八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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16翼と鬼

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 あれからコハクは、カリンと友達となり仲良く遊ぶことが多くなる。
 それは、いつもと同じく外で遊んでいる時だった。
 空に影が見えた。それは大きな翼を広げて飛んでいる。こちらに向かっているようなので、コハクはジッと見つめた。
 優雅に舞うように翼を羽ばたく者たちが、コハクたちに近づいて来た。
「あれは……」
「スミレとナデシコだぁー! ここだよぉー」
 カリンが大きく手を振って呼んだ。
 地に舞い降りたのは、背中に美しい翼があるシロガネの式神たちだった。
「ナデシコぉー」
 純白の翼に、黒の長髪が美しい令嬢だ。柔らかな表情と仕草から可憐で清楚な雰囲気が漂っている。
「スミレぇー」
 漆黒の翼に、ふんわりとした金色の髪を三つ編にした少女だ。大きな瞳と元気な笑顔から活発で勝気そうな雰囲気がする。
「白の翼と黒の翼。とても綺麗だねっ。君たちは翼人の式神なんだね」
 コハクは、優雅で美しい翼に見惚れながら感嘆した。
 ナデシコが翼を閉じて綺麗なお辞儀をした。
「わたくしはナデシコと申します。我君の大切な方にお会い出来て光栄です。隣りいるのは……」
「ぼくはスミレ。きみが旦那様の大切な人だなんて認めてあげないからぁ」
 初対面にもかかわらず、スミレはつれない態度である。
 この間のシロガネとのやりとりを知っているようだ。そして、その時の事が気に入らない様子にコハクは戸惑う。
「……大切なひと」
「何よ! 大好きだって言われたんでしょ」
 はっきりとしないコハクに、スミレはいら立ちを隠さずに口調が強い。
 その勢いに圧倒されて、コハクは慌ててしまう。
「えっーと。そのぉ……。シロガネは、そう言ったけど……。あれはカリンが……」
「確かに、カリンが最初に口火絵を切りました。でも、我君の心の内は、カリンが話す前から、わたくしは存じておりました。なぜなら、我君を愛しているからですわ」
 ナデシコは、両手を胸で組んで心酔するかのような様子をみせた。
「ちょっと、お姉さま。ぼくだって旦那様を愛しているわ。カリンに、話しを聞く前からわかっていたもの」
「なら今さら、何かを言うなんておかしいわ。しかも、コハク様に対して失礼ですよ。我君の心は我君の物。わたくしたちは仕え捧げて受け入れる。それが幸福なのですから」
「……何よ、なによ。そんなの、言われなくても分かってるわ。ぼくは旦那様の式神だもん。でも、でも、皆んなの旦那様なんだからー」
 姉のナデシコから、コハクに対する態度を咎められた。しかも、シロガネの式神としての在り方を説かれる。
 スミレだって、式神としての立場は心得ている。
 それでも、シロガネを思う気持ちが抑えきれなくて、コハクに突っかかってしまった。
 スミレが、涙を流して泣いている。
 二人の話しをコハクは静かに聞いていた。
 使役される関係であっても、二人はシロガネを『愛している』という。
 シロガネと式神たちの絆は深く、大切に思い合っている。
 その思いに馳せれば、コハク自身にも心当たりがあることを思い出した。
 今は、まだ明瞭でないけど、強い絆を結ぶ式神がいると、側にいる彼らと彼方の彼らへと心を寄せた。
 大切なシロガネの式神たちにも、その心を届けたいと思う。コハクはシロガネと同じでありたいと願った。
「泣かないで、ごめんね。ちゃんと言わずに誤魔化すような態度をとって……。ボクも君と同じように、シロガネが大好きなんだ」
 思いは本物であっても、言葉にすることの気恥ずかしさはある。コハクは頬を紅くして照れながら、スミレ向き合って素直に伝えた。
「どうして、キミが謝るのよぉ……。それに、ボクが旦那様のことを好きでもいいの?」
 コハクが、スミレに対して怒らずに、寄り添って労わった。
 しかも、シロガネを思う気持ちが同じだと認めてくれた。そのことに驚けば、涙が止まる。
「同じでいいんだよ、同じがいいんだっ!」
 コハクが大きく笑った。

「あらまぁ、賑やかなこと」
 突然、辺りに声だけが響く。
 そして、気配なくコハクたちの目の前に現れたのは、シロガネの式神のアヤメだった。その隣りには、凛々しく物静かそうな雰囲気の赤茶色の長髪を後ろで束ねている青年がいた。
「アヤメぇ、シオンっ!」
「ご機嫌よう、みなさん」
「ど、どうも、こんにちは」
 カリンが元気よく声をかけて、アヤメとシオンが応えた。
「何しに、いらしゃったの」
 ナデシコが少々棘のある聞き方をした。
「何って、貴女たちと同じくてよ」
「すみません、すいません。突然お邪魔して」
「シオン、謝る必要なんてないわ。だって、そのうちって言いながら、中々、紹介してくださらない主様が悪いのですもの」
「それはどういうこと、ですの?」
 シロガネとアヤメが、約束をしている事実にナデシコは驚いているようだ。すぐさま、不快な態度を顕にして、事実を確認してきた。
「そのままですわ。一献お付き合いした時に、言って下さりましたのよ」
「お酒を嗜まれている時は、お一人が良いとおっしゃてますのに、貴女は何故、我君の願いを無視するのかしら」
 つかさず、ナデシコがアヤメに苦言する。
「あらあら、主様は嫌がりませんわ。誰かと一緒に呑みたい酒もある。私くしは、ちゃんとその時を選んでおりますもの。酒を呑まれない方には、わからなくても仕方なくてよ」
「お二人ともやめて下さーいっ。我主は、みんな仲良くを喜ばれます! ゆ、ゆえに、言い合いは良くないです!」
 シオンが、あたふたとしながらアヤメとナデシコの仲裁する。喋らずに立っている時との印象が全く異なる。
 俗にいう、黙っていれば……であった。
「あらあら、私くしに意見しますの?」
「あっ、いえ、滅相もありません。そういう訳ではなくてですね……すみませんっ」
「何も怒ってませんので、謝らないで下さいな」
 クスクスとアヤメが笑う。
 揶揄われるのはいつものことで、シオンは胸を撫で下ろす。
 この場の雰囲気を変える為にコハクが声をかける。
「アヤメとシオン。ボクはコハク、よろしくね」
「まぁ、コハク様に先に挨拶させてしまいまして、申し訳ございません。私くしはアヤメ。以後、お見知り置きを」
「えっと、その、私はシオンと申しますっ! コハクさま、よ、よろしくお願い致します」
「二人とも鬼人の式神だよね」
「おわかりなられるとは、流石ですわ。コハク様」
「でも、角がない……」
「左様です。角は鬼の呪力と強さの源ですが、我らは鬼人は角が無くても特別に強いのですよ。角ありの鬼とは違いますわ」
「えっと、付け加えるとですね。角があると力が強くなり制御が難しいので、主様の力で抑えております」
「そうなんだ……。じゃあ、ナデシコやスミレの翼も無くせたりするの?」
「左様で御座います。ですが、空を自由に飛べる。それは、私たち翼人としての誇りです。我君の命であれば翼を直しましょう。特に問題はありませんので、普段からこのままですの」
 コハクの疑問に、アヤメとシオン、ナデシコが答えた。
「ねぇ、他の式神たちも神使いの式神なのかな?」
「そうだよぉー」
「やっぱり、シロガネって凄いなぁ」
「当然よ」
「スミレが威張る必要はありませんよ」
 コハクとカリンの会話に、つかさずスミレが割って入れば、ナデシコも参戦した。
「威張ってないもん」
「自慢したくなるよね」
「そっ、そうよ」
 コハクがスミレの気持ちを代弁して同調した。
「シロガネのことが、大好きな皆んなと話しが出来てボクは嬉しいよ! 他の式神たちにも会える日が楽しみだ」
 式神たちは、一瞬、戸惑いと驚きの表情を見せた。コハクが、自分たちの存在を認めて、その思いを尊重したからだった。
 人であっても式神であっても、存在を認めて導き救ってくれるのはシロガネだけだった。
 主であるシロガネが認めた者の存在に、皆が納得して心から受け入れた。
 コハクの素直な心は、式神たちに伝わる。
 それは信頼となる。
 この場に咲いた綺麗な一輪の尊き花の周りには、笑顔が舞った。
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