八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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05昼食と魔物

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 酒を買う前に、二人は昼食を摂ることにした。
「さて、コハクは何を食べたい」
「甘いのがいい」
「うむ、食事だからなぁ」
 食事処の店が並ぶ通りを、二人は話しながら歩いて店を探している。
「あっ、これっ」
 店の前に飾ってある食事の見本に、コハクが足を止めた。
「これとこれね。甘くて美味しいよ」
「食べたことあるのかい」
「うん、あるみたい。シロガネは食べたことない?」
「この店に入ったことはないなぁ。よし入ってみようか」
「やったー!」
 店の暖簾を括れば、たくさんの人で賑わっていた。店員に案内されて二人は席に着く。
 シロガネが食卓に置いてある品書きを開いた。コハクも覗き込むと、食べた事があると言った食事を指した。
「コレとコレだね」
「こっちは肉と野菜が入っているから、ちゃんとおかずになるようだ。こっちは甘味のような……」
「おかずにも、おやつにもなるよ」
「なるほど……」
「シロガネは何にするの?」
「小さく包んでいるコレは食べやすそうだ。それと、無難に麺にしてみようか。コハク、飯はどうする?」
「こっち」
 決めた食事をシロガネは、品書きを指を刺しながら注文した。

 二人の目の前に注文した昼食が並んでいる。
 大人と子供の二人にしては、少々量が多い気がするが、美味しそうな匂いは食欲をそそる。
 たくさん歩き回ったので空腹だ。
 シロガネが取り皿に分けた。
「いただきます」
 二人は手を合わせて食事を始めた。
「うーん、甘くて美味しいよぉ」
「うむ、肉に甘酸っぱいタレがついて上手い。これなら、野菜嫌いなコハクも食べられるな。こっちは揚げた薩摩芋に甘い蜜で和えて、黒胡麻の食感がいい」
「この小さいのは、食べるとジュッて肉汁が出て来るよ。麺は細くて食べやすいし、お汁は濃くて、いっぱい飲みたくなるっ」
「炒めた飯はどうだい?」
「肉と卵が入って塩胡椒の味がするぅ」
「美味しいかい?」
「うん、全部、美味しい。シロガネは?」
「あぁ、どれも美味いよ」
 二人は初めての外食を満喫して、ペロリと完食した。
 
 お腹を満たして、二人は最後の買い物となる酒屋に向かった。
 暖簾を潜って店に入れば、店主はシロガネの顔を見つけてお辞儀する。
「いつもご来店ありがとうございます」
 シロガネの顔を覚えているのは、商売人として当たり前だろうが、それだけシロガネが酒を買いにくる常連客ということだ。
 店主は新しく入った酒があると告げて、シロガネを店の奥に案内する。
「コハク、しばらく待っていてくれるかい」
「うん、わかった」
 シロガネの好きな酒を否定するつもりはない。放っておかれると、少し寂しい気持ちになるのは、コハクの我がままだ。だから素直に返事をした。
 酒は神事や祝いの席で振る舞われる物だとコハクは知っている。酒が美味いかどうかは分からないけど、シロガネと一緒ならば呑みたいと思う。ただ一緒の事をしたいだけで、酒には興味はない。
 あれからコハクは待っている間、店の中でウロウロと興味もない酒を見て回る。もう何周目だろうか。
 シロガネが戻って来る気配がない。酒を見ているだけはつまらなくなり、とうとう酒屋の外に出た。
 シロガネが奥から戻って来ても、他にも選んだりするかもしれない。そうなると、もうしばらく時間がかかるだろう。
 それならと、コハクは近くの店を除いて時間を潰すことにした。
 
 通りを歩いていると、どこからか視線を感じた。コハクは、この感覚を覚えている。
 何かは思い出せないけど、身の危険を感じるものだと分かった。
 酒屋に戻ろうと急いで歩き出す。 
 すると、脇道から唸り声が聞こえた。
 振り返ってはいけないと、直感的に分かっていたにもかかわらず、身体が反応してしまった。
 その瞬間、ヌッと黒く細長いものが伸びてきて、コハクの腕を巻きつくように掴んだ。抗うこともままならないままに、大声を出す間もなく脇道に引っ張られた。
 そこは脇道ではなかった。ただの暗闇の中だった。巻きついた黒い細長いものは消えていた。
 けど、暗闇の中を何かが蠢いている気配を感じる。さっきの黒い細長いものだと分かる。
 何も聞こえない、何も見えない。逃げる場所もなくて、コハクは怯えて立ちすくむ。
 どうすれば、いいの……シロガネ。
 コハクは消えそうな小さな声で、シロガネの名前を呟いた。
 ヒュンっと音がした。
 何かが向かって来ると感じて、コハクは身構えた。
 バリンっと音が響く。
 何かが阻んで、コハクに当たらなかった。
 再び、ヒュンヒュンっと、いくつもの音が鳴る。全てがバリンバリンと阻まれた。
 コハクには何が起きているのか、わからない。
 この状態がいつまで続くのか。阻むものがいつまで持つのか。何も分からなくて怖くてたまらない。
『コハク!』
「シロガネ!」
 どこからか、シロガネの声が聞こえた。必死に辺りを見回すが、暗闇で何も見えないままだ。
『コハク、道を開くんだ』
 シロガネの声が頭に響いている。
 この間にも何かが、コハクを狙ってくる。
 だけど、シロガネの声がコハクの震える心を落ち着かせた。
「道って……、光の道……なの」
 この町に来る時に、シロガネが呪文で開いた光の道をコハクに開くように言っていると理解した。
 だけど、それが可能なのだろうか。
 コハクは戸惑うが、シロガネの言葉を信じた。
『彼の地の扉を開けし繋げよ。お願いシロガネに届いて!』
 すると、コハクの目の前に光の円が現れるや否や、シロガネが姿を現した。
 コハクの強張っていた顔は、みるみると崩れて瞳は潤んで揺れた。
「シロガネぇー」
「もう大丈夫だ」
 幻のではない。
 シロガネの姿と優しい声を確認できたコハクは安心する。だから、迷うことなくシロガネに抱きついた。
 そして、シロガネも目一杯にコハクを抱きしめた。
「世を照らす太陽よ。今此処へ、闇を浄化せし! 明後日の彼方へ戻るがいい」
 シロガネが呪を述べると、足元から術式が現れて光が溢れていく。
 深い暗闇を眩しく照らせば、暗闇がなくなった。すると、黒い影は姿を消していた。
 気がつけば、周りから賑やかな音が響いた。
 町に戻って来たようで、脇道にコハクとシロガネは立っていた。
 うわぁーん。
 コハクは泣き声を上げて、さっきより強くシロガネに抱きついた。
 シロガネは、コハクの頭を撫でて慰めた。
「よく頑張ったね」
「怖かった……助けてくれてありがとう」
「いや、私のせいだ。式神をつけていたが、それに安心してしまっていた。まさか、白昼堂々、あんな物が襲ってくるとはね」
「式神?」
「あぁ、コレだよ」
 シロガネは、撫でていた手をコハクに見せた。そこには、小さなてんとう虫がいた。
「てんとう虫が式神なの?」
「戻れ」
 シロガネの呟きで、小さなてんとう虫が小さな白い紙に戻った。
「ほんとだ、全然気がつかなかったよ」
「今は、私の方が呪力が強いからね」
「うん?」
「何でもないさ」
 不思議そうにコハクが見つめるので、シロガネは笑いながらまた頭を撫でた。
「さて、帰ろうか」
「ねぇ、お酒は?」
「買ったよ」
「そうなの? そういえば、他の荷物もどこなんだろう。買い物したのにシロガネはずっと身軽だった」
「今頃、それを言うのかい? 全部、ここにあるよ」
 シロガネが、笑いながら小さな袋を見せた。
 こんな小さな袋に、買い物した品が全部入っているなんてありえないのだ。
 コハクは、不思議そうに小さな袋を見つめた。
「コハクならば、理解できるはずさ」
「あっ。光の道みたいに、この袋は家に繋がっているっ!」
「正解」
「シロガネってすごいね」
 コハクは瞳を輝かせて、敬慕の眼差しを向けた。
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