13 / 20
第13話 男性って……
しおりを挟む
「中野さん……」
昼休みに入ると、高山課長から声がかかった。
もしかして、今日の私が、ボーッと、しているのを見つかってしまったのかも……。
昨日、家にたどり着き、シャワーに入るときも、布団に入ってからも、慎也とのキスが思い出されていた。
そして、今朝起きて、会社に出勤したあとも、ほんのささいな切っ掛けで、あの柔らかい唇の感触が甦るのだ。
慎也からの定時メールには、そのことは触れられていなかった。
「昨日はお疲れさまでした。
美香さんは無事にお帰りになりましたか?
川田さんが、心配してメールをくれました。
お暇なときに、教えて下さい」
私は、キスに浮かれていたことを反省し、すぐに返信した。
「無事に帰りました。
家のすぐ側まで送りました。
昨日、報告すれば良かったですね。
川田さんには、ご心配おかけしましたとお伝え下さい」
美香から川田さんのことを聞いて欲しいと言われたことを思い出してはいたが、それは夜にでも改めて聞こうと思った。
「はい、課長……。お呼びでしょうか?」
「あの件、どうなったの?」
「あ、友人の件ですか?」
「そうよ。確か、昨日だったでしょう?」
「ええ……」
「私、気になっていたのよ。中野さんが凄く心配していたから……」
「あの、御陰様で……」
「そう、何とかなったのね。良かったわ」
そうだ……。
高山課長に報告をするのを忘れていた。
親身になって話を聞いて下さったのに、浮かれて報告もしないなんて……。
「あ、あの……。よろしかったら、お昼でも食べながら何があったかお話したいのですが……」
「あら、私に話しをしても大丈夫なのね。うーん、そうね。ちょっと、昼休みは難しいわ」
「そうですか。すみません……、勝手なことを言いまして」
「そうそう、今晩はどう?」
「私は構いませんが……」
「ちょうど今日、息子が友達の家で勉強をするとかで、遅くなるのよ」
「……、……」
「まあ、何の勉強をしているのやら……、とも思うけど、ご飯も食べてくるって言っていたわ」
「では、仕事が終わったあとにお願いできますか?」
「了解……。じゃあ、私、ちょっと出掛けてくるわね」
高山課長はそう言うと、ファイルの束を持って席を立った。
きっと、これから偉い人に業務報告でもするのだろう。
颯爽と課を出て行くその後ろ姿は、高山課長が仕事の出来る女性であることを如実に顕わしていた。
「えっ? 23歳なの?」
何処から話して良いのか分らず、とりあえず、美香から合コンに誘われ、慎也と付き合いだしたことを話した。
高山課長は、私にずっと彼氏がいなかったのを知っている。
それだけに、若く真面目な彼と紹介したら、ことのほか喜んでくれた。
高山課長が私を連れて行ってくれたのは、会社から少し離れた焼鳥屋であった。
私が焼鳥好きなのを知っていて、選んでくれたようだ。
……と言うか、私、どれだけ焼鳥好きだと思われているんだろう?
本来なら、慎也のことも伏せて話をしたかった。
いくら話す相手が高山課長とは言え、干支一回り下の彼が初めて付き合う人だと言うのは、気恥ずかしいから。
しかし、慎也を説明しなかったら、高梨さんや川田さんの話はしようがない。
知り合いの知り合い……、とかで誤魔化せるレベルではない、非常に特徴的で専門知識のある方々だし、そこを説明しないとどうやって解決したか説明出来ないから。
……と言う成り行きで、致し方なく慎也との馴れ初めから話し始めたのであった。
「中野さん、結構、面食いそうだから、その慎也君はカッコイイ人なんでしょう?」
「あ、その……。はい」
「あら、若くて、格好良くて、真面目で、優しくて、頼りにもなっちゃうの? ちょっと、聞き捨てならないわね、独り身の私としては……」
「か、課長……」
高山課長は、私をからかうように、笑いながら話す。
ただ、からかわれて嫌な気持ちかと言うと、そうでもない。
相変わらず気恥ずかしいのだが、何となく、その恥ずかしさが心地良い気もする。
「私、高山課長以外に相談をする人が思いつかなかったので、慎也に相談したんです。美香に了解をとって……」
「そうね。私に相談しただけでは、どうにもならなかったわね。それで、彼が何とかしてくれたの?」
「あ、いえ……。そうではないのです」
「……、……」
「慎也が、フィナンシャルプランナーの知り合いがいると言うので、その人に助力を仰ぎました」
「あら、そんな心強い知り合いがいるなんて、慎也君、やるじゃない」
「ええ、本当に助かったと思いました。ただ……」
「ただ……?」
「その方は、元はサラ金の店長をやっていたとかって話を聞いていたので、てっきり男性だと思っていたのです」
「……、……」
「でも、待ち合わせ場所に来たのが、女性の格好をした人で……」
「えっ? じゃあ、慎也君の元カノってこと?」
「私もそれを疑ったのですが、実際にはもっとことが複雑で……」
「な、何々?」
「その方、元男性の、オカマの人だったんです」
「えーーーーっ!」
それは、高山課長だって驚くだろうなあ……。
私も、信じられない展開だったし……。
高山課長は、話に興味を持ったのか、向かいの席から乗り出すようにして話を聞いている。
そして、
「ちょっと待って……」
と、私が話すのを止めると、生ビールをグッと一息で空け、オカワリを注文した。
「そのオカマの方は、高梨さんと言って、歳は50代半ばって感じなんです」
「うんうん……、それで?」
「慎也も高梨さんも、性的な関係とかではないと説明していましたし、多分それは間違いなさそうです」
「ああ、それは良かったわね。彼をオカマと取り合ったりするって、女性としては厳しいから……」
「……、……」
「それで?」
「高梨さんに、美香の件を話しました。そうしたら、HPの数字なんかは、問題がないと……。それに、資本金も今は3000万円でもおかしくはないと言われました」
「えっ? それなら、その東和アソシエイトはちゃんとした会社ってこと?」
「それが、そうでもない……、と。今の時期に太陽光発電で投資を募るのは、明らかにおかしい……、って」
「ああ、なるほど。一時期ほど太陽光発電って聞かなくなったものね」
「そうらしいんです。ただ、高梨さんが仰るには、自分では、解決出来ない……、って」
「えっ? 高梨さんが解決してくれたんじゃないの?」
「はい……。高梨さんが、更に川田さんって方を喚んで下さいまして……」
「その、川田さんって人は、何をしている人?」
「それが、分らないんです」
「分らない?」
「はい……」
高山課長は、更に興が乗ってきたのか、串盛りの追加を頼んだ。
高山課長は、普段から、飲んでも陽気で気持ちの良いお酒の飲み方をする人だが、今日は殊更にお酒が進むようだ。
結論が分っていると言う安心感もあるのかもしれないが、とにかく、
「面白い……」
と言いながら、私に話の続きをねだるのだった。
「そう……。川田さんは結婚詐欺って言ったのね」
「はい……」
「言われてみれば、納得だわ。投資詐欺にしては、美香さんってあまり良いターゲットとは言えなそうですものね」
「そうなんです」
「でも、何も知らされてなかったんでしょう? その川田さんって人は」
「ええ……」
「それなのに、すぐに分っちゃうって凄いわね」
「ええ……。そうなんですが、実は、川田さんは更に凄くて……」
「何々?」
「解決も、結局、川田さんがしてくれたんです」
「……と言うか、中野さん。あなた、話し方が旨いわね。私、もうすっかり話に夢中なんだけど」
「うふふ……。いえ、これは、話の方がちょっとビックリするくらい出来すぎの話なので……。私のせいではないです」
「それもあるけど……。まあ、それで?」
「川田さんは、当日、同席して下さいまして……」
「……、……」
「自分は県会議員秘書で、2億投資したいって言いだしたんです」
「えっ、さっき、何をやってる人か分らないって、言ってなかった?」
「はい……」
「あ、ハッタリを言ったのね?」
「あ、いえ……。それがそうでもないんです」
「どういうこと?」
「あとで教えてもらったのですが、県議事務所の鍵を預かっていて、県会議員の名前を出しても良い了解もとっていたそうです」
「じゃあ、秘書ではないけど県議とは親しい間柄で、本当に2億円も出せたってこと?」
「そのようです」
「それって、堅気の人?」
「さあ……。ただ、政治運動で県議さんとは知り合ったって言っていましたから、いわゆる非合法の人ではないようです」
「でも、相手の結婚詐欺師は驚いたんじゃない? いきなり、県議だ、2億だと言われたんだから」
「はい……。ですので、向こうから、枠が埋まったのでもう投資は出来ない……、って断られました」
「あはは……、そうよね。そんなに大きく投資をするのでは、きっと、いっぱい調べられそうだものね」
「ええ……」
「それで一件落着ってわけね?」
「あ、それが、そのあと美香のケアを高梨さんと川田さんがやって下さって……」
「ああ、騙されそうになったんですものね」
「美香が居酒屋で酔って寝てしまいまして、大変だったんですけど、とりあえず終電で帰しました」
「そのあと、詐欺師達は何も言って来ないかしら? 美香さんに」
「川田さんによると、同じ詐欺師は二度と来ないそうです。でも、他の詐欺師が来る可能性があるので、気をつけるように美香は言われていました」
「何から何まで心得てるってことね、川田さんは」
「そのようです」
話が一段落つくと、高山課長は、私に焼鳥を勧めてくれた。
勧められた私は、好物の砂肝に手をだす。
高山課長がわざわざ連れてきて下さるだけあって、かなりこの焼鳥屋は美味しい。
私は、故意に慎也の部屋に行ったことを端折った。
昨日のことは、美香以外には、秘密にしておきたかったから……。
「ところで、慎也君と、その高梨さんと川田さんって、どういう関係?」
「それが……」
「そうよね。仕事関係では少なくともなさそうだし、繋がりが分らないわよね」
「……、……」
さすがに高山課長だ。
ビールをかなり飲んでご陽気になっているとは言え、ちゃんと重要なポイントは突いてくる。
「慎也君は何て言ってるの?」
「その件は、少し、話に出たんですけど、何も言わなかったです」
「真面目な慎也君が?」
「はい……。あまり聞かれたくないようでした」
「もちろん、高梨さんや川田さんは何も言わなかったんでしょう?」
「ええ……」
「それで、中野さんは良いの?」
「……、……」
私は、答えに窮してしまった。
もちろん、私も慎也と川田さん達の関係を知りたい。
ただ、あれだけ一途に私を好きと言ってくれている慎也が隠すのだ。
そこには、何か訳があるに違いない。
それに、とりあえず、どんな人達と付き合っているのかは分っているのだ。
嫌がるのを無理に聞くのは、慎也の機嫌を損ねそうだし、信用していないと思われるのは私の方が嫌だ。
私は、その辺りの心情を、高山課長に説明した。
とりあえず、今はそっとしておくことにする……、と結論を添えて。
「そう……。中野さんがそう思うなら、それが良いかも」
「……、……」
「男性ってね、微妙な生き物なの。こっちが分ったつもりになっても、まったく違う面を持っていたり、隠し事をしたり……。でも、追い詰めて白状させれば解決するかと言うと、そうでもないのよね」
「……、……」
「私も、前の旦那とはそうだったわ。ちょっと、向こうを追い詰め過ぎてしまったのね。だから、彼は逆に突っ走ってしまったようなところがあって……」
「……、……」
「いい年して、アイドルオタクとか、アホか……、って思っていたけど、もう少し大らかに接していれば、今みたいにはなっていなかったかもしれないわ」
「課長……」
「まあ、中野さんは後悔しないようにね。私みたいになっちゃダメよ」
「……、……」
高山課長は、急にしんみりと話し出すと、ビールのジョッキに手をかけた。
「ああ、そう言えば、ウチのもう一匹の男も、最近、変なのよね」
「もう一匹?」
「息子よ」
「……、……」
「最近、色気づいたみたいで、女の子と付き合ってるみたいなのよ」
「まあ、今の子は高校生くらいで普通に男女交際するようですし……」
「だけどね……。あの子、女性の趣味が変わっているから心配なのよ」
「女性の趣味……、ですか?」
「そうなの。ベットの下に隠しているエッチな本は、いつも熟女とか、人妻とかのだから……」
「ぷっ……」
「あら、中野さん、笑い事ではないのよ。もし、慎也君がベットの下にエッチな本を隠していたら、あなたはどうするの?」
「それは……」
「ほら、やはり、心配でしょう?」
「……、……」
「高校生だから致し方がないと思って放ってあるけど、こういうとき、男親はどうするのかしらね?」
「……、……」
もちろん、私が答えられるわけもなかった。
思わず笑ってしまったが、慎也から見れば、私だって熟女に近いのだし……。
昨日、慎也の部屋を見た感じでは、そんな変な趣味などはないように思えた。
ただ、ベットの下まで見たわけではない……。
若いのだから、普通のエッチな本くらいなら許せると思うが、もし、ハードな性癖を指し示すような本が見つかったら……。
私は、
「慎也に限って、ない……。そんなことは絶対に」
と胸の内で唱えながら、高山課長の息子さんへの愚痴を聞き続けるのだった。
昼休みに入ると、高山課長から声がかかった。
もしかして、今日の私が、ボーッと、しているのを見つかってしまったのかも……。
昨日、家にたどり着き、シャワーに入るときも、布団に入ってからも、慎也とのキスが思い出されていた。
そして、今朝起きて、会社に出勤したあとも、ほんのささいな切っ掛けで、あの柔らかい唇の感触が甦るのだ。
慎也からの定時メールには、そのことは触れられていなかった。
「昨日はお疲れさまでした。
美香さんは無事にお帰りになりましたか?
川田さんが、心配してメールをくれました。
お暇なときに、教えて下さい」
私は、キスに浮かれていたことを反省し、すぐに返信した。
「無事に帰りました。
家のすぐ側まで送りました。
昨日、報告すれば良かったですね。
川田さんには、ご心配おかけしましたとお伝え下さい」
美香から川田さんのことを聞いて欲しいと言われたことを思い出してはいたが、それは夜にでも改めて聞こうと思った。
「はい、課長……。お呼びでしょうか?」
「あの件、どうなったの?」
「あ、友人の件ですか?」
「そうよ。確か、昨日だったでしょう?」
「ええ……」
「私、気になっていたのよ。中野さんが凄く心配していたから……」
「あの、御陰様で……」
「そう、何とかなったのね。良かったわ」
そうだ……。
高山課長に報告をするのを忘れていた。
親身になって話を聞いて下さったのに、浮かれて報告もしないなんて……。
「あ、あの……。よろしかったら、お昼でも食べながら何があったかお話したいのですが……」
「あら、私に話しをしても大丈夫なのね。うーん、そうね。ちょっと、昼休みは難しいわ」
「そうですか。すみません……、勝手なことを言いまして」
「そうそう、今晩はどう?」
「私は構いませんが……」
「ちょうど今日、息子が友達の家で勉強をするとかで、遅くなるのよ」
「……、……」
「まあ、何の勉強をしているのやら……、とも思うけど、ご飯も食べてくるって言っていたわ」
「では、仕事が終わったあとにお願いできますか?」
「了解……。じゃあ、私、ちょっと出掛けてくるわね」
高山課長はそう言うと、ファイルの束を持って席を立った。
きっと、これから偉い人に業務報告でもするのだろう。
颯爽と課を出て行くその後ろ姿は、高山課長が仕事の出来る女性であることを如実に顕わしていた。
「えっ? 23歳なの?」
何処から話して良いのか分らず、とりあえず、美香から合コンに誘われ、慎也と付き合いだしたことを話した。
高山課長は、私にずっと彼氏がいなかったのを知っている。
それだけに、若く真面目な彼と紹介したら、ことのほか喜んでくれた。
高山課長が私を連れて行ってくれたのは、会社から少し離れた焼鳥屋であった。
私が焼鳥好きなのを知っていて、選んでくれたようだ。
……と言うか、私、どれだけ焼鳥好きだと思われているんだろう?
本来なら、慎也のことも伏せて話をしたかった。
いくら話す相手が高山課長とは言え、干支一回り下の彼が初めて付き合う人だと言うのは、気恥ずかしいから。
しかし、慎也を説明しなかったら、高梨さんや川田さんの話はしようがない。
知り合いの知り合い……、とかで誤魔化せるレベルではない、非常に特徴的で専門知識のある方々だし、そこを説明しないとどうやって解決したか説明出来ないから。
……と言う成り行きで、致し方なく慎也との馴れ初めから話し始めたのであった。
「中野さん、結構、面食いそうだから、その慎也君はカッコイイ人なんでしょう?」
「あ、その……。はい」
「あら、若くて、格好良くて、真面目で、優しくて、頼りにもなっちゃうの? ちょっと、聞き捨てならないわね、独り身の私としては……」
「か、課長……」
高山課長は、私をからかうように、笑いながら話す。
ただ、からかわれて嫌な気持ちかと言うと、そうでもない。
相変わらず気恥ずかしいのだが、何となく、その恥ずかしさが心地良い気もする。
「私、高山課長以外に相談をする人が思いつかなかったので、慎也に相談したんです。美香に了解をとって……」
「そうね。私に相談しただけでは、どうにもならなかったわね。それで、彼が何とかしてくれたの?」
「あ、いえ……。そうではないのです」
「……、……」
「慎也が、フィナンシャルプランナーの知り合いがいると言うので、その人に助力を仰ぎました」
「あら、そんな心強い知り合いがいるなんて、慎也君、やるじゃない」
「ええ、本当に助かったと思いました。ただ……」
「ただ……?」
「その方は、元はサラ金の店長をやっていたとかって話を聞いていたので、てっきり男性だと思っていたのです」
「……、……」
「でも、待ち合わせ場所に来たのが、女性の格好をした人で……」
「えっ? じゃあ、慎也君の元カノってこと?」
「私もそれを疑ったのですが、実際にはもっとことが複雑で……」
「な、何々?」
「その方、元男性の、オカマの人だったんです」
「えーーーーっ!」
それは、高山課長だって驚くだろうなあ……。
私も、信じられない展開だったし……。
高山課長は、話に興味を持ったのか、向かいの席から乗り出すようにして話を聞いている。
そして、
「ちょっと待って……」
と、私が話すのを止めると、生ビールをグッと一息で空け、オカワリを注文した。
「そのオカマの方は、高梨さんと言って、歳は50代半ばって感じなんです」
「うんうん……、それで?」
「慎也も高梨さんも、性的な関係とかではないと説明していましたし、多分それは間違いなさそうです」
「ああ、それは良かったわね。彼をオカマと取り合ったりするって、女性としては厳しいから……」
「……、……」
「それで?」
「高梨さんに、美香の件を話しました。そうしたら、HPの数字なんかは、問題がないと……。それに、資本金も今は3000万円でもおかしくはないと言われました」
「えっ? それなら、その東和アソシエイトはちゃんとした会社ってこと?」
「それが、そうでもない……、と。今の時期に太陽光発電で投資を募るのは、明らかにおかしい……、って」
「ああ、なるほど。一時期ほど太陽光発電って聞かなくなったものね」
「そうらしいんです。ただ、高梨さんが仰るには、自分では、解決出来ない……、って」
「えっ? 高梨さんが解決してくれたんじゃないの?」
「はい……。高梨さんが、更に川田さんって方を喚んで下さいまして……」
「その、川田さんって人は、何をしている人?」
「それが、分らないんです」
「分らない?」
「はい……」
高山課長は、更に興が乗ってきたのか、串盛りの追加を頼んだ。
高山課長は、普段から、飲んでも陽気で気持ちの良いお酒の飲み方をする人だが、今日は殊更にお酒が進むようだ。
結論が分っていると言う安心感もあるのかもしれないが、とにかく、
「面白い……」
と言いながら、私に話の続きをねだるのだった。
「そう……。川田さんは結婚詐欺って言ったのね」
「はい……」
「言われてみれば、納得だわ。投資詐欺にしては、美香さんってあまり良いターゲットとは言えなそうですものね」
「そうなんです」
「でも、何も知らされてなかったんでしょう? その川田さんって人は」
「ええ……」
「それなのに、すぐに分っちゃうって凄いわね」
「ええ……。そうなんですが、実は、川田さんは更に凄くて……」
「何々?」
「解決も、結局、川田さんがしてくれたんです」
「……と言うか、中野さん。あなた、話し方が旨いわね。私、もうすっかり話に夢中なんだけど」
「うふふ……。いえ、これは、話の方がちょっとビックリするくらい出来すぎの話なので……。私のせいではないです」
「それもあるけど……。まあ、それで?」
「川田さんは、当日、同席して下さいまして……」
「……、……」
「自分は県会議員秘書で、2億投資したいって言いだしたんです」
「えっ、さっき、何をやってる人か分らないって、言ってなかった?」
「はい……」
「あ、ハッタリを言ったのね?」
「あ、いえ……。それがそうでもないんです」
「どういうこと?」
「あとで教えてもらったのですが、県議事務所の鍵を預かっていて、県会議員の名前を出しても良い了解もとっていたそうです」
「じゃあ、秘書ではないけど県議とは親しい間柄で、本当に2億円も出せたってこと?」
「そのようです」
「それって、堅気の人?」
「さあ……。ただ、政治運動で県議さんとは知り合ったって言っていましたから、いわゆる非合法の人ではないようです」
「でも、相手の結婚詐欺師は驚いたんじゃない? いきなり、県議だ、2億だと言われたんだから」
「はい……。ですので、向こうから、枠が埋まったのでもう投資は出来ない……、って断られました」
「あはは……、そうよね。そんなに大きく投資をするのでは、きっと、いっぱい調べられそうだものね」
「ええ……」
「それで一件落着ってわけね?」
「あ、それが、そのあと美香のケアを高梨さんと川田さんがやって下さって……」
「ああ、騙されそうになったんですものね」
「美香が居酒屋で酔って寝てしまいまして、大変だったんですけど、とりあえず終電で帰しました」
「そのあと、詐欺師達は何も言って来ないかしら? 美香さんに」
「川田さんによると、同じ詐欺師は二度と来ないそうです。でも、他の詐欺師が来る可能性があるので、気をつけるように美香は言われていました」
「何から何まで心得てるってことね、川田さんは」
「そのようです」
話が一段落つくと、高山課長は、私に焼鳥を勧めてくれた。
勧められた私は、好物の砂肝に手をだす。
高山課長がわざわざ連れてきて下さるだけあって、かなりこの焼鳥屋は美味しい。
私は、故意に慎也の部屋に行ったことを端折った。
昨日のことは、美香以外には、秘密にしておきたかったから……。
「ところで、慎也君と、その高梨さんと川田さんって、どういう関係?」
「それが……」
「そうよね。仕事関係では少なくともなさそうだし、繋がりが分らないわよね」
「……、……」
さすがに高山課長だ。
ビールをかなり飲んでご陽気になっているとは言え、ちゃんと重要なポイントは突いてくる。
「慎也君は何て言ってるの?」
「その件は、少し、話に出たんですけど、何も言わなかったです」
「真面目な慎也君が?」
「はい……。あまり聞かれたくないようでした」
「もちろん、高梨さんや川田さんは何も言わなかったんでしょう?」
「ええ……」
「それで、中野さんは良いの?」
「……、……」
私は、答えに窮してしまった。
もちろん、私も慎也と川田さん達の関係を知りたい。
ただ、あれだけ一途に私を好きと言ってくれている慎也が隠すのだ。
そこには、何か訳があるに違いない。
それに、とりあえず、どんな人達と付き合っているのかは分っているのだ。
嫌がるのを無理に聞くのは、慎也の機嫌を損ねそうだし、信用していないと思われるのは私の方が嫌だ。
私は、その辺りの心情を、高山課長に説明した。
とりあえず、今はそっとしておくことにする……、と結論を添えて。
「そう……。中野さんがそう思うなら、それが良いかも」
「……、……」
「男性ってね、微妙な生き物なの。こっちが分ったつもりになっても、まったく違う面を持っていたり、隠し事をしたり……。でも、追い詰めて白状させれば解決するかと言うと、そうでもないのよね」
「……、……」
「私も、前の旦那とはそうだったわ。ちょっと、向こうを追い詰め過ぎてしまったのね。だから、彼は逆に突っ走ってしまったようなところがあって……」
「……、……」
「いい年して、アイドルオタクとか、アホか……、って思っていたけど、もう少し大らかに接していれば、今みたいにはなっていなかったかもしれないわ」
「課長……」
「まあ、中野さんは後悔しないようにね。私みたいになっちゃダメよ」
「……、……」
高山課長は、急にしんみりと話し出すと、ビールのジョッキに手をかけた。
「ああ、そう言えば、ウチのもう一匹の男も、最近、変なのよね」
「もう一匹?」
「息子よ」
「……、……」
「最近、色気づいたみたいで、女の子と付き合ってるみたいなのよ」
「まあ、今の子は高校生くらいで普通に男女交際するようですし……」
「だけどね……。あの子、女性の趣味が変わっているから心配なのよ」
「女性の趣味……、ですか?」
「そうなの。ベットの下に隠しているエッチな本は、いつも熟女とか、人妻とかのだから……」
「ぷっ……」
「あら、中野さん、笑い事ではないのよ。もし、慎也君がベットの下にエッチな本を隠していたら、あなたはどうするの?」
「それは……」
「ほら、やはり、心配でしょう?」
「……、……」
「高校生だから致し方がないと思って放ってあるけど、こういうとき、男親はどうするのかしらね?」
「……、……」
もちろん、私が答えられるわけもなかった。
思わず笑ってしまったが、慎也から見れば、私だって熟女に近いのだし……。
昨日、慎也の部屋を見た感じでは、そんな変な趣味などはないように思えた。
ただ、ベットの下まで見たわけではない……。
若いのだから、普通のエッチな本くらいなら許せると思うが、もし、ハードな性癖を指し示すような本が見つかったら……。
私は、
「慎也に限って、ない……。そんなことは絶対に」
と胸の内で唱えながら、高山課長の息子さんへの愚痴を聞き続けるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユキ・シオン
那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。
成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。
出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。
次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。
青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。
そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり……
※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)
【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。
Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。
白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる