八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

文字の大きさ
60 / 79

59コハクの友達

しおりを挟む
 いつもの町に、買い物に来ていたある日。
 コハクは、お気に入りの菓子店にいた。
 会計を済ませた後に、店主がコハクに袋を渡す際に、ひょいっと菓子を放り込んだ。
「これ、おまけなっ」
「えっ、わるいよ」
「いつも、買いに来てくれるからな」
「いいの?」
「子供が遠慮すんな」
「ありがとうぉ」
 コハクは、こそばゆくなって、はにかみ笑った。
「いつもの兄さんは何処かに買い物かっ?」
「そうだよ。もう、ボクもこの町に何度も来てるからね。ひとりで、買い物しても大丈夫なんだ」
 店の主人は大笑いをする。
「そういや、初めて会った時は、迷子になって、店の前でビービー泣いていたな」
「違うからね、ビービーじゃないからね。涙ぐんでいただけだ。ちょっとは……、声を出していたかもだけど……」
「兄さんが、お前を見つけて声をかけた時は、んわぁーって、泣きながら抱きついていたよな」
 店の主人が、コハクの泣き声を真似て、再び大声で笑った。
「もう、やめてぇーー。そりゃ、確かに、その時は……。会えて嬉しくて、泣いたかもだけど……。ビービーじゃないからねっ」
 何度も訪れている慣れた町なので、ひとりで買い物をしたいと、コハクがシロガネに言った。
 その頃は、呪術について呪力の制御や操作を学んでいた。シロガネも、コハクの自立心を大切にしたいと考えて承諾した。
 しかし、式神を忍ばせるのは、致し方ないだろう。なので、この時もコハクが道に迷って泣きべそをかいていると、式神からの連絡で知る事になる。
 視覚共有すれば、どこかの店の前で、店主が気づいているのがわかった。そしてシロガネが、店に訪れたのだった。
 そんな懐かしい話しをして、コハクは店を立ち去った。
 次の店に向かう途中で、女の子が脇道で物悲しそうに立っている。よく見ると、涙目で今にも泣きそうな気配だ。
 道を歩く人々は、忙しそうに歩く者や楽しそうに話しをしながら歩いているので、女の子の様子に気づいていない。
 放って置けなくて、コハクは女の子に近づいて声をかけた。
「何かあったの、大丈夫?」
 俯いていた女の子が、コハクの方を見た。
 涙を潤んでいた瞳から、ポツリと雫が溢れると、とめどなく涙が流れて、うわぁーんと声を上げて泣き出してしまった。
 コハクは驚いて、慌ててしまう。
「ごめんね、ごめんね、驚かせたよね」
 道交う人々は、何事かとチラリと見て通り過ぎて行く。
「コレ、食べない? ボクのお気に入りなんだ。美味しいよ」
 コハクは、女の子を泣き止ませたくて、さっきの店で買ったお菓子の袋の中を見せた。
 小さな豆のような形で、彩り鮮やかな色で手に持つとプニプニとする菓子だった。
 女の子は興味を持ったようで涙が止まった。
「綺麗な色……ほんとうに、お菓子なの?」
「食べた事ない?」
 女の子が、不思議そうに見つめながら頷いた。
 コハクは、毒味ならぬ。
 先に食べて見せる為に、袋から一つ取り出して口に入れた。
「うん、おいしいっ」
 コハクがニッコリと笑って、袋を女の子の前に広げた。
 女の子は、袋から一つ取り出して口に入れた。
 あっ、という顔をしてニコニコと笑った。
「プニプニしてるぅー、甘くておいしいっ」
 女の子が笑顔になって、コハクは一安心する。
「ひょっとして、迷子なの?」
「違うもん」
「じゃあ、どうして泣きそうに……」
「ないの……」
「何かを失くしたんだね」
 女の子は頷きながら、また泣きそうだ。
「それじゃ、ボクも一緒に探すから、泣かないでっ」
 女の子は、泣き顔のまま笑顔を見せた。

 落ち着いた女の子から、何を失くしたのかをコハクは尋ねる。
「ねぇ、何を失くしたの?」
「お兄ちゃんからもらった髪飾り……」
「そっか、ちょっと待ってね」
 コハクは、白い紙を取り出して口つけて呪力を込めた。
 その様子を女の子は不思議そうに見つめている。
 コハクが、その紙を女の子に渡した。
「それじゃあ、その髪飾りの形や色を思い出してね」
 女の子は、コハクの言われた通りにする為に、目を閉じて、失くした髪飾りを思い出した。
 女の子が目を開けて、白い紙を渡した。
 受け取ったコハクは、再び白い紙を口つけて静かに呪を唱えた。そして、空に白い紙を投げると蝶々に姿を変えた。
「すごいっ」
 女の子は初めて、目の前で紙が蝶々になる現象を見て驚いている。
 蝶々が女の子の周りを飛び続けて、スッと離れて飛んでいく。
「あっ」
 女の子が小さな声を上げる。
「着いて行こうっ!」
 コハクが蝶々を追いかけた。その後ろ姿を女の子が追いかけた。
 蝶々がある脇道の前で飛び続けている。
 コハクが行くと、可愛らしい髪飾りが落ちていた。
「これっ、わたしのっ」
 コハクの後を着いて来ていた女の子が声を上げた。コハクが髪飾りを拾い上げる。
「これで、間違いないんだねっ」
「うんっ。脇道から歩いて来た人と、ここでぶつかったの。その時に落としたんだわ」
「見つかって、良かったね」
「ありがとうぉ」
 女の子が涙ぐんで喜んだ。
 コハクと女の子が向かい会って話していると、突然。
「おい、お前、ニイナに何しやがった」
 コハクの肩を掴んで振り向かす。
 目の前には、コハクよりも大柄な少年が立っていた。
「お兄ちゃんっ!」
 コハクは、少年が何者なのか理解して話しかける。
「待って、ボクは……」
「うるせえ」
 少年はコハクの胸ぐらをを掴んで、今にも殴りかかろうとする。
 女の子は、果敢にも止めに入る。
「やめてぇー。この子は、失くした髪飾りを、一緒に探してくれたんだよぉっ!」
 ニイナと呼ばれた女の子は、兄の少年に必死に訴えた。
 少年は驚いた顔して、妹のニイナを見つめた。次に、胸ぐらを掴んでいるコハクをまじまじと見た後に、掴んでいた手を離した。
「おい、お前、ニイナの言う事は本当なのか」
「本当だよ」
 コハクは、息を整えて答えた。
「悪かったな」
 少年は、そっけなく呟く。
「お兄ちゃんのバカっ、ちゃんと謝ってよ」
「うるさい、謝っただろう。お前が居なくて、こっちは、ずっと探していたんだからな!」
「だって、だって……」
 女の子は、泣きそうになる。
「兄妹喧嘩は、もうお終いね。二人の探しものは見つかったんだから、笑って喜ばなきゃねっ!」
 コハクが和かに言った。
 ニイナは笑って、少年は大人しく、二人一緒に頷いた。
「俺は、ニイナの兄でユウキだ。でっ、お前は」
「えっと、ボクはコハクっ」
 その後は、三人で町をぶらぶらと歩いた。
 あちこちと兄妹についていけば、まだ行った事のない道を通ったり、新しい店を知ったりした。
 なんでもない話しに笑顔を溢れる。
 コハクにとって新鮮な感覚だった。
 純粋に同年代の子たちと遊んだ記憶がないのだと分かったからだ。
 それは何故なのか、特殊なのか、特別なのか。
 深く考えても仕方ないので、今が楽しければ、それが一番だとコハクは思った。
 
 ニイナとユウキは、父親の仕事の取引先に商品を納品する時に、一緒について来ていた。
 この町にはよく訪れていた。
「お手伝いをしているだね、えらいね」
「そんなの当たり前だろ。俺も親父の跡を継ぐんだから、仕事は早くに覚えないとな」
「やっぱり、すごいよ」
 ユウキの志の高さに、コハクは純粋に感動した。
 今の自分と歳が近いのに、しっかりとした考えを持っている。
 コハクはなんだか、シロガネに甘えている事が多い自身が、恥ずかしくなる。
「お前は、親の手伝いはしてないのか?」
 コハクは、どう答えたら良いのか戸惑う。考え過ぎわからなくなり焦る。
「えっと。家の、家事の手伝いはしてるよ。後は……、し、ししょう。ボクは弟子で、師匠の仕事を手伝っているんだっ」
「弟子? 師匠? なにそれ」
 ニイナがキョトンとしている。
「お前。仕事を覚える為に親元を離れているのかっ」
 ユウキは驚いている。
「えっと、まぁ。そんな、感じかな……」
「お仕事って、探しもの?」
「そんなの仕事あるわけないだろう」
 ニイナの質問に、ユウキが答えた。
「でも、コハクはねっ。さっき白い紙を本物の蝶々にしたんだよ。その蝶々が飛んで、探していた髪飾りをみつけたんだから」
 ニイナの話しを聞いたユウキが驚きと疑いの眼差しでコハクを見る。
「えっと、探し物の、お仕事じゃないけど、困った人を助ける仕事なのかも」
「その仕事はなんだ」
 言っていいのだろうか。
 シロガネが、退魔士になるとコハクが決めた時に言った事を思い出す。
「退魔士はね。魔物と対峙するので、魔素を纏う穢れた人だと、嫌う人もいるからね。公に言う必要はないよ」
「そんなの、おかしいよ。退魔士は魔物から人を救う仕事なのに。それじゃあ、陰陽師もそうなの?」
「退魔士と陰陽師はやる事は同じなのにね。貴族を相手にするか庶民を相手にするかで、格や箔が違ってくる。その差は歴然だ。呆れるほどに、人とは勝手な生き物なんだよ」
「なんだか悲しくなるね」
「大切な誰が、尊重して認めてくれる。今の私には、コハクがいるから問題ないさ」
「ボクも、シロガネがいるから大丈夫だよ」
 コハクだけでなく、シロガネの事も話さなければならない。
 ひょっとして、ユウキは退魔士を嫌っているかもしれない。
 コハクは言い淀んでしまい、黙ってままだ。
「お前は、その仕事が好きか」
「うん、好きだよ」
「好きな事をする。誰がなんて言おうが、それが大切なんだ」
「うん、ボクも、そう思う」
 きっと、ユウキは、コハクが退魔士だとわかったはずだ。
 あえて明言を避けて、コハクを尊重した。
 コハクはユウキの優しさと強さを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。 王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。 運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝—— 「お前を、誰にも渡すつもりはない」 溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。 愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

処理中です...