パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

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18話 道中2

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 そして旅を始めてから5日間が経過した。
 
 食料の獲得も問題はなさそうだし、身体の調子は日々上向いている。わずかに倦怠感があるのは変わらなかったが、生き延びる面においての心配はほぼないと言える。

 だがとうとうルシャが痺れを切らした。

「マスター。毎日毎日雑用ばっかりです。これが何の役に立つんですか。私悪事を学びたいのに何も悪っぽいことしてません! 修行をつけてください!」

「君が役に立つと思えばそうなるし、役に立たないと思えばそうなる」

 雑用を言いつける俺の指示に真面目に従っていた彼女だったがとうとうおかしいと気が付いたようだ。だが面倒くさいので曖昧な言葉で誤魔化してしまう。

「もしかして私を子供だと思って誤魔化そうとしてるんじゃないでしょうね! 私は真剣なのに。こんなふうに馬鹿にするなら」

「もう帰る?」

「ええ! 帰りっ……ません! そうはいきません。帰りません!」

 アステールの言葉を尊重して彼女を連れて来てはいたが、正直なところ信用おけないのが俺の率直な考えだった。理由は2つ、彼女が本国住まいでこの世界に送られてきたこと、そして重罪犯ばかりの魔帝の領域の側だということである。

 彼女は悪い子には見えなかった。この数日間ともに生活し、明るい笑顔を振りまく姿にわずかに心許した面もある。だがやはり、それでも彼女を信じることができなかったのだ。

 俺はずっと他人を顧みないで生きてきた、今はそれに拍車がかかり、信頼を築くことが容易くできるとも思えなかった。良い子に見えたとしても、彼女はこの世界にいる。それが答えだった。



 ルシャに先導されて歩みを進める。

 進めど森は深まるばかり、川に沿って大小様々な石が転がる荒い砂利道を行く。それからだいたい15キロぐらい歩いただろうか、ようやく森を抜けた。またしばらく経過して、なだらかな傾斜の小高い丘の頂上までたどり着く。

「あ、見えましたね。自由都市アクア」

 それは日暮れ前の時だった。
 丘陵からまだ遥か遠くに都市の影を捉えたのは。
 
 ルシャが指差した先に見えた都市を見て俺は驚いた。頑丈な城壁に覆われた、かなりの大都市であるのが遠目にも分かった。しっかりと敵対勢力の襲来に備えている。

「こんなに監獄都市の近くに来たのは初めてです」

 自由都市……全く知識になかった。だがそんな質問をベテラン大悪党がしていいはずがない。すぐに怪しまれてしまう。だが、これらを全てを追放された罪人が作り上げたというのだろうかと、にわかには信じ難い気持ちだった。

「自由都市に何の用なんですか」

 ルシャは不思議そうに口にした。

「まあ、ちょっとな」

 旅の目的などはルシャには一切話していない。

 言葉に迷って彼女の顔をじっと見つめる。何がおかしいのか、目が合うとルシャはにこりと笑う。その純な表情を見て少し心が痛みはしたが。

 信用のおけない相手と一緒にいることはできなかった。

「ここらではっきりさせようか」

「え?」

 ルシャはポカンと呆けた顔を見せる。

「君は悪いことをするのに抵抗があるって言ったよな。悪党になりたいとも」

「はい」

 とルシャは頷く。

「悪事に才能なんかいらない」

 こんななりだが犯罪者なのだ。いかに綺麗事を言おうとここにいる時点でその手を汚しているはずだ。人間──人間に対する悪感情が今の俺にはあった。ハーフである彼女も例外ではない。同時に裏切りを許せない、許さないという激烈な感情が心に燃えていた。

「思い出せばいい」

「思い出すって……何をですか?」

 何を言っているのか分からないとルシャは困惑してみせた。
 なんて白々しいのか、としか思えなかった。

「とぼけるな。君は何の犯罪をしてここに来た」

 鋭い問いかけに対してルシャは首を横に振る。

「なにもしてません」

「なにもってことはないだろう」

 言い逃れを許す気はなかった。俺と違って自らの過ちでここにいる、そんな馬鹿な小娘だという思いがあった。その明るい態度の裏の顔を見抜いてやろうとルシャと視線を合わせる。

 だがルシャは言う。

「私はここで生まれました」

 一瞬の思考、そしてすぐに理解が及ぶ。

「それじゃ、もしかして君は。現地の亜人と囚人の両親から」

「ええ」

 ルシャはなぜか少し悲しそうに頷く。

 なぜ思い至らなかったのかと今では思う、囚人同士の子供などには罪はない、その場合は監獄都市まで行けばアレーテイアに帰してもらえるという事例を聞いたことがあった。ルシャはその類だ。

 この地で生まれた人間など数多くいると分かっていたはずなのに。
 言いがかりを付けた後ろめたさもあり、俺は発言する。

「じゃあ、どうしてまだ監獄都市に。看守に言って帰してもらったんだろ?」

 アレーテイアに住んでいたと彼女は言っていた。
 ならば一度は少なくとも帰してもらっているはずだ。

「お父さんに言われて一度そうしてみました。だけど分かったんです。あそこは私の居場所じゃないって。だからすぐにこの世界に戻ってきました。ここには家族がいます。ここが生まれ育った故郷なんです」

 穏やかに語る。

「君は悪事に向いてない。無理にする必要なんかどこにある」

「しなきゃ駄目なんです。力こそ全てだと父は言います。この世界では悪党でなければ死ぬだけだと。私のお母さんは優しかったから死んだのだと聞きました」

「……」

 俺は何も言うことができなかった。

「もうお父さんを悲しませたくないんです」

 荒唐無稽な願いの裏には、純粋な子供の思いがあった。
 そんな人から離れるべきではないと、そう思った。

「親元に帰ったほうがいい。俺が君に教えられることはない」

 そう言いかけた時、背筋に悪寒が走った。

「!」

 ほぼ同時に察知する。強烈な腐臭に。

「蝕害です!」

 ルシャは空中の一点を見つめて叫んだ。

 その一点に黒い靄が集まりつつあった。
 不確かだったものが、だんだんと形を成していく。

 こんな時に。体は未だに万全の状態ではない。
 足手まといを守って勝てるのか。

 そんな思考が走る中、蝕害は完全に姿を現していた。

 墨を頭からぶっかけられたように全身が黒い姿だ。体長は3メートルほどの人型であり、寸胴で足はごつごつとして短く太かった。本来生物に備わっている頭にある部分がない、首なしの巨人だった。姿かたちはいつも一定というわけではないが、今回はこの悪趣味な姿のようだ。

 どす黒い瘴気をまとい腐臭をまき散らす悪鬼が地に足をつける。触れている草花は見る見るうちに生気を失い、枯れ果てた。なんたる邪悪な容貌だ。本国で見る蝕害とはその禍々しさが歴然と違う。生き物の生気を吸い取るという、かつて監獄世界に押し込めた魔の存在だ。

 素早く思考を切り替える。
 俺も剣のみに生きた人間だ、戦うことに恐れはなかった。

 巨人が動いた。一気に飛びかかってくる。

 動きはしっかり見えていた、反撃のために剣の柄に手をかける。

 黒光りする刃を閃かせ、攻撃を避けると同時に巨人の片腕を切り裂いた。しかし、僅かな間を置くと落ちた腕は元通りに生え変わった。

「化物め」

 舌打ちする、だがもとよりその結果は織り込み済みだった。
 蝕害はこういった存在だと知っていたからだ。

 しかし一つの誤算が。

 突然、強烈な立ちくらみに襲われた。
 目が覚めてから時おりあった症状だ。
 
 しまったと歯噛みする。目の前がぼやけていた。だが戦えないほどではない。この程度の不調、不利な状況ならばいくらでも乗り越えてきた。しかし。そうは思わなかった者が一人。

「危ない!」

 心臓が大きく跳ねあがるほど驚いた。
 ルシャが俺を庇って前に飛び出したからだ。
 弟子の使命感につかれたのか、なんたる無謀な行動だ。

「おい馬鹿! 下がれ!」

 俺のような人間を庇って命を散らすことがあるか。

 眼前で飛沫が飛び散った。


 
 宙にぶちまけられる黒い液体、それはルシャの身体から……ではなかった。目の前で蝕害の胴体が真っ二つに。すこーんと小気味よくいった。

「は?」

 ルシャの手にはシミターが握られ、それが振りぬかれたのが見えた。その一刀にて蝕害は掻っ捌かれていた。蝕害はどろりと黒い液体となって地面に吸い込まれていく。

 蝕害とは急所らしい急所を持たず、傷は瞬く間に再生する。その活動が終わるまで攻撃を加え続け耐え続けなければならない、生物であるかどうかも分からない謎の存在だった。

 それを何の変哲もない剣による、たったの一撃で。

『あの子は希望だ』

 あの言葉はまさかこれを意味しているのか。

 茫然とする俺に目を向けたルシャはハッと何かに気が付いたように口を押えた。
 次に自らの手を視線を落とし何やら神妙な顔をする。

「こ、これはまさか」

 まさかなんなのだろうか。彼女は俺の中では蝕害の次ぐらいに謎な存在すぎて何が出てくるか恐ろしい。

「あの雑用が既に修行になっていたのですね! そういうことだったなんて! 今までにないほどいい一撃でした!」

 断 じ て 違 う

「わ、私が愚かでした。マスター。師を疑うなんて。お見それしました」

 きらきらと尊敬に目を輝かせるルシャに言うべき言葉が見つからなかった。

 この子は馬鹿だ。とんでもない馬鹿だ。だが雑用を勝手に戦いに応用するなんて、とんでもない才能の持ち主だ。その戦い方は身体能力に頼った荒削りなものだったが間違いなく強い。

 俺は恐る恐る問いかける。

「君は何者なんだ」

「あ。言っておりませんでしたっけ」

 ルシャはえへへと頬を掻いた。

「私、赤の魔帝の娘、ルシャ・アレクシアです」

 衝撃を受けた俺はよろめいて傍の樹に手をつく。

「だ、大丈夫ですか。マスター」

 心配そうにルシャが駆け寄ってきたが、もはや返事をする余裕すらなかった。

 魔帝は俺が最も関わりたくなかった相手だったからだ。
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