八千代を翔けて、愛う日まで

ゆらん

文字の大きさ
77 / 79

75新たな目覚め

しおりを挟む
 シロガネが目覚めない限り、水晶は壊せない。
 シロガネが生きている限り、水晶はなくならない。
 シロガネが死んでしまうと、水晶は消えてしまう。
 シロガネの中の黒烏と白桜は、依代を失ってしまえば、黒烏と白桜が一つになった根源が現れるはずだ。
 その思考に行き着いたコハクは、胸元に揺れるペンダントを握りしめた。
 曇っていたコハクの表情が、徐々に明るくなっていく。
「そっか、これでいいんだ。でも、これは、絶対に皆んなに怒られちゃうな。でも、これしか方法はないんだ」
 コハクは、意を決した表情で呪を唱える。
 黒烏の時と同じ転送の術式が展開された。コハクとシロガネの呪力が繋がる。
「汝の力は絆ぐ縁となりて、我は求む、我は欲する。その力を与え給え」
 シロガネからコハクに、呪力が流れていく。
 水晶を優しく撫でながらシロガネの呪力を奪う。
「一緒にいるって約束したのに、勝手にいなくなるなんて酷いよ。ボクが探しに来なかったら、見つけられなかったら、ずっと離れ離れだったんだよ。だけど、ボクは、ちゃんと迎えに来たよ。今から、ボクは、シロガネを殺すね」
 水晶が光って、パリパリっと音がする。
 ヒビが入っていく、パリンと破れた。
 粉々になった水晶がキラキラと輝いて降り落ちるは、雪のようだ。
 呪術で宙に浮くシロガネの体から、金色の焔に包まれた根源が現れた。それは、綺麗な金の線で、黒烏の黒と白桜の白の二つに別れている。 
 コハクは、それを結界に閉じた。
 そして、ユリの蘇生の呪術を解放する為に、シロガネの首に月の雫を付けた。
 コハクは、シロガネから奪った呪力を使って、呪を唱えて術式を発動させた。
 シロガネを殺して生き返らせるなんて、本当は怖くて仕方がない。それでも、シロガネの式神たちの思いと、ユリから託された術なら、必ず上手くいくと信じる。
 コハクは祈る思いで見つめる。
 眩しい光がシロガネを覆った。
 シロガネの瞳が開いて、そっと微笑んだ。
「ごめんよ、コハク。待たせたね、ありがとう」
 シロガネの声が聞こえた。
 コハクは破顔して涙を流した。
「おかえりなさい、シロガネ」
 二人は互いの存在を確かめるように抱きしめ合った。
「コハクなら出来るって信じていたよ」
「迎えにおいでって言ったからね。あれが最善だったって、今ならわかるよ。だけど、こんなに大変だなんて。すごく辛かったんだからね」
「ごめんよ、コハクは偉いな」
「いっぱい褒めてね」
「褒めてあげるよ。でも、これで終わりじゃないんだろう」
「うん」
 残るは、黒烏と白桜の根源を封印する事である。
「カセギ」
 コハクの手には、飛去来器がある。
 金の炎に包まれた白と黒の球体の結界を解くと、それに目掛けて飛去来器を投げつける。
 縦に別れていた球体を横半分に斬った。
 それらを尽かさず、シロガネが術式で捕縛する。
 コハクがひとつ、シロガネがひとつ。
 それぞれが手にする。
 二人一緒に呪の述べる。
「帰るべき場所は何処に、戻るべき時は何処へ、たった一つの想いに、たった二つの心に」
 コハクはシロガネの胸に、シロガネはコハクの胸に押し込んだ。
 互いの胸に契約の術式が現れる。
「我は黒烏のシロガネと、我は白桜の黄白は、共に永遠である事を誓おうぞ」
 コハクとシロガネの中にいる黒烏と白桜が了承した。二人から眩い光が放たれる。
 二人の魂が、永遠を絆いだ。
 空いている片方の手で、シロガネがコハクを自分の胸の中へと押し込んで抱きしめた。

 輝く光が二人を包み込んだ。
 緩やかで穏やかな刻の流れを纏う二人が、遥か彼方に意識を向けた。
 新しい世界の始まりの鈴音が響いた。

「終わったか……」
「うん。シロガネの魂とボクの魂を絆いだ。その魂の中に黒烏と白桜が一緒にいるんだ。これで均等を保てるよ」
「ありがとう、コハク。巻き込んでしまったね」
「違うよ。これはボクが生まれた事の必然で、シロガネは、ボクの運命なんだ」
「その通り、コハクは私の運命だ」
「さっき、シロガネは死んだ。もう神託者じゃない。観測者でもない。そして、シロガネを殺めたボクは依代の資格はなくなった。ボクたちは、同じ、ただの陰陽師になったんだ」
「ただし、神の力を持った陰陽師だけどね」
 シロガネがククッと笑って、コハクがフフッと笑った。
「そう、神の力を持った、ただの人だよ」
「コハクと同じ時を生きて死ねるんだね」
「そして、死んだ後も輪廻転生を繰り返して、永遠に一緒なんだ」
「何度も出会い、共に生きる旅するんだね」
「うん。シロガネと離れないからね」
「あぁ、離れないよ。コハクと共にあるよ」
 シロガネの手が、コハクの頬に触れて優しく反対の頬に口づけた。
 コハクが、何故と、言いたげな表情をする。
「まぁ、その……コハクの姿である、から……」
 シロガネが言い及んでいる。
 コハクは、驚いたような顔した後、フフっと笑った。
「そういうところ、頑なだよね。そういうシロガネが大好き。だけど、ボクはもう、黄白の記憶がある。それに、ここにはボクたち以外に誰もいないよ。ボクたちだけしか、知らない……」
 コハクが魅惑な微笑みを浮かべた。
 その言葉と微笑みに、シロガネは誘われる。
 コハクの唇に優しく口づけた。
 そっと瞳を合わせて二人は微笑み合う。
「コハク、愛しているよ」
「シロガネ、愛してるぅ」
 コハクが、シロガネの首に手をかけて、もっと欲しいと唇を重ねて誘った。
 コハクが是とするからこそシロガネは望みを叶える、与える。
 愛を囁く啄む口づけは、やがて深愛を伝える行為へ変わる。深く濃く絡めて心を繋いで、離れ難い想いを抱きしめ合った。
 コハクとシロガネは、二人だけの優しい時間を過ごした。
 まだ、互いに知らない事を話し合う。
 これから先の事を考え合う。
 見つめて、微笑んで、囁いて、手を握り、溢れる愛おしい想いを伝えあった。

「どのぐらいの時が経ったのかな。ここは時間の感覚がなくなるから、わからないね。待っている皆んなに、怒られるかな?」
「怒られるのは確定だろうね。なら、まだ帰らなくてもいい、いつ帰っても一緒さ」 
「まぁ、そうだけど、シロガネは帰りたくないの?」
「コハクは帰りたいのかい?」
「戻らなくても大丈夫かなぁって、心配になっただけ」
「心配しなくても、大丈夫だよ」
「シロガネが、そういうなら心配しない」
「これは、私の我がままだよ。もう少し、もっと、二人だけでいたいんだ」
「……シロガネ」
「ダメかな」
「ダメじゃない。……本当は、ボクも、もう少し、もっと、二人がいい……」
「一緒で嬉しいよ」
「うん、ボクも一緒で嬉しい」
 現世に戻れば、賑やかで忙しい日々が来るのは明白だ。
 二人は、長い休息を思う存分に堪能した。
 それでも離れ難い気持ちのまま、麒麟に呼びかけた。
 どこからか「やっとか、遅いです」という声が聞こえて来そうだ。
 二人の目の前に、光が現れて麒麟が出てきた。
「まったく、どれだけ待たせるの。もっと早くに帰って来れたはずだと思うんだけどね。イチャイチャしすぎ」
「な、なに、言ってるの。今までの事、これからの事を、たくさん話していたんだよ」
「はい。はい。まぁ、邪魔されるだろうから、ゆっくり出来るのは、今しかいよね」
「麒麟、世話になったな」
「四神たちにも、いってあげてね」
「勿論さ」
「それから……、もう、気づいていると思うけど……」

 麒麟に連れられて現世に帰還すれば、コハクの式神たち、シロガネの式神たちが勢揃いで待ち構えていた。
「シロガネ殿、コハク様。おかえりなさいませ、よくぞ、ご帰還なされました。一同、首を長くして待ち侘びておりました」
 ザクロが式神たちの代表として口上を述べた。
 そして、皆が一斉に。
「おかえりなさいませ」
「ただいまぁーー」
「ただいま」
 そして、コハクをコハクの式神たちが囲む。シロガネをシロガネの式神たちが囲む。
 狭間は現世の時間と流れが違うので、一年の刻が経っていた。
 コハクは浅葱からの潰されそうな抱擁を受けた。それを山吹が制して、緋色が揶揄った。
 その様子に千草が瞳を輝かせて見つめていた。
 浅葱が離れたので、竜胆と桔梗はコハクの両脇から引っ張っていた。その様子を珊瑚と青鈍が楽しそうに見ている。
 勿忘は輪の中にいるが、何か別なこ事を考えている風だ。
 シロガネはスイセンから小言を言われていた。それをザクロが宥めて、シオンが仲裁しようかどうかと悩んでいた。
 そんな中、スミレとカリンは、シロガネの隣で腕を取ってべったりしていた。
 ナデシコとアヤメは次を狙って後ろで待機している。その様子をゲンゲが愉快そうに見てた。ユリは少し離れて、シロガネを感慨深く見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。 王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。 運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝—— 「お前を、誰にも渡すつもりはない」 溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。 愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。

神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...