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4話
素直は時として仇となる
しおりを挟む再び、沈黙が場を支配する。
重苦しさを感じないのは、沈黙の発生源が弥勒であるからか。ただ無言の空間ができあがっただけである。弥勒は、男ーー政宗としよう。男の自己紹介以降、ごっそりと表情が抜け落ち、口を真一文字に結んでいた。
しかし、その目だけはジロジロと不躾なまでに政宗を観察している。つま先から頭の天辺まで何度も往復させながら。弥勒は政宗の言葉に動揺していた。え?こいつが伊達政宗であの墓の持ち主の伊達政宗?つまりどういうことですの?なんて弥勒がお嬢様化してしまう程に。
そこでふと閃いた。あ、もしかして伊達家の子孫なのでは?と。先祖から名前を取ることなんてザラだし、海外じゃミドルネームに祖父母の名前入ってたりするもんな、と。弥勒は久々に自分の頭が冴えていることを実感した。だとしたらこの政宗は相当な言葉足らずになってしまうが、弥勒は自分にとって都合の良い解釈が正しいと信じている。むしろ信じていたいらしい。
「もしかして伊達政宗の子孫とか?」
「いいや?俺が正真正銘の独眼竜だが」
しかし、弥勒の希望に満ちた問いかけは無惨に散った。レスポンスが早く、本人が至極当然とばかりに答えるため弥勒はどうすりゃいいんだ、と頭を抱えたくなる。
おいおい、こりゃあ俺の手に負えねーわ、なんて語尾に(笑)が付きそうな内心をひた隠しにしつつ、弥勒は真剣な表情で政宗を見つめた。友人たちはこう言うだろう、「こういう時のこいつはろくなこと考えちゃいねえ」と。
「つまり御本人と」
「最初からそう言ってるぜ」
「じゃあなぜ生きてるんで?」
「転生したからだな」
三度目の沈黙。弥勒の目に住まうハイライトは家出したのか、死んだ目をしている。
そうして、どれほど経ったのか。おそらく数十秒ほどしか経っていないだろうが、弥勒は躊躇いながら、信じられないと言いたげな声音でもって、こう言った。
「あ、えと、あの…もしかして厨二びょーー」
しかし、その言葉が続くことはなかった。
弥勒が口を開くのと同時に、弥勒の言わんとすることがわかったのか、はたまた元々短気な質なのだろうか、政宗が動き出したからだ。
「とりあえず寝とけ」
「ンゴブフォッ!?」
腹痛が治まったばかりの腹へ、意識を刈り取る威力を持った拳が叩き込まれた。
弥勒は、聞いたことのないとても不細工な声を上げてガックリと脱力する。おそらく気絶したのだろう。
政宗は、手慣れた様子でひょいと弥勒を担ぎ上げる。これまた、腹部に方肩が食い込むので、弥勒は後でまた腹痛に悩まされることは想像に容易かった。
素直なのが仇となった瞬間である。
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