異世界に渡ったら獣人だった!

小猫田猫助

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はじまり

26話 どうしようもない事

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 俺はセギドに言われた言葉がショックで傷付き、初めて味わったどうしようもない理不尽さに苛立っていた。
 日本に生まれた俺は人種差別なんて身近になくて、テレビのニュースでは黒人と白人がいがみ合っていたけど、それはテレビの向こう側の話でしかなかった。
 こちらに来て初めて身近にいる大事な人達、デアドさんや傭兵団、友達に対しての差別は腹立たしかったが俺にではなかったから、当人のどうしようもない腹立たしさなんて分かっていなかったのだ。
 俺はただ獣人というだけで嫌われ、罪を被せられそうになったのか…初めて感じた俺への差別…なんて理不尽なんだろう…俺が何かした?獣臭い?怖い?別に何も悪い事してないのにな…
 そういえば…どうして俺は獣化したんだろう?
……


 シスターはセギドと話した後、祭壇で跪いて祈りを捧げている。それを見ていた者は、シスターは自分の犯した罪を後悔して懺悔している、きっとシスターは脅されて仲間にさせられたに違い無いと思った。
 本来犯人の仲間であれば即拘束するのだが、シスターの祈る姿を見て、警備隊や傭兵団は神に祈る時間を特別に許し、離れた所で見守っている。

「<ヴェント>」
「うわぁ?!!!」

 突然、俺の身体は風に攫われ祭壇のシスターの前に降ろされた!
 先程までの事件は全て解決し終わったという雰囲気が、シスターの突然の行動で一変した。

「ナート!ナートに何をするつもりだ?!」
「私は聞きたい事があるのです。」
「聞きたい事?」
「私は神様を信じ、神様にお仕えする道を選んできました。神様は偉大で何かあれば必ずお救いくださると信じて。
 しかし…今までどんなに無情な事があろうとも誰にも手を差し伸べず、神様がお救いになる事はなかった…。
 確かにそこにいらっしゃって祝福を授けてくださるのに、お救い下さらない!
 こんなに誠心誠意お仕え申し上げてきた私も、お救い下さらなかった…。
 少し前、貴方に祝福を授ける儀式があった際、儀式が終わった後に貴方だけは他の者と反応が少し違っていた…何があった?女神様と何を話した?」

 シスターは俺の肩を痛い程掴み聞いてきた。
 …まさか異世界に来てしまったけど帰れますか?と聞いていたなんて言えない…

「…。僕は此処に流れ着いた。だから、元の場所へ帰れるかと聞いただけです。
 しかし女神様は『神には神の理があり、人には人の理がある。理から外れた事が起きても、基本干渉する事はない』と。」
「クッ…ハッハッハッ!
 何が起きても干渉しないとおっしゃったか!
 確かに先程までこの教会の中で何人死のうとも姿を現してさえ下さらない…
 では何の罪も無い者が女神様の所為で死ぬとしても干渉しないという事か!」
「…?」
「貴方には申し訳ありません…どうぞ私と女神を恨んでください。」

 そう言ってシスターは剣を俺に向かって振り下ろした!俺は咄嗟に後ろに下がって避けたつもりだったが、後ろにも魔法を使って短剣を構えていたらしく腰辺りに深く突き刺さった。

「うっ?!…」
「ナート?!ナート!!」

 俺は腰から血を流しその場に崩れ落ちた。床に血が広がっていくのが見える…デアドさんが俺を呼びながら走って来る。
 さっきの差別以上の理不尽な出来事に俺は嘆く事しか出来ないのか…死に向かって恐ろしくゆっくりと時が流れている…死を覚悟していると突然床が光始めた。
 でも倒れている俺には何が起きたか分からなかった。分からないまま、俺は目を閉じた。

 床がひかり教会の中も青い光に包まれると、ナートの側に青く輝く女神様が現れた。

「女神様やっといらっしゃいましたか!
 貴方の所為でこの子は死ぬのです。何の罪もなく巻き込まれて死にそうな彼をお助けください。
 それともやはりお助けにならないのですか?」
「…この者が死ぬとしたら、それはお前の所為であって我の所為ではない。」
「そうやって目の前の助かる者でさえ、やっぱりお救いにならないのですね…
 献身的に貴方にお仕えして来た私がどんなに願っても、あの人を救って下さらなかったみたいに!
 …今目の前にまだ助かる命さえもお救いにならないなら、神は何の為にいるんですか?!
 ただ杖に祝福を授けてくださるだけの存在ならば、無くなってしまえばいい!!!!」

 そう叫ぶと光輝く短剣を懐から出して女神に向かって突き刺した!しかし、女神に突き刺すどころか触れることさえ出来なかった。

「何で…何で刺さらないのよ?!神龍にさえ刺さったと言われる聖剣なのに!なんでっ!!」
「我はこの世界の理とは違う理にいる者。
 そなたらを救う事も罰を与える事も出来ぬ。
 ただそなたらに祝福を与え見守るだけの存在。故に我を殺める事も出来ぬ。」
「なっ…何それ…私…何のために…今まで神に仕えて来たの?何も出来ないなんて…
 復讐さえも叶わないのに人まで殺して…」
「… … …。
 まだその者は助かる。お前に贖罪の機会として魔力を授けよう。お前の力が尽きるまで、その者に回復魔法を掛ければ助かるかもしれぬ。我がお前に出来る事は此処まで…少し干渉をし過ぎた。
 そうじゃ、その子に巻き込んでしまった詫びとして目が覚めたならこう伝えよ。
 そなたらはどちらにも繋がっている旅人だと。」

 そう言うと女神様は消えてしまった。辺りの青い光が消えると、先程まで女神様がいた辺りに血を流し倒れているナートの姿が皆んなの目に入って来た。

「ナート?!おい!しっかりしろナート!!
 シスター頼む、さっき女神様が言っていただろ?シスター貴方ならナートを救えると!」
「私が救う?…私が命を…救わなければ!!
 魔力を女神様にいただいたのですから必ず救います!誰か回復魔法で傷を塞いでください!
 私は命を繋ぎとめる為の力を回復魔法で掛け続けます!」
「私が傷を塞ごう!」
……


 俺は青い光の中にいた。何となくあっちに川がある気がする。川だと思って近づくと、川ではなく星屑の集まりだった。
 向こう側に行ってみたいような行きたくないような気がしていると星屑の上に綺麗な帯の様な生地で出来た橋が架かった。渡ろうと脚を乗せると沈みかけて慌てて戻る。すると帯の橋はなくなり、向こうから声が聞こえた。

『君がこちらに来るのはまだ早い。
 帯の橋が渡れるようになっていないのは、まだ君が来る場所ではない証拠。
 ほら君を必要だと呼んでいるよ。戻りなさい。
 さようなら、またいつか来るその時まで。』

 僕は言われたように呼ばれている声に気がついた。呼ばれた方に振り返る時少し先の川に帯の橋を渡っているイジオタに気がついた。彼を呼ぶと僕に気が付き声を上げてこう言った。

『お前は戻れ!俺は先に行ってる!向こうでお前が来た時に友達になりたいと思われるような人に変わってるよ!
 だからその時は友達になってくれ!
 あと母と弟に伝えてくれ、愛してると!』
『わかった伝える!
 いつか友達になれる日まで、さようなら未来の友よ!』

 俺の前に見えていた筈のイジオタも星屑の川もいつの間にか消え、また青い光の中にいる。
 今度は黒いウサギが俺を待っていた。

『クロ?』
『俺を殺しておいて、そう簡単に死なないでくれよ。ほら帰ろう。』

 クロが俺を案内するかの様に前を跳ねて行った。
……


 俺が薄っすら目を開けるとデアドさん、ラウラさん、ガズ、トール、ルシーナ、友達の家族、うちの店に食べに来てくれる傭兵団のお客さん、皆んなが俺に呼びかけてくれていた。
 いつの間にか先生まで駆けつけてくれていたらしく、回復魔法を掛け続けてくれている。
 そして俺を刺したシスターも必死に回復魔法を掛けていた。
 あぁ…いつの間にか此処はこんなにも俺の居場所になっていたんだ。

「皆んな…ありがとう…」
……
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