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76終幕の刻を超えて
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しばらくの歓談を終えて、一息つけば、物静かな雰囲気になった。
式神の皆が一斉に整列をして改まった。
スイセンが、コハクとシロガネの前に一歩前に出た。式神の皆を代表して告げる事があるようだ。
「ご存知で、おありでしょうが、お二方をお待ちしている間に、新しい神が誕生致しました。故に、シロガネ様との契約が破棄されました」
「承知している」
「皆、どこにも属しておりません。ゆえに、式神一同、お二方と新たな契約を結んで頂きたく存じます」
「必要ないな」
スイセンは表情を曇らせる。だけど、真っ直ぐにシロガネを見つめて尋ねる。
「その理由をお聞かせくださいませ」
「それも必要ないな」
シロガネの返事に、スイセンは食いしばり苦悶の表情を見せた。
問う前からシロガネの答えなど分かっていた。ずっと側に仕えて来たのだ、知らないはずがない。それでも諦める気などありはしないから尋ねるのだ。
「それでは、皆、納得できかねません」
シロガネが何も言わずに眼を伏せたままである。式神たちが固唾を呑んで見守る。
長い時の中で存在し続けているというのに、この時ばかりは少しの時間も長く感じた。
「ボクもシロガネも自由になった。だから、皆んなにも自由でいて欲しいんだ」
沈黙を破ったのは、コハクだった。
「コハク、私はお前に仕えて何も不自由などなかったぞ。むしろ、お前のそばにいて、お前ために動くことが、俺の至福であるのだ」
コハクの言葉に真っ先に浅葱が声を上げる。
「そうだな。お前は好き勝手にコハクを構い倒して、面倒ばかりだ。それを防がなければならない俺だが、それを不自由だなんて思った事はないぞ」
山吹があきれた素振りをみせた。
「其方が求めたのだぞ。だが、俺を含めて皆、自らが望んで式神になった者ばかりだろうよ。そんな者たちが、何処に誰に、何の為に式神として存在せねばならんだ。要らぬというならば、それ相応の後始末をされるべきであろう」
ザクロが、強い眼差しでシロガネを見据える。
これには、さすがにシロガネも苦く表情を崩した。
シロガネの横で、コハクがクスリと笑った。
それに気がついたシロガネが溜め息を吐いた。
「ほらね、だからこうなるって言ったのに」
「上手くいかないものだな」
「そりゃ、そうだよね。皆んなシロガネが大好きなんだから」
「それは、コハクも同じだろ」
「おやおや。我々皆のことを思って一芝居を打ってみれば、お硬い方々が、まんまんと引っかかった的な感じなのでしょうかね」
「やめてね、緋色。それ、語弊があるからぁー」
緋色の揶揄いは、この場の雰囲気を和らげた。
しかし、浅葱と山吹が睨んで、スイセンは大きな溜め息をついた。ザクロは、手でを頭をかいている。
「皆んな、ありがとう」
コハクは、シロガネの裾を引っ張って、話しをするように促した。
「皆の意思は確認した。しかし、縛るものは必要ない、自由であるべきだ。これを覆すつもりはない」
シロガネの言葉に、緊張感が走る。
「だが、自らの意思で側にいて仕える事は、自由だろうな。それについては異論はない」
「あるじー! むずかしいのやめてぇー」
カリンが頬を膨らませて怒っている。
「ホント、そうよ。ひどいわ、旦那さま」
スミレも口を尖させているが、涙を浮かべいる。
「これからもお側で、お仕え出来るのですね」
ナデシコが涙目で微笑んだ。
「あら、これが主さまなのよ。頑なところが魅力なのですわ」
アヤメは、嬉しそうに笑う。
「はい。さすがは奥深い、お考えです」
シオンは胸を撫で下ろした表情だ。
「コハク殿のおかげで、柔らかくなったと思ったが、何百年経とうが、生まれ持った性分は変わらぬよのぉ」
ゲンゲが愉快そうに笑った。
シロガネはバツが悪そうな顔をする。
「これからもお側におりまする」
ユリが頭を下げてシロガネに伝える。
「皇の崇高なお考えに感服致しました。これからも誠心誠意、お仕え致します」
スイセンが深々と頭を下げた。
「まぁ、色々言って申し訳なかった。やはり其方には敵わないな。だが、言葉足らず、思わせぶりは悪い癖であるぞ。これからも、其方ために大切なものを護り続けていこうぞ」
ザクロが、ニカっと愉しげに笑えば、シロガネは、ゆっくりと頷いて微笑んだ。
「ってな訳で、ボクの白桜の式神たちも自由でいてね」
「少なくても不自由はないな」
「そうそう最初から自由やん」
珊瑚と孔雀が、今更何をという感じだ。
「風の吹くまま、気ままってね」
「自由に推しまくってますから」
「戦い方は人それぞれ自由よ」
青鈍が戯けて、千草は斜め向こうで、勿忘も気に留めてないようだ。
「思うままに愛でます」
「思うままに見守ります」
竜胆と桔梗もいつもと変わらない。
空の雲間から光が指す。
まるでカーテンのように煌びやかで眩い光が、コハクとシロガネに降り注ぐ。
二人が胸に手を当てて頭を垂れた。
式神たちも右に習う。
「古き神託者よ。観測者としての理不尽な呪縛は解き放たれた。汝の務めは終幕にて、その働き大義であった。神力を持って良きに計らうがが良い。これまでの献身な心に謝を述べよう。純粋な愛を讃えよう。未来永劫の出逢いを誓おうぞ」
新しき神の声が響き渡った。
コハクとシロガネがいなくなった後の話だが、中央国の王の赤青が、藍墨から今回の事件の顛末と告解を受ける。
事情を知った赤青は、自身の不甲斐なさを悔やんだ。
藍墨から取締役の任を解いた。
普通ならば、王族への不敬罪とし死罪は免れないだろう。
しかし現在、この件に関して知っている者は、藍墨、不在の黄白、不明の陰陽師、式神たちのみだ。
しかも、陰陽寮の陰陽師たちはその時の記憶がなかった。
藍墨は自身の娘の叔父である。罪状は明らかにしないまま自宅謹慎とすれば、誰もが藍墨が病気で長期療養なのだろうと推測した。
コハクの姿で現れた黄白に、赤青は驚くのは無理はない。
いなくなった経緯について黄白から話しを聞いた。
「藍墨だけど、ボクはもう許しているから」
「お前を計ったのだぞ」
「でも、殺すつもりはなかった。記憶と力を封印するつもりだけだったんだ」
「王族に手を上げた」
「その時はね」
「どういう意味だ」
「ボクが、この姿であることだよ」
「元の姿には戻らないのか」
「戻らないっていうか。基本このままで、黄白の姿になろうと思えばなれる」
「その姿であろうとも、お前は黄白だ。王族であることは変わらん」
「違うよ、ボクはコハク。黄白の姿じゃなければ、誰もわからない。ボクは、コハクとしてシロガネと一緒にいるからね」
「ちょっと待て。お前は、この国の王子で、本来ならば陰陽寮の取締役はお前だったんだぞ。それを藍墨に譲った。その藍墨が不在の今、お前が陰陽寮の取締役としてまとめてもらわんと困る」
「嫌だ。もう決めたっていうか。これは運命だから諦めて」
「運命か……」
「そ、運命だよ……」
「本当ならば、お前が……」
「ボクには、その運命は必要ないよ」
「そうだな……。それをなくしたのは私だ。ならば今、この時があるのは私のおかげだな。感謝しろ」
「うん、ありがとう」
「ったく、素直に受け取る奴がどこにいる。真っ直ぐで頑固で、子供の時からそうだったな。今の姿であれば、なお、説得力があるぞ」
赤青は、寂しそうに静かに微笑んで、コハクの意思を尊重する。
今を生きる人たちと同じ刻を歩む。
神の力を持つ者で、自身の刻を操り、コハクとシロガネは二人一緒に生きてこの世界を見守り死んでいく。
国を去る事を知った紅花は、母親の朱乃と一緒に黄白を引き留めた。
泣いて喚くが、コハクの決心が硬いことを知って悲しんだ。
「ずっと側にいてくれるって、助けてくれるって、思っていたのにぃ……」
「ごめんね」
「そんな、小さな黄白なんて嫌よ。助けてなんて言えないじゃないっ。だから、好きにすればいいわ」
「紅花……ありがとう。何かあれば、ボクを呼んで。必ず助けに行くよ」
「私の方が大きくなって、黄白を助けてあげるから名前を呼びなさい……呼んでね。呼ぶからね、約束よ……」
「うん、約束」
コハクはシロガネと共に中央国を後にした。
二人の拠点となる場所は、勿論、シロガネの家である。
二人で旅に出て帰る場所だ。
桜の木が満開に咲き誇る頃には必ず帰ってこよう。
そして、再び、この場所にて巡り愛う。
式神の皆が一斉に整列をして改まった。
スイセンが、コハクとシロガネの前に一歩前に出た。式神の皆を代表して告げる事があるようだ。
「ご存知で、おありでしょうが、お二方をお待ちしている間に、新しい神が誕生致しました。故に、シロガネ様との契約が破棄されました」
「承知している」
「皆、どこにも属しておりません。ゆえに、式神一同、お二方と新たな契約を結んで頂きたく存じます」
「必要ないな」
スイセンは表情を曇らせる。だけど、真っ直ぐにシロガネを見つめて尋ねる。
「その理由をお聞かせくださいませ」
「それも必要ないな」
シロガネの返事に、スイセンは食いしばり苦悶の表情を見せた。
問う前からシロガネの答えなど分かっていた。ずっと側に仕えて来たのだ、知らないはずがない。それでも諦める気などありはしないから尋ねるのだ。
「それでは、皆、納得できかねません」
シロガネが何も言わずに眼を伏せたままである。式神たちが固唾を呑んで見守る。
長い時の中で存在し続けているというのに、この時ばかりは少しの時間も長く感じた。
「ボクもシロガネも自由になった。だから、皆んなにも自由でいて欲しいんだ」
沈黙を破ったのは、コハクだった。
「コハク、私はお前に仕えて何も不自由などなかったぞ。むしろ、お前のそばにいて、お前ために動くことが、俺の至福であるのだ」
コハクの言葉に真っ先に浅葱が声を上げる。
「そうだな。お前は好き勝手にコハクを構い倒して、面倒ばかりだ。それを防がなければならない俺だが、それを不自由だなんて思った事はないぞ」
山吹があきれた素振りをみせた。
「其方が求めたのだぞ。だが、俺を含めて皆、自らが望んで式神になった者ばかりだろうよ。そんな者たちが、何処に誰に、何の為に式神として存在せねばならんだ。要らぬというならば、それ相応の後始末をされるべきであろう」
ザクロが、強い眼差しでシロガネを見据える。
これには、さすがにシロガネも苦く表情を崩した。
シロガネの横で、コハクがクスリと笑った。
それに気がついたシロガネが溜め息を吐いた。
「ほらね、だからこうなるって言ったのに」
「上手くいかないものだな」
「そりゃ、そうだよね。皆んなシロガネが大好きなんだから」
「それは、コハクも同じだろ」
「おやおや。我々皆のことを思って一芝居を打ってみれば、お硬い方々が、まんまんと引っかかった的な感じなのでしょうかね」
「やめてね、緋色。それ、語弊があるからぁー」
緋色の揶揄いは、この場の雰囲気を和らげた。
しかし、浅葱と山吹が睨んで、スイセンは大きな溜め息をついた。ザクロは、手でを頭をかいている。
「皆んな、ありがとう」
コハクは、シロガネの裾を引っ張って、話しをするように促した。
「皆の意思は確認した。しかし、縛るものは必要ない、自由であるべきだ。これを覆すつもりはない」
シロガネの言葉に、緊張感が走る。
「だが、自らの意思で側にいて仕える事は、自由だろうな。それについては異論はない」
「あるじー! むずかしいのやめてぇー」
カリンが頬を膨らませて怒っている。
「ホント、そうよ。ひどいわ、旦那さま」
スミレも口を尖させているが、涙を浮かべいる。
「これからもお側で、お仕え出来るのですね」
ナデシコが涙目で微笑んだ。
「あら、これが主さまなのよ。頑なところが魅力なのですわ」
アヤメは、嬉しそうに笑う。
「はい。さすがは奥深い、お考えです」
シオンは胸を撫で下ろした表情だ。
「コハク殿のおかげで、柔らかくなったと思ったが、何百年経とうが、生まれ持った性分は変わらぬよのぉ」
ゲンゲが愉快そうに笑った。
シロガネはバツが悪そうな顔をする。
「これからもお側におりまする」
ユリが頭を下げてシロガネに伝える。
「皇の崇高なお考えに感服致しました。これからも誠心誠意、お仕え致します」
スイセンが深々と頭を下げた。
「まぁ、色々言って申し訳なかった。やはり其方には敵わないな。だが、言葉足らず、思わせぶりは悪い癖であるぞ。これからも、其方ために大切なものを護り続けていこうぞ」
ザクロが、ニカっと愉しげに笑えば、シロガネは、ゆっくりと頷いて微笑んだ。
「ってな訳で、ボクの白桜の式神たちも自由でいてね」
「少なくても不自由はないな」
「そうそう最初から自由やん」
珊瑚と孔雀が、今更何をという感じだ。
「風の吹くまま、気ままってね」
「自由に推しまくってますから」
「戦い方は人それぞれ自由よ」
青鈍が戯けて、千草は斜め向こうで、勿忘も気に留めてないようだ。
「思うままに愛でます」
「思うままに見守ります」
竜胆と桔梗もいつもと変わらない。
空の雲間から光が指す。
まるでカーテンのように煌びやかで眩い光が、コハクとシロガネに降り注ぐ。
二人が胸に手を当てて頭を垂れた。
式神たちも右に習う。
「古き神託者よ。観測者としての理不尽な呪縛は解き放たれた。汝の務めは終幕にて、その働き大義であった。神力を持って良きに計らうがが良い。これまでの献身な心に謝を述べよう。純粋な愛を讃えよう。未来永劫の出逢いを誓おうぞ」
新しき神の声が響き渡った。
コハクとシロガネがいなくなった後の話だが、中央国の王の赤青が、藍墨から今回の事件の顛末と告解を受ける。
事情を知った赤青は、自身の不甲斐なさを悔やんだ。
藍墨から取締役の任を解いた。
普通ならば、王族への不敬罪とし死罪は免れないだろう。
しかし現在、この件に関して知っている者は、藍墨、不在の黄白、不明の陰陽師、式神たちのみだ。
しかも、陰陽寮の陰陽師たちはその時の記憶がなかった。
藍墨は自身の娘の叔父である。罪状は明らかにしないまま自宅謹慎とすれば、誰もが藍墨が病気で長期療養なのだろうと推測した。
コハクの姿で現れた黄白に、赤青は驚くのは無理はない。
いなくなった経緯について黄白から話しを聞いた。
「藍墨だけど、ボクはもう許しているから」
「お前を計ったのだぞ」
「でも、殺すつもりはなかった。記憶と力を封印するつもりだけだったんだ」
「王族に手を上げた」
「その時はね」
「どういう意味だ」
「ボクが、この姿であることだよ」
「元の姿には戻らないのか」
「戻らないっていうか。基本このままで、黄白の姿になろうと思えばなれる」
「その姿であろうとも、お前は黄白だ。王族であることは変わらん」
「違うよ、ボクはコハク。黄白の姿じゃなければ、誰もわからない。ボクは、コハクとしてシロガネと一緒にいるからね」
「ちょっと待て。お前は、この国の王子で、本来ならば陰陽寮の取締役はお前だったんだぞ。それを藍墨に譲った。その藍墨が不在の今、お前が陰陽寮の取締役としてまとめてもらわんと困る」
「嫌だ。もう決めたっていうか。これは運命だから諦めて」
「運命か……」
「そ、運命だよ……」
「本当ならば、お前が……」
「ボクには、その運命は必要ないよ」
「そうだな……。それをなくしたのは私だ。ならば今、この時があるのは私のおかげだな。感謝しろ」
「うん、ありがとう」
「ったく、素直に受け取る奴がどこにいる。真っ直ぐで頑固で、子供の時からそうだったな。今の姿であれば、なお、説得力があるぞ」
赤青は、寂しそうに静かに微笑んで、コハクの意思を尊重する。
今を生きる人たちと同じ刻を歩む。
神の力を持つ者で、自身の刻を操り、コハクとシロガネは二人一緒に生きてこの世界を見守り死んでいく。
国を去る事を知った紅花は、母親の朱乃と一緒に黄白を引き留めた。
泣いて喚くが、コハクの決心が硬いことを知って悲しんだ。
「ずっと側にいてくれるって、助けてくれるって、思っていたのにぃ……」
「ごめんね」
「そんな、小さな黄白なんて嫌よ。助けてなんて言えないじゃないっ。だから、好きにすればいいわ」
「紅花……ありがとう。何かあれば、ボクを呼んで。必ず助けに行くよ」
「私の方が大きくなって、黄白を助けてあげるから名前を呼びなさい……呼んでね。呼ぶからね、約束よ……」
「うん、約束」
コハクはシロガネと共に中央国を後にした。
二人の拠点となる場所は、勿論、シロガネの家である。
二人で旅に出て帰る場所だ。
桜の木が満開に咲き誇る頃には必ず帰ってこよう。
そして、再び、この場所にて巡り愛う。
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