八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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61友達の危機

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 コハクは、名前を呼ばれた樹木の方へと振り向いた。
「ユウキ」
 コハクが急いで向かう。エレンもその後に続く。
 ユウキは腕と足を怪我をして動けないようだ。そして、ユウキの隣りで横たわる男性がいる。
「今から怪我の回復をするね」
「俺よりも、親父の怪我の方が……。それに、ニイナがっ」
「ぼくが見るよ」
 エレンは、ユウキの父親の対応をする。
「ニイナも心配だけど、ユウキとお父さんの傷の手当を先にしなきゃ、ニイナを助けにいけないよ」
 コハクが、ユウキの傷に手をかざした。そして、癒しの呪文を唱える。
『祈り捧げ奉る、光を照らして癒し給え』
 ユウキの足の傷がみるみると治っていった。
「すごげぇ、痛くない。動ける」
「よかった」
「コハクっ」
 喜びも束の間、エレンがコハクを呼んだ。
「親父……」
 コハクとユウキは、ユウキの父親のところへ駆けやって、その様子を確認した。
 ユウキの父親は意識を失っている。胸に酷い傷を負って血を流していた。
 エレンが、回復術を施している。
「キズが、ふかいのぉ。木の癒しでもぉ、なおりにくいのぉ……」
「カリンっ」
「コハクおねがい、だいじょうぶぅ?」
「うん、カリンありがとう、変わるよ」
 コハクが、ユウキの父親の傷口に手をかざす。
『祈り捧げ奉る、清らかな水よ、暖かな火よ、安らぎの木よ、光に集い癒し給え』
 コハクはユウキの時の回復術よりも強い回復の呪術を行った。
 ユウキの父親の傷が治っていく。
「親父っ」
「まだ、気を失っていたままだけど、大丈夫だから、起こさない方がいいよ」
「よかったぁ……。助けてくれて、ありがとうな」
 ユウキが、涙声で礼を言う。
「それで、ニイナは……」
 コハクが、真剣な表情で尋ねた。
 ユウキは悔しそうに悲しそうに話した。

 いつもと変わらな日。
 町にて商品の納品を卸し終えた帰る道中だった。
 木の影から、突然、魔物が現れた。そして、馬車に向かって襲いかかってきたのだ。
 馬車を走らせて、逃げようとしたが魔物は追って来た。馬車は転倒して、皆が投げ出された。
 すると、何故か魔物は、ニイナの方へと向かった。
 ニイナを助けようとして、父親は果敢にも魔物に立ち向かった。しかし、ただの人が魔物と戦って勝てるはずもなく、深傷を負う。そして、道から外れた木の方へと吹き飛ばされた。
 ユウキは、馬車から投げ出された際に腕と足を怪我した。ただ見ているだけで何も出来ない自身を嘆いた。
 ニイナが連れ去れた後、その場に白い紙が落ちているのことに気がついた。
 最初は、何故、こんなものが落ちているのかと思う。
 だけど、少しずつ記憶が鮮明になって、コハクがニイナに渡した白い紙だと思い出した。
 その場所まで足を引きずりながら向って、白い紙を拾った。
 そして、コハクの元に連絡をしたのだった。

「この辺りに魔物はいないはずなんだ。なのに、突然、現れたんだ」
 確かに、この辺りに魔素の気配はない。土や砂、砂利が広がり見通しが良い。魔物が好む暗い場所もなかった。
「ねぇ、どこの辺りから現れたの?」
 コハクがユウキに尋ねた。
「あそこだ」
 ユウキが指を指した。
 そこは、大きな岩があった。
 コハクが、その岩の場所に向かって歩けば、その後をエレンとユウキが続いた。
 大きな岩の後ろには、何かの模様が描かれていた。
「これ、術式だね」
 コハクが確認してすぐに呟いた。
「これが? オレには落書にしか見えないぜ」
「うん、まさに落書きだ。美しくない」
「術式に美しくとかあるのか」
「あるよ」
「ありますね」
 ユウキの疑問にコハクがキッパリと言えば、エレンも同意した。
「で、これは何なんだ。魔物と関係あるのか」
「あるよ。この術式から魔物が召喚されたんだ。そして、戻すために、ここから来た場所へ召喚する」
「つまり、魔物がいるところに繋がっているのか?」
「うん。そして、そこには魔物を操っている者がいる」
「じゃあ、ここから……、コハクならニイナのいるところ行けるのか」
「行けないよ。これは召喚の術式だから……」
「そんな……。じゃあ、どうやってニイナのところに行けるんだ」
 ユウキが縋るようにコハクを見つめた。
 コハクは、落書きと評した術式に、そっと手をかざした。呪力を込めながら撫でるように動かす。次に指先を口に持っていくと噛んだ。傷ついた指先から血が滲む。
「コハクっ」
 エレンが、声をあげる。
 コハクが血が出てない指を立てて静かにするように促した。
 そして、落書きの術式に血のついた指を描くように動かした。
 術式が光って、さっきと違う模様となっていた。
「すごい、美しいです」
 エレンが声を出した。
「うん、さっきよりはぜんぜん綺麗だな。ってか、なんで違う模様になってるんだ?」
 ユウキが不思議そうな声を出す。
「書き換えたんだ。召喚の術式だから人は移動出来ない。けど、式神ならいける。だからボクの式神が、ここと繋がっているところに行けるようにしたんだ」
 次にコハクは、白い紙を出した。
 口につけて呪力を込めて呪を吐くと、白い紙は小さな虫になった。
「虫になった!」
「うん、これは鈴虫の式神だよ」
「その、鈴虫をこの模様から、ニイナのところに行くってことか?」
「そうだよ」
「こんな小さな虫が行って、どうなるってだ」
 ユウキは、心許ない気持ちになる。
「大きなモノなら、もしも近くに誰かいれば、気づかれちゃうからね。虫なら気しないでしょう」
「そっか、そうだな。でも、探し物の式神を飛ばせば、ニイナの居場所がわかるんじゃないのか」
「もしも、遠い場所なら時間が、かかるから、こっちの方が早いよ。それに、呪術を使っているってことは、外から見つからないように結界をしている可能性が高い。けど、鈴虫なら、ここから結界の中に入れる。そして鳴けば、その音を辿れるからね」
「すげぇな、コハクっ」
 エレンもコハクの説明を聞いて、感心したように頷いていた。
 コハクが術式に呪文を唱えて鈴虫の式神を送った。
「鈴虫が鳴いたら、行ってくるよ」
「オレも一緒に」
 コハクが首を振った。
「ユウキは、ここでお父さんと一緒に待ってて」
「そうだな。親父が目を覚ました時に、オレまでいなかったら……。コハクっ、ニイナのこと頼む」
 ニイナの状況がわからないので、安請け合いら出来ない。
「ユウキ……、ボクはボクの出来ることを全力でするよ」
「ありがとう」
 ユウキが、しっかりと頭を下げた。
「ジャノメ、出てきて」
 コハクが、自分の影に向かって声をかけた。
 すると、コハクの影がゆらりと動いて、白い蛇が出てきた。
 ユウキが驚いている。
 白い蛇に向かって、コハクが告げる。
「これより、ユウキの側にいて、何かあったら守ってあげて」
「承服できかねません」
「お願い」
「私の使命は、コハクさまを守ることです」
「ボクが今から何をするか、わかっているよね。ボクが、ユウキたちのことを気にして、失敗すれば、それこそ命に関わることになるかもしれない。だけど、ジャノメが、ユウキたちを守ってくれていれば、ボクは安心して動ける」
「それは、屁理屈です」
「そうだね。ボクは一人じゃないよ。エレンとカリンがいる。それに、ここに他の式神が来るかもしれない。その時に状況の説明をしてもらいたいんだ。そして、交代してもらえたらボクのところに来てよ。終わった後に、君の主が怒ったら怒らないように言うから。ううん、ボクも一緒に叱られるから、ボクを信じて」
 ジャノメと呼ばれた白い蛇が、その姿を人に変えた。
「私は貴方様を御守りするように、主から命を授かっております。貴方様の望みに従うことが、貴方様の命を守ると仰るのならば、従いましょう」
「ありがとう、ジャノメ」
「コハクっ」
 エレンが呼んで、コハクも気がつく。
「鈴虫が鳴いているね」
 コハクはエレンと一緒に天翔馬に乗って空を翔けた。
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