八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

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77終章から序章へ 桜散る巡り愛

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 花信風の頃、鬱蒼と緑が繁る魔物が出没する森の深くに少年はいた。
 そのような場所だというのに、まるで庭に出て来ているような楽な装いである。
 暖かい日差しを浴びて、うつらうつらと眠る姿は可愛らしい。
 何かを感じたのか、はっきりと瞳を開けた。
 黄金色の瞳が綺麗に輝けば、漆黒の髪と合わさって、より一層に少年の可愛らしさが際立つ。

 そして、もう一人。
 この魔物がいる深い森に入ろうとしている者がいた。
 碌な装備を持っておらずに、しかも不向きな格好だ。
 その姿は、武人の装いであった。
 歳の頃は二十代後半か。銀髪に薄藍の瞳に眉目秀麗の顔立ちは、誰もが見惚れるだろう。
 しかし、何物も寄せ付けない雰囲気は、真っ直ぐさを感じる。
 武人の男が、この森に入るのは、初めてだった。なのに、勝手を知り得る様子にて慣れた足取りで奥へと進んで行く。
『其方ならば道は開くだろうよ』
 武人の男に、この森の奥へと行くようにと、頼んだ相手から言われた言葉であった。

 春暖な今日は、少年にとって、いつもと同じ変わらない日常であるはずだった。
 しかし、突然、ドクンと鼓動が鳴った。何かと共鳴しているのを感じる。
 いつもは静かな森が騒ついていた。
 その正体は、今、森に立ち入った者のせいだと少年は知る。
 この森に張られた結界を割り破らずに、すり抜けたのだ。それは、結界を施した者が認めた証である。
 ならば、どんな用で有ろうとも少年は、来訪者を歓迎する。
 何か良からぬ事であろうか。
 又は、これから始まる何かを期待する多幸感か。
 少年の心は踊って高揚していた。
 来訪者が無事に、この場所まで辿り着ける事を待ち侘びる。

 武人の男は、陰陽師の心得があった。
 森に張られている結界の存在は、依頼者より聞き及んで知っていた故に驚きはしない。
 そして、結界を確認すると手で触れてみれば、弾かれずにすり抜けた。
 依頼主の言葉通りであった。
 中に入れば、途轍もない力を判然と感じる。
 その力は、恐れを抱く物ではなくて、暖かで懐かしく優しさに包まれるような穏やかなものであった。
 武人の男は、迷うことなく力を感じる取れる方へと奥に歩みを進めた。
 魔物に襲われる覚悟もしていたが、何にも邪魔されずに、武人の男は森の中心まで来れた。
 深い森が一変した。  
 陽の光が溢れる場所が広がており、その真ん中には、綺麗に咲き誇る立派な桜樹が一本あった。
 その桜樹の付近に、いつも身近で感じていた力を瞭然に感じる。
 武人の男は、ゆっくりと近づいて行った。
 すると、桜の木にゆったりと、もたれかかり眠っている少年がいた。
 風が爽やいで桜の花びらが舞う。まるで儚い春の夢ような光景がそこにはあった。

 武人の男は見つけた少年の側へと、そっと近づいた。
 眠っている少年に声をかけるべく屈んだ。
 すると、少年は身じろぐ。武人の男の方に頭を動かして、パチリと瞳を開いた。
 その綺麗な黄金、又は琥珀色に輝く瞳は美しい。
 武人の男と少年の視線を重なり合う。
 互いに惹き寄せられて、吸い込まれるような感覚が襲う。
 目が離せない、瞬きも出来ない、呼吸さえも止まるような……。
 春宵一刻の輪廻転生を繰り返し、千代桜を巡りて誓い愛う。
 紡ぐは記憶に絆ぐ心に重なるは半身に天地神明にて魂は惹かれ合う。

 武人の男に向かって、少年が手を伸ばした。
 その意味を武人の男は理解する。
 武人の男は、首を差し出せば、少年が手を回した。そして、ゆっくりと少年の身体を抱き抱えた武人の男が、易々と立ち上がる。
 目と目を合わせた二人は、暫し見つめ合う。
 少年が先に声を出した。
「僕の名前は琥珀、貴方の名前は……」
「某の名は、白銀と申す」 
 この出逢いは古から続く物であり、後来へと続く物でもあった。
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