八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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14式神召喚

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 シロガネと話しをしてからコハクは、仕事部屋に入り浸る。
 書棚にある陰陽道の書物を読み漁っていた。

 陰陽道は五行に基づいて、八百万の神から力を借り受けて、己れの呪力で行使する。
 簡易な術は思念や言葉で発動が可能だが、基本的には呪文で術式を発動して技を発現する。
 どこまで可能なのか、どれだけの技なのかは、術者の呪力の量や技量で変わってくる。
 術の種類は、攻撃、防御、治癒、召喚が主になる。
 攻撃術は、五行の力を使用して術で攻撃。
 防御術は、攻撃を防ぐ結界。
 治療術は、病や怪我を治す術。
 召喚術は、式神を召喚して使役する。
 占術は、星をよみ、天候を操る。
 鑑識術は、運勢を解き状況を読む。
 全ての呪術を合わせて、災厄を退け吉兆を招くのが陰陽道である。

 読み終えた書物をコハクが閉じた。
「シロガネは、葉や紙から式神を作れるけど、使役している式神っているの?」
「いるよ」
「やっぱり、そうだよね!」
「どうしたんだい?」
「だって、見たことないから。ねぇ、ねぇ、どんな式神なの?」
「そうだね。皆、個性豊か過ぎて、少々手を焼く事もあるが、頼りになる者たちばかりだよ」
「みんなって、数はどれぐらい?」
「たくさんいるよ。けど、主に仕事をしている者たちなら、七人だね」
「すごいよ、そんなにいるの?」
 コハクは驚きを隠せない。
 使役する式神の数だけ呪力が必要だからだ。
「式神を呼ぶ時は、召喚するんだよね」
「そうだよ」
「召喚するところをみたいっ」
 コハクがキラっキラっと瞳を輝かせて、シロガネを見つめていた。
「式神たちに会ってみるかい?」
「うんっ! 会いたいっ」
 元気よく頷く姿に、シロガネは可笑しくなる。

 南風が吹く透き通る晴れやかな空の下で、シロガネとコハクが立っている。
 今から、シロガネが使役している式神を召喚するからだ。
「では、始めようか。私の使役している式神をコハクに紹介しよう」
「やったー!」
「本来、式神を呼ぶには呪法陣を描いて祝詞を上げる。というのは、本を読んで知っているね」
 コハクは、ウンウンと首を振った。
 一拍。シロガネが息を吸った。
 中指と人差指を合わせて文字や図を描くように空を切ると、地面に呪法陣が出現した。そして、声を高らかに言葉を告いだ。
『世の理を絆ぎ、世の理を悟る。我が名はシロガネ。神名を司るは我がなり。契約せし我が眷属よ。その名はスイセンに命ずる。その力は我が物ぞ、参れ』
 呪法陣から水が渦を巻いて噴き出た。水が消えれば人影が現れる。
 その姿は武人であった。涼しげな顔で切れ長の瞳と青藍色の長髪の美丈夫だ。
「我が皇よ。お呼びですか」
 武人の美丈夫が、右手を胸に当てて深々と頭を垂れた。
「呼び立ててすまない、スイセン。コハクに、式神の召喚を見せたくてな。今現在、特に用はないが、お前を呼ばせてもらった」
「皇の名であれば、いつ如何なる時でも、馳せ参じましょう。貴方に呼ばれるのは光栄です」
「おやおや、畏まって、いつもと違うじゃないか。いやぁ……、まぁ、うん、ありがとう」
 シロガネは、少々気恥ずかしくなり照れ笑いをした。
 いつもならば、スイセンのシロガネに対する対応は、冷静で簡潔な対応が通常であるからだ。
 シロガネが、コハクの為に式神の召喚を実演した事を知って、スイセンがシロガネに華を持たせたのだ。
 スイセンの気遣いは、通常の態度以上にシロガネを主と敬い大切に思っている証である。
「どうだい? こんな風に、自分と契約した式神を呼ぶことが出来るよ」
「凄いよ、シロガネ! スイセンは、水属性の龍人だ。ってことは……神使い」
「正解。すごいな、コハク」
「だって、覇気が違うよ」
 コハクは、スイセンを見つめて感嘆している。
 式神には、下級、中級、上級の位がある。
 さらに上位の式神が特級とされている。いわゆる神使いだ。龍や鬼、蛇に飛翼などの属性を持ち、神に使えるモノだ。
 そもそも、神使いでない龍や鬼であっても、ただの術者には、使役は難しい。
 その覇気を感じて知り得ることが出来るのは、呪力の大きさや知識と経験から来るものだ。
 コハクは、初めて見たように感じているが、記憶が無くなる前までは、当たり前な光景であったはずだ。
 これは、シロガネとコハクが同じ者である証となる。
 違和感を覚えずに是として、無邪気なコハクの様子に、シロガネは嬉しくなって微笑んだ。
「魔物から人たちを守護神は分かるかい?」
「青龍、朱雀、白虎、玄武」
「そうだね。けど、他にも守護神がいるよね。空を翔ける……」
「麒麟?」
「正解」
「やっぱり、そうなんだね。仕事部屋にあった古い陰陽道の書物を読んだら、そう書いてあって、不思議に思ったんだ」
「何も不思議ではないよ。東西南北に守護神がいるけど、その力は内に行くほど弱くなる。ならば、中央に守護神がいた方が良くないかな」
「確かに……」
「麒麟は式神を見たことあるかい?」
「ない気がする……」
「鬼の式神は見たことあるかい?」
「ある気がする……」
「ならば、答えは出たね。守護神は式神にはできない。その力を得るには、守護神に使える神使を式神にする。それには等価交換の契約が必要なんだ」
「だから、麒麟の式神がいない……。なら、ボクの記憶が、間違っているってことになる。けど、そうじゃないってわかるんだ。シロガネとボクの知識が違うのは、なぜ……」
 コハクは急に怖くなって、縋るような眼差しをシロガネに向けた。
 シロガネは、コハクの怯える心を慰めるように優しく髪を撫でた。
「何も心配ないさ。麒麟が中央の守護神か式神なのかは重要じゃない。そもそも、アレは気まぐれで神出鬼没だからね」
 誰も知らないはずの、この世の全てを知っている口ぶりは、いつもと変わらない。
 シロガネを信じるからこそ、コハクの怯える心は静まった。
「シロガネって、不思議だね」
「コハクも不思議だよ」
 お互いに同じ事を思っていると知って、二人は笑い合う。
 何があっても一緒なら大丈夫なのだと思えた。
「四神の神使には、他に何の種族あるか知っているかい?」
「鬼人や蛇人かな……」
「後は、八百万の神から力を授かる神使だね」
「鳥。狼に狐、蛇に猿とか。そして鹿だよ」
「兎に亀もあるね。ありとあらゆる生きる物が神使となり得る」
「それは、呪力を持つからだね」
「そうだよ」
 記憶を無くしているが、コハクには陰陽道の知識がある。今まで違う心で向き合えば、溢れてくる。
 この知識の豊富さは環境。偉大な呪力は持って生まれたもの。そして、隠せない育ちの良さ。
 全てを鑑みて、コハクは上級貴族で陰陽寮の関係者だとシロガネは確信していた。
「ねぇ、他の式神も呼んでよ」
「そうだな。誰が良いだろか」
「カリンはいかがでしょう。コハク殿と気が合うかと思います」
 今までシロガネとコハクを見守っていたスイセンが助言した。
「カリンか。よし、では、先ほどと違う方法で召喚をしてみるか」
「違う方法なんてあるの?」
「あるさ」
 シロガネが、ニヤリと自慢げな表情を見せれば、コハクは興味深々な様子だ。
「私の式神たちは特殊な契約によって、常に現世に顕現している。なので、名を呼ぶだけで参じる事が可能だ」
「それって、凄いよ! だって常に現世に存在させるには、それだけの呪力が必要だ」
 コハクの瞳が輝くのを見て、シロガネは満更でもない様子だ。
「では、違うやり方で召喚してみよう」
 一拍。シロガネが息を吸って、声を高らかに言葉を告ぐ。
『カリンに命ず、参れ』 
 親指と中指を合わせて擦れば、パチンと音が鳴る。すると、呪法陣が出現して葉が舞い上がれば、人影が現れた。肩まである髪、瞳は大きく。ふんわりと可愛いらしい顔立である。だけど、男の子か女の子か迷うような雰囲気と格好をしていた。
「あるじー。呼んだぁー」
「あぁ、呼んだぞ。よく来たな、カリン」
「カリン。皇に対して、その話し方は改めなさい。何度、言えば分かるのでしようね。しかもコハク殿がいるのですよ」
「まぁ、良いではないか。カリン、気にするな」
「あるじは優しいの、スイセンは怖いぃ」
「カリン、こちらがコハク殿だ。先ずは挨拶をしなさい」
「はーい。初めまして、カリンだよぉ。よろしくねぇ、コハク」
「あっ、うん。コハクです、よろしくね」
 スイセンの説教を流しつつ、チクリと文句を言っては、どこ吹く風でカリンは中々の強者だ。この場の雰囲気は、完全にカリンに飲み込まれた。
「カリンは蛇人の式神で、獣使いさ」
「獣使い? どうするの?」
「どうぶつたちと、友だち。いっしょに遊んで、おしごを手伝ってもらうのぉ」
「カリン、契約獣の召喚をコハクに見せてやってくれ」
「いいーよ、あるじの命はぜったいなのぉ」
「おいでぇ、ルーン」
 カリンが指笛を吹くと、ウォーっと鳴き声がどこからともなく響いた。カリンの足元の隣に召喚の呪法陣が出現すると、突然、カリンの横。コハクの目の前には、白い毛並に灰色が混ざった大きな熊が現れた。額に三日月のような痣がある。
「よしよし、来てくれて、ありがとうねぇ」
「すごいぃーー! 大きい熊さんだぁ。モフモフしてて可愛いっ!」
「うん、かわいいよねぇ」
「ねぇ、さわっても大丈夫かな」
「うん、だいじょぶぅ」
 コハクが、そっと手を伸ばして熊にさわった。モフモフなさわり心地に、コハクの瞳は輝く。しまいには、顔を擦り寄せて頬を赤くして嬉しそうだ。
「ボクはコハク。よろしくね、ルーン」
 ルーンは頷くような素振りをして、ウォーと吠えた。
 コハクが、ルーンに目一杯に抱きついている。
 その様子をシロガネは、涼しい顔をしながら見つめていた。しかし、内心は羨望が渦巻いているとは誰も知らない。
 はずもなく。
 スイセンが横目でシロガネの様子をうかがっていた。
 シロガネの心の機微さえも逃さずに、その心中を察するスイセンはさすがだろう。
 
「シロガネ。さっきの召喚、あんな簡単に呼べるだなんて……」
「大丈夫さ。いずれ、コハクにも出来るようになるさ」
「うん、なりたい」
「簡単に出来るなら、誰も苦労はしませんので、しっかりと修行をなさりなさい」
 スイセンが、ピシャリと言い切った。
「うん、頑張る」
「うん、がんばってねぇ」
「うん、頑張ろうか」
 のんびりな三人を横に、スイセンは溜め息をついた。
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