BAMBOO SAMURAI

能馬仁

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袴田師匠編

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「なんで護堂を知らないんだよ……」
 永戸はうめくように言う。
 いつもへらへらとしている永戸に胸ぐらをつかまれて驚いた。
 困惑した俺が携帯を取り出すと、永戸は「あっ、ネットで調べるのはやめとけ」と手を離し、録画済みのBlu-rayをありったけ集めてきて俺の胸に押しつけた。
「護堂はな、みちるちゃんが本当に好きだった先生なんだよ。なんであんなにみちるちゃんが好きだった護堂を知らねぇんだよ」


 自宅のテレビに、永戸の部屋と同じ番組が映る。
「なぜスポーツメーカーがファッションに特化した義足を――と思われる方もいらっしゃると思うのですが、それこそ私がずっと倒したかった考え方なのです」
 自宅のテレビに、永戸の部屋と同じ番組が映る。有名アスリートを雛壇に並べたスタジオの真ん中で、車椅子の男が大型タブレットタイプのフリップを掲げる。
「2014年ドイツ陸上選手権、走り幅跳び。スポーツ中の事故で右脚を失った選手が健常者の選手に混じって出した記録は8m24cm。それでもなお彼の躍進は止まらず、前回リオデジャネイロオリンピックでは8m40cmにまで到達した記録に議論が巻き起こり、彼は参加資格を剥奪されてしまうのです。義足が生まれ持った脚より有利ではないことを証明せよと迫られて」
 手振りする男の姿が画面から消え、映されているオリンピックの映像にフォーカスされ、おもむろに画面全体がVTRに変わる。
「ここで初めて、五体満足なほうが本当に有利なのか、いや、競技によってはむしろ義肢のほうが有利なのではないかという議論が湧き上がります」

 悪ノリのガヤや加藤翡翠に向けられるセクハラ的なカメラアングルを10秒送りで飛ばし、次へ、次へ、俺は護堂のせりふを拾う。

「あれから八年――スポーツギアの有利性により、スポーツは健常者のものだという偏見は完全に覆りました。いや、私が覆しました。あらゆるスポーツに向いた義肢を作り、なるべく安く提供するために不断の努力を続け――もはや、従来許されていた障碍者のオリンピック出場は規約で禁じられています。オリンピックとパラリンピックは完全に分けられることになった。なぜか? 不公平を避けるためにです。無論、不利になるのは障碍者ではありません。健常者にとって、です」

「しかしそんな時代にあっても、アスリートを目指す子の親はこう言うのです。『あの人達は特別だから』と。道具だけが進化しても無意味なのです。大切なのは意識の革命。スポーツ義肢などは選ばれし天才にのみ与えられた宝剣なのだという認が蔓延っているうちは、次世代の「天才」は大人に可能性を摘まれ続けねばならない。経済格差が悪いのか――そう思い、ビギナー向けスポーツ義肢の大量生産に努めました。希望する学校があれば寄贈と無料メンテナンスにも務めました。そのときの生徒達が今、東京パラリンピックの有力候補に成長している。やったな、と思います。その一方で、そうじゃなかった、私はパラリンピックをますます選ばれた天才のものにしてしまった、という後悔もある」

「義肢が必要ならば眼鏡のように纏ってほしいのです。ファッションの一部にまで溶け込んでほしいのです。まず、義肢を利用した自己実現を、若い人の普通の選択肢にまで押し上げる。その先でスポーツに、その他の夢に、欲しい機能があれば一緒に開発しよう。それが今回発表したファッション義肢の目的です」

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