八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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15大切で大好き

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「急いても良い結果はでないさ。今日はここまでにしようか」
 他の式神たちは、シロガネの命を受けて任務中である。またの機会となった。
「あるじー。カリンとルーンは、コハクと一緒に遊びたいのぉ」
「ボクも遊びたい!」
 コハクも前のめりで賛同する。
 同じ年頃の者と遊ぶなど、コハクは初めてなのではないか。
 一瞬よぎった思考に、シロガネは疑問に感じた。
 何故ならコハクに、それにカリンも……。
 二人共、見た目通りの年齢で受け取って良いものなのだろうか。
 コハクは、呪力を放出した時の件がある。
 そして、カリンは今のコハクと同じ年頃に見えるが式神である。数百年は存在しているからして……。
 間違いなく確実に、見た目の年頃ではないのだ。
 しかし、式神になる以前の性質や記憶、特技や技量に呪力などから、その者の最高潮の姿や、ありのままの望む姿が式神として現れる。
 ゆえにカリンは、その容姿の通りで、色々と幼い思考や言動が多々である。
 カリンが望む、自分らしくいられる姿なのだ。
 少しの間、シロガネの思考が混乱していた。
「皇よ、いかがなさいましたか?」
 スイセンがシロガネの様子を気にかける。
「いや、なんでもないさ」
 シロガネが瑣末な事だと苦笑する。
「ならば、少し結界を広げようか」
「ほんとう?」
「本当さ」
「ありがとう、シロガネ」
「カリンとルーンが一緒ならば問題ないだろう。魔獣たちも恐れをなして、近づけないさ。頼んだぞ」
「まかしてぇー」
 カリンが元気良く返事をすれば、ルーンはウォーっと大きく吠えた。
「カリン、ルーン。皇の大切な方の護衛であることを、忘れてはなりませんよ。何かあっては取り返しのつかないということを、しかと心して仕えなさい」
「ちがうよぉ、スイセン」
「カリン、何が違うというのですか」
「大切だけじゃあない。大スキなのぉ」
 だよねぇと、カリンがルーンに向かって独り言のように呟いた。
 スイセンが瞳を開いて固まった。コハクは何度か瞬きをする。シロガネはゆっくりと空へ目を向けて仰いだ。
 妙な雰囲気が、一時の静寂となる。
「ねぇ、あるじ。違ったぁ?」
 幼い姿と無邪気な笑顔を振りきながら、シロガネを追いつめるように、わざわざ確認してくる。
 カリンの言動は確信犯なのだ。
 それに気づいたシロガネは、先程までの考察を撤回する。カリンへの評価を改めることを余儀なくなった。
 人を見る目はあると自負してきたが、これは己の未熟さ故なのか。
 いや、もしかしたら今のカリンは……。
 その可能を確かめる必要はない。過ぎる考えに答えは出ないのだ。例え、考えた通りであっても、またそれも然もありなん。
 カリンだからこそ難しいと苦笑する。
 それは、まるで降参だと言っているようだ。 
 その表情から一変、シロガネが真剣な顔つきになる。
「違わない。カリンの言う通りだ」
 否定など有りはしない。是であると告げなければ嘘になる。コハクに嘘をつくことはしない。
 シロガネはそっと息を飲んだ。
「コハクが大好きだよ」
 シロガネは普遍なる思いを紡ぐ言葉を、はっきりと口にしてコハクに伝えた。
 大切だけでは足りない。大好きだけも足りなくなる。唯一無二の存在なのだ。
 すべからく、コハクとシロガネの瞳を合う。
 優しい瞳なのに、鋭く射る光が見える。
 優しい声が、甘い香りが漂う睦言のような。
 優しい微笑は、端麗なのに悪戯気がある。
 いつも揶揄いとは違う雰囲気に、コハクの心が戸惑う。
 湧き溢れる曖昧な思いが、柔らかな輪郭を描いていく。コハクの心が揺れて鼓動が速くなっていく。
 体から熱を発して、頭は真っ白だ。
 鼓動が煩く騒いで叩き鳴り響く。
 唯ただ、恥ずかしさが込み上げくる。
 全てを震わす感覚に泣きそうになる。
 皆の前だというのに、平常心でないられない。
 コハクは頬を紅く染めて、震える体を抱きしめた。シロガネから視線を外して俯いた。
 カリンはコハクの隣りでニコニコと笑顔を振りまいて楽しそうだ。
 そして、またしても爆弾発言をした。
「あるじーって、ヤラシイんだぁー」
「えっ、いや、カリン。何故、そうなる。あっ、コハク、すまん。驚かせたな。泣かないでくれ。って、いや、まだ泣いていないな」
 シロガネらしくない慌て振りと茶化すカリンのやり取りが、コハクの目の前で広げられた。
 それをぼんやりと見つめていると、なぜか段々と可笑しくなってきた。
 コハクは瞳に涙を潤ませながら笑った。
「皇よ、落ち着きなさいませ」
 スイセンがこの場を納めようとしている。
 賑やかな雰囲気に変わると、コハクの恥ずかしさを消し去って、素直さと勇気が芽生えた。
「うん、ボクもシロガネが大好きだよ」
 いつでもどこでも、同じ思い同じ言葉を伝えたい。
 だからコハクは瞳に潤ませながらも清々しく、にこやかな笑顔で伝えた。
 その可愛いらしい笑顔に、シロガネの心が弾む。
「あるじとコハク。いっしょ! 良かったね」
 カリンとコハクが、楽しそうに笑い合ってキラキラと音を鳴らしながら瞳を輝かせている。
 シロガネはカリンに完敗した。
 
 ひと段落後、カリンとコハクは、思いっきり楽しそうに遊び尽している。
 その様子をシロガネとスイセンが眺めて見守っていた。
 溢れんばかりの笑顔で、元気にはしゃぐコハクの姿を見るのは久しぶりだった。
 シロガネは嬉しさを噛み締めた。
 スイセンが、正面を向いたまま小声で話しかけた。
「嬉しそうですね」
「元気になって良かった」
「そっちではありません」
「どれだ」
 シロガネも前を向いたまま話す。
「惚けても無駄ですよ」
「なぁ、俺はそんなに分かりやすいか」
「私と同じく他の式たちも、皇の一挙一動には心を砕きます。言わずもがな、付き合いは長いですからね。故に、私たちからすれば、ただ漏れです」
「ただ漏れなのか……気をつけよう」
「今更、遅いかと存じ上げます。これを機に、他の式の者たちが、何か言ってくるのは覚悟なさいませ」
「そうか……」
「貴方様が人に興味を持つ。いいえ、それ以上。好意を抱くなど、思いもよらない事態ですから」
「認めざる得ないか」
「当然です。それにしても、コハク殿は純朴ですね。いつもの揶揄いとは違う雰囲気と明瞭な言葉に驚いて、嬉しくて泣いてしまった。そう思っているようですね。まぁ、それぐらいが丁度良いのではありませんか」
「……そう、だな……」
 スイセンの容赦ない指摘は針を刺されているようで居心地が悪い。嘘偽りのない心意が伝わってないと言われた。しかも、良かったと締めくくる。シロガネの内心は色々と複雑である。
 言いたい放題なスイセンを咎める気はない。全ては、スイセンの気遣いの一つなのだと知っているからだ。
「コハク殿のおかげで、貴方様の調子が良いのですから、我々式神一同は、お二人が穏やかな時を過ごされますように尽力いたします」
「お前たちには敵わないよ」
 シロガネは苦笑する。
「皇の喜びは私たち式神の喜びで、それは望みでもあります」
「そうか。ありがとう、スイセン」
「もったいなき、お言葉」
 スイセンが胸に手をやり首を垂れた。
 あれやこれやと口煩いスイセンだが、全てはシロガネを思うが為である。最終的にはシロガネに対して敬意を払うスイセンの姿はいつもの事だ。
 それをシロガネは是とする。
 楽しそうに笑っているコハクを優しく見つめて微笑んだ。
 コハクの心を大切にしたいから、いつでもどんな時も、真心と深愛を伝えよう。
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