『異世界聖猫伝』猫なんだから、放っておいて

てめえ

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第106話 妻の違和感

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「なあ、ちょっと聞いて良いか?」

「何、アイラ……?」

「あたしはさあ、結構、街に潜入していたときに出歩いたんだよ。だけど、その兵器らしき高い建物を見たりはしなかったぞ」

「……、……」

「パルス自治領からくすねた材木は大量なんだろう? だとしたら、それこそ一基だけなんてことはないと思うんだ。時間だってかなりかかっているしさ。だったら、その兵器の姿が確認できなかったら変じゃないか?」

「そう……」

アイラの言葉に、ヘレンは腕を組み、少し考え込むような仕草をした。



 そうだよな、俺もそんな建物は気がつかなかったよ。



「なあ、ジーン? 見なかったよな」

「ええ、私も気がつきませんでした」

ジーンも、うなずく。



「マリーさん、その建物を何処に建てるか、ダーマー公は言ってなかったかい?」

「いえ……。あの人は、ただ含み笑いをしただけでした」

「そっか……。じゃあ、誰もまだその兵器とやらを見てないんだよ。だったら、その兵器の計画自体はあるかもしれないけど、実現には時間がかかると言うことじゃないのかな?」

「すいません。私には、分かりかねますが……」

だけど、それはおかしくないか?

 だって、ダーマー公はもう、油断させるための攻撃をしているじゃないか。



 いくら手抜きの攻撃だと言ったって、何回もやれば犠牲は増えるよな?

 この戦争って、ギュール軍の兵力が勝っているからここまで長引いているんだろう?

 だったら、その優位をふいにするようなことをするのかな。



 俺だったら、攻撃をし出したら、なるべく早く勝負をつけにいくと思うんだけど……。



「アイラ、それは違うわ。やはり、兵器はすぐに使われると思うべきだわ」

「だけど、そんなにすぐ、建物に匹敵する高さのものが造れるのか?」

「ええ……、可能だと思うわ」

「どうやるんだよ? いくら木材で出来たものだと言っても、そんなに簡単に建てられないぞ」

「基本的なパーツを造っておいて、あとで組み立てれば良いわ」

「組み立てる?」

「ええ、塔を何分割かにするの。それを組み立てれば、接合部を繋ぐだけで済むわ」

「……、……」

アイラは納得しかねるのか、首をひねっている。



 うん……。

 俺もヘレンと同じように、すぐに使ってくると思う。

 だけど……。



「ヘレンさん……。それはかなり無理があるかと」

「ジーンさん?」

「木材のパーツとは言え、かなりの重量があるでしょうからね。それを積み上げるとなると、とてつもない力が必要です。それに、上に行くにしたがって積み上げるのは困難になるのではないでしょうか?」

「うふふ……」

そ、そうなんだよ。



 ジーン、俺も今、そう思っていたところなんだっ!



「ジーンさん、積み上げるから大変なんです」

「えっ……?」

「そうではなく、崖のようなところにパーツを持って行くか、そこでパーツを造って、崖の上から下ろせば良いのではないでしょうか? それなら組み立てるのに時間もかからないでしょう?」

「な、なるほどっ! その手がありましたかっ!」

「だとすると、それが可能な場所は、ゴルの丘しかありませんわ。あそこには切り立った崖がありますから……」

「……、……」

「そう言えば、ゴルの丘は砦の東側に近いですね。それと、以前からギュール軍の厩舎もありますし……」

「うっ……」

ジーンは一言うめくと、絶句した。

 まさか、そんなに用意周到に計画が練られているなんて……。

 ジーンの顔には、そう言わんとばかりの驚きの表情が浮かんでいる。



「へ、ヘレンさん……。あんた、やっぱすげーよ。マジで、感動もんだっ!」

「情報屋さん、そんな大げさなことを……」

「いや、大げさじゃないさ。だってそうだろう? ロマーリア軍は、ずっと気がつかなかったんでしょう? それを、敵の攻撃の仕方と、木材の行方と言う情報から全部推察しちゃったじゃないですか」

「……、……」

「これ、計画を練った方も凄いけど、それを看破するなんて信じられないよっ! あんた、本当に何者なんだよ?」

「うふふ……、私はしがない占い師よ。それ以上でも、それ以下でもないわ」

「……、……」

「それに、看破しただけでは仕方がないですわ。それを逆手にとって勝負を決めにいかなければね」

ヘレンはそう言うと、一同にニッコリ笑って見せた。



「なるほどなあ……。じゃあ、西側の攻撃は、目くらましの意味もあるのか」

「そう言うことね。いくら素早く建てられるからと言って、目立たないように他に注意を引きつけるのは理に適っているわ」

「うーん……、ダーマー公ってやるなあ。ここまで策を練るのって、大変なことだぞ」

「そうね……。もしかすると、ダーマー公自身の考えではないかもしれないわ。誰か、キレる軍師のような人がいて、アドバイスしている可能性もあるわね」

そう言うと、アイラとヘレンはうなずき合った。



 そっか……。

 アドバイザーの存在か。

 そうだよな、ダーマー公自身が考える必要はないんだよな。



 だけど、その軍師の上を行ってるよな、ヘレンは。

 情報屋じゃないけど、本当に凄いよ。

 うん、脱帽だよ。

 俺、帽子は被ってないけどさ。






「あの……」

「何でしょうか、マリーさん?」

「私にはどうも納得がいかないのです」

「どういうことでしょう?」

「あの人が……。ダーマー公が、本当にそんな緻密な計画を立てたのでしょうか?」

「……、……」

マリーが突然、話し出した。

 眉をひそめ、小さな声で……。



 ただ、その口調はきっぱりとしたものであった。

 本人が言うように、納得がいっていないらしい。



「すいません……、変なことを申しまして……」

「あ、いえ……。マリーさんのご意見は、内から看た情報ですからとても貴重です。お願いします、何でも仰って下さい」

「その……。あの人は、直情的な人なんです。ですから、私などに接するときも、それは同じだったりします」

「……、……」

「食べたい物があれば、どうしてもその日の内に調達しなければ気が済みませんし……。人を好きになると、もう、溺愛と言って良いほどの愛情を示すのですが、それも一時のことで、興味がなくなるとまったく関心を示さなくなります」

「……、……」

「ただ、人の良いところがありまして……。私なども引き取られてしばらくは大切にされましたわ」

「……、……」

「ヘレンさんが仰るように、軍師のような人がいれば分からないでもないのです。でも、直情的な上に、自身の思い通りにならないことを嫌がる性格ですので……」

「……、……」

「たとえ、軍師のような存在がいたとしても、その言葉を素直に聞くかどうか……」

「……、……」

「それに、私はそのような方の存在を存じ上げませんわ。一応、軍議などにも参加しておりましたけど……」

「……、……」

「計画自体も、耳にしておりません」

「つまり、本当にそんなことが行われているか、疑問に感じておられるのですね?」

「有り体に申しますと、その通りでございます」

「……、……」

ジーンとアイラは、唖然とした表情を見せた。



 エイミアも驚いたのか、俺を抱き上げて頬ずりをしている。



 う、うん……。

 ごめん……。

 深刻な話をしているのにさ。



 でも、エイミアの頬ずりは良いな。

 久しぶりだよね。
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