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07双つの世界
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シロガネとのやり取りをコハクは思い出して惚けていた。
ハッとして、ペシっと頬を叩く。腕でまくりをすれば気合いを入れた。
「よし、片付けるぞ」
まず始めに、床に置いてある書籍と道具を綺麗に分けた。
道具を大中小と大きさを揃えて、中と小を棚にしまう。大きい物は床に並べた。
それほど量は多くない。小さい物が多いので片付けるのは簡単だ。
次に書物を片付けていくが、圧倒的に量が多い。そして、一つ一つの書物は軽いが積み重なれば重くて重労働だ。
とにかく、分類別にしていくことにする。
呪術系は呪文、呪式、式神。
魔物系は特徴や種類、逸話。
歴史系は国や土地に関する事項。
道具系は種類に取扱説明。
その他は小説や伝記など物語。
ふぅっと、深いため息を吐いた。
少し休む事にする。
近くにある書物に目がいくと、自然に手に取っていた。
「シロガネは、物語なんて読むのかな?」
明らかに古い書物は、シロガネの物ではなくて、前住人の物だろう。
コハクはペラペラっとページをめくる。
ある文章が目に入いれば、自然に声に出していた。
「神が別れて白と黒の世界が出来た」
この一文がコハクは気になった。
片付けをしないといけないと分かっているが、目が文章を追いかける。気がつけば、ページをめくって読み続けていた。結局、そのまま全て読み終えて、書物を静かに閉じた。
書物の題は『双つの世界』
神々が存在して、神はそれぞれの一つの世界を創造する。その世界の生まれた生きとし生けるものを慈しみて見護った。
人たちが神に感謝と祈りを捧げるなど遥か彼方の夢幻の記憶となった頃、人たちは悔い改めることを忘れてしまう。
後戻りの出来ない過ちを犯して文明を滅ぼした。
地上で生きることは出来ずに、地下でひっそりと生きる。過ちに気づいた人たちは強く祈り数多の願いを一つにした。
以前と同じく、地上に住みたい。
その願いは神に届いた。そして、今を生きる人たちの心に神の声が響いた。
『初めからやり直すが良い』
地上は生まれたばかりの美しい世界になった。そして人たちは地下から這い出て地上に舞い戻った。
過去の残された文明を利用して人たちは新しい世界を生きる。
だが、望む世界にはほど遠く。人たちの欲望は際限がない。
神に当然のように願いを叶えて欲しいと祈るだけだ。
そんな人たちに神は失望する。だが、ひとりの少女が神に花を捧げて感謝を祈る声が聴こえた。
この美しい世界をありがとう。
その優しさに、神は少女と心を通わせた。そして、少女に祝福を与えた。
それを知った人たちが、神に愛されている少女を神の元に送れば、願いが叶うのではと考えた。
それは、少女を神に捧げる生贄とすることだ。
その所業は許すまじ非道なり。
神は嘆き哀しみ、怒り憎しみ、世界を人たちを呪う。
陽は隠れ。嵐が舞う。大地は荒廃。神の憎悪が闇を広げて、魔物が蔓延る世界が生まれた。
少女が愛した世界を護りたい。
少女を奪ったものたちが憎い。
相反する心が葛藤する。
神は初めて苦しみを知った。その痛みから逃れたくて、神の心が二つに別れた。
白と黒の神。白の神が光へ。黒の神は闇へ。
こうして、世界は二つに分かれた。
コハクは読み終えた後も、書物の題を見つめて眺めている。
鼓動は速く動いている。だが、頭は冴えて清々しい。この話を読んだのは初めてだ。記憶がなくても、そういうのは分かる。
だが、この話を知っている。
コハクは心の奥から呼びかける何かを感じた。
一刻の間。
時が止まっていたかのような静寂を破る音が響く。
パシパシっとコハクが頬を叩いた音だ。
静かに書物を分類するべき場所に置いた。
「それじゃ、片付け再開だ」
考えても何も答えなんて出ない。ならば今、しなければならない事をしよう。
コハクは笑顔を作ってうなずいた。
それは、自身を奮い立たせているようだ。新たな書物を手に取って再び片付けを始めた。
気がつけば夕刻が過ぎていた。まだ片付けは済んでいないが、とりあえずの形になった。
手付かずの場所は、また次の機会にしようと仕事部屋を後にした。
まだ、シロガネが帰って来ない。急いで夕食の支度を始めた。
帰って来たら、きっと驚くに違いない。
その様子を思うと楽しくなって、心が躍る。
だけど、さっきまで夕焼けだった空は、少しずつ暗くなってきている。
コハクは、だんだんと寂しい思いになってきた。
早く帰って来たらいいのになぁ。
コハクは、ひとり呟いた。
その頃シロガネは、帰りを急ぐ道中にて独り言を発していた。
「スイセン」
『我が皇、ご報告致します』
「コハクの様子はどうだ」
『コハク殿は、現在、眠っておられます』
「そうか……。何か変わった事はなかったか」
『……』
「何故、黙る」
『ご自分でお確かめ下さい』
「コハクの護衛を命じたはずだぞ」
『護衛は滞りなく現在進行形です。四の五の言わず、早くお帰りなされば良いのです』
「うっ、わかった。引き続き頼む」
『心得ております』
念話を終えてシロガネは、フゥと息を吐く。先程、話をしていたのはシロガネの使役している特級式神、いわゆる神使いである。
名はスイセン。文武両道という言葉が良く合い、頼りになるが、シロガネに対して遠慮なく物を言う。主従関係であるにも関わらず、その態度を良しとしているのもスイセンへの信頼が厚い証拠だ。
今回の仕事は、魔物の属性からスイセンが最適であったが、コハクの身辺警護につけたので少々手こずる。その為、帰りが遅くなったのだ。
討伐中、シロガネは他の使役している式神たちからは咎められて散々だった。
過保護だと……。
この間、油断してコハクが襲われた。陽の下で、大勢の人がいる賑やかな町中で白昼堂々と襲ってきた。敵は執拗で強大だ。
守護する者がいようとも、結界の中であっても、同じ過ちを繰り返すわけにはいかないと思うのは仕方ない。
それでも、シロガネの結界の中で魔物が現れる事などあり得ないとスイセン及び他の式神たちは思う。
しかし、シロガネが不在の場合は強固にしても結界の力は弱くなる。
信頼出来る式神を警護につけるのは当然だろう。
急いで家路に着けば、スイセンの報告通りコハクが居間で寝息を立てて寝ていた。
そして、食卓には食事の支度がされている。
早く帰れなくて、寂しい思いをさせてしまった。可哀想な事をしたと、シロガネは悔やんだ。
スヤスヤと小さな寝息を立てて眠るコハクの横に、シロガネがそっと座った。
ゆっくりと頭を優しく撫でた。
「ありがとう、コハク」
コハクの隣りに、シロガネが横たわった。
コハクの可愛らしい寝顔を眺めて微笑んだ。
……シロガネの声が遠くから聞こえて、コハクは目を覚ます。
「コハク、起きたかい」
「シロガネ」
むくりとコハクが起きた。
「遅くなってすまなかったね」
「おかえりなさいっ」
「今日は、たくさん頑張ったんだな。仕事部屋を見たよ。それと、夕食の用意をしてくれて、ありがとう」
「うん! 綺麗になったでしょう」
「あぁ、とても綺麗で驚いたよ」
「頑張ったから疲れて、寝てしまったみたい」
「お腹は空いてないかい」
「お腹空いてる」
「なら、夕食にしようか。その後は、土産の甘味を食べようか」
「お土産! なになに」
「後の楽しみだ」
コハクは笑顔で応えた。
その後二人は、話しを弾ませて夕食を愉しんだ。
そしてシロガネのお土産は、フワフワの白生地に餡子が入ったものだった。
蒸篭で温めて二人で食べる。
熱々なのを、コハクが、かぶりつきそう急いで食べようとするので、シロガネが慌てる。
「火傷するから、割って食べなさい」
「はーいっ」
過保護だという声が、あちこちから聞こえて来そうだ。
ハッとして、ペシっと頬を叩く。腕でまくりをすれば気合いを入れた。
「よし、片付けるぞ」
まず始めに、床に置いてある書籍と道具を綺麗に分けた。
道具を大中小と大きさを揃えて、中と小を棚にしまう。大きい物は床に並べた。
それほど量は多くない。小さい物が多いので片付けるのは簡単だ。
次に書物を片付けていくが、圧倒的に量が多い。そして、一つ一つの書物は軽いが積み重なれば重くて重労働だ。
とにかく、分類別にしていくことにする。
呪術系は呪文、呪式、式神。
魔物系は特徴や種類、逸話。
歴史系は国や土地に関する事項。
道具系は種類に取扱説明。
その他は小説や伝記など物語。
ふぅっと、深いため息を吐いた。
少し休む事にする。
近くにある書物に目がいくと、自然に手に取っていた。
「シロガネは、物語なんて読むのかな?」
明らかに古い書物は、シロガネの物ではなくて、前住人の物だろう。
コハクはペラペラっとページをめくる。
ある文章が目に入いれば、自然に声に出していた。
「神が別れて白と黒の世界が出来た」
この一文がコハクは気になった。
片付けをしないといけないと分かっているが、目が文章を追いかける。気がつけば、ページをめくって読み続けていた。結局、そのまま全て読み終えて、書物を静かに閉じた。
書物の題は『双つの世界』
神々が存在して、神はそれぞれの一つの世界を創造する。その世界の生まれた生きとし生けるものを慈しみて見護った。
人たちが神に感謝と祈りを捧げるなど遥か彼方の夢幻の記憶となった頃、人たちは悔い改めることを忘れてしまう。
後戻りの出来ない過ちを犯して文明を滅ぼした。
地上で生きることは出来ずに、地下でひっそりと生きる。過ちに気づいた人たちは強く祈り数多の願いを一つにした。
以前と同じく、地上に住みたい。
その願いは神に届いた。そして、今を生きる人たちの心に神の声が響いた。
『初めからやり直すが良い』
地上は生まれたばかりの美しい世界になった。そして人たちは地下から這い出て地上に舞い戻った。
過去の残された文明を利用して人たちは新しい世界を生きる。
だが、望む世界にはほど遠く。人たちの欲望は際限がない。
神に当然のように願いを叶えて欲しいと祈るだけだ。
そんな人たちに神は失望する。だが、ひとりの少女が神に花を捧げて感謝を祈る声が聴こえた。
この美しい世界をありがとう。
その優しさに、神は少女と心を通わせた。そして、少女に祝福を与えた。
それを知った人たちが、神に愛されている少女を神の元に送れば、願いが叶うのではと考えた。
それは、少女を神に捧げる生贄とすることだ。
その所業は許すまじ非道なり。
神は嘆き哀しみ、怒り憎しみ、世界を人たちを呪う。
陽は隠れ。嵐が舞う。大地は荒廃。神の憎悪が闇を広げて、魔物が蔓延る世界が生まれた。
少女が愛した世界を護りたい。
少女を奪ったものたちが憎い。
相反する心が葛藤する。
神は初めて苦しみを知った。その痛みから逃れたくて、神の心が二つに別れた。
白と黒の神。白の神が光へ。黒の神は闇へ。
こうして、世界は二つに分かれた。
コハクは読み終えた後も、書物の題を見つめて眺めている。
鼓動は速く動いている。だが、頭は冴えて清々しい。この話を読んだのは初めてだ。記憶がなくても、そういうのは分かる。
だが、この話を知っている。
コハクは心の奥から呼びかける何かを感じた。
一刻の間。
時が止まっていたかのような静寂を破る音が響く。
パシパシっとコハクが頬を叩いた音だ。
静かに書物を分類するべき場所に置いた。
「それじゃ、片付け再開だ」
考えても何も答えなんて出ない。ならば今、しなければならない事をしよう。
コハクは笑顔を作ってうなずいた。
それは、自身を奮い立たせているようだ。新たな書物を手に取って再び片付けを始めた。
気がつけば夕刻が過ぎていた。まだ片付けは済んでいないが、とりあえずの形になった。
手付かずの場所は、また次の機会にしようと仕事部屋を後にした。
まだ、シロガネが帰って来ない。急いで夕食の支度を始めた。
帰って来たら、きっと驚くに違いない。
その様子を思うと楽しくなって、心が躍る。
だけど、さっきまで夕焼けだった空は、少しずつ暗くなってきている。
コハクは、だんだんと寂しい思いになってきた。
早く帰って来たらいいのになぁ。
コハクは、ひとり呟いた。
その頃シロガネは、帰りを急ぐ道中にて独り言を発していた。
「スイセン」
『我が皇、ご報告致します』
「コハクの様子はどうだ」
『コハク殿は、現在、眠っておられます』
「そうか……。何か変わった事はなかったか」
『……』
「何故、黙る」
『ご自分でお確かめ下さい』
「コハクの護衛を命じたはずだぞ」
『護衛は滞りなく現在進行形です。四の五の言わず、早くお帰りなされば良いのです』
「うっ、わかった。引き続き頼む」
『心得ております』
念話を終えてシロガネは、フゥと息を吐く。先程、話をしていたのはシロガネの使役している特級式神、いわゆる神使いである。
名はスイセン。文武両道という言葉が良く合い、頼りになるが、シロガネに対して遠慮なく物を言う。主従関係であるにも関わらず、その態度を良しとしているのもスイセンへの信頼が厚い証拠だ。
今回の仕事は、魔物の属性からスイセンが最適であったが、コハクの身辺警護につけたので少々手こずる。その為、帰りが遅くなったのだ。
討伐中、シロガネは他の使役している式神たちからは咎められて散々だった。
過保護だと……。
この間、油断してコハクが襲われた。陽の下で、大勢の人がいる賑やかな町中で白昼堂々と襲ってきた。敵は執拗で強大だ。
守護する者がいようとも、結界の中であっても、同じ過ちを繰り返すわけにはいかないと思うのは仕方ない。
それでも、シロガネの結界の中で魔物が現れる事などあり得ないとスイセン及び他の式神たちは思う。
しかし、シロガネが不在の場合は強固にしても結界の力は弱くなる。
信頼出来る式神を警護につけるのは当然だろう。
急いで家路に着けば、スイセンの報告通りコハクが居間で寝息を立てて寝ていた。
そして、食卓には食事の支度がされている。
早く帰れなくて、寂しい思いをさせてしまった。可哀想な事をしたと、シロガネは悔やんだ。
スヤスヤと小さな寝息を立てて眠るコハクの横に、シロガネがそっと座った。
ゆっくりと頭を優しく撫でた。
「ありがとう、コハク」
コハクの隣りに、シロガネが横たわった。
コハクの可愛らしい寝顔を眺めて微笑んだ。
……シロガネの声が遠くから聞こえて、コハクは目を覚ます。
「コハク、起きたかい」
「シロガネ」
むくりとコハクが起きた。
「遅くなってすまなかったね」
「おかえりなさいっ」
「今日は、たくさん頑張ったんだな。仕事部屋を見たよ。それと、夕食の用意をしてくれて、ありがとう」
「うん! 綺麗になったでしょう」
「あぁ、とても綺麗で驚いたよ」
「頑張ったから疲れて、寝てしまったみたい」
「お腹は空いてないかい」
「お腹空いてる」
「なら、夕食にしようか。その後は、土産の甘味を食べようか」
「お土産! なになに」
「後の楽しみだ」
コハクは笑顔で応えた。
その後二人は、話しを弾ませて夕食を愉しんだ。
そしてシロガネのお土産は、フワフワの白生地に餡子が入ったものだった。
蒸篭で温めて二人で食べる。
熱々なのを、コハクが、かぶりつきそう急いで食べようとするので、シロガネが慌てる。
「火傷するから、割って食べなさい」
「はーいっ」
過保護だという声が、あちこちから聞こえて来そうだ。
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