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12話 暗殺者

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 とある夜にリュウガは酒を飲みに出かけていた。わざわざ外で飲むのはマイは飲めはするがそもそも酒が好きではなくハンザとゴウは下戸げこであり他は未成年である。そのため街に繰り出し酒を飲む訳だ。

「久しぶりに飲んで気分が良いね」

 なんて上機嫌になるのも無理はない。この男店の酒を全部飲み切ったのである。そうやって良い気分でギルドに向かう途中は夜も遅く人通りもない。そんな夜道を歩く彼を路地裏から1つの影が襲う。殺気はなく、完璧な死角しかくからの首への一突き。それを、

「何してんだ、お前」

 リュウガは回避して逆に相手の背後をとる。突き刺さる筈だったナイフも無刀取りで回収。見事な早技だ。しかし、ナイフの一突きを回避したのは良かったが別の問題が出てきた。

「お前・・」

◇              
 
「遅かったね、どんだけ飲んだの? ていうかその子誰?」

 帰ってきたリュウガにマイは疑問をぶつける。その子とは、リュウガの隣にいる6歳位の少女だ。



 とだけ答える。

「リュウも冗談言うんだね」
 
 フフッと、マイは笑うがそのマイに対して少女が目を潰そうと跳んだ。それをリュウガは首根っこを掴んで止める。

「へっ?」

 気の抜けた声がマイから漏れるがもしリュウガが止めなかったらマイの両目は潰されていた。

「今ので分かったろ。殺気も気配もない。ぶっちゃっけ理想の暗殺者だ」
「で、どうするんですか?」

 うるさかったのだろう、2階からゴウが降りて来る。

「普通なら総本部もしくは騎士団に渡すけどこんな小さい子を渡すのは嫌だな」

 そんな事を言って、マイはふと思い出す。

「今更だけど名前言える? わたしはマイ。あなたは?」

 少女は答えない。代わりにリュウガが、

「無理だよ、これじゃ」

 そう言い少女の首元を見せる。マイとゴウは驚く。喉が潰されているのだ。

「おそらく、暗殺者として育てる時に万が一失敗して尋問じんもんされても良いようにしてんだろ。

 淡々と語るが言葉にはが感じられる。それは、マイとゴウも同じだ。

「朝までかかるけどわたしなら治せる。任せて! それから明日冒険者が全員揃い次第緊急会議を開くよ! この子を寄越した犯人を潰すために!」

 本気で怒っている。当然だ。そんなマイに2人は、

「「了解、ギルドマスター!」」



 翌朝冒険者全員が揃い会議が開かれた。

「昨日の夜、サブマスターが暗殺者に襲われました。その暗殺者はまだ幼く喉を潰されていました。わたしはその子をそんな風にした連中を潰したい。協力してくれますか?」

 いつもの優しい雰囲気がない本気のギルドマスターに今事情を知ったソウとルイは緊張する。マイを尊敬するランも緊張している。そんな中ハンザは、

(総本部の人間としては暗殺者の保護は反対したいがその上の連中は捨ててはおけない)

 総本部の人間としてどうするか悩んでいると、

「お前は総本部の人間として動け」

 リュウガに皆へは聞こえない声で耳打ちされた。

(バレてたのか。いつからだ? それよりも総本部の人間として動けって?)

 リュウガを見るも真剣な表情でギルドマスターの話を聞いている。

(俺は・・)

 そんなハンザの様子は誰も気がつかないまま話は進む。

「暗殺者の子は今わたしの部屋で寝ている。目に隈があったし多分充分な睡眠もとってないんだと思う」
「それで? 話の内容は分かったけどどうするの? その子から情報は得られないでしょ?」

 ルイの疑問ももっともだが、

「いや、問題ねぇ。俺1人で充分だ」

 リュウガが答えるが、

「何で! 全員で動いた方が効率が良いじゃん」

 マイの意見も尤もなのだが、

「暗殺失敗したあのガキを消しに来る奴がいる筈だ。だから俺以外はギルドで防衛に専念しろ。そもそも暗殺対象が俺だけとは限らないからな」

 リュウガの言葉に、ゴウも、

「確かにそうですね。それに1人の方が相手にバレないでしょうし、サブマスターを信じてこちらはあの子の保護に全力を注ぎましょう」

 Sランク2人の意見に全員が納得する。

「安心しろ、あのガキを寄越した連中は確実に潰してやる」

 リュウガの声からは殺気が滲み出していた。



「あのガキに付着していた木の葉はここら辺にしか生育してねぇし、ここだな。それに・・」

 自分と同じように殺し慣れている人間からする血の匂い。

「あそこか」

 血の匂いを頼りに進むと岸壁が見える。魔法で入り口を塞いでいるのだろう。入り口は見えないが匂いはする。

「さて、

 全員で動かない理由が2つありその内の1つはだ。相手が犯罪組織とはいえ殺しの現場を他のメンバーに見せる訳にはいかないからだ。

(いずれNo. 1をになるギルドの人間が殺しは印象最悪だからな。俺1人が手を汚せば良い)

 そんな思いを抱えて、岩壁を斬り裂く。

 ガラガラッ!

 岩が崩れる音がして、中にいた人間が侵入者であるリュウガに気づいて迎撃の準備をするが遅かった。いや、リュウガがすぎるのだ。侵入すると同時に近くに待機していた人間3人を斬り捨てて奥へと駆ける。

「侵入者だー! 全員迎撃の準備を」

 仲間に侵入者の報告を飛ばした男の首を斬り飛ばす。奥から侵入者を排除しようと5人が斬りかかるがその全てを斬る。その調子で奥に進むまでにリュウガは34人を殺した。

(この程度なら問題ないな)

 なんて思ってるが中にはAランク冒険者並みの実力者が5人程いた。普通ならSランク冒険者でも苦戦するか最悪死ぬレベルの事をあっさりってのける。そして、

「お前か? ガキを暗殺に使ったバカは?」

 裏口であろう所から脱出を図る頭目らしき人間に声をかける。おそらく証拠隠滅をしていたのか書類が焼けた後の灰が足下には散らばっていた。

「てめぇ、イカれてんのか! ガキ1人の為にこんだけの人間殺しやがって!」

「散々暗殺やって来た奴が何言ってんだ?」

 全くもってその通りである。どの口で言ってるのやら。

「うるせぇ! そもそも俺たちが暗殺集団だとしても殺しは犯罪だぞ! いいのか! Sランク冒険者様!」

 確かに相手が犯罪者でも殺しは犯罪だ。それを踏まえて、

「関係ねぇよ。いいか、これだけは覚えておけ! ガキの仕事は、寝る、そんでもって、事だ! 暗殺なんかじゃねぇんだよ!」

 そう言い、最後に残った頭目の首も斬り飛ばす。35人もの人間を殺したリュウガであるがその時間は133という恐ろしい速度で完遂してみせた。



「何で呼ばれたか分かるか? リュウガ?」

 リュウガは総本部に呼ばれてダンの前にいる。

「勿論。今回の件は俺1人の独断でやりました。運命の宿木は関係ありません。処罰は私だけで充分です」

 そう言い頭を下げる。リュウガは最初からこのつもりだったのだ。メンバーには暗殺者の子の保護を任せたのはアリバイ作りであり全ての責任を自分にするために仕組んだのだ。が全員で動かなかったもう1つの理由だ。

「お主が実行犯なのは分かっているが計画はギルドマスターを含む全員だろう? 全て聞いておる」

 ダンに全てがバレているのを知り、

(そうか、ハンザは総本部の人間として動いたか)

 しょうがないと思う。自分が言ったのだ総本部の人間として動いても良いと、そんなリュウガにダンは、

「運命の宿木の処罰は暗殺者の子供の教育だ。立派に育てよ!」

 まさかの処罰にリュウガは目を丸くしたが、すぐに把握して、

「ありがとうございます。立派に育ててみせます」

 そう言い部屋を出る。
 
「処罰に礼を言うな馬鹿者ばかもんが」

 なんて言うがダンの顔は笑っていた。

 リュウガが外に出るとハンザがいた。

「処罰はどうなりました?」
「聞くな。分かってるんだろ?」

 2人はギルドに向かう。

「いつから知ってました? 自分が総本部の人間って?」
「最初から」

 マジか! とハンザは驚く。

「それよりもなんて説明したんだ? グランドマスターに?」
「ありのままですよ。ありのまま自分が見て、聞き、感じた事です」

 ハンザはグランドマスターに説明した時を思い出す。

「お願いします。運命の宿木はいずれNo. 1になるギルドです。処罰は監視不十分だった自分が受けます」

 をして懇願こんがんした。自分は総本部の人間であるがそれでもギルドメンバーとしてここで運命の宿木には終わってほしくなかった。見届けたくなったのだ総本部の人間としてではなくギルドのメンバーとしてNo. 1になる瞬間を。

 そんなハンザにリュウガは、

「これからもよろしく頼むぜ。ハンザ・コルニス」

 笑顔で肩を叩き2人はギルドへと帰っていった。



 総本部から帰ってきた、リュウガとハンザから暗殺者の子はうちで育てる事に決まった事を聞いて、そこで大事になるのは名前だ。どうやら暗殺者として教育を受けていたらしい。

「まったく! 名前も付けずに暗殺ばっかり教えて!」

 マイは大分怒っている。周りはどうどうと落ち着かせている。

「とりあえずは名前決めようぜ。どうする?」

 リュウガの言葉にみんな意見を出していく。しかし中々決まらず3時間が経過して暗殺者の子供が、リュウガの服を引っ張る。

「どうした?」

 優しく問いかけるも何も言わない。そんな子供にマイは、

「リュウガが考えた名前が良いんじゃない?」
「そうなのか?」

 子供は頷く。
 
「それなら今日からお前はヒカリだ! もう暗殺とは無縁の表で生活するんだからな!」
「へ~、中々考えてるんじゃない」

 ルイが茶化す。それに対して、

「うっせ」 

 とだけ返すリュウガ。子供はヒカリという名前を貰い嬉しそうだ。

「家名はどうしますか?」
「サブマスのでいいんじゃないかな?」

 ゴウとハンザの言う通り家名をどうするかだが、

「家名はギルマスでいいだろ、ヒカリの喉治してるんだし」
(せっかく表の世界で生きるのにうちの家名はやれねぇな)

 本音はそれだった。今はレンとカタカナ読みだが元々は練という殺しの一族の名だ。流石にそれは名乗らせたくない。そんなリュウガの本心はともかくとして、

「そこは、本人に聞かないとね。どう? クルルガにする?」

 マイが問いかけると、小さく頷く。

「それなら、今日からあなたはヒカリ・クルルガだ。そしてここがあなたのおうちの運命の宿木だよ!」

 ヒカリは俯いてはいるがどこか嬉しそうだ。

「それじゃヒカリに言葉を教えないとね! 喉が治ったけどまだ喋れてないから」

 名前が決まり、早速ヒカリへの教育が始まった。女性陣が率先して教えている。妹が出来たみたいで可愛いのだろう。

「それじゃ、ヒカリは女性陣に任せて今後について話すぞ」

 リュウガが残りの男性陣に話す。

「俺が先日潰した暗殺集団なんだが依頼者のリストは丁寧に処分していた。そのせいで誰が俺もしくは俺達を狙ったのか分からずにいる。一応全員警戒は解くな」

「「「了解」」」

 いい返事だ。

(この様子なら大丈夫だろう) 

 とリュウガは思うが、女性陣を見て、

(ヒカリに夢中だな。まぁ当分は暗殺失敗したから迂闊に手は出してこないだろ。)

 と、を立ててしまう。



「いや~、ヒカリの服いっぱい買っちゃった~」
「ヒカリは可愛いからね。こっちもお金を出したかいがあるわ!」

 マイとルイの2人はヒカリのために今回はショッピングだ。ヒカリは勿論リュウガも一緒だ。何故リュウガもいるかというと、

「ヒカリが万一消えたら俺しか追えないだろ」

 との事だ。ヒカリはこれからは暗殺者ではなく普通の女の子として生きていくが体には暗殺者として身につけた気配を消す技術は健在だ。もし見失ったら一大事になるので同行している。

「はしゃぐのはいいが使い過ぎんなよ」

 注意を促すも、

「「大丈夫でしょ!」」

 と2人してハモッた。仲がいい事だ。

「楽しいか? ヒカリ」

 ヒカリに聞くと、
 
「タノシイ」

 とカタコトだが答えてくれる。この数日間でカタコトではあるが日常会話は出来るようになり、文字も平仮名なら書けるようになった。この調子なら1月ひとつきもあればカタカナ、漢字も書けて言葉も流暢りゅうちょうになるだろう。

 服を買い揃えて満足し最後はデザートでも食べて帰ろうと皆でカフェに寄る。そこでリュウガは、

「悪い、少し席外す」
「どうかした?」
「トイレだよ」

 マイの問いに言わせんなとばかりに答える。

 路地裏からマイ達を観察している者がいた。ある日の夜に暗殺依頼を出していた男だ。

「クソ! 生きてるじゃないか! しかもあのガキはうちが雇った暗殺集団のエースだろ! 何をやっている!」

 本来なら今日が暗殺成功の報酬を払う日なのにも関わらず取引相手は来ないうえに表通りを見れば暗殺対象が生きているではないかと狼狽える。そこへ、

「お前か? 暗殺の依頼人は?」

 声がする方向に顔を向けると胸ぐらを掴まれた。

「チャンスをやる。死にたくないなら答えろ、答える気があるなら頷け」

 ブンブンっ!

 と音がする程頷いた。胸ぐらから手を離してやる。

「それで? お前は何者だ?」
「私は貴族バルーク家に仕える者です。」
「貴族が暗殺依頼ねぇ」
(異世界だろうが上流階級ってのは裏があるもんだな)

 リュウガは自分の家でも昔上流階級の権力争いに関わっていた歴史があったのを思い出す。

「それでバルーク家がなんで暗殺依頼を出した? それも一介の冒険者相手に」
「バルーク家は暗闇くらやみ一等星いっとうせいに多額の投資をしている。だから最近話題の運命の宿木その中でも剣聖を倒した実力者であるお前を消して勢いを殺す予定だった」
(成程。自分が投資しているギルドに迫る勢いのギルドが邪魔になったから消しておくか)

 リュウガは今回の一件は簡単には終わらないものだと考える。

「暗闇の一等星も知ってんのか? この暗殺について?」
「そこまでは私は知らない。あくまで当主から依頼を出すように言われただけだ。本当に知らない。」

 どうやらこれ以上聞くのは無駄らしい。

「良く分かった。帰って主に伝えろ。今後運命の宿木の者に手を出したら、バルーク家をさせる」

 いいな、と念を押し男を逃す。

「遅い! どんだけかかってんのよトイレに!」

 戻るとルイに叱られる。

「まぁまぁ、きっとうんこが中々出なかったんだよ」

 とマイがフォローするも、

「フォローはありがたいがそんな事ではねぇ、後女がうんことか言うな。アホ!」
「アホ! って言うな!」
「うるせぇ、アホ!」 

 とリュウガとマイのくだらない言い合いをする2人にヒカリは嬉しそうに見つめていた。

 
 


 


 

 
 
 
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