男の子たちの変態的な日常

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159 変態トレイン〜後編〜

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「なんで、こんな痴漢の手なんかで……」

 絶対に認めたくないことだが、僕の身体は素直に反応してしまっていた。
 まるでリョウとセックスしている時のような快感に襲われ、下半身は熱を帯びてじんじんと疼き始め、お腹の底の温度も徐々に熱く、大きくなってきている。

「こ、これ以上は……ひッ!」

 不気味な職種めいた指は、僕の戸惑いも知らぬ気にさらにデニムの裾からもぞもぞと潜り込んで直接お尻の感触を味わおうとし始める。
 その感触が這い回り始めると、また僕の下半身に力の抜けるような熱い痺れが響き渡った。
 ふと目の前のドアのガラスに気づくと、わずかに映り込んだ自分の顔はまぎれもない悦楽に上気している。目は潤み、唇は半開きで熱い吐息をついて、まるで恋人の愛撫に身を委ねているような表情だった。
 脚から力が抜けかかって、引き締まった太腿が頼りなくかくかくと震えてしまう。
 快楽の波は上半身にまで及んでいて、乳首がぷくっと尖っているのがはっきり分かった。
 泣き出したくなるくらい頼りない気持ちで、僕は心に浮かぶリョウの面影に呼びかける。

「リョウッ……!」
「なんだ、アキラ♡」

 ところが、堪えきれずに唇からこぼれてしまったその名前に、思いがけないほど近くから応答があった。

「え?」

 ぎ、ぎ、ぎ……と、人形のようにぎこちなく、僕はその声の源――そして、先ほどから自分のお尻をいやらしくなで回している手のある方へと向ける。
 見慣れた顔の旦那が、爽やかな笑顔を浮かべてはにかんでいた。

「アキラ、どうしたんだぁ~? 顔が真っ赤じゃないか、可愛いヤツめ♡」
「どうしたんだぁ、じゃないよッ! リョウったら、何してんのッ⁉︎」

 何事もないかのように囁いてくるリョウのとぼけた声に、ほとんど切れかかりながら僕は答える。ただ、かろうじて声のボリュームを抑える程度の分別は残っていた。

「実は、さっき人の流れに押されて、アキラの真後ろに回ったんだが、そしたら、アキラのお尻がこう、俺を誘うようにぷるんと突き出されてて。それを見ているうちに、どうしても我慢できなくなっちまってなぁ~♡ もしかして本音では俺に痴漢してほしかったのかぁ~?」

 言いながら、まだ僕のお尻に当てられたままだった掌が再び微妙に蠢き始める。
 ずくん、と下腹のさらに下、恥ずかしい割れ目の奥に痺れが走って、僕は思わず熱い吐息の塊をこぼした。

「もう、リョウったらバカなの⁉︎ 猿なの⁉︎ 何しにここに来てるのか、もう忘れちゃったの⁉︎ この変態ッ!」

 罵りながらも、僕は腰が微妙にくいくいと動き始めるのを感じる。自分のお尻を、快感の神経を揉みほぐしていた手が、見知らぬ痴漢ではない、肌を幾度となく委ねたリョウのものであると分かった途端に、勝手に安心して気持ちよくなろうとしているようだった。

「そういえば、前にもこんなことあったっけ……」

 ふと僕は昔(第10話参照)のことを思い出してしまった。
 見境がないにもほどがあるリョウのエッチ過ぎる狼藉と、何よりも自分の身体の快楽に対するだらしなさに泣きそうになりながら僕は姿勢を変えようとはかない抵抗を続ける。
 それでも、先ほどまでのどうしようもない心細さはすっかり消え去って、夢中で僕のお尻を弄り続けるリョウに腹を立てつつ、「もう、仕方ないなぁ~♡」と子供をじゃれつかせる母親のような気持ちで受け入れていく。
 裾から入り込んだ指が、秘所に近い内腿の敏感な部分をそろりと撫でる。

「あッ、そこ、らめぇ! 声が出ちゃうから~♡」

 上向いた頰を艶めかしく上気させ、わずかに開いた唇から熱い呼気を断続的に吐き出しながら、僕は薄布に包まれた肢体がびくびくと跳ねてしまいそうになるのを懸命に抑えた。

「なるほど、痴漢の心理はだいたい分かった。よ~し、いい作戦が思いついたぞ」

 リョウの考えた作戦というのは、つまりは痴漢を誘い出すというものだった。
 車両の隅に、背中に1人分入れるくらいの空間を残した僕が立って、そこに至る道をリョウが監視する。不自然に僕の後ろ側に回り込もうとする男がいたら、それがいつもの痴漢である可能性が高いということらしい。

「いくらリョウが痴漢とよく似た思考回路をしているからといって、そんなにうまくいくかな……」
「そこまでだ、この痴漢野郎ッ! ――ほら、アキラ、捕まえたぜ。俺の言った通りだったろ~♡」

 ぶつぶつ呟く僕の声を遮るように、その時リョウの低い声がはっきりと僕の耳に届いてくる。慌てて声がした方を見ると、僕の後ろに立つ中年男の手首を捕まえたリョウが先ほどまでのお気楽な表情からは想像できないほどに鋭い目つきで痴漢を睨みつけていた。


ーーー


「これで一件落着! めでたし、めでたしだなぁ~♡」

 痴漢問題を無事解決してくれたリョウは、自分の目論見がまんまと当たったことに、はしゃぎっぱなしだった。
 僕は半ば呆れていたが、表情には安堵と嬉しさを隠せないでいた。

「アキラ~、帰ったら電車の中でやった続きをしようなぁ♡」

 そう言うと、リョウは股間の熱い塊を僕のお尻に当ててくる。

「も~う、やれやれ……こんなにも身近に痴漢よりも変態なのがいると夜も落ち着いて寝られやしないんだから♡」

 家に帰ると、僕はリョウに朝まで全身を舐めまわすように痴漢の限りを尽くされるのだった。
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