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06仕事部屋の片付けと揶揄い
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シロガネが退魔士の仕事に行く時は、コハクは留守番をして帰りを待つ。
コハクは退魔士について、朧げな記憶があった。そして、シロガネから退魔士の仕事の話しを聞いて理解していた。
魔物と戦うことは、命がけの危険なものだ。
しかし、シロガネは強い退魔士である。その証拠に、魔物たちが家の周りには近づかない。
だが、コハクの為に、シロガネは家の周辺とコハクが散策する範囲までの結界を広げた。
なのでコハクは、魔物を警戒しても恐れなかった。しかし、町で黒い魔物に襲われて以来、恐ろしく思うようになる。
その気持ちは自身だけに限らず、魔物と戦うシロガネに対してもだった。
たとえ、どんなにシロガネが強いといっても、万が一を考えてしまう。
心に棲みつく恐ろしさは、怯えとなり不安にかられてしまう。
「気をつけてね」
「くれぐれも結界の外には出ないように」
「うん。わかってる」
寂しさと不安を隠して、コハクが健気に微笑んだ。その憂いがシロガネに届く。
柔で儚い思いに惹かれて心が波立てば、護りたい思いは抱きしめたい気持ちになった。
「コハク、おいで」
シロガネが手を広げて誘う。
瞳をパチクリと、コハクが当惑するのも束の間、はにかみながらも笑顔で抱きついた。
シロガネは優しく愛おしく抱きしめた。
「それでは行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
コハクは手を振って、光の道を使って出かけるシロガネを見送った。
ギュッと抱きしめてもらって、コハクの心はポカポカしていた。寂しさは少し消えて不安も和らいだ。だから、前を向ける。
「よし、がんばろう。シロガネが帰ってくるまでに片付けなきゃ」
シロガネは、最初からコハクに対して過保護であった。だが、それは無自覚だった。
町で魔物に襲われてからは、己の過信より招いたことだと、反省しきりである。
それは無自覚が自覚に変わり、過保護に拍車がかかるのは仕方がない。
自覚をすれば、より一層、顕著になった。
それは、はたからみれば、溺愛だと言われても仕方がないほどであろう。
そして、今まで以上に結界をより強固な物にした。
また、シロガネが家を留守にして出かける場合は、式神をつけた。
あの魔物は何故、コハクを狙ったのか。
コハクは気になってシロガネに尋ねた。
「コハクが可愛いからじゃないか」
コハクは思いもしない答えに固まる。
それは、まさに目が点となる。理解するまで時間を要して、何度も瞬きをした。
「意味がわかんない」
「そうかなぁ」
「だって。かっ、かわいいなんて、おかしいよ」
「私は可愛いと思うなぁ」
「そっ、そうなの」
「そうだよ。コハクは可愛いよ」
「なんだよぉ、もう。揶揄うのは、やめて」
「本当なんだけどねぇ」
「もう、わかったからぁ。でっ、ボクが魔物に襲われた理由なんだけど」
シロガネが、真剣な表情で伝えてくれる気持ちは嬉しいけど、コハクは恥ずかしくなる。
コハクは理由を聞く為に誤魔化した。
その様子を楽しんだシロガネは素直に説明を始めた。
「コハクには、呪力があって記憶と共に封印されているって以前説明したね」
コハクが静かにうなずいた。
「コハクの呪力は綺麗だからね。呪力は魔物にとって脅威でもあるが、好物でもある。隙があれば呪力を奪い我が物にしようと狙っている。陰陽道を知り得ない者なら、襲われるのは当然だろうね」
「それじゃあ、呪力がある人は、皆んな……陰陽道を学んで陰陽師や退魔士ならないといけないの」
「そんなことはないさ。魔物も何でもいいわけじゃない。呪力は、その人の心の在り方を示す指針だ。好みも相性もあるからね。それに、呪力に惹きよせられて守護する物が、たいてい、側にいているからね」
「ねぇ、それって、ボクにも守護する物がいるの?」
「さぁね、どうだろう」
「どうして、はぐらかすの」
「それは私が答えるべきではないからだよ」
「シロガネの……イジワル」
プイッとコハクは顔を背けた。
「おやおや、嫌わないでおくれ」
「き、嫌いになんて、なるわけないよ」
「そうかい。それじゃ好きかい?」
思いもよらない問いかけに、コハクは驚いて固まった。
どうして好きとか嫌いの話しになっているのだろう。そんなことが脳裏をよぎる。
嫌いじゃないなら、その反対は好きしかない。そんなこと、恥ずかしすぎて言葉にできるはずもない。
「し、しらないっ」
拗ねた振りをしてうつむいたコハクは、それ以上は何も言わなかった。
シロガネも何も言わずに、ただ目を細めてコハクを見ていた。
それ以降、コハクが狙われた話と呪力についての話は、それっきりである。
さて、コハクは家の片付けを始めることにした。
掃除や洗濯、朝食の片付け、食器を洗う。
最初は掃除や洗濯のやり方もわからなかった。食器を洗えば、コップや皿を割った。失敗ばかりで、全然上手く出来なくて落ち込んだ。
だけど、どんな時もシロガネは怒らないで慰めてくれる。
その優しさがコハクの心に積み重なった。
何度も失敗を繰り返して、今では、それなりに出来るようになった。
「上手に出来るようになったな」
シロガネが頭を撫でて褒めてくれることが、コハクにとって何よりも嬉しかった。
今、コハクは、以前から片付けをしたいと思っていていた部屋にいる。それはシロガネの仕事部屋だ。
退魔士の仕事で使用する呪術に必要な素材や道具。または呪術に関する書籍や資料が、所狭しと整理されずに置いてある。
「あれ、増えてない?」
部屋を見回すしてコハクが呟いた。
コハクから見てシロガネの性格は丁寧で正確。誠実で情け深い。そして、よく揶揄うので、意外と悪戯好きなのだろうと思っている。
生活に関しては、整理整頓を心がけて不要な物を持たない。
だからコハクは、シロガネの家で暮らし始めて物が少ないことに驚いた。
コハクの記憶とは異なる感覚だからだ。
しかし、仕事部屋に初めて入った時だった。今度は逆に、物の多さに驚いた。それだけではなくて、整理整頓はされずに雑然と置かれている。シロガネらしくない状況だからだ。
「どうして、こんなに散らかっているの」
「さあ、どうしてかな」
「はぐらかさないでよ」
「この家に、以前住んでいた人の荷物があったからさ」
「シロガネの前に他の人が住んでたの?」
「そうだよ。陰陽道に長けている人で、引退する際に、この家を譲り受けた。収集癖のある人で、貴重な物がたくさんある。そのおかげで、仕事に困らない」
「だけど、どこに何があるか、わからないよ。探すのが大変で使いたい時に使えないんじゃないの」
「探し物は得意さ」
シロガネが小さな白い紙を出して、呪を呟けば、蝶の式神になった。
「陰陽道の歴史についての本を探しておくれ」
シロガネの命を受けた蝶が本棚の辺りヒラヒラと飛んでいる。今度は床に積まれている本の辺りを飛んだ。すると、一番下の本の角に止まった。
「あれがそうみたいだね」
「ほんとうに」
「確認してみようか」
シロガネが積まれた本を退けて、一番下の本手に取ってコハクに渡した。コハクは本の題を確認する。
「陰陽道とは~起源と歴史~。って書いてある」
「うん、ちゃんと見つけられたな」
「すごい」
「という感じで、探すことに困らない。整理整頓するにも多すぎてね。この状況だ」
「でも、新しいのもある。これらはシロガネが買ったんだ」
「うん、買ったな。時が経てば、呪術の考え、呪文や術式が変化する。もちろん道具もね」
「シロガネって勉強家なんだね」
「そうでもないさ。結局、使うのは使い慣れた呪文や術式だ。古い考えから中々抜け出せない」
「古い考え? そういえば……。シロガネって歳はいくつなの? 聞いていなかった!」
「さぁ、いくつだろなぁ」
「また、はぐらかす! それ禁止」
「コハクの歳がいくつなのか。知らないんだけどねぇ」
「うっ。そんなの。……シロガネの意地悪」
「おやおや、嫌われてしまったかな。私はコハクが好きだよ」
「なっ」
無垢れて怒っていたコハクだが、今は恥ずかしくて目を逸らして素っ気なく態度を装っている。
クルクルと変わるコハクの表情をシロガネは愉しんでいた。
そんなコハクをシロガネが優しく微笑んで見つめているので、コハクはいたたまれなくなって頬を紅くした。
「嫌いじゃないからぁ、でも、イジワルぅ」
またしても揶揄われたと、コハクは拗ねた。
コハクは退魔士について、朧げな記憶があった。そして、シロガネから退魔士の仕事の話しを聞いて理解していた。
魔物と戦うことは、命がけの危険なものだ。
しかし、シロガネは強い退魔士である。その証拠に、魔物たちが家の周りには近づかない。
だが、コハクの為に、シロガネは家の周辺とコハクが散策する範囲までの結界を広げた。
なのでコハクは、魔物を警戒しても恐れなかった。しかし、町で黒い魔物に襲われて以来、恐ろしく思うようになる。
その気持ちは自身だけに限らず、魔物と戦うシロガネに対してもだった。
たとえ、どんなにシロガネが強いといっても、万が一を考えてしまう。
心に棲みつく恐ろしさは、怯えとなり不安にかられてしまう。
「気をつけてね」
「くれぐれも結界の外には出ないように」
「うん。わかってる」
寂しさと不安を隠して、コハクが健気に微笑んだ。その憂いがシロガネに届く。
柔で儚い思いに惹かれて心が波立てば、護りたい思いは抱きしめたい気持ちになった。
「コハク、おいで」
シロガネが手を広げて誘う。
瞳をパチクリと、コハクが当惑するのも束の間、はにかみながらも笑顔で抱きついた。
シロガネは優しく愛おしく抱きしめた。
「それでは行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
コハクは手を振って、光の道を使って出かけるシロガネを見送った。
ギュッと抱きしめてもらって、コハクの心はポカポカしていた。寂しさは少し消えて不安も和らいだ。だから、前を向ける。
「よし、がんばろう。シロガネが帰ってくるまでに片付けなきゃ」
シロガネは、最初からコハクに対して過保護であった。だが、それは無自覚だった。
町で魔物に襲われてからは、己の過信より招いたことだと、反省しきりである。
それは無自覚が自覚に変わり、過保護に拍車がかかるのは仕方がない。
自覚をすれば、より一層、顕著になった。
それは、はたからみれば、溺愛だと言われても仕方がないほどであろう。
そして、今まで以上に結界をより強固な物にした。
また、シロガネが家を留守にして出かける場合は、式神をつけた。
あの魔物は何故、コハクを狙ったのか。
コハクは気になってシロガネに尋ねた。
「コハクが可愛いからじゃないか」
コハクは思いもしない答えに固まる。
それは、まさに目が点となる。理解するまで時間を要して、何度も瞬きをした。
「意味がわかんない」
「そうかなぁ」
「だって。かっ、かわいいなんて、おかしいよ」
「私は可愛いと思うなぁ」
「そっ、そうなの」
「そうだよ。コハクは可愛いよ」
「なんだよぉ、もう。揶揄うのは、やめて」
「本当なんだけどねぇ」
「もう、わかったからぁ。でっ、ボクが魔物に襲われた理由なんだけど」
シロガネが、真剣な表情で伝えてくれる気持ちは嬉しいけど、コハクは恥ずかしくなる。
コハクは理由を聞く為に誤魔化した。
その様子を楽しんだシロガネは素直に説明を始めた。
「コハクには、呪力があって記憶と共に封印されているって以前説明したね」
コハクが静かにうなずいた。
「コハクの呪力は綺麗だからね。呪力は魔物にとって脅威でもあるが、好物でもある。隙があれば呪力を奪い我が物にしようと狙っている。陰陽道を知り得ない者なら、襲われるのは当然だろうね」
「それじゃあ、呪力がある人は、皆んな……陰陽道を学んで陰陽師や退魔士ならないといけないの」
「そんなことはないさ。魔物も何でもいいわけじゃない。呪力は、その人の心の在り方を示す指針だ。好みも相性もあるからね。それに、呪力に惹きよせられて守護する物が、たいてい、側にいているからね」
「ねぇ、それって、ボクにも守護する物がいるの?」
「さぁね、どうだろう」
「どうして、はぐらかすの」
「それは私が答えるべきではないからだよ」
「シロガネの……イジワル」
プイッとコハクは顔を背けた。
「おやおや、嫌わないでおくれ」
「き、嫌いになんて、なるわけないよ」
「そうかい。それじゃ好きかい?」
思いもよらない問いかけに、コハクは驚いて固まった。
どうして好きとか嫌いの話しになっているのだろう。そんなことが脳裏をよぎる。
嫌いじゃないなら、その反対は好きしかない。そんなこと、恥ずかしすぎて言葉にできるはずもない。
「し、しらないっ」
拗ねた振りをしてうつむいたコハクは、それ以上は何も言わなかった。
シロガネも何も言わずに、ただ目を細めてコハクを見ていた。
それ以降、コハクが狙われた話と呪力についての話は、それっきりである。
さて、コハクは家の片付けを始めることにした。
掃除や洗濯、朝食の片付け、食器を洗う。
最初は掃除や洗濯のやり方もわからなかった。食器を洗えば、コップや皿を割った。失敗ばかりで、全然上手く出来なくて落ち込んだ。
だけど、どんな時もシロガネは怒らないで慰めてくれる。
その優しさがコハクの心に積み重なった。
何度も失敗を繰り返して、今では、それなりに出来るようになった。
「上手に出来るようになったな」
シロガネが頭を撫でて褒めてくれることが、コハクにとって何よりも嬉しかった。
今、コハクは、以前から片付けをしたいと思っていていた部屋にいる。それはシロガネの仕事部屋だ。
退魔士の仕事で使用する呪術に必要な素材や道具。または呪術に関する書籍や資料が、所狭しと整理されずに置いてある。
「あれ、増えてない?」
部屋を見回すしてコハクが呟いた。
コハクから見てシロガネの性格は丁寧で正確。誠実で情け深い。そして、よく揶揄うので、意外と悪戯好きなのだろうと思っている。
生活に関しては、整理整頓を心がけて不要な物を持たない。
だからコハクは、シロガネの家で暮らし始めて物が少ないことに驚いた。
コハクの記憶とは異なる感覚だからだ。
しかし、仕事部屋に初めて入った時だった。今度は逆に、物の多さに驚いた。それだけではなくて、整理整頓はされずに雑然と置かれている。シロガネらしくない状況だからだ。
「どうして、こんなに散らかっているの」
「さあ、どうしてかな」
「はぐらかさないでよ」
「この家に、以前住んでいた人の荷物があったからさ」
「シロガネの前に他の人が住んでたの?」
「そうだよ。陰陽道に長けている人で、引退する際に、この家を譲り受けた。収集癖のある人で、貴重な物がたくさんある。そのおかげで、仕事に困らない」
「だけど、どこに何があるか、わからないよ。探すのが大変で使いたい時に使えないんじゃないの」
「探し物は得意さ」
シロガネが小さな白い紙を出して、呪を呟けば、蝶の式神になった。
「陰陽道の歴史についての本を探しておくれ」
シロガネの命を受けた蝶が本棚の辺りヒラヒラと飛んでいる。今度は床に積まれている本の辺りを飛んだ。すると、一番下の本の角に止まった。
「あれがそうみたいだね」
「ほんとうに」
「確認してみようか」
シロガネが積まれた本を退けて、一番下の本手に取ってコハクに渡した。コハクは本の題を確認する。
「陰陽道とは~起源と歴史~。って書いてある」
「うん、ちゃんと見つけられたな」
「すごい」
「という感じで、探すことに困らない。整理整頓するにも多すぎてね。この状況だ」
「でも、新しいのもある。これらはシロガネが買ったんだ」
「うん、買ったな。時が経てば、呪術の考え、呪文や術式が変化する。もちろん道具もね」
「シロガネって勉強家なんだね」
「そうでもないさ。結局、使うのは使い慣れた呪文や術式だ。古い考えから中々抜け出せない」
「古い考え? そういえば……。シロガネって歳はいくつなの? 聞いていなかった!」
「さぁ、いくつだろなぁ」
「また、はぐらかす! それ禁止」
「コハクの歳がいくつなのか。知らないんだけどねぇ」
「うっ。そんなの。……シロガネの意地悪」
「おやおや、嫌われてしまったかな。私はコハクが好きだよ」
「なっ」
無垢れて怒っていたコハクだが、今は恥ずかしくて目を逸らして素っ気なく態度を装っている。
クルクルと変わるコハクの表情をシロガネは愉しんでいた。
そんなコハクをシロガネが優しく微笑んで見つめているので、コハクはいたたまれなくなって頬を紅くした。
「嫌いじゃないからぁ、でも、イジワルぅ」
またしても揶揄われたと、コハクは拗ねた。
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