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第7話 失踪した男の秘密
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「第一のお客様——、失踪した男の人がやってきましたよ」と本村が言った。
「なんで俺が働くことに」
「働かないんですか?」
「せめてボランティアで……」
「あら、給料がなくなりますよ?」
たぶらかすような視線。そうだった、俺はこの男に弄ばれ続けているのだ、と松山は思い出した。
「——まず、寝る場所は?」
「旅館に『泊りますから』と電話をかけています」
「一泊何円?」
「数千円です」
「ふむ……食事は?」
「旅館が味噌汁を出してくれます」
「なるほど。味噌汁が美味しい旅館は、滞在もよし、と」
「はい」
なるほど、じゃあパートを組みましょうか、と本村がつぶやく。
「パート?」
「午前10時~午後4時でどうですか?」
「10時から、4時……」
その魔法の数字を聞くと、全てがこぼれ落ちて行ってしまうようで、悲しくなり、胸の中に耐えきれない空虚がぶっきらぼうに詰まっていく。
もうだめだな、と息が絶え絶えになってくる。意識が朦朧になってくる。だめだ。4~10。思い出すな。
◇
なんとか息を整え直した松山祐介だったが、もう体力は残りわずかだった。本村の視線から目を背けつつ、「フゥー」と深呼吸をするのでいっぱいだった。
そして、松山を正面から見て、「午前9時から、午後6時でお願いします」
「よろしい。松山さんの給料も増えますし、天義が危惧していた人手の問題も解決できますし、それは理想の数字だ」
本村がにこやかに笑う。祐介は、クソ、と歯軋みした。午後5時でもよかったじゃないか。それでも6時で、と口をついて出たのは、本村に対してなんだか畏れにも似た気持ちが湧き上がっていたからだ。
本村、恐るべし。
祐介は、改めてそうおもった。
「なんで俺が働くことに」
「働かないんですか?」
「せめてボランティアで……」
「あら、給料がなくなりますよ?」
たぶらかすような視線。そうだった、俺はこの男に弄ばれ続けているのだ、と松山は思い出した。
「——まず、寝る場所は?」
「旅館に『泊りますから』と電話をかけています」
「一泊何円?」
「数千円です」
「ふむ……食事は?」
「旅館が味噌汁を出してくれます」
「なるほど。味噌汁が美味しい旅館は、滞在もよし、と」
「はい」
なるほど、じゃあパートを組みましょうか、と本村がつぶやく。
「パート?」
「午前10時~午後4時でどうですか?」
「10時から、4時……」
その魔法の数字を聞くと、全てがこぼれ落ちて行ってしまうようで、悲しくなり、胸の中に耐えきれない空虚がぶっきらぼうに詰まっていく。
もうだめだな、と息が絶え絶えになってくる。意識が朦朧になってくる。だめだ。4~10。思い出すな。
◇
なんとか息を整え直した松山祐介だったが、もう体力は残りわずかだった。本村の視線から目を背けつつ、「フゥー」と深呼吸をするのでいっぱいだった。
そして、松山を正面から見て、「午前9時から、午後6時でお願いします」
「よろしい。松山さんの給料も増えますし、天義が危惧していた人手の問題も解決できますし、それは理想の数字だ」
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本村、恐るべし。
祐介は、改めてそうおもった。
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