3 / 12
袴田師匠編
2
しおりを挟む
「なんで護堂を知らないんだよ……」
永戸はうめくように言う。
いつもへらへらとしている永戸に胸ぐらをつかまれて驚いた。
困惑した俺が携帯を取り出すと、永戸は「あっ、ネットで調べるのはやめとけ」と手を離し、録画済みのBlu-rayをありったけ集めてきて俺の胸に押しつけた。
「護堂はな、みちるちゃんが本当に好きだった先生なんだよ。なんであんなにみちるちゃんが好きだった護堂を知らねぇんだよ」
自宅のテレビに、永戸の部屋と同じ番組が映る。
「なぜスポーツメーカーがファッションに特化した義足を――と思われる方もいらっしゃると思うのですが、それこそ私がずっと倒したかった考え方なのです」
自宅のテレビに、永戸の部屋と同じ番組が映る。有名アスリートを雛壇に並べたスタジオの真ん中で、車椅子の男が大型タブレットタイプのフリップを掲げる。
「2014年ドイツ陸上選手権、走り幅跳び。スポーツ中の事故で右脚を失った選手が健常者の選手に混じって出した記録は8m24cm。それでもなお彼の躍進は止まらず、前回リオデジャネイロオリンピックでは8m40cmにまで到達した記録に議論が巻き起こり、彼は参加資格を剥奪されてしまうのです。義足が生まれ持った脚より有利ではないことを証明せよと迫られて」
手振りする男の姿が画面から消え、映されているオリンピックの映像にフォーカスされ、おもむろに画面全体がVTRに変わる。
「ここで初めて、五体満足なほうが本当に有利なのか、いや、競技によってはむしろ義肢のほうが有利なのではないかという議論が湧き上がります」
悪ノリのガヤや加藤翡翠に向けられるセクハラ的なカメラアングルを10秒送りで飛ばし、次へ、次へ、俺は護堂のせりふを拾う。
「あれから八年――スポーツギアの有利性により、スポーツは健常者のものだという偏見は完全に覆りました。いや、私が覆しました。あらゆるスポーツに向いた義肢を作り、なるべく安く提供するために不断の努力を続け――もはや、従来許されていた障碍者のオリンピック出場は規約で禁じられています。オリンピックとパラリンピックは完全に分けられることになった。なぜか? 不公平を避けるためにです。無論、不利になるのは障碍者ではありません。健常者にとって、です」
「しかしそんな時代にあっても、アスリートを目指す子の親はこう言うのです。『あの人達は特別だから』と。道具だけが進化しても無意味なのです。大切なのは意識の革命。スポーツ義肢などは選ばれし天才にのみ与えられた宝剣なのだという認が蔓延っているうちは、次世代の「天才」は大人に可能性を摘まれ続けねばならない。経済格差が悪いのか――そう思い、ビギナー向けスポーツ義肢の大量生産に努めました。希望する学校があれば寄贈と無料メンテナンスにも務めました。そのときの生徒達が今、東京パラリンピックの有力候補に成長している。やったな、と思います。その一方で、そうじゃなかった、私はパラリンピックをますます選ばれた天才のものにしてしまった、という後悔もある」
「義肢が必要ならば眼鏡のように纏ってほしいのです。ファッションの一部にまで溶け込んでほしいのです。まず、義肢を利用した自己実現を、若い人の普通の選択肢にまで押し上げる。その先でスポーツに、その他の夢に、欲しい機能があれば一緒に開発しよう。それが今回発表したファッション義肢の目的です」
永戸はうめくように言う。
いつもへらへらとしている永戸に胸ぐらをつかまれて驚いた。
困惑した俺が携帯を取り出すと、永戸は「あっ、ネットで調べるのはやめとけ」と手を離し、録画済みのBlu-rayをありったけ集めてきて俺の胸に押しつけた。
「護堂はな、みちるちゃんが本当に好きだった先生なんだよ。なんであんなにみちるちゃんが好きだった護堂を知らねぇんだよ」
自宅のテレビに、永戸の部屋と同じ番組が映る。
「なぜスポーツメーカーがファッションに特化した義足を――と思われる方もいらっしゃると思うのですが、それこそ私がずっと倒したかった考え方なのです」
自宅のテレビに、永戸の部屋と同じ番組が映る。有名アスリートを雛壇に並べたスタジオの真ん中で、車椅子の男が大型タブレットタイプのフリップを掲げる。
「2014年ドイツ陸上選手権、走り幅跳び。スポーツ中の事故で右脚を失った選手が健常者の選手に混じって出した記録は8m24cm。それでもなお彼の躍進は止まらず、前回リオデジャネイロオリンピックでは8m40cmにまで到達した記録に議論が巻き起こり、彼は参加資格を剥奪されてしまうのです。義足が生まれ持った脚より有利ではないことを証明せよと迫られて」
手振りする男の姿が画面から消え、映されているオリンピックの映像にフォーカスされ、おもむろに画面全体がVTRに変わる。
「ここで初めて、五体満足なほうが本当に有利なのか、いや、競技によってはむしろ義肢のほうが有利なのではないかという議論が湧き上がります」
悪ノリのガヤや加藤翡翠に向けられるセクハラ的なカメラアングルを10秒送りで飛ばし、次へ、次へ、俺は護堂のせりふを拾う。
「あれから八年――スポーツギアの有利性により、スポーツは健常者のものだという偏見は完全に覆りました。いや、私が覆しました。あらゆるスポーツに向いた義肢を作り、なるべく安く提供するために不断の努力を続け――もはや、従来許されていた障碍者のオリンピック出場は規約で禁じられています。オリンピックとパラリンピックは完全に分けられることになった。なぜか? 不公平を避けるためにです。無論、不利になるのは障碍者ではありません。健常者にとって、です」
「しかしそんな時代にあっても、アスリートを目指す子の親はこう言うのです。『あの人達は特別だから』と。道具だけが進化しても無意味なのです。大切なのは意識の革命。スポーツ義肢などは選ばれし天才にのみ与えられた宝剣なのだという認が蔓延っているうちは、次世代の「天才」は大人に可能性を摘まれ続けねばならない。経済格差が悪いのか――そう思い、ビギナー向けスポーツ義肢の大量生産に努めました。希望する学校があれば寄贈と無料メンテナンスにも務めました。そのときの生徒達が今、東京パラリンピックの有力候補に成長している。やったな、と思います。その一方で、そうじゃなかった、私はパラリンピックをますます選ばれた天才のものにしてしまった、という後悔もある」
「義肢が必要ならば眼鏡のように纏ってほしいのです。ファッションの一部にまで溶け込んでほしいのです。まず、義肢を利用した自己実現を、若い人の普通の選択肢にまで押し上げる。その先でスポーツに、その他の夢に、欲しい機能があれば一緒に開発しよう。それが今回発表したファッション義肢の目的です」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる