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袴田師匠編
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「ああ、そこらに置いといて」
随分と長く借りてしまったはずだが、気にならないのだろうか。両手に大量の本を提げてきた俺を見て、旧友の永戸は振り返りもせずに上がり框框を指差した。俺は従って玄関の木床の隅にそれを置いてから、後ろ向きに靴を脱ぐ。永戸の家は昔ながらの下町の日本家屋で、玄関を上がってすぐに廊下が左右に続く。永戸は家業の店番がないときにはだいたい家にいて、玄関を開けてすぐの仏間でテレビを見ていた。
「すまんな、長い間借りっぱなしで」
「ああ、お疲れさん。長かったな」
永戸の返答に、俺は背を向けたまま少しだけくちごもる。本の借主と親しかった永戸の「長かった」には格別な感慨がにじんでいる。
「ひと段落ついたんなら、お前も読んでってよかったんだぜ。返すのなんていつだって」
「いや、いい。本読んでる時間がもったいない」
ばかだなこんな有意義な時間があるかよ、永戸は笑う。俺だって興味のある本ならそこまでは言わない。要は趣味が合わないのだ。妹が借りっぱなしで、部屋の片隅に積んだまま死んでしまった本。生前の彼女を知る手がかりになればとめくってみたこともあるが、ついに面白いとは思えなかった。
「……そうか。みちるちゃん、《マイストーリー》駄目ンなってたんだっけ」
《マイストーリー》は日本国民すべてに埋め込まれている「人の一生の記憶」の外部記録メモリーだ。その人の視覚をすべて電子化して記録し、亡き後は故人の一生を一本の映画のように鑑賞することができる。持ち主は生きている限りそれを携帯のアプリから日記感覚で編集して見せたくないデータを削除したり公開範囲を設定したりしてプライバシーを守ることができるし、視覚映像では記録しきれない感情面の記録を文章コメントや好みの音楽、手撮りの写真で追記したりすることができる。人がすべて映画監督になったようなものだ。実際、当初はプライバシー保護の観点から反対していた人達も、SNSに《マイストーリー》の部分公開機能が実装され、人気作品が次々と動画ストリーミングサービスに買い上げられ、時には劇場公開までされるようになると、一変して擁護する声が大きくなった。新たな時代の芸術の在り方だと。
そもそもはこの《マイストーリー》、国民総芸術家などという高尚な目的で実装されたものではない。当たり前だが。東京オリンピックを目前にして考案された治安維持のテクノロジーのひとつ、事故や事件の客観的な証拠集め――つまりドライブレコーダーの歩行者版にすぎない。にも関わらず、ソフト・ハード共にまだまだ脆弱な面も多く、本来の目的に反して事故の衝撃で破損することが多いのが難点だった。
去年事故で亡くした俺の妹も例に漏れず、《マイメモリー》の相続者権限で再生したデータはずっと砂嵐を映し出していた。ノイズの合間に、おもちゃの指輪だけが映る。
本の山につまづきかけて俺は、列を直し、ついでにもう少し端へと押しやる。その横に見慣れないロゴの入った段ボール箱を見かけて「これ何」と指差した。「オキアミウエハー」箱にはそう書いてある。俺の幼馴染はテレビから顔を上げるのも面倒くさいのか、それとも存外真剣に番組を見ているのか、六畳のすすけた和室の真ん中で振り返りもせずに言う。
「東京パラリンピックも近いじゃん? ンで商工会議所もいろいろ煽ってくるわけよ。英語で接客できますとか江戸の文化を楽しめる商品を作ろうとか写真映えとか、外国人観光客向けになんかそういうサービスしましょうって。で、親父が変にはりきっちゃってこのザマよ」
俺はもう一度箱を見る。江戸創業の煎餅屋のレトロなデザイン基調は昔のままに、名前だけヨコモジにしてみただけのロゴ。SNS映えのセンスは到底期待できそうにない。
「そこはエビセンでいいだろ」
テレビでは若い男女が楽しそうな話で盛り上がっていた。午後八時のスポーツトークバラエティ。名立たるアスリートも、テレビ出演用に洒落た格好をしていると誰が誰だか解らない。
俺の視線は自然と、雛壇の端に惹きつけられた。圧倒的に華やいだ容姿の少女がいる。涼しげなのは容姿だけではなく、司会を務める芸人の下品なジョークもさらりと受け流して嫌味がない。それでいて、自分と他の出演者を比べて女芸人の容姿をからかい始めたときには横を向いて、声を発さずに毒づいていた。『死ねばいいのに』
なるほど、繊細そうな美少女だが、性格にはひと癖あるようだ。
顔も性格も好ましかったが、特に印象的なのは両脚の義足だ。赤いハイウエストのタイトスカートからは球体間接の膝がのぞき、膝下は前面だけが曲げ木で覆われ、機械が剥き出しのふくらはぎにはハイヒールから伸びた幅広のリボンが編み上げられている。オフショルダーのブラウスのたっぷりとしたフリルに覆われた肩や腕は血の通いを感じられないほど白く細く、顎で切り揃えられた髪に癖はなく、高い頭身整った目鼻立ちと相まってひとつのコンセプトに基づいた精巧な人形のようであった。
「あれ、誰?」
相変わらず真剣に見入っている永戸へのネタ振りに、彼女を指差してみる。ほんの話題作りのつもりだったが、永戸は勢いよく振り向いて目を見開く。
「うっそだろ、加藤翡翠だよ加藤翡翠。知らないの? フィギュアの加藤翡翠」
言われて、俺は曖昧にうなずいた。そういえば冬の間はよくニュースで見たかもしれない。
ほとんどのスポーツで障碍者スポーツの有利性が健常者のそれを超えた昨今だが、フィギュアスケートに関してはいまだ競技人口のほとんどが健常者で占められている。そんな中、唯一、両脚の無いトップ選手が加藤翡翠だ。シームレスにスケートシューズへと一体化した特製の義足で昨年の世界女王に返り咲いた。四回転サルコウという技の名前は連日耳にしていたが、それが他のジャンプとどう違うのかは知らない。無論、あの重そうな義足では一回転を飛ぶことすら驚異的だと思うが。
「その、四回転って、難しいのか?」
俺の素朴な質問に、永戸は何を言っているんだとばかりに食いついてくる。
「難しいよ!!!」
そうかそんなに難しいのか。唾のかかりそうな距離感にひるんだ俺はちょっと顔を引く。
「でも、あの、なんだっけ、将棋の名人と同じ名前の奴。あれは軽く飛んでるだろ。四回転だから似たようなもんかと思って」
「同じ名前じゃなくて漢字が同じなだけな! そんでアレは男子な!」
興味のないことはまったく解らない俺のボケた発言に、永戸のツッコミがリズムよく炸裂する。
「やっぱり男子と女子ではできる技が違うってわけか」
月並みな感想を述べて終わらせようとしたところで、永戸の目が輝き出した。
「そう。しかも聞いてくれ。日本人選手のレベルが高すぎるせいでみんな軽く飛んでいるように見えるあの四回転、実は男子でも安定してできる奴は世界に数人しかいない」
「ええーーーっ!」
ついそんなリアクションを取らなければいけないような気がして乗ってはみたものの、内心はふうんそうなんだくらいの感慨しかない。なにしろ俺にはそのジャンプが何回まわっているのかも判定しようがないのだから。
ともあれ俺のリアクションに気をよくした永戸はふふんと上機嫌で語り出すのだった。
「それを加藤翡翠は、十三歳でやってのけたのさ。ほぼすべての公式試合で。ほぼミス無く。しかも練習中の大怪我で脚を失ってもまた、以前と変わらないクオリティの四回転サルコウを引っ提げて帰ってきた」
まあ女子はジュニア時代の体型のほうが難しいジャンプを成功させやすいとは言われてるけど、とさすがに自分のヒートアップぶりに恥ずかしくなってきたのか鼻をこすりながら言う永戸に、俺はほうとため息を漏らす。
「……詳しいんだな」
永戸は道場の児童剣道コースに通っていたときからの幼馴染だ。武道に詳しいなら驚きはしない。しかしまさかフィギュアスケート。冷やかしではなく本気で感心してしまう。
「お前が興味なさすぎんだよ、お前本当にオリンピック金メダリストか?」
本当にも何も、うちにメダルがある以上は夢でも勘違いでもなく剣道日本代表だった頃もあるんだろうが、だからこそ――と言おうか、あの頃は自分の試合に必死で、他の競技のことなんてまったく考えていられなかった。引退してみたら、あの頃交流があった友達が実はすごい奴だったことにも気づいたし、それこそこんなスポーツバラエティに出演させてもらう機会も何度かあって、他出演者の意外なオリンピック裏話にへぇそんなこともあるのかと爆笑しもした。が、だからとてアスリートがすべてのスポーツに通じていなければならないこともあるまい。特に夏と冬とでは接点もないし。
困った俺は、たまたまスタジオの中央へ車椅子を走らせてきたスーツ姿の男を指差す。
「じゃあ、あいつは?」
精悍な男だ。スーツの張りからスポーツ経験者らしい健康なたくましさはうかがえるものの、着痩せする性質なのかスーツの仕立てが良いのか不思議と威圧感はなくすっきりとして、聞き取りやすい穏やかな口振り洒落た身形のせいか役者のようでもある。車椅子の膝に載せた電子タブレットタイプのフリップで義肢の説明をしていた。フリップの中に、それぞれデザインの違う義足とそれに合わせたファッションでデコラティブなスイーツを頬張る加藤翡翠のグラビアがスクロールされていく。
「なぜスポーツメーカーがファッションに特化した義足を――と思われる方もいらっしゃると思うのですが、」
話の内容から察するに、スポーツ用品メーカーの営業マンだろうか。こいつならば永戸の話も弾むまい。そんな俺の目論見を余所に、永戸はテレビと俺を見比べて凍りついていた。まさかこいつも有名人なのかよ!
「いやいやいやいや、興味がないにも程があるって!」
数分の沈黙の後、永戸は笑い飛ばして俺のボケをなかったことにしようとする。営業マンかと思っていたが、もしかしてそんなに有名なアスリートだったのか? 同じ種目? メダリスト? いやいや知らない。または初見の印象通り人気の若手俳優か。俺は腕組みして眉をよせる。
冗談じゃないと察するや、永戸は暗い顔で座り直し、ぼそりとつぶやいた。
「なんで、護堂を知らないんだよ……」
随分と長く借りてしまったはずだが、気にならないのだろうか。両手に大量の本を提げてきた俺を見て、旧友の永戸は振り返りもせずに上がり框框を指差した。俺は従って玄関の木床の隅にそれを置いてから、後ろ向きに靴を脱ぐ。永戸の家は昔ながらの下町の日本家屋で、玄関を上がってすぐに廊下が左右に続く。永戸は家業の店番がないときにはだいたい家にいて、玄関を開けてすぐの仏間でテレビを見ていた。
「すまんな、長い間借りっぱなしで」
「ああ、お疲れさん。長かったな」
永戸の返答に、俺は背を向けたまま少しだけくちごもる。本の借主と親しかった永戸の「長かった」には格別な感慨がにじんでいる。
「ひと段落ついたんなら、お前も読んでってよかったんだぜ。返すのなんていつだって」
「いや、いい。本読んでる時間がもったいない」
ばかだなこんな有意義な時間があるかよ、永戸は笑う。俺だって興味のある本ならそこまでは言わない。要は趣味が合わないのだ。妹が借りっぱなしで、部屋の片隅に積んだまま死んでしまった本。生前の彼女を知る手がかりになればとめくってみたこともあるが、ついに面白いとは思えなかった。
「……そうか。みちるちゃん、《マイストーリー》駄目ンなってたんだっけ」
《マイストーリー》は日本国民すべてに埋め込まれている「人の一生の記憶」の外部記録メモリーだ。その人の視覚をすべて電子化して記録し、亡き後は故人の一生を一本の映画のように鑑賞することができる。持ち主は生きている限りそれを携帯のアプリから日記感覚で編集して見せたくないデータを削除したり公開範囲を設定したりしてプライバシーを守ることができるし、視覚映像では記録しきれない感情面の記録を文章コメントや好みの音楽、手撮りの写真で追記したりすることができる。人がすべて映画監督になったようなものだ。実際、当初はプライバシー保護の観点から反対していた人達も、SNSに《マイストーリー》の部分公開機能が実装され、人気作品が次々と動画ストリーミングサービスに買い上げられ、時には劇場公開までされるようになると、一変して擁護する声が大きくなった。新たな時代の芸術の在り方だと。
そもそもはこの《マイストーリー》、国民総芸術家などという高尚な目的で実装されたものではない。当たり前だが。東京オリンピックを目前にして考案された治安維持のテクノロジーのひとつ、事故や事件の客観的な証拠集め――つまりドライブレコーダーの歩行者版にすぎない。にも関わらず、ソフト・ハード共にまだまだ脆弱な面も多く、本来の目的に反して事故の衝撃で破損することが多いのが難点だった。
去年事故で亡くした俺の妹も例に漏れず、《マイメモリー》の相続者権限で再生したデータはずっと砂嵐を映し出していた。ノイズの合間に、おもちゃの指輪だけが映る。
本の山につまづきかけて俺は、列を直し、ついでにもう少し端へと押しやる。その横に見慣れないロゴの入った段ボール箱を見かけて「これ何」と指差した。「オキアミウエハー」箱にはそう書いてある。俺の幼馴染はテレビから顔を上げるのも面倒くさいのか、それとも存外真剣に番組を見ているのか、六畳のすすけた和室の真ん中で振り返りもせずに言う。
「東京パラリンピックも近いじゃん? ンで商工会議所もいろいろ煽ってくるわけよ。英語で接客できますとか江戸の文化を楽しめる商品を作ろうとか写真映えとか、外国人観光客向けになんかそういうサービスしましょうって。で、親父が変にはりきっちゃってこのザマよ」
俺はもう一度箱を見る。江戸創業の煎餅屋のレトロなデザイン基調は昔のままに、名前だけヨコモジにしてみただけのロゴ。SNS映えのセンスは到底期待できそうにない。
「そこはエビセンでいいだろ」
テレビでは若い男女が楽しそうな話で盛り上がっていた。午後八時のスポーツトークバラエティ。名立たるアスリートも、テレビ出演用に洒落た格好をしていると誰が誰だか解らない。
俺の視線は自然と、雛壇の端に惹きつけられた。圧倒的に華やいだ容姿の少女がいる。涼しげなのは容姿だけではなく、司会を務める芸人の下品なジョークもさらりと受け流して嫌味がない。それでいて、自分と他の出演者を比べて女芸人の容姿をからかい始めたときには横を向いて、声を発さずに毒づいていた。『死ねばいいのに』
なるほど、繊細そうな美少女だが、性格にはひと癖あるようだ。
顔も性格も好ましかったが、特に印象的なのは両脚の義足だ。赤いハイウエストのタイトスカートからは球体間接の膝がのぞき、膝下は前面だけが曲げ木で覆われ、機械が剥き出しのふくらはぎにはハイヒールから伸びた幅広のリボンが編み上げられている。オフショルダーのブラウスのたっぷりとしたフリルに覆われた肩や腕は血の通いを感じられないほど白く細く、顎で切り揃えられた髪に癖はなく、高い頭身整った目鼻立ちと相まってひとつのコンセプトに基づいた精巧な人形のようであった。
「あれ、誰?」
相変わらず真剣に見入っている永戸へのネタ振りに、彼女を指差してみる。ほんの話題作りのつもりだったが、永戸は勢いよく振り向いて目を見開く。
「うっそだろ、加藤翡翠だよ加藤翡翠。知らないの? フィギュアの加藤翡翠」
言われて、俺は曖昧にうなずいた。そういえば冬の間はよくニュースで見たかもしれない。
ほとんどのスポーツで障碍者スポーツの有利性が健常者のそれを超えた昨今だが、フィギュアスケートに関してはいまだ競技人口のほとんどが健常者で占められている。そんな中、唯一、両脚の無いトップ選手が加藤翡翠だ。シームレスにスケートシューズへと一体化した特製の義足で昨年の世界女王に返り咲いた。四回転サルコウという技の名前は連日耳にしていたが、それが他のジャンプとどう違うのかは知らない。無論、あの重そうな義足では一回転を飛ぶことすら驚異的だと思うが。
「その、四回転って、難しいのか?」
俺の素朴な質問に、永戸は何を言っているんだとばかりに食いついてくる。
「難しいよ!!!」
そうかそんなに難しいのか。唾のかかりそうな距離感にひるんだ俺はちょっと顔を引く。
「でも、あの、なんだっけ、将棋の名人と同じ名前の奴。あれは軽く飛んでるだろ。四回転だから似たようなもんかと思って」
「同じ名前じゃなくて漢字が同じなだけな! そんでアレは男子な!」
興味のないことはまったく解らない俺のボケた発言に、永戸のツッコミがリズムよく炸裂する。
「やっぱり男子と女子ではできる技が違うってわけか」
月並みな感想を述べて終わらせようとしたところで、永戸の目が輝き出した。
「そう。しかも聞いてくれ。日本人選手のレベルが高すぎるせいでみんな軽く飛んでいるように見えるあの四回転、実は男子でも安定してできる奴は世界に数人しかいない」
「ええーーーっ!」
ついそんなリアクションを取らなければいけないような気がして乗ってはみたものの、内心はふうんそうなんだくらいの感慨しかない。なにしろ俺にはそのジャンプが何回まわっているのかも判定しようがないのだから。
ともあれ俺のリアクションに気をよくした永戸はふふんと上機嫌で語り出すのだった。
「それを加藤翡翠は、十三歳でやってのけたのさ。ほぼすべての公式試合で。ほぼミス無く。しかも練習中の大怪我で脚を失ってもまた、以前と変わらないクオリティの四回転サルコウを引っ提げて帰ってきた」
まあ女子はジュニア時代の体型のほうが難しいジャンプを成功させやすいとは言われてるけど、とさすがに自分のヒートアップぶりに恥ずかしくなってきたのか鼻をこすりながら言う永戸に、俺はほうとため息を漏らす。
「……詳しいんだな」
永戸は道場の児童剣道コースに通っていたときからの幼馴染だ。武道に詳しいなら驚きはしない。しかしまさかフィギュアスケート。冷やかしではなく本気で感心してしまう。
「お前が興味なさすぎんだよ、お前本当にオリンピック金メダリストか?」
本当にも何も、うちにメダルがある以上は夢でも勘違いでもなく剣道日本代表だった頃もあるんだろうが、だからこそ――と言おうか、あの頃は自分の試合に必死で、他の競技のことなんてまったく考えていられなかった。引退してみたら、あの頃交流があった友達が実はすごい奴だったことにも気づいたし、それこそこんなスポーツバラエティに出演させてもらう機会も何度かあって、他出演者の意外なオリンピック裏話にへぇそんなこともあるのかと爆笑しもした。が、だからとてアスリートがすべてのスポーツに通じていなければならないこともあるまい。特に夏と冬とでは接点もないし。
困った俺は、たまたまスタジオの中央へ車椅子を走らせてきたスーツ姿の男を指差す。
「じゃあ、あいつは?」
精悍な男だ。スーツの張りからスポーツ経験者らしい健康なたくましさはうかがえるものの、着痩せする性質なのかスーツの仕立てが良いのか不思議と威圧感はなくすっきりとして、聞き取りやすい穏やかな口振り洒落た身形のせいか役者のようでもある。車椅子の膝に載せた電子タブレットタイプのフリップで義肢の説明をしていた。フリップの中に、それぞれデザインの違う義足とそれに合わせたファッションでデコラティブなスイーツを頬張る加藤翡翠のグラビアがスクロールされていく。
「なぜスポーツメーカーがファッションに特化した義足を――と思われる方もいらっしゃると思うのですが、」
話の内容から察するに、スポーツ用品メーカーの営業マンだろうか。こいつならば永戸の話も弾むまい。そんな俺の目論見を余所に、永戸はテレビと俺を見比べて凍りついていた。まさかこいつも有名人なのかよ!
「いやいやいやいや、興味がないにも程があるって!」
数分の沈黙の後、永戸は笑い飛ばして俺のボケをなかったことにしようとする。営業マンかと思っていたが、もしかしてそんなに有名なアスリートだったのか? 同じ種目? メダリスト? いやいや知らない。または初見の印象通り人気の若手俳優か。俺は腕組みして眉をよせる。
冗談じゃないと察するや、永戸は暗い顔で座り直し、ぼそりとつぶやいた。
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