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83話 事態の収束に向けて
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草花が強い風を受けて横になびく。草原を風を切って馬車が進んでいた。乗っているのはイリナ姫と残虐王、そしてその他数人だけだった。周囲には大量の護衛が馬を走らせていた。亜人がほとんどだが、自由都市の人間も参加していた。それはきっと一つの出来事が大きい。
イリナは自らの行いを思い返す。自由都市の広場にて、集合した住民たちに向かってことの経緯を説明したのだ。
『みなさん、今回の事件にレイチェル・アルカイド様女は無関係です。この私イリナ・パラディソスの名誉と神々に誓って保障します。この犯行は私と同じ英雄の一人によって行われました』
英雄がこんな凶行をするなどにわかには信じられないことであっただろう。しかしイリナの発言であれば信じざるを得ない。自由都市の中で監獄都市に対する反発心が強まる結果になった。そうなると分かっていてもイリナは正しいことを告げるのを躊躇わなかった。
すると住民たちが解散し、閑散としたあとに恐る恐るといった様子で吸血鬼の少女が寄ってきた。
「ありがとう。助けてくれて」
少しでも彼女の苦しみが和らげられたのなら良かったと、そう微笑んでレイチェルをじっと眺める。
「な、なに?」
「元気でね」
「……う、うん。あなたも」
どもりながらも彼女は微笑み返してくれた。その表情だけで自由都市に来たかいはあったのかもしれないとさえ思えた。
そして成果のもう一つは残虐王のことだった。戦わなくてもすむ未来があるかもしれないと思えたのは希望だった。
彼の言ったどこか懐かしいような言葉。さらに昨夜のハンカチだ。残虐王はイリナの左手側にハンカチを差し出した。今では右手で剣や筆を扱うイリナだが生まれつき左利きだった。作法のために矯正したことを知る者は少ない。乳母など限られた身内と戦いを教わったエル・デ・ラントには話していた。それをなぜか知っていた。もちろん偶然ということもあるのだが。
物思いから回帰して、対面に座る残虐王にちらりと視線を向けるとすぐに彼も気が付いた。そして思い立ったように口にする。
「実は相談がある」
「相談ですか?」
「この子を頼めないか」
彼は馬車の中に見たことのない10歳前後の女の子を連れていた。セミロングの黒髪を奇麗に整えた、大人しく利発そうな子だった。どうしたのだろうと少し気になってはいたのだが結局理由は聞いていなかった。
「その子は?」
「ニースに殺された男の娘だ」
はっと息を飲む。
「母も病でなくしている。この子は囚人じゃない。だが向こうの世界のことを何も知らないんだ。監獄都市であなたの客人として扱ってくれないか」
「なぜ、ですか? 自由都市で暮らしても」
「こんなところで住むよりもいい暮らしができる。だから頼む」
魔の帝王と呼ばれた男が敵に頼みごとを。他人の子のために。
「これで断ったら。私が悪者みたいじゃないですか」
英雄であるイリナと、魔の帝王が対峙する。イリナにはもはや何が悪で何が正義かなど分からない。ただ心のままに突き進むしかなかった。
「分かりました。いいでしょう」
「リゼッタです」少女はそう言って礼儀よく頭を下げた。
「よろしくね。私のことはイリナで良いわ」
「はい。イリナさん。お世話になります」
幼いのにしっかりとした、手のかからなさそうな子供だった。そんな間にも馬車は進み続け、やがて目的地である交渉場所が見えてきた。
「そろそろですね」
「そうだな。お別れだ」
しんみりとした寂しさを感じるのも不思議な話だった。
「私は探してみます。信実を」
「幸運を祈る。俺は姫に死んで欲しくないと思ってる」
「魔王に心配されるなんて、おかしな話ですね」
こんな会話を残虐王とするなんて昔は思いもよらなかった。いつからか、ずいぶんと運命の歯車が狂っていったように思う。
「最後に握手してもらってもいいですか」
「ああ」
残虐王が最初にあげかけたのはやはり左手だった。イリナの利き腕に合わせてくれたのだろう、しかしすぐに逆の手を差し出した。左手の握手が不吉な意味を持つからだ。
こういった些細な心配りもよく似ていた。そんなところも、かつてイリナの胸に宿った恋心の理由であったのだ。
◇◇◇◇◇◇
最新の魔導兵がずらりと平原に並び立つ様子は壮観さすら感じた。両腕に連射式のガトリング砲を装備し、その弾丸は障壁突破の能力がある。パラディソスを超大国としている世界最強の対魔術師用魔導兵の部隊だった。
俺は彼らから十分な距離をとって馬をとめさせ、連れてきた者たちを整列させる。馬車から降り、てイリナ姫とリゼッタだけをともなって草むらを歩く。2つの軍の中間地点に向けて、監獄都市側からも男女の二人組が歩いて来ている。
一人は看守長である女性だ。もう一人は──全身の血が沸き立つようだった。久しぶりにレギルと会い見えるのだから。歩き続けて、ある地点でぴたりと止まる。決闘や魔術戦などを行う時の間合いだった。背後の二人にも離れて止まるように手を挙げて示す。
「レギル・シルセスだな」
「ああ」
鮮やかな金髪、そして警戒心が強そうな切れ長の目、見間違えるはずもない憎き男だった。だが今は酷く疲れて見えた。
「以前お前を殺すと伝えたな」
レギルの顔には動揺が走った。明確な緊張を宿す。
「しかし今日の目的はそんなことではない。交渉だ」
回りくどい会話や一切の交渉術など必要ない、絶対的な有利な状況下、ただ淡々と要求を押し付ける。それだけのことだ。
「俺の要求を呑むか?」
「ああ。亜人を解放しよう」
苦汁をにじませてレギルは答えた。思った通り俺の要求をのんだ。これは明確な失態だ。いま頃レギルの腸は煮えくり返っているであろう。
俺はふっと満足げに笑い、条件を伝える。
「今イリナ姫は俺の魔術を込めた腕輪をしている。解放して欲しければ誓約の魔術を結んでもらう。亜人と姫の交換だ。それを破れば死を持って払うことになる」
不本意ながらイリナ姫には俺のマナで攻撃魔術が発動する腕輪を装着してもらっている。あくまでも脅しのためのものだ。
「我々は約束は守る。それが正義というものだ」
レギルは俺と正面から真向に向かい合った。長い付き合いだった俺には分かる。言葉は雄弁であるが彼は心底怯えきっていた。そして自分の立場を危うくする事態を防ぐためにどんなこともすることを。
示威行為にしても魔導兵の数が多すぎる。監獄都市の戦力のほとんどすべて並べていると思える。どうしても意識しなければならない、狙撃も含めて警戒する必要があった。
「誓約のスクロールは既に用意してきた。受け取れ」
契約魔術をこめた巻物をレギルに放って渡す。それをレギルは看守長に渡して確認させた。常に視線は俺から切らない、それが彼という人間だ。看守長が「問題ないでしょう」と言うとレギルは指を切って血で署名した。
「受け取れ」
同じように放って返す、だが少し距離が足りなかった。俺は受け取るために一歩前に進み出た。その刹那、ギフトと本能が警鐘を鳴らした。
──殺気。どこだ。一瞬後に敵の存在を捉える。上だ。魔導兵が空から落ちるように垂直降下している、その銃砲は俺にぴたりと向けられていた。
ダダダダダダダンッ!!!! 轟音とともに無数の銃弾が降り注ぎ、大地を抉り変形させる。衝撃により砕けた土が舞い上がり砂煙が立ち込める。
「フライトシステムはさすがに知らなかったようだな」
魔導兵は空中で軌道を変えて、またも宙に戻っていった。砲撃でもあったかのように地形が隆起する、その凄まじい銃撃によってレギルは勝利を確信して哄笑した。だが。
「愚かだな」
土煙を腕て振り払うと、レギルは凍りついた。俺がこの程度予想していなかったはずもない。あらかじめ時間を操作する準備をしておいた。遅い時間の中で攻撃を避けることは容易かった。
俺はこの場を決戦の場にすることは考えてはいなかった。だが相手から仕掛けてくるのならその限りではない。舌の根の乾かぬ内に裏切るとはやはりレギルはニースとはまた違った意味での邪悪。
殺気を放つとレギルは瞬時にその場から消え去った。ガシャン! と遅れて空気が爆ぜた音が届く。雷の速度で移動するレギルの得意魔術だ。かつてこの男は士官学校時代の俺とまともに戦えた唯一の人間だった。あの時の実力はむしろレギルに分があった。それがどうしてここまで狂ったのか。
十分に距離を取られてしまった。逃げに徹するレギルを追うのは至難だ。不毛な追いかけっこが始まれば互いの軍同士の衝突が起きかねない。俺は殺気を消し去った。
「英雄よ。誓いはなった」
スクロールを掲げて見せる。死をもって償う契約だ。もう目的は果たしていた。これ以上この男を前にしていると殺したくなってしまう。こじれる前に撤退するべきだろう。
「だまし討ちとはな。それでも英雄か」
「屑相手には何をしようと構わない。正義は我らにある」
真顔でもって看守長が先に答えた。噂は聞いていたがかなり偏った思想をしているようだった。
確かに彼女の言う通り俺は悪だ。
「だが裏切りの代償は払ってもらう」
手を持ちあげて仲間にサインを送る。
「空からとは考えることは同じだな」
見上げた青空の中には点々と黒い粒が十数と浮かんでいた。探知されにくいように有翼種の亜人など魔術なしに空を飛べるものたちを上空に潜ませていたのだ。彼らはバラバラと魔導兵の頭の上から石を落とす。
それには俺があらかじめ魔術を込めた呪符が括り付けられたものだった。俺の血を使って書いた呪符だ。マナは血に残留しやすい。強い魔術を呪符に込めるには血を使うのが一般的だ。あまり量産できるようなものではないが準備する時間はあった。相手の戦力を削ぐ、その機会を狙っていたのは俺も同じだった。
「まずい! 早く撤退させろ!」
レギルの叫びも空しく魔術が起動する。呪符に込めたのは半径1メートルの範囲を抉り取る空間魔術だ。座標設定、魔術構築も終わっているためほとんどノータイムで発動する。さらに多数で整列している魔導兵は身動きをするにも場所がなかった。
ここまで届く甲高い耳鳴りが終わる頃には大地はそこかしこが円形に削り取られ、魔導兵の半数は消え去っていた。
「こんな、馬鹿な」
レギルは呻いた。これも言い訳のしようもないほどの大損害だった。
イリナは自らの行いを思い返す。自由都市の広場にて、集合した住民たちに向かってことの経緯を説明したのだ。
『みなさん、今回の事件にレイチェル・アルカイド様女は無関係です。この私イリナ・パラディソスの名誉と神々に誓って保障します。この犯行は私と同じ英雄の一人によって行われました』
英雄がこんな凶行をするなどにわかには信じられないことであっただろう。しかしイリナの発言であれば信じざるを得ない。自由都市の中で監獄都市に対する反発心が強まる結果になった。そうなると分かっていてもイリナは正しいことを告げるのを躊躇わなかった。
すると住民たちが解散し、閑散としたあとに恐る恐るといった様子で吸血鬼の少女が寄ってきた。
「ありがとう。助けてくれて」
少しでも彼女の苦しみが和らげられたのなら良かったと、そう微笑んでレイチェルをじっと眺める。
「な、なに?」
「元気でね」
「……う、うん。あなたも」
どもりながらも彼女は微笑み返してくれた。その表情だけで自由都市に来たかいはあったのかもしれないとさえ思えた。
そして成果のもう一つは残虐王のことだった。戦わなくてもすむ未来があるかもしれないと思えたのは希望だった。
彼の言ったどこか懐かしいような言葉。さらに昨夜のハンカチだ。残虐王はイリナの左手側にハンカチを差し出した。今では右手で剣や筆を扱うイリナだが生まれつき左利きだった。作法のために矯正したことを知る者は少ない。乳母など限られた身内と戦いを教わったエル・デ・ラントには話していた。それをなぜか知っていた。もちろん偶然ということもあるのだが。
物思いから回帰して、対面に座る残虐王にちらりと視線を向けるとすぐに彼も気が付いた。そして思い立ったように口にする。
「実は相談がある」
「相談ですか?」
「この子を頼めないか」
彼は馬車の中に見たことのない10歳前後の女の子を連れていた。セミロングの黒髪を奇麗に整えた、大人しく利発そうな子だった。どうしたのだろうと少し気になってはいたのだが結局理由は聞いていなかった。
「その子は?」
「ニースに殺された男の娘だ」
はっと息を飲む。
「母も病でなくしている。この子は囚人じゃない。だが向こうの世界のことを何も知らないんだ。監獄都市であなたの客人として扱ってくれないか」
「なぜ、ですか? 自由都市で暮らしても」
「こんなところで住むよりもいい暮らしができる。だから頼む」
魔の帝王と呼ばれた男が敵に頼みごとを。他人の子のために。
「これで断ったら。私が悪者みたいじゃないですか」
英雄であるイリナと、魔の帝王が対峙する。イリナにはもはや何が悪で何が正義かなど分からない。ただ心のままに突き進むしかなかった。
「分かりました。いいでしょう」
「リゼッタです」少女はそう言って礼儀よく頭を下げた。
「よろしくね。私のことはイリナで良いわ」
「はい。イリナさん。お世話になります」
幼いのにしっかりとした、手のかからなさそうな子供だった。そんな間にも馬車は進み続け、やがて目的地である交渉場所が見えてきた。
「そろそろですね」
「そうだな。お別れだ」
しんみりとした寂しさを感じるのも不思議な話だった。
「私は探してみます。信実を」
「幸運を祈る。俺は姫に死んで欲しくないと思ってる」
「魔王に心配されるなんて、おかしな話ですね」
こんな会話を残虐王とするなんて昔は思いもよらなかった。いつからか、ずいぶんと運命の歯車が狂っていったように思う。
「最後に握手してもらってもいいですか」
「ああ」
残虐王が最初にあげかけたのはやはり左手だった。イリナの利き腕に合わせてくれたのだろう、しかしすぐに逆の手を差し出した。左手の握手が不吉な意味を持つからだ。
こういった些細な心配りもよく似ていた。そんなところも、かつてイリナの胸に宿った恋心の理由であったのだ。
◇◇◇◇◇◇
最新の魔導兵がずらりと平原に並び立つ様子は壮観さすら感じた。両腕に連射式のガトリング砲を装備し、その弾丸は障壁突破の能力がある。パラディソスを超大国としている世界最強の対魔術師用魔導兵の部隊だった。
俺は彼らから十分な距離をとって馬をとめさせ、連れてきた者たちを整列させる。馬車から降り、てイリナ姫とリゼッタだけをともなって草むらを歩く。2つの軍の中間地点に向けて、監獄都市側からも男女の二人組が歩いて来ている。
一人は看守長である女性だ。もう一人は──全身の血が沸き立つようだった。久しぶりにレギルと会い見えるのだから。歩き続けて、ある地点でぴたりと止まる。決闘や魔術戦などを行う時の間合いだった。背後の二人にも離れて止まるように手を挙げて示す。
「レギル・シルセスだな」
「ああ」
鮮やかな金髪、そして警戒心が強そうな切れ長の目、見間違えるはずもない憎き男だった。だが今は酷く疲れて見えた。
「以前お前を殺すと伝えたな」
レギルの顔には動揺が走った。明確な緊張を宿す。
「しかし今日の目的はそんなことではない。交渉だ」
回りくどい会話や一切の交渉術など必要ない、絶対的な有利な状況下、ただ淡々と要求を押し付ける。それだけのことだ。
「俺の要求を呑むか?」
「ああ。亜人を解放しよう」
苦汁をにじませてレギルは答えた。思った通り俺の要求をのんだ。これは明確な失態だ。いま頃レギルの腸は煮えくり返っているであろう。
俺はふっと満足げに笑い、条件を伝える。
「今イリナ姫は俺の魔術を込めた腕輪をしている。解放して欲しければ誓約の魔術を結んでもらう。亜人と姫の交換だ。それを破れば死を持って払うことになる」
不本意ながらイリナ姫には俺のマナで攻撃魔術が発動する腕輪を装着してもらっている。あくまでも脅しのためのものだ。
「我々は約束は守る。それが正義というものだ」
レギルは俺と正面から真向に向かい合った。長い付き合いだった俺には分かる。言葉は雄弁であるが彼は心底怯えきっていた。そして自分の立場を危うくする事態を防ぐためにどんなこともすることを。
示威行為にしても魔導兵の数が多すぎる。監獄都市の戦力のほとんどすべて並べていると思える。どうしても意識しなければならない、狙撃も含めて警戒する必要があった。
「誓約のスクロールは既に用意してきた。受け取れ」
契約魔術をこめた巻物をレギルに放って渡す。それをレギルは看守長に渡して確認させた。常に視線は俺から切らない、それが彼という人間だ。看守長が「問題ないでしょう」と言うとレギルは指を切って血で署名した。
「受け取れ」
同じように放って返す、だが少し距離が足りなかった。俺は受け取るために一歩前に進み出た。その刹那、ギフトと本能が警鐘を鳴らした。
──殺気。どこだ。一瞬後に敵の存在を捉える。上だ。魔導兵が空から落ちるように垂直降下している、その銃砲は俺にぴたりと向けられていた。
ダダダダダダダンッ!!!! 轟音とともに無数の銃弾が降り注ぎ、大地を抉り変形させる。衝撃により砕けた土が舞い上がり砂煙が立ち込める。
「フライトシステムはさすがに知らなかったようだな」
魔導兵は空中で軌道を変えて、またも宙に戻っていった。砲撃でもあったかのように地形が隆起する、その凄まじい銃撃によってレギルは勝利を確信して哄笑した。だが。
「愚かだな」
土煙を腕て振り払うと、レギルは凍りついた。俺がこの程度予想していなかったはずもない。あらかじめ時間を操作する準備をしておいた。遅い時間の中で攻撃を避けることは容易かった。
俺はこの場を決戦の場にすることは考えてはいなかった。だが相手から仕掛けてくるのならその限りではない。舌の根の乾かぬ内に裏切るとはやはりレギルはニースとはまた違った意味での邪悪。
殺気を放つとレギルは瞬時にその場から消え去った。ガシャン! と遅れて空気が爆ぜた音が届く。雷の速度で移動するレギルの得意魔術だ。かつてこの男は士官学校時代の俺とまともに戦えた唯一の人間だった。あの時の実力はむしろレギルに分があった。それがどうしてここまで狂ったのか。
十分に距離を取られてしまった。逃げに徹するレギルを追うのは至難だ。不毛な追いかけっこが始まれば互いの軍同士の衝突が起きかねない。俺は殺気を消し去った。
「英雄よ。誓いはなった」
スクロールを掲げて見せる。死をもって償う契約だ。もう目的は果たしていた。これ以上この男を前にしていると殺したくなってしまう。こじれる前に撤退するべきだろう。
「だまし討ちとはな。それでも英雄か」
「屑相手には何をしようと構わない。正義は我らにある」
真顔でもって看守長が先に答えた。噂は聞いていたがかなり偏った思想をしているようだった。
確かに彼女の言う通り俺は悪だ。
「だが裏切りの代償は払ってもらう」
手を持ちあげて仲間にサインを送る。
「空からとは考えることは同じだな」
見上げた青空の中には点々と黒い粒が十数と浮かんでいた。探知されにくいように有翼種の亜人など魔術なしに空を飛べるものたちを上空に潜ませていたのだ。彼らはバラバラと魔導兵の頭の上から石を落とす。
それには俺があらかじめ魔術を込めた呪符が括り付けられたものだった。俺の血を使って書いた呪符だ。マナは血に残留しやすい。強い魔術を呪符に込めるには血を使うのが一般的だ。あまり量産できるようなものではないが準備する時間はあった。相手の戦力を削ぐ、その機会を狙っていたのは俺も同じだった。
「まずい! 早く撤退させろ!」
レギルの叫びも空しく魔術が起動する。呪符に込めたのは半径1メートルの範囲を抉り取る空間魔術だ。座標設定、魔術構築も終わっているためほとんどノータイムで発動する。さらに多数で整列している魔導兵は身動きをするにも場所がなかった。
ここまで届く甲高い耳鳴りが終わる頃には大地はそこかしこが円形に削り取られ、魔導兵の半数は消え去っていた。
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