BAMBOO SAMURAI

能馬仁

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袴田師匠編

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 ここ数年で、義肢技術は飛躍的に向上した。スポーツ用義肢の開発に尽力しているのは主に護堂医療器GODOというスポーツ用品会社で、今の社長が継ぐまではごく普通の車椅子や福祉施設向けの精密機器などを作っていた小さな町工場だった。
 社長は護堂正規32歳、パラリンピックで二度金メダルを獲った。
 それを知ったとき俺は驚いた。俺は護堂正規の名を知らない。同じ剣道の選手だったにも関わらず、オリンピックとパラリンピックの間にはこんなにも分断があるのだと。
 ともあれ自分のアスリート経験から彼は気づいたのだった。今の日本に足りないのは良い物を創る技術ではなく、アスリートに挑戦を許す空気だと。初心者向け大量生産ラインの商品創りにも尽力し、さらにはそれらを廉価で宅配レンタルする制度を整え、学校や各地のスポーツクラブには無償配布し、現在活躍中の特別強化選手とは積極的にスポンサー契約を結び――結果、日本でも障碍者スポーツのハードルは下がり、レベルは上がり、今やトップアスリートになれるのは障碍者だけという風潮すらある。

 これが、護堂正規のWikipediaである。



 普段ネットは使わないが、やるなと言われると気になって少し調べたりもした。
 SNSに入ると護堂の評価はがらりと変わる。「護堂は逆差別主義者だ」と人は言う。
『健常者のスポーツクラブ入会を断る文書。これでもまだ障碍者が差別されているというのか』
『障碍者によって占められるインターハイ。少女はスポーツ推薦の道を閉ざされた』
『しかも護堂の最終目標はパラリンピックの地位向上なんかじゃない。パラリンピックとオリンピックの併合なんだ。護堂は健常者をスポーツから追い出そうとしている』
 貼りつけられた記事に『パラリンピックはもう”平行パラレル”ではない』と誇張された見出しが躍る。

 怒りの声にも一理あるような気はしたが、悪意がにじみだすような言葉に当てられて、すぐに見るのをやめた。
 そんなことより気になるのは、みんながこぞって指輪を笑っていることだ。
 女児指輪をつけたキモいオッサン、と初老の男性が罵倒する。一方で若い女のアカウントが、セレブの男がわざわざおもちゃの指輪をつけるだなんて意味深で可愛いと妄想に耽る。

 大人の男が、おもちゃの指輪?
 そんなに気になるような指輪をしていたか?
 記憶にないが……気になってリモコンを取り上げる。

 目をすがめ、巻き戻る映像から指を探す。あの、タブレットを掲げるシーンがいい。
 目押しでもやっているみたいだ。だがスロットの才能はないらしく、目的の箇所から数秒ズレる。いらだつような細かな早送りと巻き戻しを数度繰り返して、ようやくテレビは護堂の手の甲を大写しにして止まる。
 節張った指に、場違いな女物――いや、女児向けの、キッチュな指輪が見える。


「護堂はなあ、みちるちゃんが本当に好きだった先生なんだよ。なんでみちるちゃんがあんなに好きだった護堂を知らねぇんだよ」


 胸倉を掴まれた衝撃を思い出して襟元に手を遣る。
 護堂がしているのは、妹の、みちるの、彼を愛していたという俺の妹の――こどもの頃から大切にしている指輪だった。
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