BAMBOO SAMURAI

能馬仁

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袴田師匠編

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 頬がずっとヒリついている。

 テレビをつければ改元の話で持ちきりで、ニュース一番に自分の顔が映るんじゃないかとまでおびえたのがまるで杞憂だ。
 焦げつくような熱を持つ擦過傷を撫で、ネットをのぞけば、SNSだけは「マスコミが報じない大きな訃報」として、黄金期の袴田先生の映像にあふれている(一応元号の話題に埋もれているだけで報じられていないわけではないが)。それもいつまで盛り上がるだろう、と、意地の悪い感想が込み上げる。

 不意にインターフォンが鳴った。

「はい?」

 インターフォンは答えない。逮捕されるのだと思った。ついにこのときが来たかと、半ば安堵しながらドアを開ける。        
 そこに立っていたのは見知らぬ高校生だった。
 頭の形に添って短く刈られた黒髪がさわやかで、少し長さを残したトップヘアだけが跳ねている。学生服の肩が窮屈なほど豊かな体躯だった。何か武道をしている。おそらくは柔道――俺は耳を確かめる。
 その瞬間、少年は深々と頭を下げた。
「初めまして、突然すみません。二松将人にまつまさとと申します」
 誰だ。
 息を呑み、何も言えずにいると、少年の背後からあざやかなピンクの頭がひょこりと飛び出した。ピンク頭の少年は先に頭を下げていた少年を押しやるようにして前に出る。頭の位置が低いと思ったら車椅子だった。
 背もたれのない、黒にネオングリーンの模様があしらわれた車輪が目立つコンパクトな車椅子だ。上体だけ見ると車椅子だと判らなかった。ささやかな手すりにLEDが光っているのを見て、「ゲーミング車椅子……」と思ってしまう。
「こんにちは。突然ですがーちょっとお話よろしいですか? オレはYouTuberのにま。こちらは黒帯のジジイ」
 雰囲気も体格もまるで違うふたりなのに、不思議と顔立ちはよく似ていて、俺は直感で兄弟だと確信する。
 ピンクの髪の少年は手を振り、俺の顔を見つめて微笑った。袖の長いパーカーを着ており、手を振るというよりくたくたの袖が奔放に跳ねる。
「お話……? たぶん俺は君を知らないし、人違いだと思うが」
 言いながら、頭を上げた学ランのほうの少年の耳が柔道特有の丸い形をしているのにほっと息を吐いている自分がいる。
「いえ、あなたはご存知だと思いますよ?」
 少年は屈託なく笑う。
 癖のある髪が揺れて笑顔は愛くるしく、アーモンド型の目が猫を思わせる。その目で俺をまっすぐに射貫いたまま、異様に明るく軽い声がささやく。



「……あなたが殺した袴田先生について」




【袴田師匠編・完】
次回オリンピックのシーズンにまたお会いしましょう
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