職も住処もなくした私が訳ありアパートの管理人にスカウトされました。何やら事情があるようです。

ピヨピヨ

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逃げ込んだ先で

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 振り返ると慎吾だった。

「はなしなさいよ!」
「葵、頼むよ。俺と別れないでくれ。なんでかお前を別れてから悪いことばっかり続くんだ。俺、もうどうしていいのかわからなくって。仕事も失敗ばかりで、俺ほんとやばいんだ。たすけてくれよ」

 彼が泣きそうになりながら葵に縋りついてくる。こんな時でも慎吾は顔だけはいい。この顔に恋をしたこともあった。だが、もうそれもとっくに終わっている。未練など欠片も残っていない。

「知るか! ぼけっ!」
一声叫ぶと振りかぶったカバンで慎吾を殴りつけた。

「あんたなんか大っ嫌い!」

 しりもちをつく彼に罵声を浴びせ。葵は構わず一目散に石段を駆け上る。

 折角運が向いてきたのに、ここで逃げ切らなければ身の破滅だ。

 やっと境内についてはあはあと息をつく。
 
慎吾が石段を駆け上って来る気配はない。諦めたの? にわかには信じがたい。きっと慎吾が諦めても半ぐれが葵の顔を覚えているから追ってくるだろう。 

 ふと目を上げると境内の石燈篭に明かりがともっていた。さっきまでは暗かったのに。それにもう遅い時間なのに、参拝客がパラパラといる。ここの神社で参拝客を見るのは初めてた。そして社務所にも明かりがともっていた。後ろを振り返るが誰も追ってくる気配はない。


 葵はとりあえず、お守りを買い、お祓いをしてもらうと思った。しばらくここで時間を潰そうと決めた。。



 早速社務所を覗き込むと、そこには白い着物に色袴姿の中年男性が座っていた。しかし、それは見知った顔で……。

「あれ? 重田さん?」

 アパートの住人重さんこと重田だ。

「葵ちゃん、じゃない。どうしたの? こんなところにきて?」

 重田が目を見開いて驚いたような顔をする。

「重田さん、ここではたらいていたんですね。私、時々仕事の帰りにこの神社によるんです。でも社務所が開いていたのは初めて」

 見知った顔に会ってほっとする。そうだ、さっきの連中が追いかけてくるようならここから警察に通報すればいい。

 幸田に引きずれてあちこちに擦り傷が出来てしまったし、訴えてやろう。思いがけず重田に会ったせいか気が大きくなる。

「というか葵ちゃん、よくここに入れたね。人の身で」
「え?」

 聞き返すと重田が「いやなんでもないよ」と苦笑する。

「氏子の希望でね。ここは夜から始まるんだ」
「なんだ、そうだったんですか。いつも社務所がしまっているから、お守り買えなくて。夜遅くにくれば、買えるんですね」

 そういえば今は何時だろう? この間来た時もこの時間ではなかったか?いや、今日はだいぶ飲み屋でねばっていたから……。

「まあ、運が良ければ、道が開くかも」
「え? 道が開く?」

 葵が目を瞬くと「いやなんでもない」とまた重田が言葉を濁す。

「それで、何のお守りが欲しいんだい」
「縁切りのお守りってあります? なければ厄除けか開運で」

「縁切り? もしかしてこの間話していた。しつこい元カレかい?」

 重田が心配そうに尋ねてくる。

「はい、ああ、でももちろんアパートの住人の方々には迷惑かけませんから。住所を知られないように必ず撒いてから帰ります」

 葵は慌てた。管理人が住人に迷惑をかけるわけにはいかない。

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