八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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48カリンとあそぶ

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 今日はカリンと訓練の予定だったが、コハクは翌日に変更した。
 それは、昨日、シロガネの退魔士の仕事について行った事で体調を壊したからだった。
 ただの魔物ではなく、マカタリモノを経験したのだ。その多大なる緊張感は、当然、心身共に負担は大きかった。
 通常の魔物の魔素ならば、結界や浄化で問題ない。
 しかし、マカタリモノの魔素は強くて影響を受けていた。
 心ここにあらずで、コハクは、ぼんやりとしている様子をに、シロガネは心配する心を隠して、いつも通りに過ごす事にする。

「たのもうぉー」
 突然、家の外から聞き覚えのある声が聞こえた。
 コハクの意識が、ゆっくりと戻ってくる。
「コハクぅーー」
 自分の名前を呼ばれてはっきりと覚醒した。
 シロガネが少しの間、出かけると行っていたことを思い出す。
 家にいるのはコハクだけだった。
 次第に琥珀色の瞳に光が差す。
 コハクは、ゆっくりと立ち上がって玄関へと向った。
 玄関の扉を開ければ、目の前にはよく知る顔がある。
「……カリン」
「コハクぅー」
「どうしたの?」
「だってぇー。訓練中止になったから、暇だもん。だから、遊びに来たのぉー」
「ふふっ、ごめんね」
 コハクは、謝りながらも、カリンらしいのが嬉しくて可笑しくて、クスクスと声を出して笑った。
「家に上がってよ」
「あるじわぁ、居ないんでしょ、ダメ? だよぉ」
「シロガネは、怒るかな?」
「うーん、怒らないかな?」
「なら、大丈夫だよ」
「うん、大丈夫だね」
 二人は揃って、笑いながら家の中に入っていった。
 コハクは、自室にカリンを招いた。
「昨日の疲れがとれなくて、訓練の日を明日にしてもらったんだ……」
「知ってるよ。あるじと一緒に魔物たいじ、たいへんだったよね。はやく、元気になーれ」
 カリンが、ヨシヨシとコハクの頭を撫でた。
「カリン……、ありがとう」
 なんだか、いつものカリンよりも大人っぽく感じた。
「それにしても、訓練ってぇ、何したらいいのぉ?」
「えっと、カリンの木属性について、学ぶって感じ」
「ふーん」
「例えば、ルーンみたいに、動物たちの召喚の仕方を教えてもらうとか?」
「コハクも、ルーンや他の動物たちと仲良くなりたいのぉ」
「うん、なりたいっ」
「そっか、じゃあぁ、仲良くなろうぉーー」
 カリンが、にっこりと無垢な笑顔で呪文を唱え出した。すると、部屋の中いっぱいに、大きな召喚の呪法陣が出現した。
「おいでぇ、みんなぁーー」
 呪法陣が眩しく光った。
 ウォーっと、聞き慣れたルーンの鳴き声が聞こえた。
 そして、コハクたちの目の前にはルーンだけではなくて、鳥や兎に栗鼠。猿に猪、鹿。森に棲んでいるであろう動物たちが現れた。
「すっごいぃ」
「みんなぁ、ぼくの友だちのコハクだよぉ。仲よくしてねぇ」
「みんな、よろしくね」
 鳥たちがコハクの頭や肩に止まる。兎や栗鼠がコハクの周りに近づいてくる。
 部屋の中だというのに、いつのまにか、床は草木がいっぱいに緑が広がっている。
 ここは、もう森の中だった。
 動物たちの鳴き声が聞こえて、あちこちで動き回って、とても賑やかだ。
 しばし、コハクもカリンも動物たちと一緒に穏やかで和やかな刻を過ごした。

 あれからコハクは、カリンと一緒にシロガネが用意してくれていたオヤツを食べることにした。
「焦げ茶色でぇ、甘くて美味しそうな匂いぃー。コレ、なにぃ」
「小麦粉と膨らませる粉に、卵と砂糖とココアを混ぜて作ったやつなんだ。そしてね、中にはトロリとした、甘いのが入っているんだよ」
「あるじが作ったのぉ」
「うん。シロガネは料理もお菓子も上手に作るよ」
「あるじが、そんなこと出来るだなんて、知らなかった……教えてくれなかったぁ。コハク、ズルいーー。いいなぁ」
 カリンが、少しだけ口を尖らせた。
 コハクは、気にせずに、菓子を皿に取り分けていた。その様子に、さっきまで拗ねていたカリンは何処へやらで、瞳をキラキラと輝かせて見ている。
「おいしそうぉ」
「それじゃあ、食べよう」
「わぁーい、いただきまーす」
 カリンが大きな口を開けて、パクっと食べた。
「ほんとだぁ。トロリと甘いのがあるぅ、おいしいぃーー」
 カリンが頬を緩ませて、笑みが溢れている。 
 まさに、ぽっぺが落ちるの感覚がする状況だろう。
「うーん、あまぁい。おいしいねぇ」
 同じくコハクの頬も落ちていた。
「おかわりぃー」
「ボクもぉ」
 二人は、二個目もペロリと食べた。

 諸用で留守にしていたシロガネが家に帰って来た。
 玄関の扉を開けて、コハクの名前を読んだが、返事がない。
 寝ているのか、まだ調子が悪いのかと考えながら家に上がると、微かな違和感を覚える。
 少々焦りながらコハクを探して、居間や仕事部屋を見て回る。
 次はコハクの部屋に、向かう途中でシロガネは気がつく。
 そして、苦笑しながら深呼吸をして冷静になった。
 コハクの部屋には、緩い結界が張られていたのだ。その結界は、当然、シロガネを拒まなかった。
 扉をそっと開けると部屋の中にいる動物たちが一斉にシロガネを見つめている。
 それはまるで、『静かにっ』という感じだ。
 コハクとカリンの姿を確認した。
 息を吐いて、込み上げる笑いを抑えた。
 そして、動物たちに『よろしく』というように頷きながら、シロガネは扉をゆっくりと閉めて後にした。
 コハクとカリンはオヤツを食べた後、話しをしている間に、二人とも、お腹がいっぱいになった。そして一緒に、いつの間かに夢の中へ。
 動物たちに囲まれながら、仲良く昼寝をしていたのだった。

「気分はどうだい?」
「うん、とてもスッキリしてる。心配かけてごめんね」
「元気になって何よりだ」
「カリンが遊びに来てくれて、楽しかったんだ」
「良かったね」
「あとね。カリンが、美味しかったって言ってたよ。それとね、作りたいって言ってた」
「えっ、作りたいのかい? カリンが……」
「いっぱい作って、いっぱい食べたいって」
 シロガネがククッと笑った。
「どうしたの」
「カリンらしいと思ってね」
 どうやらシロガネは何かを思い出して笑っているようだ。
 コハクの知らない思い出があるのは当たり前なのに、少し面白くない気持ちになってしまった。それは無意識に表情となれば、シロガネが気がつかないわけがない。
「どうしたんだい?」
「べつに」
「おやおや、妬かないでおくれ。なんて事ない昔の話しさ」
「ちょっと。そこで、どーして妬くとかになるの」
「そうか、違ったのかな。それは残念だ」
「残念って……。もう、そうやって揶揄わないの。なんて、言ったらいいのか。わからなくなる」
「そういう時はね」
 シロガネが、コハクに耳打ちをした。
 その声は小さく、甘く、優しく囁いた。
 みるみるとコハクの表情が変わってくる。真っ赤になって、耳打ちをされた耳を押さえている。
「って言えばいいんだよ」
 物凄く愉しそうで意地悪な表情で、シロガネがコハクを見つめている。
「シ、シロガネの……」
 まだコハクの耳の中では、シロガネの声が囁いている。何度も何度も繰り返して、まるで呪文のようだ。心を捕まえて逃がさない。抱き抱えて離さない。
「コハク、おいで」
 心を惹きつけられたら、断れない。
 これも呪文だ。
 恥ずかしい気持ちよりも、その心に体は反応して従う。
 全てを許して、全て委ねて、その思いを重ねたいと思える場所に飛び込む。
 そして、同じ言葉を返すのみだ。
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