56億7千万年

シキ

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第8話

続々

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「…朝や」


障子から差し込まれる淡い光を合図に、弥勒はうっすらと目を開いた。蝋燭も消えており、磨りガラスから見える外の景色は空一色だ。昨夜は気づかなかったが、高層階に位置しているらしい。
しょぼしょぼとする目を押さえ、よっこらせと起き上がる。掛け時計は8時を指していた。

しっかりと睡眠を取ったからか、気分はどことなく清々しい。昨日は強制的な睡眠であったため、睡眠欲に従ったままとるのは格別なのだと思った。
未だ混乱している頭を叩きながら、ぐぐっと伸びをする。きっと、今日話しを聞いても取り乱したりはしないはずだ。

すると、近づいてくる足音。


「弥勒様、おはようございます。朝餉の時刻となりましたので、ご案内いたします。」
「あ、ども…」


お手伝いさん、基女中であろう女性がそう言って微笑んだ。昨日の少女ではなく少し残念だが、仕方ない。足音はしたし、障子を開ける際もスパンと勢いよく開けてきた。お陰でお目々はパッチパチだ。
あの三人より少しばかり派手なメイクをしているのか、朝から御苦労なことだなと思いながら、弥勒は案内に従った。


案内された先は、障子や襖が一切無い開放感のある一室、いや空間だった。人気はなく、道中すれ違っていた女中や男性陣はいない。しかし、やはりというべきか、政宗と小十郎、そして安が揃っていた。
三人はこちらの足音で気づいたのか、顔を上げる。ひらひらと手を振る政宗は、弥勒と案内人である女性を見て、少し眉を顰めた。小十郎は困ったように首を傾げ、安はわかりやすく顔を顰めている。

なになにどしたん?嫌なもん見たみたいな反応やんか。
弥勒は不思議に思いながら、近寄ってきた安に目で問いかけた。


「おはようございます、弥勒殿。よく眠れたようで何より」
「腹も痛くないんで目覚めもサイコーですわ」
「調子も戻ったようですね」


未だ政宗の所業を根に持っている弥勒の言葉に、安は白々しくそう答えた。そして、弥勒の隣で頬を染めて笑んでいる女性へ目を移す。心なしか、その目線は冷たい。ビームが出るなら人を氷漬けにするだろうと思わせる温度だ。


「もう結構です。持ち場にもどりなさい。」
「……はい。それでは弥勒様、失礼いたします。」
「うっす。ありがとーございました」


ぺっこりと一礼した弥勒に、小さく手を振った女性。え、めっちゃフレンドリー。
そのまま機嫌良さそうに立ち去る後ろ姿を見送った後、三人に目を向ける。どうやら、あの女性はあまり好かれてないようだと弥勒は思った。


「あいつに案内頼んだのか?」
「まさか。私も驚いていますよ。彼女の持ち場は全く違うはずなのですが…」


コソコソと話す政宗と小十郎を無視し、安は弥勒の分の膳を置いた。
そうして、安に席につかされ、弥勒は昨日と同じ位置で向き合う。
日を跨いだからか、再び信じられないようなことを聞かされても平常運転で臨める気がした。

まあ、あの女性についても聞いてみたいところだが。
三人が変な反応をする理由はなんだろうか、と弥勒は疑問に思った。


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