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70陰陽寮の戦い2 魔に染まるモノ
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結界の内側には、外側の状況が把握出来るように、戦う皆んなの姿が映し出されていた。
シロガネの術によって成せる事だ。
結界を張りつつ、全方向にて気を向けている。これを維持して使い続けることが、どれだけ凄いのか。
しかも、呪力を式神たちに供給している。
一度に全てを為し得るシロガネの術の才と呪力に黄白は感嘆する。
シロガネに頼ってばかりではいけない。
「バゥアロ」
黄白は、ゲンゲに作ってもらった弓と矢を出した。
結界の外に向けて、弓を構えて呪を乗せる。
力を溜めて弓を引けば、矢は結界を擦り抜けて空高く上空へ。そして、矢が降下する直前に術式が現れると、術式の中に矢が吸い込まれた。
その術式を通った矢は増殖する。幾千幾万の矢が現れた。
一斉に矢が、藍墨を狙って落ちていく。
当然、結界に阻まれるが、降り注ぐ矢の数が途切れない。
藍墨の結界に亀裂が走り、パリンと割れた。
同じ頃、式神たちの戦いも決着がつく。
そして、黄白たちの結界が解かれた。するとシロガネが、ガタっと片方の膝を折った。
「シロガネ」
黄白がシロガネに駆けよって回復をする。
「大丈夫だよ」
シロガネはゆっくりと立ち上がる。完全に回復してない様子だ。ユリが引き続き回復をする。
藍墨が召喚の呪術を唱えた。
「我に忠誠を誓う者たちよ、その力を尽くしなさい」
四人の少女の姿の式神が召喚される。
「死力を尽くしなさい」
「はいっ」
四人は声を揃えた。
先程までの戦いで、式神たちの疲労は激しい。まだ戦えるのはスイセンとザクロ、浅葱と山吹だった。
かなりの腕前なのは、藍墨に対する忠誠心の現れなのだとわかる。
他の式神たちの回復を竜胆、桔梗、千草、ナデシコが行う。しかし、回復役の式神たちも連戦の回復で、呪力の消耗が激しい。
時間が必要のようだ。
ユリもシロガネの回復に時間がかかっていた。
黄白が結界を張った。
呪を唱えて、強制的にスイセンとザクロ、浅葱と山吹を結界に転送した。
「黄白」
「コハク」
黄白が結界内で癒やしの呪術を発動させると結界内には光が溢れてキラキラと輝く。
式神たちがみるみると回復していった。
黄白の回復により皆、力を取り戻す。
それを確認して藍墨が呪を唱えて、召喚の術式を発動した。魔素の気配が漂う。現れたのは巨大な魔獣だ。
闇を纏い魔素を撒き散らす巨大な魔獣は禍々しい。
「我に忠誠を誓う者たちよ。その身を捧げよ」
藍墨の式神たちが、魔獣に取り込まれていく。
その様子を黄白は悲しげに見つめた。
「皆んな」
式神たちは黄白に応えた。
巨大な魔獣に式神たちが一斉に討伐を始める。
だが、魔獣から溢れる魔素の量が多すぎる為に、式神たちは本来の力が発揮出来ない。闇属性のスミレや桔梗さえも耐えかねていた。
普通ではない魔素の量と濃さに、黄白は訝しんだ。
何かに気付くようにシロガネを見れば、息を荒くして苦しそうだ。
「シロガネっ」
ユリが回復をずっとしているにも関わらず、回復が追いついてない。
シロガネの首に蔦のような痣が見える。
「これって」
ユリに問う。
「体内に魔素を取り込み過ぎているのですわ」
「いつからっ」
魔素の振り撒く魔獣はさっき現れたのだ。しかし、シロガネの具合は、その前からおかしかった。
ユリが押し黙る。
シロガネから口止めされているのだと黄白はわかった。
「ユリ。コハクではない。黄白だ」
黄白の言葉にユリは息を飲む。
シロガネなら「コハクに言うな」と指示するはずだ。
「黄白さまに説明致します。コハクさまがいなくなって百年。その間、シロガネさまは魔素を吸収するのみで浄化がされないままでした」
「なぜ……」
「あなたが。コハクさまが現れる前から、少しずつ魔素に蝕まれていました。だけど、コハクさまが側にいることで、魔素が浄化されたのです」
「それは……。シロガネと再会した時にわかったよ」
魔素に侵されていたとしても、出会った時に浄化したのを感じた。なら今、シロガネの側にいるのだから魔素は浄化されているはずだ。
黄白の疑問にユリが答える。
「シロガネさまは、コハクさまとの約束を守るために、あなたさまに会うために無理をなさいました。側にいるだけでは足りないのです」
「どういうこと。それに、僕と会う前から魔素に蝕まれていたのは何故」
「これ以上は、あたくしからは申し上げれません」
「とにかくっ、僕が浄化する」
「もう遅いです。あれが目覚めます」
ユリが藍墨の召喚した巨大な魔獣を見上げた。
すると魔獣が人型に変化した。
人型の魔獣から溢れる魔素の量が、尋常ではないのは明らかだ。想定外の出来事のようで、藍墨が驚いているのがわかる。
そして、人型の魔獣とシロガネが呼応していた。
藍墨も何かを感じたようで、ふらつきながら黄白たちの方を見た。
式神たちが跪く。倒れていく。
黄白が、式神たちを結界に呼び戻して、先ほどと同じく回復をする。
結界の外で倒れている陰陽師たちに、まとめて結界を施した。
そして、藍墨を黄白たちの結界内に転送した。
「黄白、なぜ其奴をここに」
浅葱が苛立っている。
「誰も死なせない。話しを聞かないといけない」
黄白の決意に浅葱は納得した。
人型の魔獣がこちらに近づいて来てくる。
「お人好しもほどほどになさい。あの魔獣の狙いは、どうやら、そちらの方のようですよ。素直にあてがえば助かるかもしれませんね」
藍墨が薄っらと笑う。
シロガネの式神たちが一斉に藍墨に敵意、殺意を向けた。
藍墨も魔獣の強さを感じとっているのだ。
人型の魔獣が結界を破壊しようと叩き始めた。
このままでは結界が破られる。
「いつまでも悪者ぶらなくていいから。陰陽寮から、魔素が漏れないように結界を施してくれていて助かったよ」
藍墨は目を見開いて、静かに閉じた。
「この国は朱乃と紅花の暮らす場所です……」
「あの魔獣は何」
黄白が藍墨に尋ねた。
「この世界より遥か昔に高度な文明があったのは、ご存知ですね」
黄白は頷く。そして藍墨が説明を始める。
この世界。ここ中央国の地下には迷宮が広がっていた。それは文明の遺跡であり遺産である。太古の人々は、高度文明を築き豊かな暮らしを謳歌していた。そして神の存在を忘却する。だが、自然を破壊し尽くせば、地上で住めなくなり、地下での暮らしを余儀なくされた。高度な技術だけでは、どうにもならなかった。
永い歴史の中には嘘が真か。何かを召喚する術がある。それを数学的に分析して、新たな召喚術を創り、神の召喚を試みた。
神はその心に応えた。
「その召喚術の術式を見つけましてね。私の願いを叶えるための力となる神を召喚しようとしたのですよ」
今なお、結界を叩き割ろうと魔獣が暴れている姿を藍墨は見ながら苦笑する。
「まさか、これほどまでの邪悪な魔獣、いえ魔神が現れるとは……。其方の方は何者なのでしょうね」
その疑問に、黄白は答えない。
「竜胆、桔梗。陰陽師たちの結界を陰陽寮の外へ、道を繋げて」
「承ります」
竜胆と桔梗が力を合わせて道を繋ぐ。
陰陽師たちの結界の前に現れると、結界は吸い込まれていった。
「コハ……ク」
シロガネの意識が戻った。
「シロガネ。……頑張って、なんとかするから」
「ぐっ、があぁーーあ」
突然、藍墨の叫び声が聞こえた。
頭を両手で押さえて苦しみだす。
「藍墨っ」
「アレの、力に、耐えきれて、ない」
「それって……」
シロガネの言葉で、黄白は気がつく。
普通は自身よりも格上の魔神などを召喚できない。けど、今回は召喚者よりも格上の魔神が召喚された。それが外的な要因であろうとも、実行したのは藍墨で、力の差は歴然だ。
その代償を負わなけらばならない。
藍墨の頭から角が生えて、瞳は赤かった。
「ソノ、モノヲ、ワタセ」
低く掠れた音が藍墨の口から響く。
明らかに魔。操られている。
藍墨の赤い瞳はシロガネを見つめてた。
「何故、シロガネを欲しがるんだ」
「ソレガ、イル、カンゼンニ、ナル」
「シロガネは渡さない」
操られている藍墨が、懐から何かを出してこちらに向けた。黄白はこれを知っている。
過去の遺物、引けば鉛の玉が出る武器。
シロガネに向けられて、黄白は咄嗟にシロガネに結界を張った。
「ち、がう。コハ……ク」
バァンと音がして、シロガネの声はかき消された。
そして、黄白が血を流して倒れていた。
「黄白っ」
「コハクっ」
式神たちの叫び声が響く。
「オマエ、イナクナル、イカリ、ノロエ」
意識が遠のく中で、黄白は言葉の意味を理解した。
千草とナデシコが、黄白を回復をしようと駆けよる。
浅葱と山吹が怒りを露わに、魔物と化した藍墨に斬り込むが結界の外へ逃げた。
「ダ、メ……だ」
黄白の微か声。
浅葱や山吹が聞き漏らすはずもない。その意味を理解して二人は歯軋りする。
「わかっている」
二人は声を揃えて応えた。
「シロガネさまっ」
ユリの叫び声がした。
シロガネが起き上がり、体から大量の魔素を溢れさせていた。
一瞬、瞬きもしない速さでシロガネは結界の外に起動していた。
藍墨に対して敵意を向けて戦い始める。
「やめ、させ……シロガネに、人を、あやめ……ないで」
黄白が精一杯に声を出す。
シロガネが藍墨を殺して終えば、完全に魔に染まってしまう。魔神に取り込まれて、後戻りが出来なくなる。
何をどうすれば良いのか。
式神たちが戸惑う中……。
「コハクの治療は千草さんのみで。スミレさんに竜胆さんは、前衛の皆さんに魔素の防御結界を。それからナデシコさんと桔梗さんはコハクの結界を維持して下さい」
カリンが指示した。否、エレンだ。
「私はカリンと、勿忘さんで藍墨さんの捕縛します。魔神を抑えるのは、青鈍さんと孔雀さんに、ゲンゲさんとスイセンさん。シロガネ様を抑えるのは浅葱さん、山吹さん、珊瑚さんとザクロさんで。ユリさんは呪力が一番多いので、大変ですが、皆さんの回復をお願いします」
ユリは頷く。
皆が言われた通りに動き出す。
「エレン。私が皇を抑える」
「なりません」
「何故だ」
「主を殺るつもりで挑んで下さい。貴方にそれが果たせますか」
「………ザクロ殿は」
「あの方は、殺らなければ殺られる覚悟を持っています。その託された役目は、命をかけて実行するでしょう」
「皇を……」
「あなたは優し過ぎますから」
スイセンはそれ以上は何も言わずにエレンの指示に従った。
シロガネの術によって成せる事だ。
結界を張りつつ、全方向にて気を向けている。これを維持して使い続けることが、どれだけ凄いのか。
しかも、呪力を式神たちに供給している。
一度に全てを為し得るシロガネの術の才と呪力に黄白は感嘆する。
シロガネに頼ってばかりではいけない。
「バゥアロ」
黄白は、ゲンゲに作ってもらった弓と矢を出した。
結界の外に向けて、弓を構えて呪を乗せる。
力を溜めて弓を引けば、矢は結界を擦り抜けて空高く上空へ。そして、矢が降下する直前に術式が現れると、術式の中に矢が吸い込まれた。
その術式を通った矢は増殖する。幾千幾万の矢が現れた。
一斉に矢が、藍墨を狙って落ちていく。
当然、結界に阻まれるが、降り注ぐ矢の数が途切れない。
藍墨の結界に亀裂が走り、パリンと割れた。
同じ頃、式神たちの戦いも決着がつく。
そして、黄白たちの結界が解かれた。するとシロガネが、ガタっと片方の膝を折った。
「シロガネ」
黄白がシロガネに駆けよって回復をする。
「大丈夫だよ」
シロガネはゆっくりと立ち上がる。完全に回復してない様子だ。ユリが引き続き回復をする。
藍墨が召喚の呪術を唱えた。
「我に忠誠を誓う者たちよ、その力を尽くしなさい」
四人の少女の姿の式神が召喚される。
「死力を尽くしなさい」
「はいっ」
四人は声を揃えた。
先程までの戦いで、式神たちの疲労は激しい。まだ戦えるのはスイセンとザクロ、浅葱と山吹だった。
かなりの腕前なのは、藍墨に対する忠誠心の現れなのだとわかる。
他の式神たちの回復を竜胆、桔梗、千草、ナデシコが行う。しかし、回復役の式神たちも連戦の回復で、呪力の消耗が激しい。
時間が必要のようだ。
ユリもシロガネの回復に時間がかかっていた。
黄白が結界を張った。
呪を唱えて、強制的にスイセンとザクロ、浅葱と山吹を結界に転送した。
「黄白」
「コハク」
黄白が結界内で癒やしの呪術を発動させると結界内には光が溢れてキラキラと輝く。
式神たちがみるみると回復していった。
黄白の回復により皆、力を取り戻す。
それを確認して藍墨が呪を唱えて、召喚の術式を発動した。魔素の気配が漂う。現れたのは巨大な魔獣だ。
闇を纏い魔素を撒き散らす巨大な魔獣は禍々しい。
「我に忠誠を誓う者たちよ。その身を捧げよ」
藍墨の式神たちが、魔獣に取り込まれていく。
その様子を黄白は悲しげに見つめた。
「皆んな」
式神たちは黄白に応えた。
巨大な魔獣に式神たちが一斉に討伐を始める。
だが、魔獣から溢れる魔素の量が多すぎる為に、式神たちは本来の力が発揮出来ない。闇属性のスミレや桔梗さえも耐えかねていた。
普通ではない魔素の量と濃さに、黄白は訝しんだ。
何かに気付くようにシロガネを見れば、息を荒くして苦しそうだ。
「シロガネっ」
ユリが回復をずっとしているにも関わらず、回復が追いついてない。
シロガネの首に蔦のような痣が見える。
「これって」
ユリに問う。
「体内に魔素を取り込み過ぎているのですわ」
「いつからっ」
魔素の振り撒く魔獣はさっき現れたのだ。しかし、シロガネの具合は、その前からおかしかった。
ユリが押し黙る。
シロガネから口止めされているのだと黄白はわかった。
「ユリ。コハクではない。黄白だ」
黄白の言葉にユリは息を飲む。
シロガネなら「コハクに言うな」と指示するはずだ。
「黄白さまに説明致します。コハクさまがいなくなって百年。その間、シロガネさまは魔素を吸収するのみで浄化がされないままでした」
「なぜ……」
「あなたが。コハクさまが現れる前から、少しずつ魔素に蝕まれていました。だけど、コハクさまが側にいることで、魔素が浄化されたのです」
「それは……。シロガネと再会した時にわかったよ」
魔素に侵されていたとしても、出会った時に浄化したのを感じた。なら今、シロガネの側にいるのだから魔素は浄化されているはずだ。
黄白の疑問にユリが答える。
「シロガネさまは、コハクさまとの約束を守るために、あなたさまに会うために無理をなさいました。側にいるだけでは足りないのです」
「どういうこと。それに、僕と会う前から魔素に蝕まれていたのは何故」
「これ以上は、あたくしからは申し上げれません」
「とにかくっ、僕が浄化する」
「もう遅いです。あれが目覚めます」
ユリが藍墨の召喚した巨大な魔獣を見上げた。
すると魔獣が人型に変化した。
人型の魔獣から溢れる魔素の量が、尋常ではないのは明らかだ。想定外の出来事のようで、藍墨が驚いているのがわかる。
そして、人型の魔獣とシロガネが呼応していた。
藍墨も何かを感じたようで、ふらつきながら黄白たちの方を見た。
式神たちが跪く。倒れていく。
黄白が、式神たちを結界に呼び戻して、先ほどと同じく回復をする。
結界の外で倒れている陰陽師たちに、まとめて結界を施した。
そして、藍墨を黄白たちの結界内に転送した。
「黄白、なぜ其奴をここに」
浅葱が苛立っている。
「誰も死なせない。話しを聞かないといけない」
黄白の決意に浅葱は納得した。
人型の魔獣がこちらに近づいて来てくる。
「お人好しもほどほどになさい。あの魔獣の狙いは、どうやら、そちらの方のようですよ。素直にあてがえば助かるかもしれませんね」
藍墨が薄っらと笑う。
シロガネの式神たちが一斉に藍墨に敵意、殺意を向けた。
藍墨も魔獣の強さを感じとっているのだ。
人型の魔獣が結界を破壊しようと叩き始めた。
このままでは結界が破られる。
「いつまでも悪者ぶらなくていいから。陰陽寮から、魔素が漏れないように結界を施してくれていて助かったよ」
藍墨は目を見開いて、静かに閉じた。
「この国は朱乃と紅花の暮らす場所です……」
「あの魔獣は何」
黄白が藍墨に尋ねた。
「この世界より遥か昔に高度な文明があったのは、ご存知ですね」
黄白は頷く。そして藍墨が説明を始める。
この世界。ここ中央国の地下には迷宮が広がっていた。それは文明の遺跡であり遺産である。太古の人々は、高度文明を築き豊かな暮らしを謳歌していた。そして神の存在を忘却する。だが、自然を破壊し尽くせば、地上で住めなくなり、地下での暮らしを余儀なくされた。高度な技術だけでは、どうにもならなかった。
永い歴史の中には嘘が真か。何かを召喚する術がある。それを数学的に分析して、新たな召喚術を創り、神の召喚を試みた。
神はその心に応えた。
「その召喚術の術式を見つけましてね。私の願いを叶えるための力となる神を召喚しようとしたのですよ」
今なお、結界を叩き割ろうと魔獣が暴れている姿を藍墨は見ながら苦笑する。
「まさか、これほどまでの邪悪な魔獣、いえ魔神が現れるとは……。其方の方は何者なのでしょうね」
その疑問に、黄白は答えない。
「竜胆、桔梗。陰陽師たちの結界を陰陽寮の外へ、道を繋げて」
「承ります」
竜胆と桔梗が力を合わせて道を繋ぐ。
陰陽師たちの結界の前に現れると、結界は吸い込まれていった。
「コハ……ク」
シロガネの意識が戻った。
「シロガネ。……頑張って、なんとかするから」
「ぐっ、があぁーーあ」
突然、藍墨の叫び声が聞こえた。
頭を両手で押さえて苦しみだす。
「藍墨っ」
「アレの、力に、耐えきれて、ない」
「それって……」
シロガネの言葉で、黄白は気がつく。
普通は自身よりも格上の魔神などを召喚できない。けど、今回は召喚者よりも格上の魔神が召喚された。それが外的な要因であろうとも、実行したのは藍墨で、力の差は歴然だ。
その代償を負わなけらばならない。
藍墨の頭から角が生えて、瞳は赤かった。
「ソノ、モノヲ、ワタセ」
低く掠れた音が藍墨の口から響く。
明らかに魔。操られている。
藍墨の赤い瞳はシロガネを見つめてた。
「何故、シロガネを欲しがるんだ」
「ソレガ、イル、カンゼンニ、ナル」
「シロガネは渡さない」
操られている藍墨が、懐から何かを出してこちらに向けた。黄白はこれを知っている。
過去の遺物、引けば鉛の玉が出る武器。
シロガネに向けられて、黄白は咄嗟にシロガネに結界を張った。
「ち、がう。コハ……ク」
バァンと音がして、シロガネの声はかき消された。
そして、黄白が血を流して倒れていた。
「黄白っ」
「コハクっ」
式神たちの叫び声が響く。
「オマエ、イナクナル、イカリ、ノロエ」
意識が遠のく中で、黄白は言葉の意味を理解した。
千草とナデシコが、黄白を回復をしようと駆けよる。
浅葱と山吹が怒りを露わに、魔物と化した藍墨に斬り込むが結界の外へ逃げた。
「ダ、メ……だ」
黄白の微か声。
浅葱や山吹が聞き漏らすはずもない。その意味を理解して二人は歯軋りする。
「わかっている」
二人は声を揃えて応えた。
「シロガネさまっ」
ユリの叫び声がした。
シロガネが起き上がり、体から大量の魔素を溢れさせていた。
一瞬、瞬きもしない速さでシロガネは結界の外に起動していた。
藍墨に対して敵意を向けて戦い始める。
「やめ、させ……シロガネに、人を、あやめ……ないで」
黄白が精一杯に声を出す。
シロガネが藍墨を殺して終えば、完全に魔に染まってしまう。魔神に取り込まれて、後戻りが出来なくなる。
何をどうすれば良いのか。
式神たちが戸惑う中……。
「コハクの治療は千草さんのみで。スミレさんに竜胆さんは、前衛の皆さんに魔素の防御結界を。それからナデシコさんと桔梗さんはコハクの結界を維持して下さい」
カリンが指示した。否、エレンだ。
「私はカリンと、勿忘さんで藍墨さんの捕縛します。魔神を抑えるのは、青鈍さんと孔雀さんに、ゲンゲさんとスイセンさん。シロガネ様を抑えるのは浅葱さん、山吹さん、珊瑚さんとザクロさんで。ユリさんは呪力が一番多いので、大変ですが、皆さんの回復をお願いします」
ユリは頷く。
皆が言われた通りに動き出す。
「エレン。私が皇を抑える」
「なりません」
「何故だ」
「主を殺るつもりで挑んで下さい。貴方にそれが果たせますか」
「………ザクロ殿は」
「あの方は、殺らなければ殺られる覚悟を持っています。その託された役目は、命をかけて実行するでしょう」
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