちまったね。」
……


「デアドさんお疲れっす。ご無沙汰してます!」
「変わりなく元気そうで良かった。」
「デアドさんは大きい息子が出来て、めっちゃ変わったっすね!」
「まぁな。でも今、俺とラウラはナートが来てすごい充実してるぞ!あいつ段々俺に性格が似てきたんだよ!可愛いぞ~!」
「10歳の子を捕まえて何言ってるんですか。親バカにも程があります。確かにナートは可愛いですが。」
「だろ?女の子にもモテモテらしいからな!さすが俺の息子だ!はっはっはっ!」
「いつもこんな感じなのか?ラウラさんに対しても凄いけど、息子愛も凄くてちょっと引くよな?」
「あぁ、止めないと何時までもナートの話が続くぞ。
 デアドさん!セルト様の話を!!」
「すまない、ついナートの話が止まらなくなってしまった。それで?」
「はい、セグロの街近くに偵察をしていた者が居ましたので、その者にセグロの街に行って貰ったんですが、今の所セルト様は現れておりません。
 明日ドルチがセグロに向かいます。」
「なんでドルチなんだ?ドルチはセルト様とあまり面識がないだろ?」
「カフも同行させます。それにもしもセルト様が何かの理由で我々を避けていた場合、ドルチなら気付かれないかもしれません。」
「なるほど、ドルチには休む暇なく行って貰うことになって悪いな。」
「慣れてるから、大丈夫っす!
 ところで、セルト様ってどんな方なんすか?顔は見たことあるけど、どんな人かは噂で聞いたことしかないっす。」
「そうだったか、セルト様は昔セルト・メジオ・プロテガルという名の辺境伯だった…
 オーロス国との境目のサントスという辺境を守る貴族であり、先先代の王と共に武功を挙げた方だった。俺は辺境伯の元に新人の騎士としていたんだ。
 先先代の王が倒れ、先王のアレク様が幼くして玉座についたが、獣人に対する偏見から獣人の地位を剥奪する命令を出し、豹の獣人であったセルト様はその地位を追われ国外追放を命じられた。
 しかしセルト様は我ら獣人を率いて革命を起こす可能性があると思われ、秘密裏に命も狙われていた。追っ手から逃げ続ける中でセルト様の行方はわからなくなった。
 そしてそのままオーロス国との戦争になった。戦争も17年くらい続いた頃、セルト様がご子息と共に我らの元に戻ったのだ。
 セルト様のお陰で優位になったジャルジン国はオーロスを退ける事となったが、オーロス国の最後の攻撃で、戦争の英雄だったご子息は亡くなってしまった。
 セルト様と我らは戦場となり犠牲になったサントスの街を復興させる為走り回っていた。
 10年くらい経ちサントスも昔の賑わいを取り戻せた頃、先王のアレク様が獣人差別の責をとって退位される少し前にセルト様は姿を消してしまった。
 先王アレク様はセルト様の辺境伯への復帰を願ってたんだが、いくら探しても見つからないまま今に至るというわけだ。」
「なんだか壮大な話っすね…しかし今の話を聞いていても、セルト様が姿を消す理由がまるで分からないっす。」
「だから7年経っても見つからないんじゃないか!」
「苛立つなジア。歯がゆい想いは皆同じだ!」
「ノイテ…すまない。」
「とりあえず、頑張てくるっす!」
「あぁ、やっと掴んだ手掛かりだ!頼んだぞ!!」
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