三度目のはじめまして

一色一恵

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ガタンゴトンガタンゴトン

次は、渋谷、渋谷です。お乗り換えのお客様は…

 
「んん…」

次の停車駅を知らせる車内アナウンスで目を覚ます。

(ああ、夢か…。)

結局、彼は名前を知ることも、言葉を交わすこともなく、奏が高校2年生になると、あの電車からいなくなった。

あの席にいたんだよね、と彼がいつもいた席に目をやる。
その席にはもちろん、紺色の制服に身を包んだ彼はいない。

そこに座っていたのは、スーツ姿の、身長は175cmくらい、爽やかな黒髪がサラサラしていて、右目はぱっちり二重だけど左目は…

まさか、と思った瞬間に、電車は渋谷駅に到着し、斜め後ろのドアが開く。
車内は多くの人が席を立ち、降りて行く人と乗って来る人でごった返した。

あ、私も降りなきゃ。
乗車を待つホームの人にに少し会釈をしながら早足で電車を降りた。

でも、今のは絶対…。
パッと電車を振り返る。
あの席を確認したが、もう彼はいなかった。


「あの、僕に何か」

声がする方に振り向くと、そこにはさっきまで座っていた彼が不思議そうな顔をして、奏を少し見下ろしていた。


二人の周りは、足早に動く人の波。
目の前には、あの頃の初恋の、名前も知らない彼が奏の目をじっと見つめる。

「あ、あの。昔、高校の時、京都にいました…よね」

「京都?いや、横浜ですけど」


え…。
そう少し冷たく言い放った彼は、愛想はないが、嘘をついている様子もない。


「あ、そう、ですよね。すみません、人違いでした」

恥ずかしさに負けて、ぺこっと彼の方に一礼すると、奏は改札の方に走って行った。

 
奏は、渋谷店に無事書類を届け、自分の店舗へと引き返す。

「そうだよね、そんな偶然あるわけがない」

人は思い出を美化する生き物だ。

もう23歳。
高校時代の名前も知らない、話したこともない初恋の思い出に縋るのはやめよう。

奏は、思い出を胸に閉じ込め、現実の世界に帰って行った。
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