38 / 44
葵は元カレと縁をきりたい~さしのみ 1
しおりを挟む
図々しい慎吾も葵の剣幕に驚いたようだ。しかし、すぐにいつも調子を取り戻す。
「なあ、頼むよ。今夜泊まるところがないんだ」
「知らないよ。はなして」
振り切って走った。正直足が痛くて逃げ切れると思わなかったが、慎吾は追ってこなかったようだ。
アパートに着くとほっとした。
慎吾の様子が気にならないと言ったら嘘になる。相当やばい状態なのだろう。だが、これ以上関わり合いになりたくない。
「葵ちゃん、お帰り、今日また鍋やってんだけど来ない?」
と松子がひょっこり一階の集会場から顔を出す。
「おう、食べに来いよ。もっと太れ、がりがりだぞお前」
と鬼頭も誘ってくる。
葵はご相伴にあずかることにした。悪い事の次は必ずいいことがある。おばあちゃんがよく言っていた。なんだか凍えた心がふんわりととけていくようだ。
「着替えたら、すぐ行きますね」
部屋に戻るとビールを何本か準備する。本当にここは住みやすい。
彼らにだけは絶対に迷惑をかけるまいと思った。
その後、しばらくはまた待ち伏せされたらどうしようかと思っていたが、慎吾を見かけることもなくほっとしていた。
もちろん、用心の為、朝の通勤時間はずらした。
♢♢♢
しかい、その一週間後、いつも通り退社して、雑踏を抜け駅に向かうと慎吾を発見した。一週間前にあれほど言ってやったのにまだいる。
葵はくるりと踵を返すと神社に向かった。情けないが神頼みしかない。
「あれ、葵、どうしたの?」
通りでとつぜん声をかけられ、振り返ると亜子だった。
「元カレに執着されてるって、まじで?」
「うーん、執着されていると言うのは少し違うと思います。変な女と付き合って、半ぐれに目をつけられて家に帰れないのかなくて、泊めてくれとか、金貸してくれとか」
「そんな男、殴ってやればいいのに」
いま、葵は亜子と二人で居酒屋に来ていた。しつこく待ち伏せしている慎吾のいる駅など行く気がしない。
酔わない程度にちびちびとサワーを飲みながら、ついつい愚痴ってしまう。
「そういえば、私も学生時代にしつこい男に会ったことある。走って逃げても、罵声浴びせても全然諦めてくれなくてね。それ以来、付き合う男選ぶようになったなあ」
しつこさが、葵のケースと似ている。
「それほどしつこくされて、どうしたんですか?」
「最初は警察に相談したんだけれど、そいつが姑息でね。なかなか証拠を残さなくてさ」
話ながらも亜子は旺盛な食欲を見せ、揚げたてで熱々唐揚げをハフハフと食べている。
「私も一緒です。彼、絶対に証拠残さないです。メールとかじゃなくて、駅で張ってるだけで」
「そりゃあ怖いよね」
といって亜子は焼酎お湯割りをのむ。よく食べてよく飲む。彼女はかなり酒に強いようだ。
葵は、ぱりぱりと皮がほどよく焼けている焼き鳥を口にした。
「それで、どうやって、別れたんですか?」
「最後は神頼み。縁切りしてもらったら、あっさり別れられたよ。ほんとストーカーになる奴って何言っても無駄なんだよね」
葵の場合、ストーカーとは違う。単に金が欲しいだけだ。
「どこで縁切りしてもらったんですか」
それはぜひ知りたい。
「それがね。よく覚えてないんだよ。ここら辺にある神社だったと思うんだけれど」
「ええ、そうなんですか? なんとか思い出してくださいよ」
焼酎を飲みほして、ぬる燗を頼む亜子をゆっさゆっさと揺する。
「なんだったかな。地名がそのまま神社の名前になっていたような」
額に手をあて真剣な顔を思い出そうとしてくれている。
「あ! もしかして小久保神社ですか?」
「そうだったような。そうじゃなかったような」
言いながら、亜子は湯豆腐をつつく箸を止める。
「どっちなんですか!」
縋るような気持ちだったが、とうとう亜子は思いだせない。
「なあ、頼むよ。今夜泊まるところがないんだ」
「知らないよ。はなして」
振り切って走った。正直足が痛くて逃げ切れると思わなかったが、慎吾は追ってこなかったようだ。
アパートに着くとほっとした。
慎吾の様子が気にならないと言ったら嘘になる。相当やばい状態なのだろう。だが、これ以上関わり合いになりたくない。
「葵ちゃん、お帰り、今日また鍋やってんだけど来ない?」
と松子がひょっこり一階の集会場から顔を出す。
「おう、食べに来いよ。もっと太れ、がりがりだぞお前」
と鬼頭も誘ってくる。
葵はご相伴にあずかることにした。悪い事の次は必ずいいことがある。おばあちゃんがよく言っていた。なんだか凍えた心がふんわりととけていくようだ。
「着替えたら、すぐ行きますね」
部屋に戻るとビールを何本か準備する。本当にここは住みやすい。
彼らにだけは絶対に迷惑をかけるまいと思った。
その後、しばらくはまた待ち伏せされたらどうしようかと思っていたが、慎吾を見かけることもなくほっとしていた。
もちろん、用心の為、朝の通勤時間はずらした。
♢♢♢
しかい、その一週間後、いつも通り退社して、雑踏を抜け駅に向かうと慎吾を発見した。一週間前にあれほど言ってやったのにまだいる。
葵はくるりと踵を返すと神社に向かった。情けないが神頼みしかない。
「あれ、葵、どうしたの?」
通りでとつぜん声をかけられ、振り返ると亜子だった。
「元カレに執着されてるって、まじで?」
「うーん、執着されていると言うのは少し違うと思います。変な女と付き合って、半ぐれに目をつけられて家に帰れないのかなくて、泊めてくれとか、金貸してくれとか」
「そんな男、殴ってやればいいのに」
いま、葵は亜子と二人で居酒屋に来ていた。しつこく待ち伏せしている慎吾のいる駅など行く気がしない。
酔わない程度にちびちびとサワーを飲みながら、ついつい愚痴ってしまう。
「そういえば、私も学生時代にしつこい男に会ったことある。走って逃げても、罵声浴びせても全然諦めてくれなくてね。それ以来、付き合う男選ぶようになったなあ」
しつこさが、葵のケースと似ている。
「それほどしつこくされて、どうしたんですか?」
「最初は警察に相談したんだけれど、そいつが姑息でね。なかなか証拠を残さなくてさ」
話ながらも亜子は旺盛な食欲を見せ、揚げたてで熱々唐揚げをハフハフと食べている。
「私も一緒です。彼、絶対に証拠残さないです。メールとかじゃなくて、駅で張ってるだけで」
「そりゃあ怖いよね」
といって亜子は焼酎お湯割りをのむ。よく食べてよく飲む。彼女はかなり酒に強いようだ。
葵は、ぱりぱりと皮がほどよく焼けている焼き鳥を口にした。
「それで、どうやって、別れたんですか?」
「最後は神頼み。縁切りしてもらったら、あっさり別れられたよ。ほんとストーカーになる奴って何言っても無駄なんだよね」
葵の場合、ストーカーとは違う。単に金が欲しいだけだ。
「どこで縁切りしてもらったんですか」
それはぜひ知りたい。
「それがね。よく覚えてないんだよ。ここら辺にある神社だったと思うんだけれど」
「ええ、そうなんですか? なんとか思い出してくださいよ」
焼酎を飲みほして、ぬる燗を頼む亜子をゆっさゆっさと揺する。
「なんだったかな。地名がそのまま神社の名前になっていたような」
額に手をあて真剣な顔を思い出そうとしてくれている。
「あ! もしかして小久保神社ですか?」
「そうだったような。そうじゃなかったような」
言いながら、亜子は湯豆腐をつつく箸を止める。
「どっちなんですか!」
縋るような気持ちだったが、とうとう亜子は思いだせない。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!
阿里
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!?
「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。
でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした!
「君がいたから、この国は守られていたんだよ」
えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!?
竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート!
そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
王子に注意したら婚約破棄されました。 もう我慢しないと決めた元令嬢。なぜか幼馴染の侯爵に拾われました。
ひとりさんぽ(一人三歩)
恋愛
王子の婚約者として、国母になるために我慢を強いられてきた伯爵令嬢シャーロット。
良き王になってもらうため、王子の非道を諭してきた。
「伯爵の娘程度の身分で生意気だ!」
それだけで、彼女は人前で一方的に婚約破棄された。
怒りも復讐も、正直どうでもいい。
なにより頭に浮かんだのは、
(……これ、逆に助かったのでは?)
我慢ばかりの人生をやめよう。
そう決めたシャーロットは、根に持つタイプの王子から実家を守るため、自ら「放逐される」道を選ぶ。
貴族のしがらみから解放され、好きなことをして生きていこう。
そう考えていた矢先、兄の親友であり、無口で無愛想と評判の侯爵フィルムスから
「我が領地で暮らさないか?」
と声をかけられる。
小さな頃から知っている人物で、今すぐやりたいことがあるわけでもない。
シャーロットは、その申し出を受けることにした。
いざフィルムス領を訪れてみると。
彼の領地は驚くほど平和で、一見すると何の問題もないように見えた。
けれど、どれほど治安が良くても、どれほど制度が整っていても、領主の手からこぼれ落ちる人は、確かにいる。
食いしん坊で無自覚な元令嬢は、気づけば街の小さな困り事を拾い始め、名ばかりだったクランの立て直しに関わっていく。
これは、「もう我慢しない」と決めた令嬢が、
街と人を繋げ不器用な侯爵と少しずつ距離を縮めていく物語。
ざまぁはしません。
ただし、たまに王子の近況報告はあります。
他サイトでも掲載します。
「毒が効かない体になるまで毒を盛られた令嬢は、復讐なんて望まない——ただ、助けもしないだけ」
歩人
ファンタジー
侯爵令嬢エレーナは、義母と義妹に3年間毒を盛られ続けた。「病弱な姉」として
社交界から消し、財産と婚約者を奪う計画——しかしエレーナには、前世の記憶から
来る毒物の知識があった。毒の種類を特定し、密かに解毒しながら「弱った姉」を
演じ続け、証拠が積み上がるのを待つ。卒業の夜会で義妹が勝ち誇るその場で、
エレーナは3年分の診断書を差し出す。「復讐? いいえ。ただ、もう助けないだけ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる