職も住処もなくした私が訳ありアパートの管理人にスカウトされました。何やら事情があるようです。

ピヨピヨ

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葵は元カレと縁をきりたい~さしのみ 1

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 図々しい慎吾も葵の剣幕に驚いたようだ。しかし、すぐにいつも調子を取り戻す。

「なあ、頼むよ。今夜泊まるところがないんだ」
「知らないよ。はなして」

 振り切って走った。正直足が痛くて逃げ切れると思わなかったが、慎吾は追ってこなかったようだ。
 アパートに着くとほっとした。

 慎吾の様子が気にならないと言ったら嘘になる。相当やばい状態なのだろう。だが、これ以上関わり合いになりたくない。


「葵ちゃん、お帰り、今日また鍋やってんだけど来ない?」
と松子がひょっこり一階の集会場から顔を出す。

「おう、食べに来いよ。もっと太れ、がりがりだぞお前」
と鬼頭も誘ってくる。

 葵はご相伴にあずかることにした。悪い事の次は必ずいいことがある。おばあちゃんがよく言っていた。なんだか凍えた心がふんわりととけていくようだ。
 
「着替えたら、すぐ行きますね」

 部屋に戻るとビールを何本か準備する。本当にここは住みやすい。
 彼らにだけは絶対に迷惑をかけるまいと思った。



 その後、しばらくはまた待ち伏せされたらどうしようかと思っていたが、慎吾を見かけることもなくほっとしていた。

 もちろん、用心の為、朝の通勤時間はずらした。




♢♢♢





 
  しかい、その一週間後、いつも通り退社して、雑踏を抜け駅に向かうと慎吾を発見した。一週間前にあれほど言ってやったのにまだいる。

 葵はくるりと踵を返すと神社に向かった。情けないが神頼みしかない。

「あれ、葵、どうしたの?」
 
 通りでとつぜん声をかけられ、振り返ると亜子だった。





「元カレに執着されてるって、まじで?」
「うーん、執着されていると言うのは少し違うと思います。変な女と付き合って、半ぐれに目をつけられて家に帰れないのかなくて、泊めてくれとか、金貸してくれとか」

「そんな男、殴ってやればいいのに」

 いま、葵は亜子と二人で居酒屋に来ていた。しつこく待ち伏せしている慎吾のいる駅など行く気がしない。
 酔わない程度にちびちびとサワーを飲みながら、ついつい愚痴ってしまう。

「そういえば、私も学生時代にしつこい男に会ったことある。走って逃げても、罵声浴びせても全然諦めてくれなくてね。それ以来、付き合う男選ぶようになったなあ」

 しつこさが、葵のケースと似ている。

「それほどしつこくされて、どうしたんですか?」
「最初は警察に相談したんだけれど、そいつが姑息でね。なかなか証拠を残さなくてさ」

 話ながらも亜子は旺盛な食欲を見せ、揚げたてで熱々唐揚げをハフハフと食べている。

「私も一緒です。彼、絶対に証拠残さないです。メールとかじゃなくて、駅で張ってるだけで」
「そりゃあ怖いよね」

といって亜子は焼酎お湯割りをのむ。よく食べてよく飲む。彼女はかなり酒に強いようだ。
 葵は、ぱりぱりと皮がほどよく焼けている焼き鳥を口にした。

「それで、どうやって、別れたんですか?」
「最後は神頼み。縁切りしてもらったら、あっさり別れられたよ。ほんとストーカーになる奴って何言っても無駄なんだよね」

 葵の場合、ストーカーとは違う。単に金が欲しいだけだ。

「どこで縁切りしてもらったんですか」

 それはぜひ知りたい。

「それがね。よく覚えてないんだよ。ここら辺にある神社だったと思うんだけれど」
「ええ、そうなんですか? なんとか思い出してくださいよ」

 焼酎を飲みほして、ぬる燗を頼む亜子をゆっさゆっさと揺する。

「なんだったかな。地名がそのまま神社の名前になっていたような」

 額に手をあて真剣な顔を思い出そうとしてくれている。

「あ! もしかして小久保神社ですか?」
「そうだったような。そうじゃなかったような」

 言いながら、亜子は湯豆腐をつつく箸を止める。

「どっちなんですか!」

 縋るような気持ちだったが、とうとう亜子は思いだせない。




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