男だらけの変態異世界冒険譚

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クェーサーΩ編

60 修行の成果〜前編〜

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 家族で修行の旅に出かけていた僕は家の様子を見に1人で住んでいた村に戻ると、そこは墓地よりもさらに陰気に静まりかえっていた。厳密に言えば、もはやそこは村でさえなかった。完膚なきまでに破壊されて、住む人間がただのひとりもいなかった。
 僕は廃屋のひとつを覗きこみ、そこに人気がないことを確認すると、悲しげに瞼を伏せ、道に戻って歩き始めた。
 風が吹いた。冷風は廃屋の間を吹き抜け、僕の腰に吊られた細身の剣が風を切って鳴った。
 僕にはその音が、死んだ村人たちの悲鳴のように聞こえた。
 鳴滝がこの世界に来てからというもの、僕はヒビキと一緒に2ヶ月間修行三昧の日々を送っていた。
 2ヶ月前、ヒビキが鳴滝との邂逅を果たした一週間後――。
 僕たちの村はクェーサーΩを使用して開発されたパワードスーツに身を包んだ鳴滝率いる軍勢に襲われた。彼らは戦闘のプロで、戦う術を持たない平和主義な村人たちは一方的に蹂躙された。村人はひたすら逃げまわり、無残に殺され、凌辱された。家という家には火が放たれ、村は紅蓮の炎に包まれた。
 ヒビキが気づいた時には、殺戮はあらかた終わっていたが、それでも何人かの敵がうろついていた。
 怒りを爆発させたヒビキは、炎に照らされた目抜き通りを駆け抜け、手当たりしだいに敵を惨殺した。
 だが、結局それも掉尾の勇にすぎなかった。村はもはや回復不可能なまでに破壊されつくしていたのだ。
 自責の念に駆られたヒビキは、戦力を強化した鳴滝をこの世から葬り去るための修行に勤しんでいた。僕も何もしないではいられなくなり、毎日こうしてかつての村を見回っている。
 僕はふと、かすかな殺気を感じて顔をあげた。村はずれからミントが飛んでくる。

「……ミント? なんだか久しぶりの登場だね」
「本当に久しぶりだね、ミライ~♡ そうそう、向こうから怪しい男が来てるよ」

 それを聞いて、僕は胸甲を胸に装着した。
 最後に兜をかぶり、愛馬であるスカーレットにまたがる。
 そのまま、ミントを引き連れて村の目抜き通りへ愛馬を走らせた。
 家具や板切れでつくった即席のバリケードに影に、僕とミントは隠れた。

「侵入者は?」

 僕が質すと、ミントが通りの向こうを指差した。

「村の入口で動かないみたいだね。たぶん、こちらの様子を窺っているんじゃないかなぁ」

 僕は首をのばして敵の姿を遠望した。
 村への入口の道を、黒い馬にまたがった騎士が悠々と闊歩している。黒い甲冑に黒いマントを羽織った、全身黒ずくめの姿だ。
 僕は武者震い……ではなく、恐怖で身体がブルブルと震えてしまう。
 僕は兜のバイザーをパタンと倒した。すかさずランスを手に取る。

「ヒビキとの修行で僕はちょっとだけだけど、強くなったような気がするんだ。だから、ミントは見てて。でも、僕がヤバそうになったら、すぐに助けに来てね♡」
「なるほど、分かったよ♡ どうせ、すぐに助けが必要になるだろうけどさwww」
「も~う、ミントったら! こうなったら僕の成長ぶりを見せつけてやるぅ~」

 そう言い残すと、僕はランスを抱え、馬腹を蹴った。
 僕は目抜き通りに躍り出た。通りは、昨晩降った雨にもかかわらず白く乾いていて、スカーレットが歩みを進めるたびに馬蹄が乾いた音を立てた。
 漆黒の騎士も僕の出現に気づいたようだ。手綱を捌いて、黒駒の馬首を僕に向ける。
 僕はゆっくりと黒い騎士に近づいていった。
 騎士の馬は、遠目にも馬体のある軍用の大型種だと知れた。脚は節くれだって太く、艶光りした体は分厚い岩石のように見える。
 黒い騎士は悠揚迫らぬ態度で僕を待っていた。馬も落ちつきはらって鬣ひとつ動かさない。騎士も馬もそうとう戦い慣れしているように見えた。
 だが、僕は臆することなく、馬を進ませた。逃げても問題は解決しないし、こちら側が戦う意志を見せれば敵は退くかもしれない。
 僕は馬をとめた。村の中心をつらぬく目抜き通りで、10メートルほどの距離を隔てて2騎の人馬が向かい合う。
 黒い騎士は兜を深々とかぶっていた。表情はまったく窺えないが、刺すような視線は痛いほど感じられる。
 僕はブンッとランスを振り降ろした。

「ここは我が神より預かりし神聖なる土地。用なき者の立ち入りは許さぬ! 早々に立ち去れッ!」

 いきなりのはったりで一般的な野盗ならそれなりの反応を示すはずだと思ったのだが、黒い騎士は何の反応も示さない。身構えているわけでなし、呆けているわけでもなし、実にゆったりと、小癪なほどの落ち着きぶりで馬にまたがっていた。
 僕は焦れた。

「こ、答えろッ! 去らないんだったら、僕と戦っちゃうことになったり、ならなかったり……するぞッ!」

 黒い騎士はしばらく沈黙していたが、やがて低い笑い声を立て始めた。

「き、貴様ッ! ぼ、僕は見かけによらず結構強かったりしないこともなくもないんだぞ!」

 僕は再びランスを振り降ろした。
 黒い騎士は答えた。

「ならば実力で、このオレ様を止めてみな。それが出来れば、退いてやっても構わん。まあ、どうせ無理だろうがなwww」

 低く篭もったような嘲笑する声で黒い騎士は僕を挑発した。
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