八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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17制御と操作

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「今日は何をするの?」
「呪力の制御だよ」
 子鹿の件で、コハクは強い意思と激しい感情で封印を一時的に解いた。正確に言えば、無理矢理こじ開けた。
 そして、封印される前の本来の姿を現した。
 これにより、封印の術の効力は弱まり、層は薄くなって綻びが出来た。
 呪力は微量だが、内から外へと流れていた。その呪力をしっかりと感じられるようになって、制御するのが今回の課題である。
「封印されていた呪力が、外に流れていると説明したのを覚えているかい」
「うん、覚えている」
「それを感じられるかい」
「なんとなくかな」
「その、なんとなく感じている呪力をはっきりと感じられるようにするんだ」
「でも、どうしたらいいんだろう?」
「まずは、呪力の流れを意識するところから始めよう。その後に、外に流れないように止める。もしくは、外に流れた呪力を集める」
「外に流れないようにしたら、外で集められないよ?」
「呪力を意識できれば、コハクならすぐに制御と操作が出来るようになるよ。今のままでは、自分の居場所を宣伝しているようなものだからね」
「えっ、何それ……なんか恥ずかしいよ。どういうこと?」
 コハクが気まずそうな顔をする。
「襲われないように、人も獣も隠れたり気配を消したりするだろう」
「えっと、つまりボクは……居場所を宣伝している状態なの?」
「まぁね」
「うそっ、恥ずかしいよ」
「そう、気にしなくてもいいさ。ここは私の結界内だから、そうそう悟られはしないよ。もし知られたとしても何も出来ないのだから問題ない。そして、敵はすでに感知しているので今更かな」
 コハクは、それもそうだと胸を撫で下ろして安心した。
「あとは、強い呪力は弱い物の害になる。怖がらせたら可哀想だ」
「動物たちだね」
 シロガネがうなずいた。
「それと、戦う前から自分の力量を相手に教える必要はないからね。でも、格下ならば、あえて呪力を放出して牽制するってもありだ。戦う必要がなくなるので楽だよ。手強い相手なら、制御していた呪力を解放して戦えばいい。つまり、制御は呪力を貯めるという事で、呪力の消費を減らせて効率がいいってことさ。まぁ、全力で戦うなど稀だけどね」
「退魔士は皆んな、そうしているの」
「さぁ、どうだろう。普通は、魔物を退治するのは命がけだからね。それ相応の覚悟が必要となる。呪いの種類や属性の相性もある。万全な対策と全力で向かう者の方が多いんじゃないかな?」
 さらりとシロガネが、他の退魔士とは同じでないと言うので、コハクは不思議に思う。
 まるで、シロガネとコハクが特別で他の退魔士とは違うと言っているようだからだ。
 記憶がなくても、コハクの身近に呪術はあって慣れ親しんでいたと分かっている。だけど、自分自身が、シロガネと同じとは思えなかった。
 今、まさに呪力の制御や操作を学ぼうとしているのだ。
「えっと……。ボクは大丈夫かな」
「大丈夫さ。コハクなら出来るよ」
「うん、がんばる」
「その粋だ。さて、始めようか。目を閉じて集中してごらん」
 コハクは、シロガネに言われた通りに目をつぶった。
「自分の体に流れる呪力を感じるんだよ」
 黒い魔物に襲われた以来、コハクを守護する者の存在を知った。自身に巡る不思議な力を微かに感じるようになった。
 そして、子鹿を助けたいと思った。その強い願いは、自らの封印を解いた。
 魔物に呪力を放った時に、自身の中にある呪力を明瞭に感じた。
 今、また封印されていようとも、あの感覚は消えはしない。
「どの辺りから流れているのか。わかるかい」
「胸の真ん中だよ」
「そうだね。呪力がそこから流れないように止めてみようか。これは制御で、呪力の量を調節が出来るようにするんだ」
「どうすればいいの」
「例えば、ヒビ割れている箇所に蓋をする。又は、呪力を動かして流れないようする。そういうことを思考する。心で思い描く。強い意思と意識を持って行う」
「やってみるよ」
 コハクは再び、目を閉じて考える。

 フタをして、流れないようにするにはどうしたらいいのか。
 ヒビが割れているなら、糊で貼りつけるのはどうだろう?
 完全にフタをしてしまうからダメだ。
 鍋に見立ててフタをするのはどうかな?
 水が入っていて、これは呪力。
 火にかけてたらグツグツと動くけど、沸騰したら、フタが動いて吹きこぼれるからダメだ。
 かぶせる……。まく……、つつむ!
 大きな風呂敷で呪力の元を全部包むのは、どうかな?
 でも、どんな風に包むんだろう。包み方を知らないから、上手く包めないよ。
 他に包んでいる物……何かないかな?
 あっ、飴。
 紙でクルクルって両端を捻って包んでいる。
 呪力は胸の真ん中にある。その形は丸いから、ヒビが割れている箇所を重なる部分の開け口にする。
 流したい時は両端を緩めれば……。
 コハクは意識を集中して、呪力を飴で包む絵を強く思う。
 呪力を流れないように、包まれている時は呪力が飴ように固くなるよう思い描いた。

 コハクが目を開けると、シロガネが微笑んでいた。
「できた……」
「よくやったね」
 シロガネがコハクの頭を撫でると、コハクは瞳を輝かせて自慢げな顔をした。
「よし。次は、外に流れ出ていく呪力を集めてみようか。これは操作で、その呪力を使えるようにする」
「うん」
「外に流れる呪力は細い絹の糸のような状態だから、それをどうやって集めるかを思い描けばいい。内にある呪力は制御すればいいけど、外に出た呪力は操作をする事になるね」
「なるほど!」
 コハクは目を閉じて意識を集中させる。
 呪力を包んでいる力を緩める。
 シロガネの言うように、呪力は絹の細い糸のように流れている。
 巻いてひとつにするのはどうだろうか。
 フワリふわふわと気ままに動いて、上手くまとめられない。
 呪力の糸たちを、二つの束……三つの束にして編むのは、どうだろうか。
 これは三つ編みだ。
 意識の向こう、遠くに何かが映る。
 あれは誰だろう?
 女の子が三つ編みを誰かにしてもらっている。
 これは、ボクのなくしている記憶の一部だ。
 映像が消えた。
 途切れた意識を元に戻した。
 流れ出る呪力を編んでいく……細く長く。
 これをひとつにするにはどうしたらいいかな?
 編んだ呪力で袋を……風船のように膨らませば、たくさん入る。
 大きくなって……このままじゃ、割れてしまう。
 大丈夫、同じ呪力だから割れない。
 ギュッギュッと小さくして……。
 編んだ呪力で流れてくる呪力を包む。
 シロガネの袋のように、すぐに取り出せるようにすればいい。
ボクの呪力なんだ。ボクが思うように出来る。

 シロガネがコハクの頭を撫でた。
 コハクが、ゆっくりと目を開けて満面の笑みでシロガネが見つめた。
「コハクは、すごいなぁ」
「もっと、ほめてぇ!」
「えらいな、頑張ったね」
 シロガネが手を差し出した。
 コハクは飛びつくようにシロガネに抱きついた。

「休憩にして、おやつを食べようか」
「やったぁー! おやつはなんだろう?」
「甘くした牛乳に、色々な果物と寒天を混ぜて冷やした物だね」
「なにそれ! すごく美味しそう。ってか、絶対に美味しい。いつ作ったの?」
「朝、コハクが起きる前だよ」
「今日は、寝坊しちゃったからね」
「毎日、頑張っているんだ。疲れが溜まっているさ。気にする必要はない。身体を休ませる事も大切だよ」
「ありがとう、シロガネ」
 いつだってシロガネは、コハクの事を思い労り大切にしてくれる。
 その優しさは、コハクの中で染みて広がっていく。消えることない痣のように、くっきりと跡がつく。それはシロガネと繋がっている証のようだ。
 コハクの心が、ギュッと締めつけられる。
 胸が張り避けそうで不思議な感覚は、少し苦しくて嬉しくなる。
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