八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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60友達からの連絡

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 ある日、訓練を終えたコハクの元に、季節外れの蝶々が飛んで来た。
 蝶々が現れた瞬間からコハクにはわかった。
「この、蝶々は……ボクの式神……」
 コハクは戸惑う。
 なぜなら、この式神の蝶々はニイナにあげた物だったからだ。
 あの日、あの後三人で一緒に町の中を歩いて楽しく過ごした。
 たくさん話しをして笑った。
 別れる時にニイナが、寂しそうに言った。
「ねぇ、また無くしたら、一緒に探してくれる?」
「おい、何言ってんだ。もう、無くさないようにするんだろ」
「だって、でもぉ……」
 ユウキはニイナが、コハクとまた会い違っているのだとわかった。
 二人は父親の仕事について町に来る。
 コハクは買い物に町を来る。
 会いたいと思っても、同じ日に町にいるとは限らない。
 ニイナの気持ちは、コハクに伝わる。
「それじゃね」
 コハクが、小さく白い紙を出して口に当てた。呪力を込めてニイナに渡した。
「これをあげるね。探し物を念じて空に放つと蝶々になるよ。そしてね、探し物の場所まで案内してくれるから、きっと見つかる」
「うん」
「ありがとうな」
「それじゃ、ボクは行くね」
 ニイナとユウキ、コハクも三人は手を振って別れた。

 その時の式神なのだ。
 探し物の場所じゃなくて、コハクのところに飛んで来た。
 ニイナが、コハクを探していると気がつく。
 そして、コハクの元に辿り着いた蝶々の式神が、ハラハラと紙に戻って落ちた。
 その紙をコハクは拾った。
「これっ……」
 紙には文字が書かれている。
『魔物に襲われた、ニイナがいない』
 ニイナからではなくて、ユウキからだった。 
 殴り書きの文字は急いで書いた証だ。
 コハクの顔が青ざめる。
 胸を掴んで、何度も大きく息を吸って吐いた。焦る気持ちを落ち着かせようとしている。
 蝶々が飛ばされて、コハクのところに辿り着くまで、どれぐらいの時間が、かかったのだろうか。
「大丈夫……ボクの式神が、ボクのところに戻って来るだけだから……すぐのはずだっ」
 コハクが呟く。
「コハクぅ? コハクっ!」
「あっ、……カリン」
「蝶々、飛んできたけどぉー、どうしたのぉ?」
「あのね……」
 一緒に訓練をしていたカリンに、事情の説明をした。
 それからの二人は急いで家に向かった。
 コハクとカリンが、家の庭にある紫木蓮の樹木の前に立っている。
 シロガネは、スイセンと仕事の打ち合わせでや出かけて留守だった。
 今、相談は出来ない。
 コハクは、小袋から筆を出して白い紙に筆を滑らせた。そして、呪力を乗せて空に投げるとツバメの式神に変貌させる。
「シロガネのところへ」
「あるじに連絡したのぉ」
「うん。カリンが一緒に行ってくれるから、きっとシロガネも安心してくれる。ありがとう」
「ぼくは、コハクの友達だもん。困っているなら、手だすけするのは、あたり前だよぉ」
「カリンっ、それじゃあ行くよ」
『彼の地の扉を開けし繋げよ』
 楕円の光が紫木蓮の幹に現れた。
 コハクはカリンと手を繋いで、光の中に入って行った。
 光の道を歩いている間、コハクは顔を強張らせて無言だった。
「心配するのは、仕方ないけど、コハクがそんな顔をしていたら、助けを求めた者を不安にさせるよぉ」
 コハクが、ハッとしてカリンを見た。
 カリンがニッコリと笑っている。
「……エレン」
「コハクは一人ではないよ。カリンと私の二人がついているよぉ」
「エレン、ありがとう。カリン、ありがとう」
 コハクは口角を上げて前を見つめた。

 光の道を抜けて、いつもの丘の雑木林に出た。
 そこから、コハクが白い紙を口につけて呪力を込める。呪を唱えて空に放って、ツバメの式神を告げる。
「ユウキのところへ案内して」
 空を旋回していたツバメが飛んで行く。
 その後をコハクとエレンが追いかける。
 その速さは、コハクやエレンを置いてきぼりにしていった。
 エレンが口笛を吹いた。
「コハク、止まって」
 振り向くとルーンが現れていた。
「ルーン」
「ルーンの背中に乗って行こう」
「でも、二人は……」
「大丈夫」
『我は翼を求めたり。出よ天翔馬』
 ルーンを術式が包み込んだ。
 みるみると、ルーンの姿が変貌していく。
 大きく立派な翼の生えた白馬となった。そして、額には三日月の痣がある。
「うそ、ルーン……なの……」
「そうだよ。この説明は移動しながらするね」
 コハクは驚いた表情のまま頷いた。

 二人は天翔馬のルーンに背に乗って、空を翔ていた。コハクが前で、エレンが後だ。
「ねぇ、ルーンの姿を変えた術はエレンの呪術なんだよね」
「うん、ぼくの願いから派生した力なんだ」
「エレンの願いって何?」
 エレンが話し始めた。
 エレンは皇子として、次期王となるための教育を受けて育った。
 これといって特技は無いが、卒なくこなす。家臣や側近の者たち、政敵とされる派閥の違う者たちも平凡であると評価した。
 しかし、実際のエレンは優秀で有能だった。
 それを隠す理由は、腹違いの弟との王位継承の争いを避けるためだった。
 だが、それは、これまでのエレンの話しだ。
 カリンと一心同体になった今、エレンを護るために、シロガネとの約束を守るために、エレンは王となる意思を周りに示した。
 その変貌ぶりに皆が驚いた。
 驚かせるだけでなく、隠していた実力を見せつけ、更なる努力をした。
 時には、変装してカリンと一緒に町に出かけた。その時は、カリンが表に出て服装も女の子として振る舞った。
 民の暮らしを知って、人々の暮らしを良くするための政策を実行して国を発展させる。
 政敵である派閥の臣下たちにも平等に接する。王位継承を争うはずの弟を隔てない。
 むしろ、親睦を深めた。
 国を良くするための協力を惜しまずに力を合わせた。
 公正である姿に、家臣も国民も誰もが、エレンが王に相応しいと納得した。
 弟も兄のエレンを信頼して敬った。仲違いの噂は消えて仲の良い兄弟となった。
 そして、エレンは誰もが認める王になった。
 
 王にならなくても良いと思っていた。
 しかし、大切な人と一緒にいるために、大切な人を護るために、この願いを叶えるために、今までの生き方を変えた。
 約束を果たすために、幸せを求めて望んだ。 
 より良い未来になるために、なりたい自分の姿へと変えていった。
 その結果は、自身だけの幸せではなく、周りの人々も幸せにした。
 その努力を惜しまずに生涯を閉じた。
 後にも先にも、英君と呼ばれたのは、エレン、ただ一人だ。
「ぼくは、カリンを護って一緒に幸せになる力を望んで、なるつもりはなかった王になった。それは、主人との約束でもあるからね。そして、カリンと共に生涯を閉じて、玄武の神使となった時に、守るための望みを願いを実現させる力を授かったんだよ」
「それが、この天翔馬……。それは、違う姿に変えられるってことだよね。すごいっ」
「見て、ツバメを見つけたよ」
 少し先に、コハクのツバメの式神がいた。
 空で旋回をして、ツバメは白い紙に戻って、ハラハラと地面へと落ちていった。
「あの下だ」
 コハクが、キリっとした表情で指を差した。
 空から見る地上の景色は、草原が広がって、人や馬車が行き交う道がある。その横には樹木が点在している。
 そして、ツバメが落ちた場所には、馬車が横転していた。
 コハクとエレンは天翔馬で、その場所へと降りた。
 馬車には誰もいない様子だ。
「コ、ハクっ」
 馬車から離れた樹木の影から声が聞こえた。
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