ふるさと雑貨屋・天義

沼津平成@25周年カップ参加中

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第1話 シャッター街

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 シャッター街を歩いていると、心まで薄暗くなりそうだった。しかし、松山祐介まつやまゆうすけは、どうしてもこのシャッター街を嫌いになれなかった。

「ハァ……ずいぶん変わったよな」祐介は呟き、足元で包まる猫に目を落とした。「おい猫、そこは危ないぞ」と呟くと、猫はビクッとして、起き上がり、慌てて近くの駐車場へかけていった。

 ハァ、と、またため息をつく。あの猫に苛立ったわけではない。自分が声を出すたびに、どうして、こうなってしまうのだろう?

 自分を呪いたくなって、祐介はふと涙が出そうになった。シャッター街の暗さは、心の暗さと見事に調和して、そこには妙な安心感があった。

 この安心感こそ故郷ふるさとなのかもしれない、と祐介は思った。シャッター街は奇妙なまでに二列に整列されていた。

 文具のサカヤがしまっている。斜向はすむかいの宮前酒店みやまえさかてんは、がらんとした雰囲気だ。カフェ・ニューターンは、営業中だったが、窓越しに見るシャンデリアはどこか悲しそうに揺れていた。

 祐介は、あぁ、と声に出してうつむいた。無情、なるものを体感したのはこれが初めてだった。街がすっかり寂れてしまったのは、俺のせいなのかもしれない、と頓珍漢とんちんかんなことを考えては、すっかり自分の悲しみを仕立て上げていた。

「俺のせいだ——全部、俺のせいだ」

 祐介は呟き、視線を暗いコンクリートに這わせていく。どこも変わらない、粗く固められた車道だ。歩道かもしれない。とにかく、公道までもが寂れた町だった。そして、そこに鎖を繋がれたような祐介は、そうやってシャッター街を散歩するしかなかったのだ。

 祐介は顔を上げた。再びシャッター街を観察する。お世話になった小学校。そこには工事の車が数台止まっている。取り壊しているらしい。廃校か。祐介は思った。不思議と何も感じなかった。思い出が消えていくことに、もう慣れてしまったのだろうか?
 そうならば、それはそれで悲しいと思った。
 
 そうやって視線をジグザグとやっているうちに、ふと、足が止まった。『ふるさと雑貨屋・天義』看板に書いてあるその店は、「元からそこにあった感じ」を漂わせていた。ふるさと雑貨屋なんて名前についているくらいだから、よく目立つ店だっただろう。しかし、

「どうして……」

 祐介の記憶に、「天義」なる雑貨屋はなかった。
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