職も住処もなくした私が訳ありアパートの管理人にスカウトされました。何やら事情があるようです。

ピヨピヨ

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久しぶりのラーメン

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 時は占い師に拾われた日に遡る。

 葵はわくわくしながら、雑踏の片隅で、占い師の開運占いを待った。すると出されたのは一枚の名刺で。

「レイワ不動産の滝崎と申します」

 レイワ不動産 滝崎玲人とあった。

「あのこれ?」

 訳が分からない。葵は首を傾げた。占いは?

「僕は占い師ではありません。不動産屋です」
「はい?」
「お住まいがなくてお困りなのでしょう? 弊社でちょうどアパートの住み込み管理人兼雑用係を探していたんですよ」

(占いはどうなったの? でも、これって住む場所と職がきまったってこと?)


 占い師あらため不動産屋の言っていることがさっぱり分からず、まじまじと彼の顔見る。年は20代半ばだろうか、すっと通った鼻梁に切れ長な瞳、形の良い唇。整った面立ち。よくよく見るとすごい美形。

(あれ? この人、これほど綺麗な顔をしているのに、あの雑踏でどうして目立たかなったんだろう?)


 一見地味だがイケメンのサラリーマン滝崎に連れられてウィークマンの一室にいく。なにせ葵には住む家もなければ、失うものもない。

「今日の宿に使ってください」
と言って鍵を渡された。

「はあ」

狐につままれたような気分だ。

「今夜はここにとまってください。明日は雇用契約を結びましょう。ここはうちで持っている物件なので、料金はかかりません。ご安心ください。ではあす10時に」

 そう言って爽やかに微笑んで去っていく。普通は疑う状況なのだが、葵は腹が減ってひもじくてそれどころではない。毒を食らわば皿までもという心境だった。

 もちろん、違和感はあったが……。そんなものは二の次だ。

 祖母に直感は大事にしなさいと言われていたのに、この時、葵はお食事代として渡された二千円に浮かれていた。
単に見料が戻ってきただけなのだが、捨てたつもりの金だったので、得した気分になる。


 滝崎が去った後、葵は久しぶりのまともな食事をするべくウィークリーマンションの外に出た。いい匂いに導かれるように、ラーメン屋にはいる。
 
 ラーメン屋に入るなど、何年ぶりだろう。元彼、慎吾はフレンチやイタリアンなど好み、ラーメン屋や定食屋などを拒んだ。そのせいで葵は金がなくなり、彼と会わない日はもっぱら自炊をした。
 本当に金のかかる彼氏だった。彼がおごってくれたことなどあっただろうか?




 ここら辺には繁華街のせいか夜の商売の人が多く、ラーメン屋の店内は派手なお兄さんやお姉さんでひしめいていたが、全く気にならない。

 注文して五分、湯気を立てるしょうゆラーメンがカウンターに置かれた。醤油の香りにしなちくに薄いチャーシュウ、緑のほうれん草が食欲をすする。頂きますと手をあわせ、ふうふうしながら、すすると温かさと美味しさに涙が出そうになる。

「生きてて、よかった」

 少し泣いて、感動しながらラーメンをすする。

「ねえ、彼女。家で働かない?」

 隣に座った水商売風のお兄さんが声をかけてくる。

 怪しいお店の名刺を押し付けてきた。そいうのはさっき街をさまよっているときにいってほしかった。今はもう怪しい不動産屋に勤める気満々で、心は揺れ動かない。

「うん、もう、職決まったらいいです」

 しつこいスカウトを躱し、ラーメンを最後の一滴まで楽しみ、七百円を払って店をでた。
その足でコンビニ向かう。念願だった生クリームののったプリンを買う。このくらいの贅沢いいよね。

 韓国語や中国語が飛び交う街の中を葵はウィークリーマンションを目指して帰った。
とりあえず今日一日だけでも帰る家がある。よかった、今日も生きのびた。葵は小さな幸せにほっと胸を撫でおろしす。

(おばあちゃんが見守ってくれているんだね。ありがとう)


心の中で丁寧に手を合わせた。

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