『異世界聖猫伝』猫なんだから、放っておいて

てめえ

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第62話 ヘレンの策謀

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「なあ、ヘレン……、どうしてパルス自治領から出ちゃったんだよ」

「……、……」

「それに、コロと暗黒オーブのことも伏せたままだったし……」

「……、……」

「ジンの奴、困ってたじゃないか。あたし達が助力する……、って、何で言ってやらなかったんだ?」

「……、……」

アイラが、納得がいかないとばかりに、ヘレンに抗議する。

 ただ、ヘレンは、アイラと御者台に座ったまま何かを考えているのか、瞑想状態に入っている。

 こういうときのヘレンには何を言っても無駄なのに、それでもアイラは勝手にヘレンに語りかけるのであった。



 馬車は、ヘレンの指示で緩々とロマーリア王国内を王宮に向かって進んでいる。

 今日は、国境からすぐの街で泊まるつもりなんだそうだ。



「あ……、アイラ。へ……、ヘレンには何か考えがあるのよ」

「何だよ、その考えって? エイミアには、何か分かるのか?」

「わ……、私には分からないわ」

「だろう。だから、あたしはさっきから聞いているんだよ」

「で……、でも」

「んっ?」

「わ……、私、ちょ……、ちょっとおかしいと思うことがあったわ」

「……、……」

エイミアは、俺を毛繕いする手を止めた。



 エイミア……。

 どうした、何がおかしかったんだ?



「じ……、ジン様の火傷……」

「ああ、あんなに重症で可哀想だったよな」

「な……、治りが遅いと思うの」

「それだけ重症だったってことじゃないのか? オリクが一生懸命看護しているみたいだし……」

「で……、でも、も……、もう一年経つのよね?」

「そう言っていたな」

「わ……、私が治療したら、た……、多分、もっと早く治っていると思うわ」

「どういうことだよ、それ……?」

「わ……、分からないわ。で……、でも、明らかにジン様の治りが遅いとは言えるわ」

「……、……」

アイラは、エイミアの方を振り返ると、

「それが本当なら、ジンの治療はわざと手抜きしてるってことになるんじゃないか?」

と、呟いた。



 おいおい……。

 エイミアが言うのだから、治療が遅いのは間違いないのだろうな。

 だけど、何でオリクが治療の手を抜くんだ?

 あいつ、炎帝にジンが負けたことを、涙を流しながら悔しがっていたじゃないか。

 俺……、オリクの涙に嘘があったとは思えないんだけど……。



「さすが、エイミアね。私もそう思っていたわ」

「へ……、ヘレン」

「いくら重症でも、火傷が一年も経ってまだ包帯も取れないなんて、不自然だわ」

「……、……」

ヘレン、聞いていたのか。



 ……って言うか、いつも思うんだけど、俺にはヘレンが寝ているのか瞑想しているのか、ちっとも分からないよ。

 だって、あんなにアイラが話しかけてもスルーするなんて、俺にはうるさくて考え事に集中出来ないと思うし……。



「それに、私はジン様の言葉の端々に、謎かけのようなものがされていたのを感じていたわ」

「謎かけ?」

「ええ……。ジン様は、恐らく、私達の中に暗黒オーブの使い手がいることを感じ取っているわ。でも、わざとそれを知らない振りをしていたように、私には感じたわ」

「どうしてそんなことをする必要があるんだ? だって、あのときには、あたし達と、ジン、側近のオリクしかいなかったじゃないか」

「それは……」

「……、……」

ヘレン……。

 俺にも分からないよ。

 ちゃんと説明しておくれよ。



「多分、オリクさんは、テイカー候の言いなりにされているわ」

「じゃあ、裏切っているってことか? 側近なのに……」

「裏切るのとはちょっと違うかもしれない……。でも、パルス自治領とジン様のことを想って、意に沿わないことをやらされているような気がするの」

「……、……」

「ジン様は仰っておられたわよね……。武闘殿の猛者はテイカー候にかなり排除されてしまった……、と」

「ああ……、言ってたな」

「武闘殿は、武闘の強さが階級に直結するはず……。だとすれば、幹部クラスの方々は、皆、排除されてしまったと言うことでしょう?」

「……、……」

「それって、幹部の人達がテイカー候に反抗的だったからじゃないかしら」

「つまり、今いる側近は、何らかテイカー候の息がかかってる可能性があるってことか? あの、オリクさえも……」

アイラの言葉に、ヘレンは深くうなずく。



「でも、ジン様は、そのテイカー候の意向を見抜いているわ。だから、オリクさんの前では、ことさらにロマーリア王国の助力を拒んで見せた……」

「……、……」

「本当は、喉から手が出るほど、ロマーリア王国の助力が欲しいのに……」

「……、……」

「最後に言っていたわよね? 暗黒オーブの使い手が炎帝を撃破してくれれば……、と。あれが本音で、私達にそれが出来るか問いかけていたのだと思うの」

「それが、謎かけってことか?」

「ええ……。まず、間違いないわ」

「……、……」

な、何だよ……、そういうことだったのか。



 お、俺……。

 てっきり、ジンは諦めてジリ貧を受け入れてるのかと思っちゃったよ。






「そっか……。じゃあ、ヘレンは炎帝を撃破するつもりなんだな?」

アイラは、急に嬉しそうな表情になった。



「もう……、アイラったら」

「だって、そこまで分かっているなら、あたしが炎帝をぶっ飛ばすしかないじゃないか」

「そうね……。だけど、それにはテイカー候に、パルス自治領まで出てきてもらわないといけないの。ギュール共和国側でテイカー候と接触するのは、いくらなんでも無茶過ぎるから……」

「……、……」

「だから、一度、引き退いたのよ……、パルス自治領から」

「どういうことだ?」

「オリクさんに、ロマーリア王国側からジン様に接触があったことをテイカー候に報告をさせて、それを餌にテイカー候をおびき出すのよ。テイカー候は、ジン様の意向を確かめに、きっと来るわ……」

「つまり、あたし達が武闘殿に居座ってちゃテイカー候が用心するだろうから、わざと引き退いた……、ってことか?」

「そうよ……」

「……、……」

アイラは、喜色満面と言った様子で、ヘレンの肩を叩いた。



 お、おい……。

 アイラ、おまえの打撃は凶器なんだからな。

 ほら、ヘレンが顔をしかめてるじゃないか。

 それに、危ないから手綱から手を離さないでくれよ……。



「アリストスと戦ったとき……。私は、親衛隊に私が緊縛呪を発動させたように見せかけたわ。コロが暗黒オーブの使い手であると分かっていなかったら、親衛隊からは私かエイミアが緊縛呪を撃ったように見えたはずなの……」

「……、……」

「ランド山でも、私が暗黒オーブの使い手だと警備隊の方々は思ったはず」

「……、……」

「そして、それらの情報は、もうテイカー候の耳に入っているわ。アリストスの背後にいたのがテイカー候なら間違いないでしょう?」

「そうだな……」

「つまり、私達がパルス自治領と結びつくのは、テイカー候としても放ってはおけないのよ。暗黒オーブの使い手が、すでに緊縛呪を発動しているんですからね」

「じゃあ、近い内に来るな……、炎帝の奴」

「ええ……。だから、そこを襲って炎帝を撃破するわ」

「……、……」

アイラは、嬉しそうに緩めていた顔を引き締めた。



 ……って、もう、戦うためのシュミレーションを始めちゃったか?

 ジンとは戦えなかったけど、炎帝も相当強いらしいから気を付けろよ。



 それにしても……。

 ヘレンって凄い。

 俺、脱帽したよ。

 帽子は被ってないけど……。



 ヘレンは、きっとパルス自治領に来るずっと前から、こんなことになることを見通していたんだろうな。

 そうじゃなかったら、アリストスとの戦いで、俺が緊縛呪を発動していたことを隠そうとはしなかったはずだからさ。



 炎帝撃破……。

 是非、実現して、ジンを安心させてあげたいな……。

 俺も頑張るよ。
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